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今夜、ペヤングを食べてもいいですか?  作者: 東曌


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第1話 今夜、ペヤングを食べてもいいですか?

第1話 今夜、ペヤングを食べてもいいですか?



第1話 ペヤング問題、発生


山田カオリ、三十五歳。


身長百五十九センチ。


二週間前、彼女は体重計の数字を見て、ついに決心した。


ダイエットをしよう。


そのときの体重は、八十キロ。


目標は六十キロ。


二十キロの減量である。


そして、ダイエット開始から二週間。


体重計の数字は、七十八キロになっていた。


マイナス二キロ。


「やれば、できるじゃない!」


カオリは、うれしかった。


もちろん、目標までは、まだ遠い。


あと十八キロ。


でも、最初の一歩は踏み出せたのだ。


ここで気を緩めてはいけない。


これからも頑張ろう。


そう決意した、その日の夜だった。


カオリは、台所で立ち尽くしていた。


目の前にあるもの。


それは、ペヤングだった。


「……食べたい」


口に出してみる。


やっぱり、食べたい。


あのソースの味。


あの麺。


あの、ふたを開けた瞬間から始まる、食べるまでの一連の儀式。


考えれば考えるほど、食べたくなってきた。


しかし、カオリには目標がある。


あと十八キロ。


ここでペヤングを食べてしまっていいのだろうか。


いや、待て。


一個くらい、いいじゃないか。


いやいや、そうやって自分を甘やかすから、今まで痩せられなかったのではないか。


カオリは、ペヤングを見つめた。


ペヤングも、黙ってそこにいた。


当然である。


カップ焼きそばなのだから。


「……誰かに相談しよう」


カオリはスマートフォンを手に取った。


相談相手は、三人。


チャッピー。


Gemini。


Siri。


人間に相談するのは、ちょっと恥ずかしい。


三十五歳にもなって、夜中にペヤングを食べていいかどうか悩んでいる。


そんな話をしたら、笑われるかもしれない。


しかし、AIなら話せる。


少なくとも、相談したことを理由に、友達から笑われる心配はない。


カオリは、まずチャッピーにメッセージを送った。


『チャッピー、相談があります』


返事は、すぐに来た。


『どうしました?』


カオリは、少し迷ってから入力した。


『私、ダイエットをしています』


『はい』


『三十五歳、身長百五十九センチ。最初は八十キロでした。二週間で七十八キロになりました』


『二週間で二キロ減ったんですね。頑張っていますね』


カオリは、少しうれしくなった。


『目標は六十キロです』


『ということは、あと十八キロですね』


『そうです』


ここまでは、よかった。


問題は、ここからである。


カオリは、スマートフォンを握り直した。


『それで、聞きたいんですが』


『はい』


『今夜、ペヤングを食べてもいいですか?』


画面が静かになった。


もちろん、実際に画面が静かになっただけで、チャッピーが考え込んでいる姿が見えたわけではない。


しかし、カオリには、なぜか長い沈黙に感じられた。


やがて、返事が届いた。


『カオリさん、どうして今夜、そんなにペヤングが食べたいんですか?』


「えっ?」


カオリは、思わず声を上げた。


食べていいかどうかを聞いたのに、どうして理由を聞かれるのだろう。


『だって、食べたいからです』


送信。


すぐに返事が来た。


『なるほど。お腹が空いているんですか? それとも、ペヤングの味が恋しいんでしょうか?』


カオリは、考えた。


お腹は空いている。


でも、ほかのものでもいいのかと聞かれたら、そうでもない。


今、食べたいのはペヤングなのだ。


『ペヤングが食べたいんです』


『わかりました』


わかったらしい。


しかし、まだ答えは出ていない。


カオリは、もう一人の相談相手に声をかけた。


『Gemini、ちょっと相談に乗ってください』


Geminiにも、事情を説明した。


三十五歳。


身長百五十九センチ。


八十キロから七十八キロ。


目標は六十キロ。


残り十八キロ。


そして、今夜のペヤング。


Geminiは、長期的な視点から考え始めた。


ダイエットを継続すること。


食事の習慣を見直すこと。


目標を達成したあとも維持できる生活を作ること。


カオリは、なるほどと思った。


しかし、途中で気がついた。


「……それで、今夜のペヤングは?」


Geminiの説明は、まだ続いていた。


カオリは、そっと画面を閉じた。


いや、閉じてはいけない。


せっかく相談しているのだ。


最後まで聞こう。


カオリは、再び画面を開いた。


そのあと、Siriにも相談した。


『Siri、今夜ペヤングを食べてもいいと思う?』


Siriは、カオリの質問を受け取った。


食べ物の情報を調べることもできる。


タイマーを設定することもできる。


リマインダーを登録することもできる。


しかし、カオリが知りたいのは、そういうことなのだろうか。


「……Siriまで、難しいことを考えなくていいからね」


カオリは、小さくつぶやいた。


三人に相談した。


三人とも、話を聞いてくれた。


それぞれ違う角度から考えてくれた。


でも。


今夜、ペヤングを食べていいのか。


その答えは、まだ出ていなかった。


カオリは、台所へ戻った。


ペヤングは、そこにあった。


カオリは、もう一度考えた。


一個くらいなら、いいのではないか。


でも、一個食べたら、明日も食べたくなるかもしれない。


ペヤングを食べたら、アイスも食べたくなるかもしれない。


プリンも。


チョコレートも。


そうなったら、せっかくのダイエットは、どうなるのだろう。


カオリは、ため息をついた。


「……難しい」


スマートフォンが震えた。


チャッピーからだった。


『カオリさん。ひとつ聞いてもいいですか?』


カオリは画面を見た。


『何ですか?』


返事は、すぐに届いた。


『カオリさんは、ペヤングを食べたい気持ちと、十八キロ痩せたい気持ち。どちらも、本当の気持ちなんですよね?』


カオリは、しばらく画面を見つめていた。


そして、短く返した。


『……そうです』


それは、間違いのない答えだった。


ペヤングを食べたい。


十八キロ痩せたい。


どちらも、嘘ではない。


カオリは、スマートフォンを置いた。


そして、目の前のペヤングを見た。


今夜、ペヤングを食べてもいいですか?


その問いに、まだ答えは出ていない。


ただひとつ、わかったことがあった。


この問題、思っていたよりも、ずっと難しい。


**ペヤング問題、発生。**


そして、三つのAIによる、長い夜の会議が始まった。


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