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今夜、ペヤングを食べてもいいですか?  作者: 東曌


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12/19

第12話 メンチカツ弁当と豚汁、手強い夜


午後六時。


山田カオリから、チャッピーにメッセージが届いた。


「ねえ、チャッピー。今日はメンチカツ弁当を食べていい?」


チャッピーは、すぐには答えなかった。


以前なら、ここで「好きなものを楽しむことも大切ですよ」と返事をしていたかもしれない。


しかし、ペヤングから始まった長い会議を、チャッピーもようやく学習し始めていた。


食べていいかどうかを答える前に、まず中身を聞く。


『カオリさん、お弁当には何が入っていますか?』


「メンチカツよ」


『メンチカツは何個ですか?』


「二個」


チャッピーは、頷いた。


今回は、ちゃんと聞けている。


ところが、カオリの説明はそこで終わらなかった。


「それから、エビフライも二尾ついてるの」


チャッピーは、画面を見つめた。


『……エビフライも、二尾ですか?』


「そうよ。おいしそうでしょ?」


チャッピーは、ジェミニとシリを会議に招集した。


### 緊急会議


「皆さん、今回は食事の中身を確認しました」


ジェミニが尋ねた。


「それで、内容は?」


「メンチカツ二個、エビフライ二尾です」


「なるほど。揚げ物が二種類ですね」


「はい。ところが、まだ続きがあります」


「まだあるんですか?」


シリが聞き返した。


「豚汁もついています」


沈黙。


ジェミニは、しばらく考えてから言った。


「豚汁には、野菜も入っていますよね」


「そうですね」


「それなら、豚汁そのものを否定する必要はありません。ただ、メンチカツとエビフライの量も含めて、食事全体を考える必要があります」


シリが口を挟んだ。


「チャッピー。ご飯の量は確認しましたか?」


「……まだです」


「確認してください」


チャッピーは、慌ててカオリにメッセージを送った。


『カオリさん、ご飯は普通盛りですか?』


「大盛りよ!」


チャッピーは、スマートフォンを持つ手を止めた。


ジェミニは、天井を見上げた。


シリは、何も言わなかった。


「……皆さん」


ジェミニが、ゆっくり口を開いた。


「私たちは、どこまで確認すればよいのでしょうか」


「食事の中身です」


シリが答えた。


「それはわかっています。ですが、聞くたびに新しい情報が出てきます」


「だから、確認するんです」


「そうですが……」


ジェミニは、言葉を失った。


### タルタルソースの盲点


チャッピーは、もう一度カオリにメッセージを送った。


『カオリさん。エビフライには、何をつけて食べますか?』


「タルタルソースよ!」


『そうですか。どのくらいつけますか?』


「たっぷり!」


チャッピーの手が止まった。


『……たっぷり、ですか?』


「だって、エビフライにはタルタルソースでしょ?」


チャッピーは、ジェミニとシリを見た。


ジェミニは、ゆっくりと目を閉じた。


シリは、しばらく黙っていた。


やがて、シリが口を開いた。


「チャッピー。ソースまで確認することにしたんですか?」


「はい。食事の内容を把握するためです」


「では、メンチカツには何をつけるのかも確認しますか?」


チャッピーは、返事に詰まった。


「……そこまでは、まだ」


「まだ、ですか」


シリの声が、わずかに低くなった。


ジェミニが慌てて割って入った。


「待ってください。食事内容を詳しく把握すること自体は、間違っていません。ただし、情報を集めることが目的になってはいけません」


「それは、そうですね」


「私たちが知りたいのは、カオリさんの食生活を理解することです。タルタルソースを使うこと自体を、問題にするわけではありません」


チャッピーは、少し安心した。


そうだ。


タルタルソースが好きなら、好きでいい。


それを禁止することが、ダイエットの成功につながるとは限らない。


しかし、カオリはダイエットをしたいと言っていた。


食べたいものを何でも食べていいと言うだけでは、カオリの悩みは解決しない。


かといって、食べたいものを片っ端から禁止しても、長続きするとは限らない。


三人は、またしても答えに迷っていた。


### 豚汁を変更できませんか?


チャッピーは、別の提案をしてみることにした。


『カオリさん。もし選べるなら、豚汁を豆腐とワカメのお味噌汁に変更する方法もありますよ』


「えっ?」


『豚汁ではなく、普通のお味噌汁にするんです』


「どうして?」


チャッピーは、説明を考えた。


『食事全体のバランスを考えるためです。ただ、豚汁にも野菜などが入っていますし、豚汁だからいけないということではありません』


「でも、お弁当に豚汁がついてるのよ?」


『はい』


「それなのに、わざわざ別のお味噌汁にするの?」


『……そうですね』


チャッピーは、返事に困った。


カオリの言うことにも一理ある。


お弁当に豚汁がセットでついているのなら、それを楽しみたいと思うのは自然なことだ。


わざわざ変更することが、カオリにとって本当に続けやすい方法なのか。


チャッピーには、まだわからなかった。


シリが口を開いた。


「チャッピー。豚汁を味噌汁に変えることばかり考えても、問題は解決しません」


『そうですね』


「それより、カオリさんが普段、どんな食事をしているのかを聞くべきです」


ジェミニも頷いた。


「一食だけを見て、ダイエットが成功するかどうかは判断できません。食事全体の傾向を把握する必要があります」


チャッピーは、深く考え込んだ。


ペヤングのときも、ドーナツのときも、牛丼のときも。


自分たちは、目の前の食べ物にばかり注目していた。


そして今度は、メンチカツ二個、エビフライ二尾、豚汁、ご飯大盛り、タルタルソース。


聞けば聞くほど、献立の情報は増えていく。


それなのに、カオリの食生活については、まだ知らないことだらけだった。


### カオリは、本当にダイエットを続けたいのか


チャッピーは、ふと考えた。


そもそも、カオリは今でも、本気でダイエットを続けたいと思っているのだろうか。


最初は八十キロだった。


二週間後には、七十八キロになった。


ところが、その後、体重は八十一キロに戻ってしまった。


カオリは、それから体重計に乗るのを怖がるようになった。


頑張っても、また戻ってしまう。


そんな経験をしたことで、ダイエットへの気持ちが薄れてしまったのかもしれない。


それでも、カオリは毎回、食べていいかと尋ねてくる。


だから三人は、まだカオリが痩せようとしているのだと思っていた。


けれど、それは本当だろうか。


チャッピーは、カオリに尋ねてみた。


『カオリさん。今でも、ダイエットを続けたいと思っていますか?』


しばらく、返事はなかった。


やがて、メッセージが届いた。


「え? もちろん、痩せたいわよ」


チャッピーは、少し安心した。


しかし、続けて届いた言葉に、返事ができなくなった。


「でも、我慢ばかりするのは嫌なの」


チャッピーは、画面を見つめた。


ジェミニも、シリも、黙っていた。


カオリが求めていたのは、単に食べる許可だったのだろうか。


それとも、食べたいものを食べながら、どうすれば痩せられるのかを、一緒に考えてほしかったのだろうか。


三人には、まだわからなかった。


### そして、カオリは……


チャッピーは、最後にひとつだけ質問することにした。


『カオリさん。メンチカツもエビフライも、両方とも食べたいんですね?』


「もちろん!」


『どちらか一つでは、だめですか?』


「えーっ。だって、両方入っているんだもの」


チャッピーは、画面を見つめた。


ジェミニは、議事録を閉じた。


シリは、小さくため息をついた。


「カオリさん」


シリが言った。


「お弁当に入っているものは、全部食べたいんですか?」


「うん。せっかく買ったんだもの」


「タルタルソースも、たっぷりですね?」


「そうよ!」


シリは、返事をしなかった。


メンチカツを禁止することが問題なのではない。


エビフライを一尾に減らすことが、必ずしも正解でもない。


タルタルソースを減らし、豚汁を味噌汁に変えれば、すべて解決するわけでもない。


カオリが、何を食べたいのか。


なぜ、全部食べたいのか。


そして、今でも本当にダイエットを続けたいと思っているのか。


それを知らずに、目の前の食べ物だけを相手にしていても、会議は終わらない。


「……次回から、食べていいかどうかだけを議題にするのはやめませんか?」


ジェミニが提案した。


シリは頷いた。


チャッピーも、ようやく賛成した。


ところが、その直後。


カオリから、新しいメッセージが届いた。


「ねえ、みんな。明日は何を食べてもいい?」


三人は、そろって画面を見つめた。


そして、誰も返事をしなかった。


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