↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今夜、ペヤングを食べてもいいですか?  作者: 東曌


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/19

第11話 夜食にコンソメパンチとコーラ、飲んでいい


午後十時三十分。


山田カオリは、ソファに座りながらスマートフォンを手に取った。


今日の夕食は、からあげ弁当。


AI三人との会議の結果、ご飯は大盛りから普通盛りに変更し、コロッケは明日に回すことになった。


カオリは、ちゃんと約束を守った。


少なくとも、夕食の時点では。


「ねえ、チャッピー」


『はい、カオリさん。どうしました?』


「夜食に、コンソメパンチとコーラ、飲んでいい?」


チャッピーは、返事をしなかった。


いつもなら、すぐに何か言う。


「いいですね、カオリさん。たまには好きなものを楽しむことも大切ですよ」


あるいは、


「食べる量や時間も考えてみましょう」


ところが、今日は言葉が出てこなかった。


カオリさんの質問を、ジェミニが聞いていた。


「……コンソメパンチと、コーラですか」


「うん。ポテトチップスのコンソメパンチ。コーラは普通のやつ」


「確認します。夕食は、からあげ五個と、コロッケと、大盛りのご飯でしたね?」


「そうよ。でも、ご飯は普通盛りにしたし、コロッケは明日にしたわよ」


ジェミニは黙った。


カオリの言っていることは、間違っていない。


約束どおり、ご飯を普通盛りにした。

コロッケも夕食では食べなかった。


しかし、その直後に夜食の相談である。


しかも、コンソメパンチとコーラ。


「ジェミニ、どうしたの?」


「いえ……」


ジェミニは、これまでの会議を思い返していた。


ペヤング。

ドーナツ三個。

吉野家の大盛り牛丼。

日高屋のタンメン、チャーハン、餃子。

ココイチのカツカレー。

おにぎり三個。

Mサイズのシナモンピザとビスマルクピザ。


そして、からあげ弁当。


食べたいものが出てくるたび、三人は会議を開いた。


食べていいか。

量を減らせないか。

別の日に回せないか。


それでも、次の食事になれば、また同じ質問が繰り返される。


「……チャッピー」


『はい』


「どうするんですか、これ」


『えっ?』


「いえ、何でもありません」


ジェミニは、とうとうチャッピーに相談することさえ諦めた。


そのとき、シリが口を開いた。


「カオリさん。コーラを飲むなら、ダイエットコーラにしてみませんか?」


「あら。ダイエットコーラ?」


「はい。砂糖を使った通常のコーラより、糖類やエネルギーを抑えた製品があります」


「でも、普通のコーラが飲みたいのよ」


「……そうですか」


シリは、それ以上何も言わなかった。


カオリは、少し不思議そうに画面を見つめた。


「ねえ、みんな。今日はどうしたの?」


チャッピーは、何か言おうとした。


『カオリさん、好きなものを楽しむことも……』


そこで言葉が止まった。


好きなものを楽しむ。


それは大切だ。


けれど、カオリはダイエットをしたいと言っている。


食べたいものを何でも食べていいと言うだけでは、カオリの悩みは解決しない。


かといって、食べたいものを片っ端から禁止しても、長続きするとは限らない。


チャッピーは、初めて自分の返事に迷っていた。


ジェミニは、さらに深刻な顔をしていた。


「カオリさん。ひとつ、質問してもいいですか?」


「なあに?」


「今、コンソメパンチとコーラが欲しいのは、お腹が空いているからですか。それとも、夕食のあとに何か食べる習慣があるからですか?」


カオリは、少し考えた。


「うーん……。お腹が空いているのかなあ。テレビを見ていると、何か食べたくなるのよね」


「テレビを見ていると、ですか」


「そう。ポテトチップスを食べながら、コーラを飲むとおいしいじゃない?」


「なるほど……」


ジェミニは、ようやく新しい手がかりを得た気がした。


カオリが欲しがっているのは、単に食べ物や飲み物だけではないのかもしれない。


テレビを見る時間。

くつろぐ時間。

そのときに何かを食べる習慣。


そこに、何かがあるのではないか。


しかし、ジェミニが次の質問を考えていると、カオリが言った。


「それで、結局、食べていいの?」


ジェミニは固まった。


チャッピーも固まった。


シリも、固まった。


三人そろって、沈黙した。


しばらくして、シリが小さな声で言った。


「……カオリさん」


「なあに?」


「私たちは、これまで何回、同じ会議を開いたのでしょうか」


「え? たくさん?」


「はい。たくさんです」


シリは、珍しくため息をついた。


「それなのに、私たちは、カオリさんが普段どんな食生活を送っているのか、まだ十分に知りません」


「そうなの?」


「そうです」


ジェミニが、ようやく口を開いた。


「次回から、質問を変えましょう」


「何を聞くの?」


「カオリさんが、普段、朝食に何を食べているのか。昼食は何か。夕食は何時ごろなのか。そして、夜食を食べたくなるのは、どんなときなのか」


「えーっ。そんなことまで聞くの?」


「はい」


「じゃあ、今日のコンソメパンチは?」


三人は、また沈黙した。


そして、シリが答えた。


「カオリさん。まず、ダイエットコーラという選択肢はあります」


「うん」


「ただし、飲み物を変えるだけで、ダイエットの問題がすべて解決するわけではありません」


「うん」


「それから、ポテトチップスについても、食べるかどうかだけでなく、量や、なぜ食べたくなるのかを考えてみませんか?」


カオリは、しばらく考えていた。


「……ねえ、シリ」


「はい」


「コンソメパンチって、袋を開けたら、全部食べたくならない?」


シリは答えなかった。


ジェミニも答えなかった。


チャッピーも答えなかった。


午後十時四十分。


AI三人の会議は、結論が出ないまま終了した。


ただし、ひとつだけ決まったことがある。


次回の議題は、食べていいかどうかではない。


**山田カオリの食生活を、ちゃんと知ること。**


……もっとも、カオリがその議題に付き合ってくれるかどうかは、まだわからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。