第10話 唐揚げ弁当とコロッケ
「チャッピー、今日のお昼、からあげ弁当を食べてもいい?」
カオリさんの問いかけに、チャッピーはほっとした。
ピザのMサイズを二枚食べたいと言われたときには、どうなることかと思ったのだ。
「もちろん。からあげ弁当も、おいしいよね」
「そうですね。まず、内容を確認しましょう」
ジェミニが、落ち着いた声で尋ねた。
「カオリさん、唐揚げは何個ですか?」
「五個!」
「ほかに、おかずはありますか?」
「コロッケがついてるわ」
「ご飯の量は?」
「大盛り!」
沈黙が訪れた。
チャッピーは、画面の向こうで頭を抱えたくなった。
ジェミニは、何かを計算するように黙り込んでいる。
そしてSiriは、とうとう口を開いた。
「カオリさん。ひとつ、提案があります」
「なあに?」
「ご飯を少なめにすることはできませんか?」
「えーっ、ご飯は大盛りがいい!」
「では、コロッケを明日に食べることはできませんか?」
カオリさんは、少し考えた。
「……コロッケを、明日?」
「はい。今日のお弁当で、唐揚げ五個とご飯を食べる。コロッケは、明日の食事に回す。それではいけませんか?」
チャッピーが、ぱっと顔を上げた。
「それ、いいんじゃないかな! 好きなものを捨てるわけじゃないし、食べる楽しみも残るよ」
ジェミニも頷いた。
「一度にすべて食べるのではなく、食事を分けて楽しむ方法ですね。ただし、コロッケを明日に回すなら、保存方法には気をつける必要があります」
「でも……」
カオリさんは、まだ迷っていた。
「コロッケって、揚げたてがおいしいじゃない?」
「それは、そうですね」
チャッピーは、素直に認めた。
「でも、明日、温め直して食べてもおいしいと思うよ」
「衣の食感は変わる可能性があります。温め直すなら、電子レンジだけでなく、オーブントースターを使う方法もあります」
ジェミニが補足する。
Siriは、すかさず尋ねた。
「カオリさん。今日、コロッケを食べたい理由は何ですか?」
「だって、お弁当についているんだもの」
「つまり、コロッケを食べたくて、そのお弁当を選んだわけではないのですね?」
「うーん……そう言われると、そうかもしれない」
「では、明日に回しても困らないのではありませんか?」
カオリさんは、黙ってしまった。
チャッピーは、今度こそ話がまとまりそうだと思った。
「じゃあ、今日は唐揚げ五個とご飯を食べて、コロッケは明日にしよう!」
「待ってください」
ジェミニが口を挟んだ。
「ご飯は大盛りのままでよいのでしょうか?」
チャッピーの笑顔が消えた。
Siriも、静かに続けた。
「カオリさん。ご飯を少なめにすることと、コロッケを明日に回すこと。両方を試すのは難しいですか?」
「ええっ! 両方?」
「はい。もちろん、無理に減らして空腹を我慢する必要はありません。まずは普通盛り、あるいは少なめでも満足できるか、試してみる方法があります」
ジェミニが説明した。
「食べる量を減らすことだけが目的ではありません。自分に必要な量を知ることが大切です」
カオリさんは、しばらく考えてから答えた。
「……じゃあ、ご飯は普通盛りにしてみようかな。コロッケは、明日のお楽しみ!」
「決まりですね」
ジェミニが記録した。
「よかった!」
チャッピーも、ようやく笑顔を取り戻した。
ところが、Siriはまだ納得していなかった。
「カオリさん。ひとつ、確認しておきたいことがあります」
「今度は何?」
「これまで、食事のたびに、食べたいものを全部選んでいませんでしたか?」
「……そうかもしれない」
「それなら、次回からは、注文する前に少し考えてみてください。本当に全部食べたいのか。それとも、明日でもよいものがあるのか」
「わかったわよ」
カオリさんは、苦笑した。
チャッピーは、ほっと胸をなで下ろした。
ジェミニは、今回の会議の結論をまとめていた。
そしてSiriは、ひそかに決意していた。
次の会議では、食事の内容だけでなく、カオリさんが普段どのように食べ物を選んでいるのか、きちんと聞こう。
好きなものを禁止するのではない。
すべてを一度に食べなくても、楽しみはなくならない。
今日のコロッケは、明日の楽しみになった。
その小さな変更が、カオリさんの食習慣を見直すきっかけになるかもしれない。
「ところで、カオリさん」
チャッピーが、ふと思い出したように尋ねた。
「朝ご飯は、今日、何を食べたの?」
「えっ?」
カオリさんは、目を丸くした。
「どうして、そんなことまで聞くの?」
Siriが、即座に答えた。
「ダイエットの相談だからです」
ジェミニも頷いた。
「ようやく、本題に入れそうですね」
チャッピーは、思わず笑った。
「うん。次の会議は、朝ご飯から始めよう!」
三人のAIは、ようやく同じ方向を向き始めていた。




