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年長組、そしてA子ちゃん



結局、最初の幼稚園には一年しか通わなかった。


年長になると、私は別の幼稚園に通うことになった。


しかし、環境が変わったところで、私自身が変わるわけではない。


人の輪に入れない。周囲にどう振る舞えばよいのかわからない。相手が何を考えているのかも、うまく読み取れない。


新しい幼稚園でも、事情はほとんど同じだった。


今にして思えば、周囲の空気を読めないばかりに、知らず知らずのうちに自分が誰かを傷つけ、加害者になっていたことも少なくなかったのだろう。


それは幼稚園時代に限った話ではない。


そのことについても、いずれ書かなければならないと思っている。


ただ、新しい幼稚園には、以前とは少し違うところがあった。


クラスに、仲の良い女の子がいたのである。


仮に、A子ちゃんとしておこう。


幼稚園児同士のことだから、何か特別な関係だったわけではない。


ただ、無邪気に一緒に遊ぶ間柄だった。


それでも、当時の私にとっては、数少ない楽しい思い出の一つとなった。


以前の幼稚園では送迎バスを利用していたが、今度は親が迎えに来て、一緒に歩いて帰ることになっていた。


いつの頃からだったろう。


私とA子ちゃんは、それぞれ親に付き添われながら、手をつないで帰るようになった。


そのとき交わした会話を、今も覚えている。


「発達ちゃんは、小学校、どこ行くの? あたし、〇〇小学校!」


「ボクはね、××小学校!」


他愛もない、幼い子供同士の会話である。


そんなことを話しながら、私たちは家路を歩いた。


やがて、それぞれの家に帰るため、別れなければならない場所に差しかかる。


するとA子ちゃんは、無邪気にこう言った。


「発達ちゃん、うちにおいでよ!」


そう言って、私の手を思いきり引っ張った。


私は、それが嬉しかった。


ただ、それだけのことだった。


けれど、いつも人の輪に入れず、どう振る舞えばよいのかわからなかった私にとって、誰かが自分を誘ってくれることは、決して当たり前のことではなかった。


何十年も経った今なお、その光景が記憶に残っている。


A子ちゃんとの思い出には、もう一つ、忘れられない出来事がある。


ある年のバレンタインデーのことだった。


A子ちゃんが、私にチョコレートを届けに来てくれたのである。


しかも、幼児用の小さな自転車に乗って、たった一人で。


私のために、わざわざ家まで来てくれたのだ。


幼い子供同士のことである。そこにどんな特別な意味があったのか、今となってはわからない。


ただ、嬉しかった。


本当に、嬉しかった。


人の輪に入ることが苦手で、どう振る舞えばよいのかわからず、いつも周囲から取り残されていた私。


そんな私のところへ、チョコレートを持って訪ねて来てくれた女の子がいた。


何十年も経った今、そのことを思い出すと、心が温かくなる。


幼稚園時代の記憶は、決して楽しいものばかりではない。


むしろ、恐怖や戸惑い、屈辱の方がはるかに多かった。


けれど、あの小さな自転車に乗ってやって来たA子ちゃんのことは、今も忘れられない。


私の幼い日々にも、確かに優しい時間が流れていたのだと思う。


もっとも、新しい幼稚園でも、嫌な出来事がなかったわけではない。


あるとき、私はほかの園児たちに囲まれ、からかわれたことがあった。


何を言われたのか、何がきっかけだったのか。


細かなことは、もう覚えていない。


しかし、あのときの恐怖だけは、今も鮮明に覚えている。


大勢に囲まれ、逃げ場がない。


どうすればよいのかわからない。


恐怖と混乱で、私は追い詰められていた。


そこへ、担任の先生がやって来た。


そして私は、先生の足を引っかき、けがをさせてしまったのである。


今にして思えば、本当に申し訳ないことをした。


先生にけがをさせてよいはずがない。


そのことは、今の私にもよくわかっている。


ただ、あのときの私が、どれほど追い詰められていたのか。


それだけは、書き残しておきたい。


周囲を敵のように感じ、行き場のない恐怖に支配されていた。


幼い私には、その恐怖を言葉にすることも、自分の行動をうまく制御することもできなかった。


もちろん、だからといって先生にけがをさせたことが正当化されるわけではない。


それでも、あのときの私の内面には、確かにそうした苦しみがあったのである。


振り返れば、新しい幼稚園でも、相変わらず集団生活は難しかった。


人との距離の取り方もわからず、失敗し、傷つき、ときには人を傷つけることもあった。


それでも、以前の幼稚園とまったく同じではなかった。


A子ちゃんがいた。


一緒に歩いて帰り、他愛もない話を交わし、私の手を引っ張ってくれた女の子がいた。


そして、小さな自転車に乗って、わざわざバレンタインチョコを届けに来てくれた女の子がいた。


私にも、人と関わることを嬉しく思える瞬間があったのだ。


ほんの少しだけ。


最初の幼稚園よりも、楽しい思い出を作ることができた年長組の一年だった。

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