第5話 何の盛り上がりもない模擬戦。(帝歴999年、5月)
「ローイド! 頑張んなさいよ~!!」
「行けーッ! 赤狼の息子!」
「突っ込んで殴れ! 突っ込んで殴れ~!」
我が上官殿を始め、部隊の先輩たちの歓声が響く。
盛り上がっておられるなあ。
「……動力体励起確認、魔力循環支障ナシ、下肢への魔力伝達確認……」
薄暗いコクピットで、そう呟きながらアゴルムを立ち上げている。
ヘルメットバイザーに転写されている外の景色には……この広い空間を遠巻きに見物している大勢の騎手たちと……俺とは違うアゴルムが見える。
「……アゴルム、起動!」
ぎゅん、ぎぎぎ。
脚部関節を軋ませて、視点が高くなる。
よし、問題なく立ち上がったな。
・・☆・・
駐屯地外側の堀をザクザク掘ったり、老朽化した壁の建材を運んだり、物資の搬入を手伝ったり。
そんなことをしていると、5月も終わりそうになってきた。
お陰で、訓練校を卒業した時とは比べ物にならないほど鎧騎兵の扱いは上達し……リタも喜んでジャンプしながら褒めてくれた。
目にやらし……優しい!
しかしあのヒト、初めてできた部下の俺に甘すぎではなかろうか?
かなり大事にされている印象がある……
これは、俺という個人が好きとか嫌いとかじゃなくて……直属の部下って存在が可愛いんだろう。
そりゃあこれだけ入れ込んでた部下含めて部隊が2回も全滅したら、あんな感じのダウナーキャラになるわ……と、改めて認識した。
頑張って生き残ろう、俺。
とまあ、そんなことをしていたら日常に動きがあった。
今日も作業頑張るか~……なんて準備していたら、ロジンに呼ばれた。
またどっかの新人が寝込んで助太刀かな……と思ったら違う。
「喜べロイド、模擬戦だぞ」
指令室、というかロジンの部屋に招かれた。
余計なものが全然ない……俺の部屋といい勝負だ。
統括騎手ってのは高給取りのはずなのに、質素ですなあ。
そんな部屋にいる鎧を着込んだムキムキのロジンは、ニヤニヤしている。
「模擬戦……で、ありますか?」
なんかのイベントが始まったんだろうか?
いかんせん俺の原作知識は未だにほぼ役に立たないので、流されるままに進むしかない。
作者さんが書いてくれなかったから、滅んだ辺境の風習とかわかんないし。
まだ戦闘活動に参加するほど働いてないんだが?
「そうだ、お前も噂には聞いているだろう……13番隊のクソガキのことを」
ああ、公爵家出身で上官に盾ついてボコボコにされたアイツね。
懲罰房からはもう出れたんだろうか。
「はい、いましたねそういうのも」
「ソイツがまあ……頑固でな、何度説教しても自説を曲げんのだ。『自分は作業などしなくても戦える!』とな」
「はあ……」
リタがあの後も教えてくれたけど、そいつは公爵家の11男らしい。
すげえな公爵家、大貴族は違うよな……この世界、一夫多妻制あるし。
よっぽど甘やかされて育ったんだろうか。
「そこで、統括騎手で話し合ってな……お灸をすえてやることにした。公爵家からも許可は取ってある」
「なるほど……それで、模擬戦と」
あー、そういうこと。
……ん? 窓からリタが見ている。
耳がへにょんとしてるな……怒られてるって勘違いしてんのかな?
心配性な我が上官殿だ……ガラスに巨乳が張り付いてる! 目の毒だ!!
「そうだ。同じ準騎手で、なおかつ日々の雑事を最も真面目に行っているお前と……あのクソガキを戦わせる。もし負けたらぐうの音も出ない結果になるだろう?」
やっぱりか。
この時間軸じゃあまだ大惨事は起こってないから、随分穏当な解決策だな。
本編開始後ならそんな暇ないから、無能は基本的に追放になるんだが。
「ハッ! 最大限努力し、必ずや勝利をもぎ取ってみせます!」
「がはは、そう固くなるなロイド。なあに、口だけの準騎手がお前さんに勝てるわけないだろう……殺さない程度に『遊んで』やれ」
おー、怖い顔ですこと。
しかし、変化球だがコレが初の実戦か……公爵家のボンボンには悪いが、実験台になってもらうとするか。
訓練校では危なすぎて模擬戦禁止だったし。
「……おいリタ! そんな所にいないで入ってこい! 別にロイドに説教をしていたわけじゃないからな!」
「本当!? よかったぁ~! ロイドが変な女にでも引っかかったのかと思って……!」
リタさんねえ……日中いつも一緒なのに、そんな暇あるわけないでしょうが!
それに、駐屯地の『そういう店』は15歳未満立ち入り禁止ですからね!
・・☆・・
「――はじめいっ!!」
どこかの統括騎手の声が響く。
あのヒトが審判役だな。
「ぬぅ……!」
魔力を流して、イメージ。
思った通りにアゴルムが足を踏み出す。
こちらも向こうも、左手に大盾と右手に棍棒だ。
アゴルムは頑丈さが売りの鎧騎兵なので、外装は硬い。
そして規格化されたパーツ群が山ほどあるので、壊れてもすぐに直せる、
ワンオフ機とは違う利点だな。
「おっそ……」
相手も同じように動き出したが、明らかに動きが遅い。
しかもあまりにガクガクして、まるで出来の悪い昭和のロボットだ。
訓練校ならあれでも大丈夫だろうが……やっぱりこっちでろくに動かしてねえな、アイツ。
ヨロイの動きは、全てがイメージ力で決まる。
それは、普段から動かし、他人が動かすのを見ることで向上していく。
それに加えて、俺には前世で散々見た『実際の映像』の記憶がある。
『帝歴1002』だけじゃない、他のロボットアニメのものだ。
お陰でイメージ力だけは、ここの誰よりも慣れている自信がある。
と、そんなことを考えていたら既に間合いに入っていた。
相手のアゴルムが、大きく棍棒を振り上げる……遅い!
「――突きィ!」
イメージしながら口に出す。
俺のアゴルムが、踏み込みながら右手の棍棒を突き出す。
綺麗な片手突きが、相手の脇関節の柔らかい部分に突き刺さる。
ヨロイ同士がぶつかる轟音と、振動。
「がぁあ!?」
相手の悲鳴が響く。
そのまま、突きと体重移動でバランスを崩したアゴルムが背中から倒れ込む。
さーて、どうだ?
仰向けから起き上がるのは難しいぞ? 訓練校でもそうだったろう?
「ハルバ準騎手! 降参するなら腹部を展開しろ!」
審判の声が響く。
あ、そういえばそんな名前だったわ。
だが、相手はそれを聞かずにゆるゆるとアゴルムを起き上がらせようとしている。
あらら、お前の力量じゃ両手に武器持ったままじゃダメだって……せめて盾を手放さなきゃ。
「継続の意思あり! ロイド準騎手、やれ!」
了解ですよっと。
それなら……こうだ!
もがくアゴルムの横に立ち……棍棒を持ち上げる。
「やめろ!」
なんか聞こえたけど幻聴でしょうね……振り下ろす!
ごぎぃん! という轟音。
「やっ――」
振り下ろす! 振り下ろす! 振り下ろす! 振り下ろす!
「~~~~~~~~~~~ッ!?!?!?」
前世で遊んだ太鼓リズムゲームを思い出すなあ……フルコンボだドン!
この世界、大衆向けの音楽なんてそんなに発展してないからな~、フォークソングが生まれるのはいつになるのやら……なんて考えながら鋼鉄のバチを連打連打連打。
「――そこまで!!」
おっと、了解。
気付けば相手アゴルムの腹部はベコベコにへこみ、動きも止まっていた。
頭部スリットから覗く視覚リンクを示す光も消えている……意識を失ったな、アレ。
コクピットは振動も音もよく響くからなあ、シェイクされて『中身』は大変だろう。
「魔導反応消失! 勝者、ロイド準騎手!」
歓声が響……かない!
「うわぁ……つっまんね……」
「動きがどうとか以前の問題だぜ、あれ」
「あの程度の腕前でよく天狗になれたもんだ。ドワーフの新入りでもあの10倍は速ぇよ」
「いやでも、5番隊のボウズはやっぱいいな。動きは滑らかで無駄もねえし……しっかり励んでやがる」
「ああ、あの分なら哨戒に回すのも早くなりそうだ。流石は『赤狼』の子ってか?」
講評かな? まあ、相手が弱すぎたからこれは仕方ないねえ。
俺も相手がこんなにポンコツだとは思わんかったよ。
「やったわ! やったわ~! ウチのロイドはやっぱり天才よ~!!」
リタだけが歓声を上げ、飛び跳ねている。かわいいなあの巨乳。
周囲の男どもはその大暴れする双丘を見てニヤニヤ……あのね、男所帯とはいっても女性騎手もそれなりにいるわけで……うわー、皆さん汚物を見る視線を注いでおられる……俺は知らんぞ。
「お疲れロイド! なんてことない相手だったでしょ~?」
アゴルムを座らせ、腹部を展開させると早速リタが褒めてくれた。
「……はい。ここだけの話、正直拍子抜けです。随分自信ありげでしたけど……」
「『華美な槍』ってやつね! 騎手には家柄なんて関係ないんだから当然よ!」
張り子のトラ、的な諺を言うリタの後ろ。
倒れていたアゴルムの腹部が解放され、中から騎手が引っ張り出されている。
うわぁ……ゲロってる。
かわいそうに、アイツ……じゃなくって整備のヒト。
シートを分解して清掃しなきゃだから、恨まれるぞ……いや、アイツに全部やらせるのかもな。
「~~!! ~~~~~!!!」
意外と元気だな、なんか叫んでる。
ええっと……なんか俺の攻撃には誉れがないとかなんとか?
……元々ないよ、ロボ攻撃に誉れなんて。
魔物相手に誉れが通用するなら、名乗って一騎打ちで戦争も異変も全部終わるわ。
負け惜しみにしてももっとこう……あるだろ!
「なによ~! 負け惜しみ言ってんじゃないの~!! ばーか! 間抜け! 口だけ騎手ゥ!!」
リタの煽りが小学生レベルだ……
「それでも男か! 〇ンコ付いてんのか!!」
「なっさけねえぞ! このフニャ〇ン野郎ォ!」
「言い訳だけは一丁前だな! 童貞! 早漏!」
周りの皆は中学生レベルの下ネタだ……リタが真っ赤になってる。
なんで? あなたこの時間軸でももう40代後半でしょ? エルフ基準でも成人は越えてるでしょ?
あ、ボンボンくんが統括騎手にぶん殴られて失神した。
ラギアギア帝国は基本的にホワイト帝国だが、残念ながら駐屯地ではバリバリ体罰が現役なのですよ。
哀れな男よ……俺以外を恨んでくれ。
卑怯な手も使ってないし、真正面から戦ったんだからさ。
「ロイド~、ヨロイ片付けたらご飯食べましょ、ご飯! ロジン統括騎手がね、勝ったから奢りだってさ!」
「了解です!」
それは嬉しい。
育ち盛りにはお肉がいるからね、仕方ないネ。
ありがとうボンボンくん、俺の筋肉の糧になってくれて!




