第4話 ヨロイと、戦う相手。(帝歴999年、5月)
「こっちだー! そのまま真っ直ぐ! 足元に気を付けろ~!!」
「了解! ふんぬ……!」
フットペダルに足をかけ、イメージしながら魔力を流す。
関節が稼働する音を発し……俺のアゴルムがゆっくりと前に進む。
リラックス、リラックス……倒れないように、ゆっくりだ……!
「よし! ここに下ろしてくれ~!」
「了解!」
視界に見える4頭身くらいの髭もじゃ低身長ムキムキ作業員……ドワーフの指示に従い、持っていた鋼材を下ろす。
ずずん、と音がする。
「完璧だ兄ちゃん! アンタ、準騎手の割りに腕がいいよ!」
「ありがとうございます!」
ふう、これで終わりかな?
ん? 向こうからドワーフが走ってきた。
「すまーん! 6番隊の新人がヘバった! 手を貸してくれ~!!」
「……了解! すぐに向かいます!」
おおん……たるんどるぞ! 新人!
荷運びくらいでヘバるなよもう……魔力しか使わないんだからさァ!
変に突っ張るし揺れまくるから、筋肉は疲れるけどもな!
「ありがてえ! 北門まで来てくれ! こっちだ~!」
誘導するように走り出すドワーフを追い、動き出す。
スムーズに足を踏み出す……スムーズに足を踏み出す……!
ぶつぶつと小声でそう繰り返しながら、俺は愛機たるアゴルムを動かすのだった。
早いもので、俺がここに赴任してから一月が経った。
同じ部隊の顔と名前も一致し、それなりに親睦を深めることができた……と、思う。
いや、俺の部隊ってみんな年上だしな……なんか、親父殿のこともあって初めから好意的だし。
親戚の子供的な感じで可愛がられている。
歓迎会を通じて、他の部隊の新人とも面識ができた。
いいやつ、いけすかないやつ、普通のやつ、総勢20名……騎手はいつでも人手不足なので、基本的に大事にされている。
教育コストがかかってるからな、変にイジメたりして潰れられたら国家の損失につながるってわけだ。
我がラギアギア帝国はホワイト帝国である。
名前から連想すると、なんかもっと軍国主義っぽい感じではあるが。
奴隷とか使いそう(偏見)
この国には奴隷制度ないけど。
そうそう、帝都に出した手紙に返事が来た。
妹は『早く兄さんと一緒に働きたい』なんて可愛いことを書いてたな。
アイツも騎手志望だからな……おふくろ、寂しがらなきゃいいんだが。
俺よりも4歳下だから、アイツが訓練校に通う頃には……辺境領滅んどるやんか!?
え、そこらへんって本編で描写されてなかったけど……他の辺境領に振り分けるとかしたんだろうか?
うむむ……まあ、今考えても仕方ないか。
おふくろの手紙には、俺の健康を気遣う文と『同封した手紙をクルトハンス様に渡してくれ』という内容が書かれていた。
やっぱりおふくろも知ってたんだな、言ってくれればいいのに。
ともあれ、手紙を渡した時のロジンはとっても嬉しそうだったから……いい知り合いなんだろう。
それで俺が毎日何をしているのかと言えば……現在のように、ヨロイを使用した土木作業や荷運びだ。
人間の何十倍もの力を出せる鎧騎兵は、お手軽重機として帝国中、いや今は世界中で広く使われている。
いつだったか、騎手ならば引く手数多と言ったのはこういうのも含まれる。
主目標の戦闘だけではなく、こういった部分でもヨロイは大変役に立つのだ。
さて、何故俺がこのような作業をしているのかというと……訓練、この一言に尽きる。
訓練校で動かし方を学んだとはいえ、準騎手はまだペーペーの新兵。
とても危なっかしくて戦闘はできないので、最低でも一月程度は駐屯地から出ることはできない。
その期間、このように雑用をこなすことによって……戦闘行動に足りる技能を持っているか、上官の査定を受けるのだ。
俺にとっての上官、つまり――
「いいわよロイド~! アンタ天才かもしんないわ~!!」
今も丸太を抱えて歩くアゴルムに並走する、お胸バルンバルンのリタによってだ。
やめてくんないかな、気が散って事故るかもしれんよその視覚の暴力。
「それ運んだら休憩よ~! 6番隊に押し付けられた分も休むのよ~!!」
「了解です! リタ上等騎手!」
周り中の男どもの視線を双丘に集めつつ、リタはニッコリ笑うのだった。
うーん、目に毒よ、毒。
「学校ではかなり訓練を積んでたのね、ロイド。動きが滑らかで油断もないわ……魔力の流し方も綺麗だし、準騎手としては最高峰だと思うわよ、アタシ」
地面に座り込んだアゴルムの前で、お茶の休憩中だ。
俺達は折り畳み式の椅子とテーブルを使っている。
小休止もバッチリ取れる、素敵な職場だなあ。
「ありがとうございます、嬉しいです」
「んっふっふ、アタシは褒めて育てる派だからね! 細かい所もバンバン褒めちゃうわ!」
それ、本人に言っていいんだろうか?
まあいいか、言われた俺は満足してるし。
「でも、他の隊でもアンタの評判いいわよロイド。言われたことはきちんとやるし、文句も言わないしね」
この駐屯地には全部で20の部隊がある。
構成人数は原則1部隊につき騎手10名、整備士10名となっていて……つまり駐屯地全体で200名の騎手がいることになる。
整備士の多くはドワーフが占めていて、騎手の怪我や死亡などの緊急時には臨時の騎手となることもできる。
そして、俺が所属しているのはロジン率いる『5番隊』だ。
準騎手は俺1人で、二等騎手が4名、上等騎手が4名、そして統括騎手が1名だ。
少ないように思うかもしれないが、『鎧騎兵』は最低一般的な兵士20人分を越える戦力とされているので……我が5番隊は兵士200人分の戦力だってことになる。
南駐屯地で考えると、4000人分の戦力だ……まあ、数字の上ではそうなる。
「ちょっと恥ずかしいですね、別に特別なことはやってないんですけど……」
「準騎手に特別な何かなんて求めちゃいないわよ、皆。やるべきことをしっかりやる! これが一番!」
お茶を飲み、そう言うリタ。
興奮しているのか、長い耳が上下にピコピコ動いてなんか可愛い、和む。
「13番隊の新人なんか評判キッツイわよ~? 『騎手として戦いに来たのであって、雑用などしているのは戦力の無駄遣いです!』って統括騎士に言ったんだってさ~? 公爵家出身だって言うけど、なんもわかっちゃいないわね」
「えぇ……大丈夫だったんですか、それ?」
散々言ったが帝国には貴族制度がある。
公爵っていうのは、皇帝陛下の血族に連なる家柄だ。
貴族としては最高ランクで、俺の騎士爵なんてデコピンで粉々にできる超絶エリートである。
――ここ以外では、という但し書きが付くが。
貴族としての階級は、騎手をしているうえで『ほぼ』考慮されない。
何故なら帝国において騎手とは、全てが『皇帝陛下直属の兵』という扱いなのだ。
なので、男爵だろうが伯爵だろうが騎手としての階級がそれより優先されるのだ。
つまり、新人は公爵家だが『騎手として』文句を言える相手はこの駐屯地に存在しないってことだ。
つまり、俺が言った『大丈夫だったんですか』っていうのは……新人の方である。
「うん、その場で統括騎手にボコボコにされて懲罰房入りよ」
「ああ、やっぱり……訓練校出身なのに、何考えてるんだ……」
えっと、13番隊って言ったよな……ああ、思い出した。
歓迎会で物凄く上から目線で話してたイケメンの男だ。
あの時点でさえ、他から生暖かく見られていたというのに……
ちなみに、家名は原作でも出てくるけどアイツ個人の名前は記憶になかった。
さもありなん、たぶん真っ先に死んだんだろうな。
あの性格が直らなきゃ、一生準騎手のままだと思うし。
「訓練校ではヨロイの操作が好成績だったから勘違いしたんでしょうね……いるらしいのよ、10年に1人くらいね、そういう勘違いする子」
「準騎手の中で上手でも何の自慢にもならないってのに……」
俺だって訓練校じゃ1番だったが、ここに来た瞬間に目で見て理解したぞ。
予備役のドワーフさんたちの方がよっぽど上手だって、操縦が。
だからこうやって下働きしながら訓練するってのにさ……
「平和な時代が続くのも考え物ね。特に騎手にとっては死活問題だわ!」
ぷんすこ怒るリタ。
この時間軸に転生して、座学で学んだが……ここ50年ばかしは、国内で大きな騒乱は起こっていない。
国外ではその限りじゃないんだが、それもあって『平和ボケ』した騎手も多いんじゃなかろうか。
その緩みは、2年後のプロローグによって良くも悪くも解消されるんだが……
「あ、ロイド。アンタの『動力体』ってまだ大丈夫? 確認して」
「はい、了解です」
立ち上がってアゴルムに向かう。
待機状態だと乗り込むための腹の装甲板が持ち上がっているので、そこからコクピットブロックがよく見える。
「ええと……」
自動車の一人用運転席があればこんな感じなんだろうな……って感じ。
革張りのシートには、ひじ掛けの部分に鎧の籠手めいたものが連結されている。
鎧騎兵には、他のロボットアニメのような操縦桿は存在しないのだ。
座ってこの籠手に両手を突っ込み、掌の部分にある水晶っぽい球体を握って魔力を流す。
フットペダルも同様で、何かをガチャガチャ動かしながら操縦することはない。
少なくとも、このアゴルムは。
「……大丈夫ですね、まだ色が濃いです。全力稼働で2日……って所ですかね?」
で、シートの上。
具体的には座った時の頭の後ろに、半透明のボックスが設置されている。
その中では、青色に輝く宝石のようなものが浮かんでいる。
これが、全ての鎧騎兵のエネルギー原……『動力体』だ。
正式名称は『魔導式動力発生体』という、ヨロイのパーツの中で最も高価な部品である。
騎手は、操縦席に座って手や足から魔力を放つ。
魔力は、この動力体を経由して……ヨロイの各部位に目に見えない神経の糸を伸ばす。
その状態で騎手が動く様子をイメージすれば、思念を読み取った動力体経由でヨロイの全身が動くのだ。
この『動力体』、通常は濃い青色に光っているが……魔力を流すたびに僅かに劣化していく。
水色程度なら大丈夫だが、完全な無色透明になればヨロイは動くことができなくなる。
稼働時間はヨロイ自体の変換効率や、動力体の等級によってマチマチだが……色の移り変わりは変わらない。
現在の時間軸では一般的じゃないが、本編の中盤頃には予備の動力体を持って乗り込むことが推奨されていた。
交換自体は簡単な工具があればできるからな。
とにかく、これがないとヨロイは何もできんってこった。
「そ、よかった! ロイドってやっぱり才能あるわね、動力体の劣化が遅いってことは魔力の扱いも上手いってことだからね~」
「褒めても何も出ませんよ、リタ上等騎手」
そりゃ、ここに至るまでに誰よりも努力はしてきたからな。
だって何もしなけりゃっていうか……普通にしてたら16で死ぬことが確定しとるからな!
必死になって鍛えるしかないじゃんよ。
それを知らない同期たちは、俺のことを『超ド級のヨロイマニア』だと思っていたようだ。
変な嫉妬ややっかみもなくなったから、それでいいけどね。
「んふふ、強情なところが背伸びしてるみたいでカワイイのよね~? 新兵の頃を思い出すわよ、アタシも」
リタはなんかクネクネしている。
「でさ、ロイドは『とっとと戦わせろ』って言うはないわよね?」
「慣熟もロクにできてないのに、『敵』に勝てるわけないですからね」
そう言うと、リタが寄って来て急に抱きしめてきた!
うわわ、身長差があるから巨乳が下腹に当たるゥ!? やめてください死んでしまいます!!
精神はともかく、体の方は思春期のど真ん中なんじゃぞ!
「えらーい! こっちはまだマシだけどさ、他の辺境領だと『敵』を舐めて死ぬヒヨッコが多いからねえ~?」
「……『敵』は、怖いですからね」
今現在の帝国の……否、人類の『敵』
プロローグで、この辺境領を滅ぼす『敵』
一般的な名称を、『魔物』という。
専門的には『災禍巨獣』と言うらしいが誰も使ってない。
名称だけなら普通のファンタジーモンスターだが、この世界においての『魔物』は違う。
鎧騎兵をもって立ち向かわなければならない程の、強敵だ。
まずデカイ、普通にデカイ。
小さい個体でも体長は3メートルを超える。
デカい連中は軒並み10メートル級だ。
そして硬い、体を包んでいる皮膚のような装甲のような……とにかく、それが硬い。
最後に駄目出しとして……奴らは『毒ガス』のようなモノを絶えず振りまいている。
正式名称は『瘴気』な。
一般の人間型生命体では、深く吸い込むとだいたい2,3分程度で肺が腐って死ぬ毒ガスだ。
とてもヨロイなしで戦えるような相手じゃない。
それを無効化して肉薄するために、人類はヨロイを開発した。
重厚な装甲によってガスを防ぐと同時に、『動力体』によって結界のようなモノを操縦席に張る。
これによって、肉薄して戦闘をすることが可能になったんだ。
……帝国黎明期において鎧騎兵が発明される前に魔物と戦って辺境の奥へ押し込んだ、っていう歴史があるが……その時にはいったい何人死んだんだか。
ヨロイでの戦闘方法はある意味単純だ。
肉薄して、ぶん殴って、装甲を割って、殺す。
硬い装甲をぶち割って、中身をぶん殴るんだ。
原始的だが、それがベターでありベストなのだ。
「うんうん、ちょっと臆病な方が長生きできるわよ。じゃ、もうちょっと休憩したら北門補修の続きね!」
「了解です、リタ上等騎手」
さて、今日も訓練、訓練。




