第3話 南駐屯地にて。(帝歴999年、4月)
「ロイド、ローイド、もうすぐ到着するわよ?」
「……ふごご、はい」
肩をゆすられて目を開けると、目の前にリタ!
おおお……美人の至近距離は心臓に悪い……! いい匂いがする!
「うふ、すっかり慣れてくれたみたいで嬉しいわ! やっぱりガルムさんの思い出話がよかったのかしら?」
「あはは……はい、色々と楽しいお話でした」
リタとの2人旅(御者さんもいるよ!)が始まって一週間。
ようやく赴任地の南駐屯地へ到着するようだ。
始めは緊張したが、リタの言う通り……死んだ親父殿の話や、これから向かう駐屯地の話、騎手の仕事やなんやかや。
そんな話をしているうちに、俺の緊張はすっかり解けていた。
いや、彼女って話し上手だわ……色んな地方の話とか知ってるし。
コレが本編では寡黙無愛想ダウナー巨乳エルフになるのか……プロローグの激戦ってどんだけ地獄だったんだよ。
しかに、親父殿が『異名』持ちの騎手とは知らなんだ……おふくろ、ただ『任務中の事故で死んだ』としか教えてくれんかったし。
ああ、異名ってのは突出した技能を持った騎手に付けられるあだ名みたいなもんだ。
本編中に何人も出てくるけど、どいつもこいつも他と隔絶した戦闘力を持つ連中だ。
まさか親父殿もそうだったとは……名前の格好いいモブだと思っててごめんよ、パパ。
「今日は着任の挨拶して自分の『鎧騎兵』を確認、それで終わり! 夜には他の新人と一緒に、合同で歓迎の宴よ!」
「いいですね、それ。楽しみです!」
『まだ』何も始まってないから平和だな……辺境領。
いや、一応帝国の最前線なんだかそれなりにドンパチはあるんだが……
『プロローグ』は、それどころじゃないんだよなあ……
「さあ行くわよロイド!」
「了解です! リタ上等騎手!」
さて……原作キャラ、他にもいるかな?
・・☆・・
「本日よりお世話になります! ロイド=ベルク準騎手です! よろしくお願いします!」
南駐屯地は、広大な敷地を誇っていた。
東京ドームが軽く5つ4つは入りそうな面積を、5メートルはある金属と石材の塀がぐるりと取り囲んでいた。
出入り口になっている東西南北の門は、塀と同じような重厚な造り。
そこには守衛として、鎧を着込んだ複数の騎手が立ち……その傍らにはいつでも起動できるように『鎧騎兵』が膝立ちの待機姿勢で座っていた。
そんな門を抜けて、そのまま馬車が入場。
しばらく走って、前世の体育館めいた形の建物前に停まった。
そこは2階建ての建物で……1階部分は倉庫というか格納庫。
2階が騎手たちの生活空間のようだった。
敷地内にいくつも建っているので、これが部隊単位の宿舎なんだろうな。
「ガルムの倅か、なるほど……よく似ておる」
その2階にある広い部屋で、集まった騎手たちに自己紹介をする俺である。
今返事をしたのは、俺の正面に立っている……筋骨隆々のおじさんだ。
オフなのか鎧を着ていないから、尋常じゃない筋肉量がよくわかる。
顔は60代くらいなのに……元気なおじさんだねぇ。
あと、親父殿知ってんだな。
俺が思うより有名人なのかも、辺境では。
「よく来た、若き準騎手よ。帝国防衛の要地に、若い力は常に必要だ……奮励努力せよ!」
「ハッ!!」
うひい、凄い迫力。
声、震えてねえかな。
「リタ上等騎手は、儂の部下。よってお前も儂の部下となる……帝国が誇る騎手として、恥ずべき行いだけはするな!」
「ハッ!!」
敬礼したままの俺をじろりと見て……おじさんは表情をやわらげた。
「うむ、楽にせい。遠路はるばる大変だったろう……儂はロジン、ロジン=クルトハンス……『統括騎手』である。座っていいぞ、ロイド」
「ハッ! 失礼いたします!」
用意された丸椅子に座る。
正面のロジンも同じように。
すると、俺を囲うように立っていた残りの騎手たちも一斉に座った。
堅苦しい挨拶はここで終わりってことか?
「ははは、本当にあやつの若い頃によう似ておるな……もっとも、性格は正反対のようだが」
何かを思い出すように、ロジンが笑う。
そうなん? 親父殿ってクッソ生意気だったとか?
しかし、ロジン……は、知らんけど、家名のクルトハンスは知ってる。
有名な伯爵家だ……代々優秀な騎手を輩出してることでな。
ええっと……本編に出てくる同じ苗字の連中は……この人よりも2世代ばかし下、たぶん孫世代だな。
この人の孫かどうかはわからんけど。
親戚とかかもしれんし。
「ですよね統括、見た目はよく似てんのに笑っちまう……おお、よろしくな坊主」
「お前のオヤジさんにはよく娼館に連れてってもらったよ、よろしくな!」
「クソ生意気な公爵家の令嬢にビンタしたガルムさんの息子たあ思えねえな……はっは、でも目は一緒だな!」
周囲の騎手たちが、親しげに話しかけてくる。
ええと……ロジン入れて10人ね、了解。
リタ以外は全部男性だな……っていうか! 親父殿のエピが濃すぎるんだけど!
ろくに帝都に帰りもせずになにやってんだよ親父殿……いくらこの世界が男女平等に近いとはいえ、公爵令嬢におビンタはシャレにならんですわよ!?
……あ、ひょっとしてそれで無礼討ちに? いや、この世界にその制度ねえわ。
「ね~? この子かっわいいでしょ皆! アタシの部下なんだからね! 優しくしてあげてね!」
たぶんこの場で一番かわいいのはリタだと思う。
座ってるのに、胸だけが大人しくない。
揺れすぎだ、揺れすぎ。
「まずガルムさんの息子って時点でな、問題ねえよ」
「ああ、俺達も似たような時期に世話んなったんだ。本人に返せねえぶん、息子にはな」
あらやだ、親父殿の人徳がすごい。
好かれた人だったんだなあ、やっぱり。
俺はたぶん……10回も顔見たことないと思うけど。
『思い出した』時にはもうお亡くなりになってたし。
「あの、皆さん……改めてご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
円滑な人間関係の為だ、頭はいくらでも下げる。
俺はこの場で一番の下っ端なんだしな!
「こおら~! かったい! 固いよロイド! もっとかわいく、子供らしく~!」
その要素は俺をひっくり返しても出てこないと思う。
もう14歳なんだから無理です~。
「そう肩肘張ってると疲れっちまうぞ、準騎手!」
「そうだそうだ! 硬いのはベッドの中だけってな! ガハハ!!」
「そっちもいずれ教えてやらあ! ガルムさんへの恩返しだ! いい娘を手配してやるぜ!」
「何言ってんの男ども! こら! 破廉恥~!!」
顔を真っ赤にしたリタが怒鳴ると、騎手たちは揃って笑い声をあげた。
今日来たばかりの俺でも、ここが居心地のいい騎手隊だってのはよくわかる。
……そっかあ、ここの人たちもみんな死んじまうんだなあ。
リタがダウナーになる気持ちがよくわかる。
10分前にここへ来た俺だって、この人たちがこの後死んだらショックを受けるだろう。
辺境伯領壊滅まで、あと2年かぁ……ままならんなあ……
「さて、これがお前さんに与えられる『アゴルム』だ。明日になったら早速これで働いてもらうことになる」
「はいっ!」
顔合わせが終わった後、そのままロジンによって階下へ案内された。
さっき言ったように1階部分は格納庫になっていて……ズラリ、と鎧騎兵が並んでいる。
おお……おお! テンションが上がる!
出撃前の待機状態ロボは……テンションが! 上がる!!
目前の機体を見上げる。
訓練校で血反吐を吐くまで乗ったものと、同型の鎧騎兵……『アゴルム』
ちなみに前世ファンの間では『アゴ』と呼ばれていた。
これは、準騎手に国から支給される……まあ、量産型のヨロイだ。
この時間軸でも旧式となっていて、動きは遅い。
だがとても頑丈で、少々無理な動かし方をしてもビクともしない堅牢さを誇る。
訓練校を出たての騎手を乗せるにはもってこいのヨロイってわけだ。
見た目は、くすんだ銀色の……分厚い鎧を着込んだ寸詰まりの騎士って感じ。
装甲板の厚さもあって、いかにも頑丈そうだ。
バランスは5頭身くらいかな……?
なんか、やっぱりちょっとかわいさがある。
立ち姿もガニ股っぽいし。
「そう緊張せんでも即座に戦闘領域には出さん、しばらくはリタについてコイツの慣熟を目指せ」
「は、はい!」
ばあん! と背中を叩かれた。
肩甲骨が折れるかと思った……!!
「肩を見ろ、お前の専用番号が焼き付けられている……他の準騎手のものと間違えるなよ」
アゴルムの右肩には、黒色で『10』と書かれている。
ここの十番機ってことね。
左肩には帝国共通語で『ロイド』という文字が。
名前付きのロボかあ……言葉にするとなんか間抜けだけど、見た目は日本語じゃないから気にならない。
なんか、格好いいマークにも見えてくる。
「よし、次はロイドの部屋だ。ついてこい」
「はい!」
ああん、他のヨロイも見たかったのに……!
だけどまあ、これからはいつでも見れるもんな。
「わー、アンタの部屋何にもないのね。新兵らしい部屋って感じ!」
「リタ上等騎手」
2階に戻り、宛がわれた部屋を案内してもらう。
『歓迎会が近付いたら呼びに来させる、休んでおけ』と言ってロジンは去って行った。
ここのトップ直々に案内してもらったんだよなあ……親父殿の人望かな?
とまあ、そんなことがあって……荷物を下ろしてベッドに腰かけているとリタが来た。
この部屋は訓練校とそんなに変わらないな、広さも同じくらいだ。
だけどあの時はマルクと同室だったから、一人部屋だと広く感じるなあ……
「アタシの部屋は向かいよ。夜寂しくなったら添い寝してあげるわ!」
「そ、そうですか……」
男女の部屋が同じ空間にあるのヤバくない?
この世界の男女平等っぷりすげえよな……痴情のもつれ的なトラブルはないんだろうか。
「時間になるまで待たせてもらうわ! ほら、お茶淹れてきたの」
「ありがとうございます!」
いい匂いがすると思ったらそれか……
この世界、甘味はそれなりに貴重だけどお茶は結構流通してるんだよな。
帝国では国を挙げて茶の栽培を奨励している……って設定もあったな、そういえば。
初代皇帝陛下が大のお茶好きだったとか。
今は外貨獲得手段として大いに活躍している。
「もう慣れた? あはは、まだ無理か!」
テーブルの向かいに座って、リタが笑っている。
マジで天真爛漫……違和感が凄い。
あ、どうでもいいけど聞こえる声はアニメ版の声優さんとちょっと違うんだよな。
地味に不思議だ。
「ウチのモットーはね、よく働いてよく休む! しっかり覚えとくのよ!」
「はい、わかりました」
素敵なモットーですこと……俺もよく休みたい。
それどころじゃないけど。
このまま生き残ったとして……何にも考えずにゴロゴロできる日は来るのだろうか。
本編もずううううっとドンパチだし。
そんなことを考えながら、カップに口を付けた。
「……どう、美味しい!?」
「とてもおいしいです! リタ上等騎手!」
……紅茶みたいな雰囲気しといて、玄米茶の味がする……!
でも、美味しいは美味しい。
リタがニッコニコで干し肉を差し出してくる……可愛いなあ、この人気キャラ。




