第2話 キャラクターのイメージが違ァう!(帝歴999年、4月)
「ロイド=ベルク準騎手であります! 本日より、よろしくお願いします……フェルノー上級騎手!」
背筋を伸ばし、左手を腰に。
右手を握りこぶしにして、手の甲を前に……胸に当てる。
この世界での一般的な敬礼の形だ。
配属先の上司が本編キャラ、しかも超ド級の厄ネタだった。
そして同室の友人は厄介じゃない本編キャラの部下になる。
そんな色々あった酒盛りの後、眠りにつき……朝起きて朝食後に、訓練校のとある教室に呼び出された。
俺の目の前には、この先命を預けるであろう女性がいる。
所属部隊が彼女を残して2度の全滅をし、周囲から『死神』と呼ばれることになる女性が。
「はい、休んでヨーシ! うんうん、活きのいい新人は大好きよ! アタシ!」
「ハッ!」
……ふむ、ほうほう。
「えっと……ベルク準騎手は14歳か、順当に励んできたようね! 教官からもいい話は聞いているわ!」
……なるほど、なるほど。
「将来有望な若者だっ……てね! 安心なさい、貴方を一人前の騎手にするのがアタシの任務なんだからさ!」
……うん、うん。
――誰だコイツ。
俺の目の前にいるのは、後に本編で活躍する『死神フェルノー』に間違いない。
身長は推定170㎝ちょいの俺よりもちょっと低い。
綺麗な金色の髪を結って、いわばポニーテールにしている。
エルフであることを示すように、その両耳は長く尖っている。
瞳の色は綺麗な蒼色で、白くて艶やかな肌と並んでよく目立つ。
そして、タイト気味な長袖長ズボンという騎手の制服に身を包んだ彼女の胸は……大きく布地を盛り上げている。
後の本編で、とあるキャラクターに『先祖にミノタウロスの血が入ってるんじゃねえか』と言わしめた素敵な双丘だ。
通常、エルフという種族は貧乳……スレンダーなのが普通だが、彼女は違うようだ。
以上の特徴は、挿絵でも、後のアニメ本編でもよく知っている『死神フェルノー』そのものだ。
だが、もう一度あえて言わせてもらう。
――誰だコイツ。
「あら、なーに? ひょっとして緊張してるの? ほら、体を楽にして!」
「は、はい!」
目がニコニコと細められて、面白いモノでも見るようにこっちに向けられている。
俺は、ようやく敬礼をやめて楽な姿勢になった。
……おかしい、おかしいぞこれ!!
本編中の彼女はもっとこう……ダウナーで、無表情で、喋る時も一言一言をぽしょぽしょと言う感じの暗黒美女エルフだったはずだ。
『敵発見、排除開始』とか『来る……!』とか!
なんだ、この……『初めてできた部下をニコニコと微笑ましい目で見つめる綺麗なお姉さん』感は!!
「ね、ロイドでいいわよね! アタシのこともリタでいいから! あ、でも年上なんだから敬語は使いなさいよ~?」
「りょ、了解であります……リタ上等騎手」
「ふふん、ちょっと固いけど、よろしい! 追々慣れていくように~!」
フンス、とでっかい胸を張るリタ。
うわぁ……なんだあのメロン……いやいやいや、いかん。
そうか、そうか……『死神』は最初からそうだったわけじゃないのか。
本編の時間軸に行く前に、彼女は2度仲間を全て失っている。
原作の俺にあたる『初めての部下』と仲間をまず失い、その次にももう1回……だ。
この天真爛漫っぽい彼女が、ダウナー系暗黒美女になってしまうのはそういうことだったんだろう……
普通に考えりゃ、生きてるのが嫌になるくらいの絶望だろうな……
その上西方辺境領もまるごと滅ぶしさあ。
仮に俺なら、二度と戦いたくないもん。
この身分じゃなかったら原作終盤まで無事な国にでも亡命する。
守るべき家族がいるから無理だけど。
「……リタ上等騎手」
「はい! なーにロイド準騎手!」
……俺は死にたくない、死ぬつもりもない。
ならば、それは結果としてこの人のメンタルを『おいたわしく』させないことに繋がる。
どうせ俺が生きてるだけで原作は崩壊するんだ……それなら、やれるだけやってみようじゃないか。
「改めまして、これからご指導ご鞭撻のほど……よろしくお願いいたします!」
「うわー! かったい! 固い子だ! ……でも、こちらこそよろしくね~!!」
リタは満面の笑みを浮かべて、俺に手を差し出す。
しっかりと握り返したその手は……とても、暖かかった。
・・☆・・
「南と北でキッチリ別れたなあ、ロイド」
「まあしょうがないよ、任地まで一緒ってわけにはいかんでしょ」
リタと話した後、自室へ戻った。
ほぼ2年を過ごしたこの部屋とも、今日でお別れだ。
『候補生』を卒業した騎手は、上等騎手の所属している赴任地へすぐ向かう。
もう学生気分は終わりで、これからは一人の『兵士』として扱われるんだ。
給料だって出るしな。
それは、ほぼ同時に帰ってきたマルクも同じだ。
お互いに多くもない荷物を背嚢にまとめ、さらに殺風景になった部屋に立っている。
ちなみに、俺は卒業と同時に晴れて騎士爵となった。
感慨深いかはともかく、これで俺の給料で仕送りができるし……家族は引き続き帝都に住める。
最悪俺が死んでも、家族が路頭に迷うことはなかろう。
「教官殿に聞いたけど、初めは荷運びばっかりなんだってさ。即戦闘にだけはならないでほしいなあ……」
「大丈夫だろ、北は落ち着いてるって聞くし」
マルクはこの辺境領の北へ、俺は南へ向かう。
そこには大きな拠点、『駐屯地』があって、数多くの騎手たちがそこで働いている。
ちなみに、プロローグで一番の激戦があったとされているのは『西』の駐屯地だ。
これは、後々本編に出て来た帰還兵モブがぼやいていた。
俺もマルクも、まあ初手で死亡……ってことにはならん、と思う。
……マジで西方辺境領に関する情報が断片的にしか出て来ねえんだよ、原作!
作者さんが書く外伝も、ほとんど本編の後日談だし!
もっと前史を書いといてくださいよ! エピソードゼロとかそんな感じでさぁ!!
「落ち着いたら手紙書けよ手紙。お前帝都に毎月書いてるから、一通くらいは増えても平気だろ」
「アレは書かないと会いに行くって妹に言われたからしょうがなくね……ま、落ち着いたら書くよ」
ともかく、俺の人生は真の意味でこれから始まる。
生き残るか、それとも2年後に死ぬか……それは、まさに神のみぞ知るだ。
だけど、折角この世界に転生できたんだ……絶対に死にたくない!
本編も始まってないのに死にたくない!
「よし、これでこの部屋ともお別れだな……行こうぜ、どうせ途中まで一緒だ」
「あの、マルクさん……お別れに好意を伝えたい異性の同期とか……いらっしゃらないんですか?」
ケツを蹴られた、鍛えているからそんなに痛くない。
「うるへー! お前もそうじゃねえかよ! 折角女湯覗きに誘ってやったのに来なかった朴念仁が!!」
「朴念仁の使い方間違ってるよ……今思えば校舎屋上から半日宙吊りにされてよく生きてたよな、マルクたち」
思春期の子供らしく、お互いに肩パンを繰り返しながら部屋を出る。
……前世がいくつで死んだのかわからんが、それでも体に引っ張られて気持ちが若返った気がするなあ。
だけど、こんなのも悪くない。
「マールク! 準備が早いねェ! コイツは将来有望だよ~!!」
「アザース姐さん! 感無量ッス!!」
「ロイド~! 忘れ物な~い? もう戻れないからしっかり確認しときなさいよ~!」
「準備万端であります! リタ上等騎手!!」
訓練校に隣接している、『発着場』
マルクとじゃれ合いながら歩いて行くと、お互いの上官がそこにもう立っていた。
時間より早めに来たんだがな……さすが、デキる騎手は行動も速い!
しかし……『ラァバ=ミドンナ』上等騎手、でっかぁ……
身長も、胸も、どこもかしこもでっかい。
それなのに、モフっとしたケモミミの生えた顔はどこか幼さを感じさせる。
今だって、マルクを迎えるために大きく手を振りながら子供みたいにジャンプしてる……うわでっか、暴れとる暴れとる。
モフモフの尻尾もでっかくて柔らかそうだな……
「マルクよ」
「なんだロイド、真剣な顔して」
お互い、上官とはまだ物理的な距離がある。
なので、小声で呟いた。
「……お前いいなあ、羨ましい」
「……『俺達』が、な? 相当恵まれてるぜ……同期の何人かは『羨ましい、呪い殺してやる』って言ってたぞ」
……そうかな、そうかも。
原作を知らなきゃ、両方超美人のお姉さんだもんな。
超今更だけど、騎手は男女平等……とはいっても、やっぱり腕っぷしが物を言う職業なので男性が、それもゴツくてムキムキの男性が多い。
普通なら、そんな男性騎手の元につくことになる。
そう考えれば、確率的には俺達はラッキーボーイってことになるか。
「ちょっとテンション上がってきた……!」
「てんしょ……? お前時々よくわからん言葉使うよな? どこの訛り?」
首を傾げるマルクを促し、俺達はお互いの上官の元へ歩き出した。
・・☆・・
「ロイドの同期はミドンナちゃんの所に行くのね。彼女は有能だからきっと大丈夫よ! まあ……私にはちょっと負けるカモ、だけど!」
「それは……安心しました」
揺れる車内に、向かい合って座る。
マルクと手を振って別れた俺は、リタと一緒に『発着場』に着いた車に乗り込んだ。
車と行っても、前世のバスやトラックじゃない。
ばんえい競馬みたいなでっかいお馬さんが2頭で曳いている……馬車だ。
この世界、ヒト型ロボットなんてものもあるが交通インフラはさほど発達していない。
だけどサスペンション的なものは開発されているようで、旅の間に俺の素敵なケツが爆発することだけはなさそうだ。
「これから、どのくらいかかりますか?」
「そうねえ、戦時便じゃないから……駐屯地までは一週間ってところかしら?」
騎手訓練校は、西方辺境領のほぼ中央に位置している。
そこから南に真っ直ぐ行くと、俺たちの赴任先である南駐屯地だ。
今は『まだ』何も起こっていないので、平和でのどかな旅である。
御者のおじさんはいるけど、車内では美人エルフと二人っきりだ……なんか緊張するなあ、好きなキャラだし……性格全然違うけど。
「ねえねえロイド、貴方の苗字って『ベルク』よね?」
「あ、はい」
ありがたいことに向こうから話を振ってくれた。
「ひょっとして……貴方のお父上って『ガルム=ベルク』上等騎手?」
「……はい、父です。御存じなんですか?」
なんと、親父殿を知っているとな?
本編にも出てこないのに……
「やっぱりそう! 顔を見て、名前を聞いてそうじゃないかって思ったの! よく見たら似てるし、顔!」
今世での俺ことロイド=ベルクは、赤銅色の髪を短く伸ばした……三白眼気味の目をしている。
不細工ではないと思うが、眼つきが悪いことは自覚している。
この世界には写真なんてものは……似たようなモノはあるけど、とってもとっても高価なので騎士レベルの貴族ではとても手が出ない。
なので、俺は亡き親父殿の顔をよく知らないのだが……どうやら、親父殿も人相が悪かったらしい。
妹はおふくろに似て優し気な美人、もとい美幼女なのになあ……DNAって時々意地悪だ。
どうせなら麗しい美形にでも生まれたかったものだ、本編主人公のように。
「懐かしいわ~、ガルムさんとは何度か一緒に働いたの。最後には任地が離れちゃって、お葬式には行けなかったけど……そうか、ガルムさんが話してた『ちょっと目付きの悪い息子』ってのがロイドだったのねえ」
俺の知らない所で俺がディスられておるんじゃが?
「そうですか……父が亡くなった時、俺は4つだったのでよく覚えていないのです」
物心、というか前世を思い出したのは5歳だったしな。
でも、こんな所で親父殿の話を聞けるとは思わなかったな……今度、おふくろへの手紙に書いてやろう。
「辺境領じゃ、ガルムさんのことを覚えてる古参も多いから……色々比べられちゃうわよロイド。でも、アタシにまっかせなさい!」
どん、と胸を叩くリタ。
おお、揺れる揺れる。
「このリタ=フェルノー様が、アンタを『辺境の赤狼』に負けないように鍛えてあげちゃうんだからね!」
「へんきょうの、せきろう」
……原作に記述もないくせに、親父殿ったら格好いい異名をお持ちで……!




