第53話 決着。(帝歴1000年、12月31日~)
『魔力反応! ブレスを撃つつもりですわ!』
「望む、ところォッ!」
視界いっぱいに広がる、ボロボロの龍。
半分以上折れた歯を見せ、大きく口を開けて――その喉奥には、膨大な魔力が渦を巻いている。
「ぐぅうう……まだ、まだぁ! アタシの魔力は、こんなもんじゃないんだから~!」
膝の上のリタが震え、さらに魔力を放出した。
「胸部装甲板! 展開ッ! 魔導集中!」
『過充填まで持っていきますわァ! 急速充填開始、でしてよォ!!』
揺らぐ視界、抜ける魔力、乱れる鼓動。
親父殿が潰した目を持つ、龍の顔が見える。
「――KKKKKKKKTKKTKTKTKTTBBBBAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!」
収束した魔力が、ザインブルグを目掛けて発射される。
「――凝集光砲ォッ! 撃てェ!!」
『充填率――臨界点! 撃ッちますわよ~ッ!!』
胸から放たれた光が、龍のブレスと激突する。
「うぅううッ!」
リタの悲鳴。
視界が一瞬、真っ白に染まる。
『魔導干渉! 衝撃、来ますわよッ!!』
「そのまま突っ込む! ブースト、全開ッ!!」
弾けた魔力の波がザインブルグにぶつかり、装甲板が軋む。
弾けた魔力の残滓が、バイザーや機体各部にヒビを入れたのがわかった。
それを突き抜けて――前へ、前へ、前へッ!!
――龍の口内に、光。
「――KGAGAGGAGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
もう一度ブレスだと!?
くそ、こっちの再充填が間に合わな――
「GGGYAYYAAGGAGGGAGA!?!?!?!?」
龍の首に、下から飛んできたランスが突き刺さった!
同時に、ヤツが吐こうとしていたブレスが霧散した――これは、ザインブルグのドリルランス!
ってことは……!
『――行ってぇ、ロイド! 行けェッ!!』
アリシアの声。
アイツ、あんなに遠くからランスを投げたのか!
さっすが……本編主人公ッ!!
「サンキューッ! 愛してるぜアリシアぁ!」
『みにゃぉッ!?』
「にゃにゃにゃにゃんですってェ!?」
リタがなんか言ってんな――まあいいか!!
握りしめた『リュンゼル』に、魔力が通う。
視界の隅に、蒼く輝く刃が映った。
「――そのォ、首ィッ!!」
血だらけの龍が、口を開いてこちらを見ている。
もう、目と鼻の先だ。
「貰っ……たァアアアアアアアアアアアアアッ!!」
両腕で握った『リュンゼル』を、大上段に。
体ごとぶつかるように――肉薄した龍の、眉間に向かって振り下ろす。
あっけないほど軽く、魔力の刃は食い込んだ。
『出力制限解除! 切断倍化術式起動! 真っ向ッ! 唐竹割りィッ! でしてよ~ッ!!!!』
ミュゼが叫び、噴射機構が吠える。
重力を後押しするように、大地へ向かって。
「でいぃいいいいいいりゃぁあああああああああああああああああああツ!!!!!」
喉に血の味を感じながら、叫ぶ。
その瞬間、魔力の刃がいつもの何倍も長く伸びた。
さっきまで余裕があった俺の魔力が、残り1割程度まで急激に落ち込む。
「――NNNZKKKKNNNNNNAAAAAA!?!?!?!?!?!?」
龍の悲鳴を聞きながら――ザインブルグが、腕を振り切る。
眉間から顎下までを、魔力の刃が綺麗に両断。
一瞬の静寂の後、龍の頭部が左右にズレた。
片方の目からは光が消え、ズレは大きくなっていく――
「さい、ごのォ――!!」
『リュンゼル』から右手を離し、フリーになった拳を龍の顔面に!
「駄目押し、だァ! 蜥蜴野郎ォ!!!! 全力、斉射ァ!!!!」
三連魔導機銃が唸り、魔弾が龍の顔面を貫通し、内部で炸裂していく。
インジケーターがゼロになるギリギリまで、頼もしいガトリングは吠え続けた。
『魔力の拍動、停止! ロイド、もういいですわ……ロイド!?』
「あ、とは……任せ、たぜ……相棒……」
これで、本当にカラだ……魔力は……
ぐぅ、唾かと思ったら血かよ、これ……!
『お馬鹿! 駄目押しに一気に魔力を使いすぎで――』
「ロイドぉ! やだやだ死んじゃダメ――」
2人の喚く声を聞きながら、俺は意識を手放した。
・・☆・・(三人称)
『や、やりやがった……!』
『龍を、龍を……殺した!!』
中央駐屯地、外壁上。
戦いの趨勢を見守っていたアゴルム隊から、次々と喜びの声が上がる。
「やった! やったぁ!! ロイド! お前ってやっぱりすげえよ~!!」
その中の1機、マルク=ヘルツォーンもまた叫んだ。
訓練校からの同期で、友人。
その男は、古式鎧騎兵を駆って今まさに龍の顔面を真っ二つにしたのだ。
『お前ら! 喜んでる場合じゃねえぞ! 俺達はロクに戦力になってなかった……出るぞ! 龍は死んだ! 騎手たちを助けるんだ!!』
『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』』』
龍の攻撃によって、五体満足なヨロイはほとんどない。
彼らを助けるために、アゴルム隊はすぐさま中央駐屯地から飛び出していった。
「ラァバさん! ラァバさ~ん!!」
ロイドを心配していたマルクは、今は恋人の名を叫びながら真っ先に飛び出していった。
アゴルムの出せる限界ギリギリの速度で。
ザインブルグのコクピットで、リタが叫んでいる。
「ミュゼちゃん! ロイドが、ロイドが~!!」
『キャンキャン言わないでくださいまし! 急激な魔力欠乏からの昏倒ですわ! たぶん、命に別状はありませんわよ! ……着地!』
ミュゼの操作によって、ザインブルグは地面に降り立った。
既にベルトは外され、今はリタの上にロイドが乗る形になっている。
意識を失ったロイドは、リタにきつく抱きしめられていた。
その顔色は蒼白で、口からは血が垂れている。
『ベルク二等騎手! よくやった! よくやったぞお!』
『おじさまぁ! このお馬鹿さんったら魔力を使いすぎて昏倒しましてよ! 医療魔法士をお早く願いますわ~!!』
走り寄るバルクハルクのグラーフオウガに向け、ミュゼが通信を飛ばす。
それは、周辺に響き渡った。
『なんだと……!? 最優先で治療へ回す! 龍討伐の第一功を死なせるわけにはいかん!! 動けるならすぐさま駐屯地へ退いてくれ! それと……総員! 無事な者は他の負傷者を救助せよ!!』
『『『了解ッ!!』』』
動けるヨロイが、一斉に行動を開始した。
彼らの後ろには、頭部を左右に分割された龍の死体が転がっている。
貴重な素材の宝庫である、龍が。
だが、この場の人間は誰一人としてそれに目を向ける者はいなかった。
『中央駐屯地へ帰還いたしますわ! リタさん! ロイドを頼みましてよ! それと魔力も!』
「うん! 両方任せて!」
自動で動き始めるザインブルグ。
そのコクピットで、リタはロイドをきつく抱きしめていた。
「ロイド……死んだらアタシがもう一回ぶっ殺すんだからね……!」
言葉とは裏腹に、リタは意識を失ったロイドの頬に自分の頬をそっと重ねた。
そして、少しだけ鼻を鳴らす。
「んんぅ……なにさ、アンタはちゃんといい匂いじゃないの、嘘つき」
・・☆・・
……どこだ、ここは?
……ああ、思い出した。
俺の部屋だ、それも……訓練校時代の。
マルクのベッドもある。
暗い室内で、つけっぱなしのオイルランプが部屋を照らしている。
「よぉ」
マルクのベッドに誰か、腰かけている。
長身に、筋肉質な体、ボサボサの赤い短髪。
まるで狼のような、鋭い目。
「俺のこと覚えてるか?」
「……親父」
何故か、そこに座っていたのは……『今世』の親父殿。
ガルム=ベルクだった。
「でかくなったなあ、ロイド」
「俺は……死んだのか?」
にやり、と歯を見せた親父殿は……ヒラヒラと手を横に振った。
「馬鹿言うなよ、俺とサリッサの子がこれっくらいでくたばるもんか」
サリッサはおふくろの名だ。
「お前はたぶん、ちょいと死にかけてここへ来たんだろうさ」
「じゃあ、親父殿は幽霊ってことか?」
そう言うと、親父殿は首をすくめた。
「それは神のみぞ知るってヤツさ。ひょっとしたら、昏睡してるお前の夢かもしれんし……そうでないかもしれん」
ベッドから立ち上がった親父殿が、俺の前に来る。
……デカイなあ、まだ背が足りねえや。
190以上はあるんじゃねえのか。
「ま、いいさ」
がしり、と頭を掴まれた。
そして、そのまま乱暴に撫でまわされる。
「こうして立派になったお前を見れたんだからな。俺ァそれでいい」
「……まあ、気持ちはありがたく受け取っとくよ。だけどこうして夢枕に立てるんなら、帝都のおふくろや妹のとこにも出てくれよな」
そう言うと、親父殿は笑った。
「はっは! なかなかうまくいかねえんだよ、そこはな」
「そうかい。おふくろさあ……親父に操立てて再婚もしてねえんだからな、あんな美人なのに。顔くらい出してやれ」
「あぁ? なんだよ、俺が死んだらすぐにイイ男を見つけるって言ってたくせになあ……」
親父殿は、少し恥ずかしそうに頭をがりがりかいている。
なんとも素敵な夫婦愛ですねえ。
懐を探ると……おや、煙草があった。
それを取り出し、親父殿に一本渡す。
マッチを擦って、2人同時に煙草に火をつけた。
「美味ぇなあ……息子に貰う煙草だからか?」
「どうかな……こっちも夢の中だからか、いつもより美味い気がするよ」
俺達は顔を見合わせて、お互いに笑った。
笑うと若く見えるなあ、親父。
……あ、享年28だったか。
「肩の荷が下りたぜ……お前も一端の騎手になったからな。もっとも……あんなイカしたお嬢ちゃんに乗るとは思わなかったがな?」
「俺もそこは不思議だよ。まあ、でも……最適解だったよな。親父の仇も取れたし」
「おお、なんとも勇壮な戦いだった。俺が吟遊詩人ならなあ、サーガの一つも作って歌う所だがよ」
実の親にそんなことされたくねえ……罰ゲームかな?
「そいじゃ、俺は行く」
「そうかい……なんとか頑張っておふくろたちの方にも行けよ、親父殿」
咥え煙草のまま、親父殿が部屋の出口へ歩いて行く。
俺の足は何故か動かないので、見送るしかない。
「はっは、いっちょ頑張ってみるかな」
ドアが開き、親父殿の姿が薄れていく。
彼は、こちらを振り向いて笑った。
「なんたってお前は、俺達の息子だ。この先も上手くやんだろう……いっちょ頑張って、すんげえ大英雄にでもなってくんな。あの世で自慢したいからよ」
「それは約束できないけど……まあ、それなりに頑張るよ」
これから先も色々あるからな……帝国。
アレとかコレとかソレとか。
「あ、そうだ親父殿」
「なんだ? 息子よ」
最後に一つ聞いておくか。
「まさかとは思うけど……腹違いの兄弟とか、いないよな? なんか駐屯地での話聞いてると不安になるんだが……」
……親父殿の薄れる速度が明らかに上がった!?
まさかこの野郎、逃げるつもりじゃ……!?
「……ロイド、俺から言えることは多くねえ……避妊薬は高くても買え。女の言う『大丈夫な日』は基本的に信用するな。面倒見れると思う女だけ抱け。素人女に手を出す時はよくよく考えろ……」
「あぁ!? オイ待てこの野郎! ちょっと! 最後の最後にこんなこと聞いた俺も悪かったがさすがにその返答は最低――」
ウワーッ!?
急に世界が眩しくなった!!
逃げるな! 逃げるな~!!
主に責任から逃げるな~!!
「俺は悪くねえ。でっけえ乳と尻が全部いけねえんだ、全部な――」
考えうる限り最低の! 最低の末期の台詞!!
ああ、もう口も開かねえ!!
神よ! アンタやっぱり性格が悪――
「デカい乳には気を付けろよ、ロイド」
――うるっせえ!!!!
・・☆・・
「ぐむぅ……知ってるエルフと……ボクッ娘と黒エルフ……」
目を開けて周囲を見ると、俺が寝かされているベッドに突っ伏して涎を供給しているリタと……少し離れた机に突っ伏して眠るアリシア、それにアナンタが見えた。
真っ暗だな、今何時だ?
『あらまあ、ようやく起きましたわ。お寝坊さんですこと』
ミュゼか……俺、どれくらい寝てた?
正直さっきまで変な夢を見ててな…実感がない。
『2日と12時間35分でしてよ~』
無茶苦茶寝てる……
『ちなみに今は深夜3時11分ですわ。帝歴1001年にようこそ、ですわ~』
寝てる間に年が変わったのか……しかも2日も。
『色々気になるでしょうけど、とにかくもう一回お眠りなさいな。あなたが思っているほど、体の状態はよくありませんことよ。内面はズッタズタのボロッボロでしてよ』
そうか……まあ、首以外動かんしな……寝るかな。
『子守歌は必要ですの~?』
うんにゃ、意識したらすんげえ眠い……
寝るよ、このまま……
『お休みなさいな、ロイド。いい夢を』
さっき悪夢見たからなぁ……今度はこう、いい夢が見たい。
できればエロい夢を……
『しょうがありませんわねえ? では前世の『お気に入り』フォルダから特に再生数の多いものを……』
俺の脳はライブラリ化されてんのか?
いや、いい。
冗談だから……本当に。




