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第52話 赤狼、駆ける。(帝歴1000年、12月31日)

 リントブルムが大盾から放った魔力の奔流は、ザインブルグの胸ビームによく似ていた。

似ていたが、その出力は段違いである。

直撃すればザインブルグでも無事に済まないショートブレスを、圧縮して放出したんだ。

それは、ほぼ一瞬で龍に到達。



「――GGGGGGGGGYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?」



 一瞬の抵抗の後、龍の障壁を破壊し――その右前足に着弾。

装甲を溶かし、皮膚を抉り――肉を貫通!

龍の前足は、肘のあたりに大穴が開いた! あれじゃあ腕は使い物になるまい!


『ヒューッ! 実戦使用は初めてだが! なんってご機嫌な武器なんだい! 最高だよリントブルム!!』


『感謝。されど再使用までに最低300セクタ。総身冷却、並びに再起動開始……』


 盾のスリットから光が消え、元の大盾に戻る。


「エキドナ聖騎手! 魔力は大丈夫ですか!?」


「はん! この程度なんとも……その声はリタかい? アンタなんでボウヤのヨロイに?」


 あ、2人って知り合いなんだ。

タリアナ繋がりかな?

名前で呼んでるし……


「話せば長くなります! ありがとうございます、ラシュタム聖騎手! これより戦線に復帰いたします!」


『応よ! ヤバくなったらまた逃げてくるんだよ、ボウヤ!』


『エキドナおねえさま、助かりましたわ~!』


そういえば、ミュゼもいつの間に仲良くなったんだ?

 

リントブルムの背後から出る……おお、龍も大ダメージだ。

切れた翼、爆発した胸、そして今やられた右前足。

よく見れば、足や背中には無数の武器が突き立っている。

周囲の地面は体液まみれで、元の色すら変わっている……好機だ!


「上等騎手! 申し訳ありませんが……」


「分かってるわよ! 魔力でしょ! 遠慮なく持っていきなさい! これで、一緒に戦えるわねッ!」


 振り向いたリタは俺を見て、可愛く片目をつぶった。


「ありがとうございます――行くぞミュゼ! あのデカブツをぶち殺すッ!!」


『ジャイアントキリングはワンオフ機の華、でしてよ! 合点承知の助ですわ~!!』


 随分おもしれえ口調になってんな! 地球に染まりやがって!

だがまあ、悪くないなァ!!


「噴射機構、最大出力――吶喊!」『ごーあへっど! でしてよ~!!』


 前傾姿勢で地面を踏みしめ、砕きながら――飛ぶッ!

空力性能を無視して、ミサイルよろしく飛ぶッ!!


「きゃー! これ、なんか、癖になる、かも~!!」


「気が合いますね! 俺も大好物、ですよ!!」


 リタの声を聞く中、距離はどんどんと近くなっていく。

痛みに震えていた龍が――こちらを見る!

大きく口を開けて!


「ブレスか、しゃらくさい! また加速砲で中断させて――」


『お待ちになって! 射線上に味方が!』


 何――聖騎手たちのグラーフオウガ! それも3機!


『好きに、させるかってんだよォ!』


 まず、タロッグ機が龍の傷ついた右前足に――魔力を纏った戦斧を叩きつけた。

それは肘に半分程めりこみ、体液を放出させる!


『よくも部下たちを――許さんッ!!』


 タロッグの一撃で姿勢が崩れた龍。

それを逃さず走り込んだハラルド機が、噴射機構を全開させて飛び上がる。


『ハァアアアアアアアアッ!!』


 空中で突き出された輝く馬上槍が、龍の左前脚の上腕に激突! 障壁を砕いて半分以上突き刺さった!

その攻撃により、龍は悲鳴を上げ――上半身が降りてくる!


『ロイド~! これ、貸りるよ~!』


 その上半身に向かって後方から回り込んでくるのは……アリシアのウォードロン!

機体の性能をフルに発揮させた跳躍で――胸に突き刺さったランスを、両手で握った!


『でぇえええいりゃあああああああッ!!』


 そのまま魔力を流し、回転を始めて周辺をズタズタにしたランスを……引き抜く!


『あっは! やっぱりこれ、格好いいねえ!』


 ランスを回収したウォードロンは、すかさず撤退。

龍の下から逃げ出しつつ――進行方向にあった後ろ足を、ランスで抉りながら抜けた!

アイツのセンス、やっぱすげえわ! さっすが本編主人公!!


「GGGYYAYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


 痛みと激怒がない混ぜになったような悲鳴を上げ、龍が吠える。

だが、体勢の乱れはいかんともしがたく――倒れ込んでいく!


『オォオオオオオオオッ!!』


 背中に張り付いていたバルクハルク機が、跳躍。

その頂点で噴射機構を使用し――流星のような速度で落下!


『――その首、寄越せェッ!!』


 魔力を限界まで込めた長大な大剣が、唸りを上げて龍の――首に食い込む!


『ぬぅうううううあああああああああああああああッ!!』


 裂帛の気合を乗せた大剣は、装甲を断ち割りながら首にめり込んでいく!

グラーフオウガの両腕、関節部から火花が散ってる……限界を超えた出力と、魔力のオーバーロード現象か!


 どずん、と音を立てて。

首に大剣が食い込んだ龍は、地面に縫い付けられるように倒れ込んだ。


『騎手たちよ! ここが勝機ぞ! 持てる武器をありったけコイツに叩き込めェ!!』


『『『ラーグ・ヴァラールッ!!』』』


 吠えるツヴァンクが、ドラウツェンが、ウォードロンが。

手にした武器を龍の体中に突き刺している。

そこかしこで鮮血が吹きあがり、装甲板が破損していく。


『悪しき龍よ――我が刃を受けよ! 推して参るッ!!』


 おお!? アレはエリオットのツヴァンク!

すげえ! 左前脚を一瞬で駆け上がりながら装甲板を斬りつけまくって――最後は左肩にロングソードを根元まで突き刺した!


『笑止! 知性なき獣の放つ礫が当たるものかよッ!!』


そして、飛来する鱗を予備の剣で迎撃しながら、宙返りを織り交ぜた三次元機動で地面に降りた!

操縦技術はマジで上位レベルなんよなあ! あの公爵家さんは!


「むむむ~……アタシもアレに参加したかったな~! あ! でも、ロイドと一緒だから帳消しね、帳消し!」


「て、照れますね」


「存分に照れちゃっていいのよ! あはは、やっぱりかわいい子!」


 とても可愛いことを言うリタに少しホッコリしてしまう。

なんだこのエルフさんは、ちょっと部下のこと好きすぎだろう?


「よぉし! 好機だ、ここで終わらせてやる――」


 『リュンゼル』を握り、ザインブルグを加速させる。

リタの魔力があるからか、こっちの魔力の減りは大丈夫だ!

コレを脳天に叩き込んでぶち殺してやるよ、異世界爬虫類!


『――む、むむ!』


 何がムムムだ! どうしたミュゼ――



『――龍中心部に強力な魔導反応! 皆様ぁ! 退避なさってくださいましッ!!』



 ――魔力の波が、突如叩きつけられた。


「きゃ~ッ!?」「ぐむぅうう!?」


 装甲板が軋み、前方のモニターが明滅する。

その中に見える龍は――



「KKKKKAAAAAAAMMMMMMRRRRRRRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」



 地に付したまま、内臓でも吐き出すかのように吠えた。

それと同時に、龍の全身を包んでいる装甲板が赤黒く光った。

――あんな攻撃、俺は知らないぞ!?


『総員退避、たい――』


『畜生、水晶が弾けた!?』


『がぁあああ!? 回路が、やられ――』


『テメエこのやろ――』


 ――膨大な魔力が、龍を起点にして弾けた。



・・☆・・



「っぐ!? うぅ……!」


 両腕と背中の痛みで目を覚ました。

背中は『供給』の針で……腕の方もそうか!

ミュゼが起こしてくれたみたいだ。


『起きなさいロイド! まだ龍は生きていましてよ!』


「うぅう……なに、いまの……!」


 膝の上のリタも……呻いて起きた。


「いったい、何が起こった……!」


『体内の魔力を意図的に暴走させ、体表面を爆破したんですの! 言ってみれば自爆ですわ!』


 倒れていたザインブルグを起き上がらせる。

よかった、どこも壊れてない……!


『ボウヤ! 生きてたかい!』


 エキドナの声。


『アンタたちだけだよ! マトモに動けんのはね! 他は揃って吹き飛ばされちまった!』


「聖騎手も、ご無事で!」


『ああ! だけどアタイは動けない! 後ろに半壊した連中を庇ってるからねえ!』


 それに、リントブルムはそれほど足が速くない……

なら、そのままそこにいてもらう方がいい!


「了解ッ! 後ろはお任せします!」


『あいよぉ! 行って男になってきな、ボウヤ! 帰ってきたらおもいっきり抱きしめてやるよ!』


「っそ! それはアタシがやるからいいです~!!」


 突如興奮するリタ。

お陰で混乱も収まったぜ……ありがとう上官殿!


 視界に映る龍は……体積が明らかに減っていた。

装甲板を爆破させたからか、そこら中の筋肉がむき出しで、全身が血にまみれている。

残っていた翼は骨だけになり、右前足は完全に吹き飛んでいた。


 ――それでも、龍はまだ生きている。


 体内の魔力は蠢動を続けていて、ザインブルグを通じて俺に伝わってくる。

なんて生命力だ……!


『先程の魔力爆発は衝撃力に特化しているようで、完全に破壊されたヨロイは存在しませんことよ! でも、至近距離で放たれた魔力と装甲で動きが阻害されておりますわ!』


 周囲に吹き飛ばされたヨロイたちが、軋みながら動こうとしている。

いつぞや、地下水脈に落ちた時のように……逆流した魔力で思うように動かないようだ。

グラーフオウガ3機も確認できたが、どれも武器が破壊されている。

そして、彼らは破損したヨロイたちを庇うように前に立っている……あっちも動けないか!


『ぐぅう……畜生! 動きが、鈍い!』


『アナンタさん! 今立っちゃ駄目――!』


 よろよろと起き上がったウォードロンに、龍が目を向けて――吠えた。


『――きゃぁあああッ!?!?』


 発射されたショートブレスが、アナンタのウォードロンの左腕を盾ごと吹き飛ばした。

その衝撃で、アナンタ機が地面に打ち倒される。


『こん、のぉ……! やめろォ!!』


 アリシア機が軋む右腕を持ち上げて、龍に連続射撃。

魔弾が顔に直撃した龍が悲鳴を上げ、ぐらつく……障壁がない!

その余裕が、ないのか!


「――うぅう、おおおおおおぉおッ!!」


 地面を蹴る、蹴って跳ぶ。

意識した瞬間には、噴射機構が全力で吠えた。


「ロイド! アタシの、ありったけの魔力をあげる――!」


 リタが叫び、流れ込んだ膨大な魔力に『動力体』が脈動する。

弾けるように、ザインブルグが加速した。



「親父、アンタがやり残したこと――俺が、ケリをつけるぜ!」



 ふと、記憶すら定かでない親父殿の……笑う顔が浮かんだ。

まだガキだった頃の俺の頭を撫でた後、少し恥ずかしそうに……鼻の頭を擦って、どこか、誇らしげに笑う顔が。



・・☆・・(三人称)



 倒れ伏していたヨロイたち。

その内部で、動けずにいた騎手たちは、『ソレ』を見た。

バイザー内部に投影された映像に映る、『ソレ』を。


「あぁ……」


 バルクハルク聖騎手の部下、カララ=ラドンセ上等騎手もその一人だった。

半分割れたバイザーに映るのは、鎧騎兵。


 赤と白に彩られた、古代の鎧騎兵。

かつての恩人の息子が駆る、『ザインブルグ』


『雄ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 通信から聞こえる雄々しき咆哮。

戦場にそれを発しながら、ザインブルグの全身は『赤色』に包まれていた。


 龍が放った魔力の残滓。

それが、ザインブルグが撒き散らす『人間とエルフ』の混合した魔力と反応している。


 全身を燃えるような『赤い』魔力に包まれ、一直線に飛ぶ、ザインブルグ。

それは、とてつもなく勇壮で……とてつもなく、美しい光景だった。


「見てますか、ガルムさん……貴方の息子は、やっぱり――」


 カララの目から、涙が一筋こぼれた。



『おお……見ろよ、アレ!』


『……赤狼』


『赤狼だ……!』


 生き残っていたヨロイからの通信が、次々と重なる。


『帰ってきた!』


『辺境の赤狼が……帰ってきやがった!』


『親父の仇討ちだぁ! やれェ! 坊主ッ!!』


 辺境の騎手誰もが、ある種の憧憬を込めて唱える名……『辺境の赤狼』

龍に立ち向かい、敵わずとも痛打を与えて散った一人の英雄。


『行け……!』


 半壊したツヴァンクが、残った片腕を天に突き上げる。


『行け……!!』


 両足を吹き飛ばされたドラウツェンが、顔を上げる。


『行け……!!!』


 彼らは脳裏に去来するガルム=ベルクを想い、通信越しに声を張り上げるのだった。



『『『――行けェえええッ! 赤狼ォおおおおおおおお!!』』』



 ザインブルグが征く。


 かつての英雄を屠った龍に向かい、大気に赤い魔力の尾を引いて。

ただ、真っ直ぐに。



 ――それは、虚空を駆ける真紅の狼にも見えた。


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― 新着の感想 ―
熱いぜ!こういうの大好き
赤狼の仔はエルフと共に龍を屠る。 エリオットすげぇな…是非生き残って欲しい そういや前話で書き忘れたけど、 もしや某士魂号みたく複座型の古式ヨロイもある?
手痛い最後っ屁。 だがこれで最期だ!!
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