第51話 タンデム・エルフ。(帝歴1000年、12月31日)
「上等騎手! 上等騎手ッ!!」
平原に埋もれている、上半身だけのツヴァンクに駆け寄る。
後ろでは悲鳴を上げた龍がのたうち回っていて、俺への注意が逸れている。
今しかない!
「返事してください! 上等騎手! リタ、リタぁッ!!」
リタのツヴァンクは、胸部装甲板の上部に……別のツヴァンクの腕が肘までめり込んでいる。
たぶん、尻尾にやられた誰かのパーツが突き刺さって……その後、吹き飛んだ所を尻尾で薙ぎ払われたんだろう。
損傷の位置的に……コクピット内部は潰れちゃいないだろうが……
『魔力の拍動、確認! リタさんはご無事ですが、意識がありませんわ!』
よかった……いやよくない!
この状況でこのまま放置はできん!
今はいいが、風向き次第じゃ『瘴気』にやられちまう!
龍めぇ……無色透明な『瘴気』なんか出しくさりやがって!
ぬかった……リタは『原作』に出てくるからって、死なないとどこかで思い込んでたんだ、俺は!
馬鹿野郎! ここが原作から逸脱してきてるってわかってたのに……!
龍の攻撃もそうだったのに……!!
「時間がない! ここに乗せる!」
『この状況では仕方ありませんわね……ザインブルグは複座型ではありませんが』
まず、ツヴァンクに突き刺さっている腕を掴む。
『振動からの反響計測……大丈夫でしてよ、引っこ抜いてくださいませ』
それを力任せに引き抜き……腹部装甲板に指をかける。
「ふんぬッ!」
強制解放なんかしている暇はないから、力任せに腹部をこじ開けた!
「……よかった」
シートに座った状態で気を失ったリタは、ヘルメットこそ破損しているが出血している様子はない。
脳震盪か何かで失神しただけに見える。
ツヴァンクの腕はコクピットを貫通していたが、彼女のヘルメットを掠めただけのようだ。
『操作を預かりますわ、腹部装甲板解放!』
ぶしゅん、と音がしてザインブルグの腹部ハッチが解放。
それと同時に、右手が優しくリタを掴む。
ベルトを引き千切りながら……俺の前にぐったりしたリタが運ばれて来た。
こっちも全てのベルトをほどいて……リタを受け取り、俺の上に乗せる。
ぐむ、重い……口に出したら殺されるかもな!
『衝撃に気を失っているだけですわよ……レディにすることではありませんが、強制覚醒!』
「あひゃんッ!?」
コクピット内から細い電撃が放たれ、膝の上のリタが跳ねた!
んぎぎぎ、俺まで痺れた……!
「は、はぁ!? あた、アタシなんで……ここどこ!? え!? 下にいるのダレよ~!?」
「ロイドです上等騎手! ご無事で何よりです!!」
「にゃあ!? ロイドぉ!?」
暴れ出したリタにそう言い、素早くベルトを渡す。
「これを! 上等騎手のツヴァンクはもう動けません……このままザインブルグに乗ってください!」
「えっえっ……う、うん! お邪魔します!」
わたわたしているリタが、それでもベルトを掴んだ。
まずは腹、そこから肩を経由して二本目……ぬ? 届いてない?
『ああんも〜う! 長さが足りませんわ! リタさん、あなたちょっとお胸とお尻が大きすぎですことよ!? 本当にエルフの方でして~?』
……ノーコメントだ。
「す、好きで大きくなったわけじゃないわよ~!」
『仕方ありませんわね……ロイドに体を預け、シート側面のバーをしっかり握って!』
キャンキャン言っていたリタがようやく体を預けて来た。
よかった、地味にこの1年で背が伸びてて……ポニテ越しに前がちゃんと見える!
「ハッチ閉鎖!」『あいあいさー!』
腹部装甲板が降りてきて、一瞬後には前方の景色が投影される。
「うわ! なにこれ!? こんな便利なモノがついてたの!? 兜いらないじゃない!!」
『でしてよ! ザインブルグはシグムント王国の最高傑作――龍がこちらを向きますわ! 退避!!』
振り向きつつ、ジャンプ!
ミュゼの言った通り、翼の千切れた龍がこちらを向き始めている!
足元や胴体に群がったヨロイたちをものともせずに……! 俺がよほど憎いらしいな!
「サイド噴射! 退避ッ!!」『ですわ~!』
「ひゃぁッ!?」
膝に乗っているリタが悲鳴を上げるが、ザインブルグの機動はよどみない!
空中で左方向に飛び、龍と目が合う――ブレスが来る!
「ぐぅう……加速、砲!」
『こんなこともあろうかとチャージしていましてよ~! ふぁいえるッ!!』
肩から放たれた魔導弾が、龍の光り始めた口に着弾!
いくつかの歯を砕き、ショートブレスの発射をキャンセルさせた!
「っす、すごいじゃないロイド! やっぱりアンタってば天才だわ!」
リタは声だけで喜んでいるが、体は揺らしていない……さすが、上等騎手! もう慣れたか!
そのまま着地し、横方向へ走りながら右腕のガトリングを斉射する!
「ねえねえロイド! そういえば言ってなかったけど、助けてくれてありがとう! どっかのツヴァンクの腕が飛んできて気を失っちゃったのよ!」
「さっきも言いましたが、無事でなによりですよ! これでちょっとは恩返しができましたか――ねぇッ!!」
俺を追って体を回す龍の背中から、鋭い装甲板が飛んでくる!
近いものをガトリングで迎撃しながら逃げ続けるが――
「俺だけ気にしてていいのか、蜥蜴ェ!!」
その背中に、何機もの鎧が飛び乗った!
先頭を走るのは――ロジン統括騎手の、ドラウツェン!
『ぬぅううあああああああッ!!』
走り込んだ勢いで跳躍したドラウツェンは――龍の首元にハンマーを叩き込んだ!
しばしの拮抗の後に魔導障壁を破壊し、露出していた杭が勢いよく肉に埋まる!
『騎手共! 穿てェ!!』
『『『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』』
続くツヴァンクたちが、手にした剣や槍を打ち込んでいく!
俺を見ていた龍は、たまらず体を犬のように振った!
だが、ヨロイたちは打ち込んだ武器を掴んで踏ん張っている!
「ザマ見ろ蜥蜴ェ! でけえ体が仇になったなァ! はーっはっはっはァ!!」
「やだ、ロイドったら意外と口が悪いのね? いつもはいい子なのに!」
『あら、統計的に野性味あふれる男性はモテましてよ?』
そうなんか!?
いや、そんなことは関係ない!
「龍の注意が逸れた! 肉薄して加速砲をブチ込むぞォ!!」
着地し、前方へ進路変更!
「砲身最大展開! 加速開始――!」
『砲身展開、加速開始、魔導弾、加速中――』
揺れるコクピットで、膝に乗ったリタが何かに気付いたように身を固くした。
ひょっとして、どこか痛い所でもあるのか?
「ね、ねえロイドぉ……アタシ、アタシね? その……そのぉ……汗臭く、ない?」
なんだ、そんなことか!
「大丈夫! 臭いのはお互い様ですよ! 上等騎手!」
「っぴ!?!? お、おおおお馬鹿! そういう時は嘘でもいい匂いって言いなさいよ~!!」
……そうなのか。
「あ~……とってもいい匂いですよ!」
「もう無駄なのよ~! んも~! ロイドの唐変木! 特殊性癖! お馬鹿! 朴念仁~!!」
も、申し訳ない……でも2人とも汗だくだから……
そんなことを言いながらも、ザインブルグは駆けていく。
背中のヨロイたちを何とかしようとしている……体の下へ!
走り込んで跳び、スライディング気味に――マウントした砲身を、上方向に!!
『加速完了! いつでもいけましてよ~!』
「超至近距離で最大出力を喰らえデカブツ! ――撃てェ!!!!」
龍の巨大な体の影になっている周囲に、光が満ちる。
最大展開された砲身から発射された魔導弾が――龍の障壁と接触!
螺旋回転する魔導弾が障壁を――砕いて、胸の中心に着弾!
周辺の組織を巻き込んで、盛大に炸裂した!
「頭部ならびに両腕部魔導機銃――全力斉射ッ!!」
『ついでにミサイルも! でしてよ~!!』
ザインブルグの保有する内蔵火器の殆どが即座に火を噴き、障壁が再展開する前の龍へ突き刺さっていく!
皮膚には穴が開き、装甲が散らばり、滝のようにこちらへ体液が降り注ぐ!
「ぐ、ぬぅう……!」
減っていく魔力を意識しながら、右腕のガトリングを停止して腰のランスを手に取る。
「ロイド! アンタ魔力が――」
「大、丈夫! ランス! ブースト――オンッ!!」
注ぎ込まれた魔力でランスが回転を始め、甲高い駆動音が響き始める……!
持っていられないほどの魔力を叩き込んだそれを――
「――持ってけェ!!」
全力でぶん投げる!
『離脱推奨ッ! 龍が体を下げようとしていますわ!』
ランスの穂先が火花を散らして胸にめり込むのを横目で確認して――立ち上がってダッシュ!
『リタさん! 籠手に両手を置きなさいな! こちらに魔力を分けてくださいませ~!』
「分かったわ! ぬぐぐ……ふんにゅ~!!」
「うわ、なんっじゃ……こりゃぁ!?」
籠手を伝わって、膨大な魔力が流れ込むのを感じる!
こ、こんな……さすが、上等騎手の、エルフ!!
人間とは魔力量が段違いだ!!
「――全力、噴射ァッ!!」
『追加加速術式起動! リタさんの魔力はそちらへ回しますわ!』
「んにゅむ~!?」
ぐぅん、とリタが俺に押し付けられる。
さっきまでと、段違いの加速……! 後付けで加速性能って上げられるんだ……!
あっという間に龍の下から飛び出たザインブルグは、勢い余ってかなり遠くまで飛んで行ってしまう。
『あーっと! 後方で盛大な悲鳴! 龍さんったらランスを自分で胸に押し込んでしまいましたわね~! おっ馬鹿さんですわ~!』
ミュゼが楽しそうで何より、だよ!
「ロイド! 前方にエキドナ聖騎手のヨロイよ!」
何!? そこまで吹っ飛んで……違う! リントブルムが突出してきてる!? 何故!?
『アタイを跳び越えなボウヤ! 前に出るよォ!!』
「聖騎手! なんでこっちに――」
『駐屯地のアゴルムは内部に下げた! バリスタも岩も効きゃしないからね! だからこの子で前線の壁になるんだよ! 早くしなァ!!』
「了解ッ!!」「わうっ!?」
地面を踏んで、跳躍!
そのまま、こちらへ走ってくるリントブルムの背後へ!
『エキドナおねえさま! 龍が倒れながらこちらに頭を向けましてよ! ブレスが来ますわッ!!』
おねえさま!?
お前なんだその呼び方……まあいいか!
『はっはぁ! 望むところってヤツさァ!!』
着地して振り向く――龍の口が開いて、光っている!
この距離じゃ妨害は無理だな! だが――
『行くよォ、リントブルム! 『大樹の大盾』ッ!!』
『御意、エキドナ』
リントブルムが両腕に持っている盾を――左右で合体させる。
そうすると、ただでさえ巨大な盾が完全にリントブルムを覆い隠した!
「――KKKKKKKKTTTBBBBBBBBBRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
こっちからは陰で見えないが――咆哮と共に凄まじい魔力放射の気配!
これは――ショートブレス!
『あははァ! コイツは……素敵、だねェ!!』
『魔導干渉波、問題なく稼働中。収束まで推定4セクタ』
盾に命中したブレスが……散るでもなく、弾かれるでもなく、盾に『吸収』されていく!
知識としては知っているが、こうして見ると圧巻の光景だ!
リントブルムの構える大盾のスリットが、吸収した魔力の光で光り出している――
『こちらエキドナ! 龍に乗ってる騎手は全員退避しなァ! デカイの、ぶちかますよォ!!』
リントブルムが『本契約』によって使用できるようになった機能。
原作においては、後半にやっと日の目を見る、その能力。
『圧力上昇、収束実行中……魔導反転回路、正常稼働中……』
無機質なリントブルムの声が響く。
『発射可能域――最終安全装置、解除。撃てます、エキドナ』
『皆退いたね! 行くよォ……!!』
それは……大盾に吸収した魔力に、超高密度の圧力をかけて敵に『撃ち返す』能力だ!!
『――『ファウータ・ヴァルガリオ』ッ!!!!』
シグムント王国語で『応報の咆哮』を意味する……カウンター魔導兵器である。




