第50話 死闘。(帝歴1000年、12月31日)
『ここで噴射、でしてよ~!』
迫る地表寸前で、噴射機構が作動。
シートに押し付けられる感触に眉を顰めつつ――着地。
ガリガリと地面を抉りながら、ザインブルグは大地に帰還した。
『よくやった二等騎手! アゴルム隊! 龍が落下するぞ……射程に入り次第撃ちまくれ!!』
バルクハルクが号令を出す。
片方の翼膜を失った龍が、若干バランスを崩しながら着陸。
大地が震え、めくれ上がり……土煙が盛大に上がった!
その土煙が収まるのを待たず、中央駐屯地の外壁上に展開したアゴルム隊がバリスタや投石機を使用。
バカでかい龍の全身に向けて、鈍く光るボルトや岩がどんどん叩き込まれていく!
『総員ッ! 突撃ィ! ヤツに駐屯地を攻撃させるな!!』
『『『ラーグ・ヴァラール!!!!』』』
バルクハルク聖騎手を先頭に、平原に展開したヨロイたちが走り出す。
総勢300機以上の突撃だ……地面が揺れる!
俺は着地した場所の関係で一番遠くになっちまった。
ミュゼ! 龍の体勢を皆に教えてやってくれよ! 土煙越しでもわかるだろ!?
『精霊使いが荒い騎手サマですこと……皆様ぁ~! 頭が正面を向いていましてよ! 左右に散開なさって! ショートブレス……範囲の狭い息吹が来ますわ!!』
ミュゼの通信に、走るヨロイたちが一斉に左右に分かれた!
ツヴァンク以上のヨロイしかいないから、機動性は抜群!
――土煙が内部から吹き飛び、一条のブレスが地表を薙ぐ。
だが、そこには地面しかない!
『次! 向かって左側に首を振っていましてよ!』
『右の野郎どもォ! 『ルプレーナ』撃てッ!!』
タロッグ聖騎手の号令。
ほぼ同時に、龍へ向かって走るヨロイたちがそのまま『ルプレーナ』を発射。
土煙の中に吸い込まれる魔弾が、たまに変な角度で上空へ飛ばされている……やっぱバリアは抜けんか!
『今度は右でしてよ~!』
『こっちで撃ちなさい! 駐屯地! そちらも変わらずありったけ撃ちなさい!!』
ハラルド聖騎手の号令。
左側のヨロイはさらに散開し、今度は右側から魔弾が飛ぶ。
ああやって龍にちょっかいをかけ続け、飛ぶのもキャンセルさせる!
ミュゼ! アイツはまだ飛べるか!?
『翼膜が破れた程度では、効率が悪いだけで飛行は可能でしてよ! 最低、どちらかの翼を破壊する必要がありましてよ!』
やりがいがある仕事だなあ!
「行くぜ相棒ツ! 突撃だ!」
さっきの感じで、奴のバリア強度はわかった!
あれを突破して……翼を、貰う!
飛ばれたら逃げられる……ここで、アイツを! 龍を! 殺す!!
「間違いなくアイツが『プロローグ』のメインディッシュだ! 俺達の未来の為に突っ込むぜェ!!」
『あいあいさー、でしてよ!』
一瞬目を閉じる。
自分とザインブルグが重なり合うようにイメージして……スタート!
地面を削り飛ばし、一気にトップスピードへ!
『くったばれ蜥蜴野郎ァ!』
『いくら固くっても! 死ぬまでぶん殴ってやらァ!!』
『一番槍は俺が貰ったァ!!』
晴れつつある土煙の中、ヨロイたちが武器を手に突撃していく。
『回り込め! 一方向に固まるな! 足だ! 足を狙えッ!!』
前方の最前列に、バルクハルク聖騎手のグラーフオウガがいる。
身の丈を超える大剣を肩にかつぎ、噴射機構を使用しての突撃だ……速い!
さすがにアレでぶん殴られたら龍だって――
『いけない! 龍が身をかがめましたわ! 尻尾の薙ぎ払いが来ま――』
ぶおん、という轟音。
土煙から一瞬見えたのは……棘状の装甲に覆われた、尻尾。
残像すら見える速度で振るわれたそれは――何十機かのヨロイを巻き込んだ。
『がっぁ!?』
『畜生! アサドがやられた!!』
『腕が! 根元から……! 化け物めェ!!』
音速に迫る程の速度で振るわれた尻尾の一撃は、ヨロイの装甲板を抉り、圧壊させ……上半身を吹き飛ばされたものもいる。
『あ、あぁ……』
『駄目だ止まるな! もう一度来るぞ――』
再び轟音。
振るわれた尻尾が、同じ軌跡で逆再生のように返ってきた。
金属が弾ける音が重なり合って、いくつも聞こえた。
『皆様ぁ! 高く跳ぶか地に伏せなさい! 受け止めるのは不可能でしてよ!』
ミュゼの声が響く中、三度目の尻尾。
今度は先程までより被害に遭うヨロイは少なかった。
「畜生……! 出鱈目な、膂力、しくさり、やがって……!」
最高速で走るが、まだ遠い。
揺れるコクピットで歯を噛む。
「――KKKKKSSSSSSHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」
土煙が完全に晴れた。
そこから現れた龍が、両前足を揃えて天に向かって咆哮している。
その咆哮に乗せられた魔力が、津波のようにこちらへ叩きつけられている。
『外部からの魔力放射で、駆動系が阻害されているヨロイがありますわ! このままでは――』
そこかしこに、ガクガクしながら棒立ちのままのヨロイが見える。
ツヴァンクは高級機だが、この場にいるヨロイの中では最もそれに対する防御が低い。
普通の魔物はこんなことしてこないしな!
「――噴射機構、最大出力! 斜め上ッ!!」
叫んで、慣性に歯を食いしばって耐える。
上空へ打ち出されたザインブルグに、吠えた龍が頭を向ける――見たなァ、こっちを!!
『お馬鹿! これでは的に――』
「胸部、凝集、光砲――! 急速充填ッ!!」
『っち、博打好きな我が騎手ですこと! んもう!』
ミュゼの声と一緒に、一気に吸い出された魔力に頭がふらつく……だが、吠える『動力体』の音に自分を奮い立たせる。
『ブレス、来ますわよ!』「――撃、てェッッッ!!」
龍が吐き出すブレス。
それに――胸部から放たれる一条のビームが激突。
接触したブレスとビームが、一瞬拮抗し――甲高い音を立てて破裂! 周辺に魔力が四散した!!
覚えててよかった、原作要素……!!
『異なる魔力による干渉現象……心臓に悪いですので二度とおやりにならないで! ロイド!』
「お前心臓ねえだろ相棒! このまま直進! 回避動作、頼む!!」
『んも~! この騎手ったら! この騎手ったらぁ~!』
噴射機構が吠え、シートに体が沈む。
連射だ、効くかどうかじゃない。
地上を撃たれないように……連射で俺に、注意を惹き付けるんだ!!
「両腕部装甲板展開! ばら撒くッ!!」
『よっ! ほっ! はいはいっ!!』
放たれるショートブレスを、ミュゼに任せた噴射機構の連射で避ける。
避けながら、揺れ動く視界の中で必死にレティクルを追う!
「――ダメージがなくっても、目は嫌だろう! 喰らえッ!!」
両腕部の三連ガトリングを小刻みに連射! 連射連射!!
飛んで行く魔弾が、龍の顔面付近に着弾を繰り返す!
全てバリアに弾かれているが、龍はコバエでも払うように顔を振っている――馬鹿が!
「所詮はでかい、ケダモノぉ!!」
『――ぬぅうううううおおおおおおおぁああああああッ!!』
俺のちょっかいを嫌がっている間に、バルクハルクのグラーフオウガが走る。
噴射機構をフルに使用し、ツヴァンクの倍以上の速度で肉薄! そして――
『でいいいいいいいいやッ!!』
余剰魔力が漏れる大剣を、踏み込んだ勢いを乗せて――龍の前足に叩き込んだ!
一瞬拮抗したバリアを砕き、人間で言えば手首周辺の装甲を叩き割り――剣が、肉に埋まる!!
「――IIIIIIGGYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?!?」
龍が痛みによる悲鳴を上げ、めり込んだ大剣の隙間から体液が迸った!
『騎手共! 怯むな! 帝国の尖兵たるは今、この時ぞ! 進めェ! 勝利を! 帝国にッ!!』
『『『オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』』』
通信が震える。
俺に気を取られている間に接近したツヴァンクが、ドラウツェンが、そしてアリシアたちのウォードロンが、龍の手足に一斉に獲物を突き刺している!
「今だ相棒! 翼を、捥ぎ取る!!」
『ごー! でしてよ~!!』
背面から蹴り付けられるような衝撃。
ザインブルグに搭載された全ての噴射機構が、省エネなんか二の次で吠えた。
あっという間に、龍の眼前に!
「ハッ! マルチタスクもロクにできねえのか! ケダモノォ!!」
手足に群がったヨロイのどれを攻撃するか逡巡している龍。
その長い首に蹴りを叩き込み、背中方面へ跳ぶ!
「ぬぅううう……!!」
腰から引き抜いた『リュンゼル』に意識を集中。
叩き込む、俺の魔力を……刃にして!!
棘だらけの背中に着地。
すぐさま蹴りつけて、再度跳ぶ!
『背後! こちらを首が向いておりましてよ!』
「構うか! 自分の体にブレスが撃てるなら撃ってみろってんだァ!!」
一歩、二歩、そして――ジャンプ!
見えた! 俺が破った翼膜のある翼!!
「――今度こそ、貰う、ぜぇッ!!」
視界の隅で、『リュンゼル』に蒼い魔力の刀身が出現。
「オォオォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
走り込んだ勢いを乗せ、翼の根元へ横薙ぎの斬撃を――叩き、つけるッ!!
障壁と衝突した刃が、魔力を干渉させて火花を散らす――砕いた! 障壁を!!
丸太めいた太さの翼に、刃が突き立って――するりと、斬れていく!
『刃が入っちまえばこっちのもんですの! 切断倍化術式起動! 切れ味を倍々ゲームでっすわ~!!』
うぅあ!? お前何した!? 魔力がゴリっと消えたぞ!?
だが、これなら……いけ、るッ!!
視界が明滅するくらいの魔力を……魔力を!!
ありったけのぉ! 魔力をッ!!
「――切り落とせェ! ザインブルグぅうううううううッ!!」
『動力体』が輝き、魔力が吠え、空気が震える。
そして――あっけないほど簡単に、龍の片翼は根元から切り裂かれた。
水道管でも爆発したみたいに、こちらの全身に血液が降りかかる!
「――GGGGGGGGGGGYYIIUYYWEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!?!?!?」
悲鳴を上げる龍の背を蹴り、空中へ。
そのまま、ケツの方向に飛び出して――着地ッ!
『皆様ぁ~! わたくしの忠実な騎手がやりましたわ~! これでこの蜥蜴野郎は飛べませんことよ~!!』
『『『ウゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』』』
喜ぶミュゼと騎手たちの声を聞きながら、周囲を確認。
っち、そこら中に半壊したヨロイが……!
破壊されたヨロイのパーツが飛んできて二次被害を起こしたようなのもあるな。
あっちのツヴァンクなんか、同じツヴァンクの腕が胸部にめり込んで……めり……あの、肩の数字は!?
『5番隊』の『4番機』……リタ!?
「――リタ! リタ上等騎手ッ!?」
まさか……アンタが、こんなところで!?




