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第49話 空を舞う『死』 (帝歴1000年、12月31日)

 黒い点は、あっという間に大きくなった。

まだ明るい空に……瞬く間に輪郭がよく見えてくる。


 そいつは、1対の馬鹿デッカイ翼を生やしていた。

体色は黒光りしていて、体中が太陽光を反射している。

まだ遠いが、その全長は10メートルを超え……20メートルに迫っているだろう。

文句なしの『大型』、いや『超大型』だ。


『速い……デカイ……!』


 誰かが漏らした言葉が、通信に乗る。


「来るぞ、ミュゼ……『完全起動』!」


『かしこまりましてよ!』


 『動力体』が低く吠え、五感が拡張される。


「っへ、まだ1キロはあるってのに……なんて魔力の圧だよ」


 風も、衝撃もない。

ザインブルグに叩きつけられるのは、純粋な魔力だ。

それが、装甲板をビリビリと震わせている。


『各員散開! 決して集団を作るなッ! 奴に的を絞らせるな!!』


 バルクハルク聖騎手のグラーフオウガが、そう言って背中に懸架された長大な大剣を引き抜く。


『『ルプレーナ』持ちは距離を取って牽制! それ以外は無理するんじゃねえぞ!』


『一撃でどうこう……などと考えてはいけません! 各自、安全策を取りながら攻撃を!!』


 タロッグ聖騎手は戦斧を、ハラルド聖騎手は盾と馬上槍をそれぞれ構える。

そして、周囲に展開しているヨロイたちも得物を一斉に構えて移動を開始した。


「突っ込むぜミュゼ……この中じゃあ、一番機動力が高いのは俺達だ! 味方を射線に入れるわけにはいかねえ!」


『ええ、火器管制はお任せになって!』


 さっき水を飲んだのに、口の中がカラカラだ。

頭はぼうっとして、どこか他人事のように世界を俯瞰している。


 あれが……『龍』!

魔物の中でも、上位に位置する魔物!

人類の絶対敵!


 そして……!

拡大された視界に見える、乱杭歯を生やした好戦的な顔!

その顔には……!


「こう言えばいいのか? ……『我が父の仇』ってよ!!」


 右目の部分に、深い傷があって潰れている。

間違いない、アレは……親父殿がつけた、最後の傷!


 ハッキリと全身を見渡せるような距離に来て、龍が大きく口を開けた!

鋭い乱杭歯がギラリと光る!



「――KKKKKYYYAYAYAYAYAAAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」



 この世界に転生して、一度も聞いたことがない声。

本能的に恐怖を呼び起こす、咆哮。

魔力の圧が一層強くなり、籠手内部の掌に冷たい汗がにじむ。


 すう、と息を吸い込む。

肺に酸素を行きわたらせ、吐きながら――叫ぶ!



「――雄ォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」



 背後の『動力体』が光り、俺の意思を乗せたザインブルグが――地面を、蹴った!!



・・☆・・



『龍に魔力集中! 臓腑で圧縮開始しましてよ!』


 跳ぶように、駆ける。

平原は最高速で視界を動き、龍との距離があっという間に縮んでいく!

奴は、滑空の姿勢で悠々と飛んでいる。


『皆様ぁ! ブレスの準備段階でしてよ! お気をつけなさって!』


 ミュゼの全体通信を聞きつつ、いまだ上空の龍を睨む。

空中からブレスを薙ぐつもりだな! そうは――させるか!


「降りてこいや蜥蜴野郎! 魔導加速砲、急速充填ッ!!」


 体から魔力が持っていかれ、背中の加速砲が唸り始める。


「速射短銃身モードだ! ミュゼ!」


『射程距離が短いですわよ!』


「構うか! あんなでけえ的――外すかよォ!」


 最大展開せずに、加速砲を固定。

加速砲の短銃身モードは射程が短く、威力も落ちるが――チャージも、短い!


『砲身内、正常加速中……反応臨界! 撃てましてよ!』


「胴体のどっかに当たりゃいい! 撃ッ……てェ!!」


 加速した勢いで跳躍。

ちょうどそこの頂点で、加速砲は放たれた。


「――NNNNYYAAAAAOAAAAAAA!?!?」


 上空から悲鳴!


『着弾確認! 胴体の一部を抉りながら抜けましたわ! 魔導反応、霧散! ブレスの中止を確認しましてよ!』


「よぉおし! まずは地面に誘導する――ミサイル! ロックした端から撃ちまくれ!!」


 両腰からミサイルが一気に射出。

光りの尾を引きながら、俺の斜め上でブレーキをした龍へ殺到していく!


「地面にいてもらわんと話にならん……バルクハルク聖騎手! 駐屯地へ指示お願いします!」


 後半を全域通信に切り替え、言う。


「『俺がアイツを地面に叩き落とす、奴が落ちたら撃ちまくれ、その時に俺がいても気にするな』と!」


『馬鹿な! 味方の射撃が当たるぞ!?』


 珍しく動揺した声が聞こえる。


「大丈夫です! バリスタより――コイツの方が速いッ!!」


『んまぁ! うっふふ! うふふ!』


 またジャンプ。

断続的に放たれているミサイルに追随して跳ぶ。


「噴射機構、最大出力! 上空へ!!」


『了解、ですわ!!』


 重力が消えたと感じた瞬間、上からの圧力が俺をシートに押し付ける!


「ぬぅう、ぐ、ぐぅううううあッ!!」


『吶喊しましてよ! 回避行動はわたくしにお任せを!』


 戦闘機の先端に少し似た、流線形の頭部。

着弾し続けるミサイルの爆炎の隙間から、『俺』を睨む大きな目が見えた!

そして――魔力反応ッ!


「躱せェッ!!」『あいあい!』


 体がシートの右側に押し付けられる。

その瞬間、さっきまでザインブルグがいた場所を赤黒い魔力の帯が通過した!

っちい! 肩アーマーが掠った!


『速射ブレスですの! いくらザインブルグでも耐えられる限界がありますわ! 被弾は極力お控えなさって!』


 『個体』用のブレスか!

当たりたくねえな……!


「できれば、なァ! このまま首の横をすり抜ける!」


 再度魔力が噴射され、重力が消える。

腰から『リュンゼル』を引き抜き、右手に握らせる――魔力は、まだ流さない!


「TTTMMMMKKKKKKKKKOOOOYROOOOOOOOOOOOOO!!」


 吠えるその口を掠めながら、後方へ抜ける――瞬間に!


「喰らえこの蜥蜴野郎ォ!!」


 『リュンゼル』を起動!

首元の皮膚を斬り――裂け、ないっ!?

魔力の刃が虚空で弾かれた!

今の、感触は――!


『魔導障壁! 今までの魔物たちの中でも一番の強度ですわ!』


「対処方法は!?」


『龍を疲弊させて解除させるか、許容量を超える大魔力で一気に破壊すること――下方から攻撃! 回避ですわ~!!』


「ぐむぅ!?」


 噴射機構が強く、小刻みに起動。

ザインブルグが空中で何度も動き、『何か』を躱す。

なんだアレ――尖った装甲板……いや、鱗!?

龍ってこんなミサイルみたいな攻撃方法、持ってたっけ!?

原作で見たことねえぞ!!


『はーん! 誘導機能もない鱗飛ばし如きで、ミサイルを名乗れる程甘くはなくってよ~!』


「ぐぎぃい……!!」


 強制的に三次元的機動で飛び回りつつ、鱗を躱す。

鍛えてたからギリギリ耐えられるが、ジェット戦闘機のコクピットにぶち込まれた気分だ!

飯食う前でよかった!!


『ぺいばっくたぁいむ! ですわ~! ふぉっくすとぅー! ふぉっくすとぅでしてよ~!!』


 必死で耐える俺をよそに、ミュゼは心から楽しそうにミサイルを全弾発射!

それは、龍の背中に突き刺さって爆炎を発生させている――!


「見、えた!」


 グルグル回る視界に映る――翼!

『リュンゼル』を腰に戻し、後ろ腰に懸架されたランスを掴んで――!


「噴射機構! 全力ッ!!」『あいこぴー!』


 一気に、そこへ跳ぶ。

狙いは、付け根……ではなく!


「翼膜、貰ったァ!!」


 右腕を固定。

握りしめたランスに……魔力を! 全力で流す!!


「ランス――ブーストオンッ! 回転、開始ィ!!」


 ランスが吠え、石突からの噴射でザインブルグはさらに加速!

そして――



「――チャァアアアアアアアアアアアジッ!!」



 残像すら見える速度で高速回転するドリルランスを、龍の右翼にある翼膜へ。

その手前で、穂先が虚空に食い込んで火花を散らす――!


「斉射ァアアアアアアアアアアアッ!!」


 唸る右腕三連魔導機銃。

ランスが激突している虚空にいくつも火花が生じ、その度にジリジリとランスが進む。


『駄目押し、ですわ~ッ!!』


 同時に、ミュゼが操作した加速砲が短銃身のまま発射!

着弾の瞬間『ばきん』、という硬質的な音が鳴って――



「――抉れろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」



 魔力をギリギリまで消費しながら、ランスを抱えたザインブルグは――龍の翼膜を貫通した。

青みがかった血液が散らばる中、浮遊感が襲ってくる。


『魔導剣から『供給』開始! 噴射機構はそちらがお使いになって!』


「了ォ、解ッ!!」


 魔力切れの倦怠感が少しずつ改善される中……噴射機構でブレーキ。

自由落下の勢いを殺しつつ、空中で振り向く。


「そうだ! お前の相手は俺だ! 蜥蜴野郎ォ!」


 翼膜から大出血しつつ、高度を落とす龍。

その首は後ろに曲げられ、一つしかない目は真っ直ぐザインブルグを睨んでいた。


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黒竜だったか…勝手に赤竜だと思ってた。 てこんなバケモンの目潰すとかどうやったんだ親父殿!? 魔導バリアどうやって破壊したん?
手に汗握る大激戦……! 果たしてこの勝負の行く末や如何に!?
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