第47話 膠着状況。(帝歴1000年、12月)
中央駐屯地が要塞として本格的に運営されるようになって、2日。
気付けば、年末がすぐそこまで迫っている。
「これでよし、っと」
俺は今日もザインブルグを駆って……戦場の死体拾いだ。
『くっせえですわ~、きったねえですわぁ~』
お前鼻とかないだろ……
ともあれ、初日から魔物の群れの撃退には成功し続けている。
初日は500匹、その次は600……って具合に数が増えているようだが、今の所問題はない。
『よーし! 運ぶぞ!』
駆動音を響かせ、『ランゲッタ』が中央駐屯地へと戻っていく。
連結されたその荷台には、魔物由来の素材……革や内臓が満載だ。
散々言ってきたが、魔物の素材は便利なモノの材料になる。
中央駐屯地はそれ専用の大規模な加工施設もあるので、内部で加工をすることになる。
『飯も備蓄がある、水も地下からいくらでも湧く、挙句の果てに『動力体』や諸々の材料は攻めてくる……なんとも、妙な籠城戦だよなあ?』
隣で作業をしていた、サイム二等騎手のアゴルムからの通信。
「そうですね……備蓄ってどれくらいでしたっけ、二等騎手」
『保存食だけでもおおよそ6カ月分ってとこだとよ……あのハゲ野郎、どんだけ『抜いて』やがったんだか……ま、今回はその業突く張り振りに助けられたんだがよ』
ハゲがどっかに売っ払う前でよかったな……
「まあ、聖騎手らしからぬ間抜けで救われました……古代魔法具までそこら辺に死蔵してるんですからね」
『へっへへ、お前も言うねえ……ま、そっちはそもそも捌けなかったんだろ。『出土品』の売買はそりゃあ厳しい制約があるからよ……国内でもそうなのに、国外に売ろうとした日にゃあ……いつの間にか首がゴロン、ってことにならぁ』
帝国製のヨロイの時点で戦略兵器みたいなモンだからな……
古式ヨロイの武器なんて、仮想敵国に渡ったら大変だぜ……
っと、仮想敵国と言えば……
「南が騒がしいの、どうなりましたかね?」
『ああ、『ログン諸王連合』な。変わらずだってよ……アイツらが大人しくしてりゃあ、援軍もすぐに派遣してくれるんだろうがな……』
『ログン諸王連合』
ラギアギア帝国から南西の方角に位置する、『王が複数いる』変な国だ。
部族の集合国をもっとスケールアップさせたような国で、年中国内で揉めているわけのわからん国である。
帝国とは過去、国境線を巡って何度もドンパチを繰り広げている。
この『プロローグ』を引き起こしたのもあの国じゃないか……って噂がファンの間であったが、公式には明言されていない。
そもそも、あの国にそんな技術があるなんて話も原作には最後まで出てこない。
この時間軸では恐らく……何度目かの内戦の真っ最中だろう。
だが、そうだとわかるのは原作を知っている俺だけで……帝国からしたら、国境に軍を張り付けておかざるを得ない。
あの国が問題になるのは、プロローグが終わってからだ。
今考えてもしょうがない……俺が皇帝陛下にでも転生してたんなら話は別なんだがなあ。
神ならぬ皇帝ならぬ一兵卒の俺からしたら、何のアクションも起こせんよ。
自分のことで精一杯だ。
『すまんなあロイドよ。諸々片が付いたら、帝都のいい店で『卒業』させてやっからな……』
あ、その約束をまだ考えてくれてたのか。
「いえ二等騎手、お気に……いえ、そうですね……楽しみにしてますよ!」
『お、いい返事だ! そんなら童貞のまま死ぬんじゃねえぞ、ロイド! ミュゼちゃんよ、頼むぜ~?』
『性交渉の有無で人間の価値は変わらないとは思いますが……まあ、よろしくしてもよくってよ?』
ミュゼ、すっかり5番隊に馴染んだなあ……
待機中に整備兵と話したりしてるし、一種のアイドルなのかもしれん。
口調はともかく、声は綺麗でかわいいからな。
『ふっふん! この音声はシグムント王国時代の高名な歌姫のものをモデルにしているらしいですわ? とてもお美しいお方だったとか……んふふ、いつかお歌でも覚えましょうか?』
この騒動が終わったら一曲歌ってもらおうかな。
俺の記憶でも読んで覚えといてくれや。
『ふっふふ、気が向いたらやっておきますわ~?』
楽しみにしておこう、先に希望を見出すのは生き残るコツだろうしな。
・・☆・・
「今度は700近かったってよ」
「増えるなあ……日に日に」
「でも堀も抜かれてねえし、むしろ実入りがいいぜ?」
「ああ、古式魔法具のお陰で矢玉もそんなに減ってねえしな」
格納庫。
汚れたザインブルグを掃除し終え、その足元に毛布を敷いて寝転んでいる。
まだ迎撃はそれぞれの駐屯地で回せているので、一度出撃を終えると休む時間はある。
南駐屯地にいた時ほど寛げてはいないがな。
そして目を閉じ、周囲の雑談を聞くともなしに聞いている。
……なあ、ミュゼ。
『なんですの~?』
……なんかこう、違和感があるんだ。
お前も俺経由で『原作』知ってるよな?
それによると、この西方辺境領の騎手の『8割』が死亡ないし未帰還……って話だったよな?
『ええ、原作とやらの通りなら……その後、この帝国はしばらく騎手不足に苦しみますわね』
騎手は、育てるのに金も時間もかかる。
それに加えて、プロローグでは少なくない数のヨロイも破壊された。
でさあ……少なくないか、現状の被害。
『と、言いますと?』
今、この駐屯地にいるのは西方辺境領の全騎手だ。
全部で何人だったっけ?
『704名、本日の戦闘で外壁から滑落した準騎手1名が重傷で脱落したので703名でしてよ?』
そんなアホいたんか……まあいい、約700名の騎手が現状いる。
んで、もうすぐ年が変わる……
『プロローグ』では帝歴1000年の12月下旬から、帝歴1001年の1月上旬までの間に……西方辺境領が滅んだということになってる。
……このままの状況が1月上旬まで続いたら、それくらい損耗するか?
『いいえ、ざっと試算しましたが……本日の倍、1400匹どころか2000匹の魔物が攻めてきても、現状で十分に対応できましてよ? 魔物は戦術的な思考がほぼ存在しませんので、ただまっすぐに駐屯地を目指し……罠と毒と遠距離攻撃によって屠れますわ』
だよなあ?
おかしいだろ、こっからマックス8割……560人の騎手が消えてなくなるような規模じゃないぞ。
非戦闘員の撤退が完了して、こうして盤石な籠城体制が整ったのに……何故だ?
『やはり原作とこの世界は違うか、ロイドの起こした『ばたふらいえふぇくと』のせいではありませんの?』
……前者は今考えてもしょうがないから無視するとして、だ。
俺の存在が与えた影響は、精々南駐屯地だけだろ。
古式ヨロイ3体分の戦力はそりゃあ凄いが、大局に影響するほどじゃない。
ここで『ルプレーナ』を見つけたのと、エキドナの『リントブルム』を『起こした』のも……だ。
西駐屯地の騎手たちも半分とはいえ無事だし、ここは原作とそう変わらんはずだろう?
北駐屯地もだ。
中央のハゲは……いや、アイツは俺がいなくても同じ目に遭ってた気はする。
……と、なるとだ。
この先に『何かが』起こる可能性はある。
560名の騎手を失う、『何かが』な。
『んまあ、心配性ですわね。あまりしないでもいい心配をするとハゲますのよ?』
それは俗説だろ! 俺はそうなったら全部潔く剃り落とすわ!
……まあ、でも一応警戒はしておいてくれ。
『仕方がありませんわね……他ならぬロイドからのお願いですもの』
悪いね、相棒。
……ちょっと腹が減ってきたな。
飯の時間はまだみたいだし、煙草でも喫って黒茶を飲むかね……
「――ヒッ!?」
目を開けると、顔面をリタが覗き込んでいた。
その後ろにはアリシアがいる……心臓止まるかと思った……
「あ、起きた。なんか難しい顔で唸ってるから添い寝でもしたげようと思ったのに~」
「あ、あはは……ロイド、悪夢でも見たの? 冷えた黒茶あるよ」
おお、そいつはありがたいな……
「あとさ、なんでアタシ見て悲鳴あげるのよ~?」
「……だ、だってそりゃあ、起きて目の前に物凄い美人がいたら悲鳴くらい上げますよ」
一瞬でリタの目がジト目からキラキラに!
「あら~! ロイドったらもう! もう~!」
そのまま、スキップしながらテーブルへ行ってお茶の準備をしている。
……すんげえ揺れてる……!
「……ロイドって、おっぱい好きだよね」
「未だかつて嫌いな奴を見たことがない」
今度はアリシアがジト目に……何故だ!
『胸部についたただの脂肪の塊でしてよ~?』
ミュゼの声を聞き流しながら、むくりと身を起こす俺だった。
・・☆・・
『おーぷんふぁいあ! おーぷんふぁいあですのよ~!』
ミサイルが空を切り裂き、四方八方に飛んでいく。
ミュゼの操作によって、百発百中の魔弾と化したそれは――今まさにこちらへ突撃してきた、『大鷲』の翼を的確に吹き飛ばしていく!
「ギィイガア!?」「ギャッギャ!?」「ギュビィイイイ!?」
翼から鮮血を迸らせ、奴らは重力に引かれて落ちていく。
そして、地表で鈍く水分を多く含んだ破裂音を上げ続けている。
俺達を狙うために高く飛び過ぎたのが仇になったな!
『よっし! 当たった当たった! やっぱりアタシ、これ弓より得意かも~!』
駐屯地の外壁上、俺の横に陣取ったリタのツヴァンクが『ルプレーナ』を乱射。
片膝をついた射撃体勢で、近い大鷲を順に撃っている。
ザインブルグの魔導機銃よりも威力は低いが、翼か顔面に的確に命中しているな……エルフってだけで射撃にブーストがかかるのかもしれん!
『使いやすい……さすが、シグムント王国の遺物ね!』
今回の俺達を率いているユーリのドラウツェンもまた、『ルプレーナ』を問題なく使いこなしている。
銃っていう馴染みのない武器だってのに、研究者は頭が柔らかいのかもしれんな!
『第三波壊滅! でしてよ~!』
「了解、地上の掃討に移る……右腕三連ガトリング、回転開始!」
唸る右腕ガトリングが、地表で死にきれずにもがいている大鷲共を蹂躙していく。
空を飛ぶために軽くなっているのか、面白いように魔弾が貫通していくな……
『長が来るよ! アナンタさん、合わせて!』
『りょーかい! ミュゼちゃんの言ってた十字砲火ってやつね! うらうら~!!』
配下が全滅しても、長が突っ込んでくる。
しかしその突撃は、アリシアとアナンタのウォードロンが放つ魔弾によってほぼ同時に顔面を撃たれた。
連続する着弾に、展開していた結界が壊れて――あとはもう、空中でハチの巣だ。
『それで最後ね……警戒態勢を維持! 気を抜かない!』
『『『了解ッ!』』』
本日の敵、『大鷲』の大編隊を処理した。
以前の南駐屯地なら大苦戦したんだろうが、今や装甲が薄い空の敵はオヤツまである。
いやあ、今日の戦闘も楽だった……数だけは多いが。
……やっぱり、このペースなら魔物がどれだけ増えても損害は軽微だ。
一度の襲撃に対し、約200名の騎手、つまり約200機のヨロイが出動する。
しかもそのうち4分の1は遠距離攻撃を切れ目なく放つことができるし、バリスタは携帯用もある。
設置型のバリスタも投石機もある……
楽勝なのはいいが……なんというか、やはり漠然とした不安があるなあ……
『――む』
どうしたミュゼ。
『いえ、かなりの遠距離で何か……むう、消えましてよ。機器の誤作動にしては少し……むむむ』
最後の最後に嫌な事言うなよ……




