第46話 防衛体制と、新武装。(帝歴1000年、12月)
『はぁあ~……何故わたくしがこのような雑事などを……』
「大事なことだからしゃーないだろ。ザインブルグの出力なら並のヨロイの何十体分も働けるんだからさ。頼りにしてますよ、相棒」
『んまぁ~? しょうがありませんわねぇ~? ロイドったらわたくしがいないと何もできませんものね~?』
「……はいはい、そうですよ」
チョロすぎて心配になるミュゼのボヤキに答えつつ、ザインブルグを動かす。
振り下ろしたシャベルが地面に突き刺さり、土を大きく抉る。
掘り出した土を斜め上に放り投げ、また新たに突き刺した。
「いや~、それにしても壮観だなあ……この光景は。さすがヨロイ……2日でこれかよ」
ひょいと頭を上げて見れば……遠くに中央駐屯地が見える。
その周囲は、何重もの深い堀に囲まれていた。
・・☆・・
中央駐屯地の責任者、バハラク聖騎手とその直属の部下たちは残念ながら『急な病気』で倒れてしまった。
彼らは速やかに帝都へ向かって撤退、バルクハルクをはじめとする3人の聖騎手がここの運営を引き継ぐことになった。
彼らがまず指示したことは、中央駐屯地の『要塞化』である。
ヨロイによって深さ5メートル程度の堀がいくつも掘られ、来たる魔物の襲撃に備えている。
駐屯地から1000メートルほどの距離には、『動力体』を再利用した敷設地雷も埋められ……場所によってはその中に『毒』が仕込まれている。
俺がいるのは、その最も外周部分の堀だ。
ここは幅5メートル以上、深さ5メートルの広く深い堀なので……ザインブルグのパワーを大いに活用し、仕上げまであと少しの所まで掘り進むことができた。
索敵と防衛のため、全てではないが……それでも400機近い鎧騎兵が働いた結果だ。
二足歩行する超パワーの重機……ヨロイの面目躍如って感じだ。
『よくもまあ、ため込んでいたものですわねえ……各駐屯地に振り分けていれば、もっと撤退が楽になったのではなくって?』
「そうだけど、あのハゲがそんなことするタマかよ……」
中央駐屯地をぐるりと囲む外壁上では、何体ものヨロイがせわしなく動いている。
そこでは、巨大なバリスタ、それに投石機が組み立てられつつある。
どちらも、ヨロイですら持つことができない巨大なものだ。
この世界では珍しいそれが、何基も見えている。
ハゲ聖騎手がため込んでいた物資をフルに活用しているわけだ。
アイツ、自分のとこだけ潤沢に遠距離武器を保持してやがって……たぶん、帝都からの物資が始めに届くのをいいことに、大分中抜きしてやがったに違いねえ。
『原作』でもそうだったんなら……西方辺境領が壊滅するわけだぜ。
『周囲に敵影なーし。ロイドロイド~、ちょっと休憩したら?』
俺の斜め上……堀の横を歩くリタのツヴァンクからの通信。
「もうちょっとで終わりますんで……やっちゃいますよ。警戒、引き続きお願いしますね」
『任しときなさーい! ミュゼちゃんの見つけてくれた『これ』があるからアタシは無敵よ、無敵!』
ツヴァンクが……手に持っている筒状の物体を持ち上げた。
それは、乱暴に言うと……前世で知っているアサルトライフルに、でかい筒をかぶせたような形をしている。
握り手と、肩に付ける銃床の部分は見慣れているが……それ以外は円筒形の大きな筒だ。
スコープも、マガジンもない。
『魔道歴1965年式、携行型魔導弾発射機……『ルプレーナ』でしてよ』
『そうそれ! なんかオシャレな名前ねえ! これでロイドを守ってあげられるわ~!』
ハゲが物資を『抜いていた』こともだが、まさか遺跡からの発掘品まで着服してるとは思わなかった。
巨大な倉庫を調査したところ、正体も使途も不明なこいつが出て来て……俺の視界を借りたミュゼに聞いてみると、即座に正体がわかったのだ。
見た目はちょっとエキセントリックだが、あれは言ってみれば銃の形をした魔法の杖だ。
構えて引き金状の器官を引くと、ヨロイ内部にいる騎手の魔力を変換して……魔弾を放つ。
変換効率はこの時代の杖の比ではなく、リタのようなエルフなら無補給で何百発も魔弾を放つことができる。
威力はウォードロンの右腕ライフルよりも低いが……この、遠距離武器が高級な時代においてはとてつもない貴重品だ。
あのハゲは、これをただの遺物として保管してた……モノを知らないってのは怖いねえ。
倉庫を総ざらいした結果、アレは全部で50丁以上あった。
いくつかは壊れていたが、それでも現状では大幅な戦力向上だ。
遠距離攻撃できるだけでチートなんだからな、魔物相手には。
今は各駐屯地の腕利き連中に配布され、外壁の上やリタのように……穴掘りをするヨロイたちの護衛に回っている。
『ロイドの知っている『ぷろろーぐ』通りに進みませんわね、きっと』
ああ、願ったりかなったりだよ。
そもそも、中央駐屯地を要塞化するなんて話も聞いたことなかったしな。
たぶん原作では、ここを防衛する戦力が足らなかったから……グランツ伯爵領まで撤退することになったんだろうな。
『各駐屯地の健康な騎手が総勢503人……中央駐屯地の騎手も入れれば、全部で704名……まあ、それなりの数ですわね~』
やはり西駐屯地の損耗が激しく、騎手は200名中無事なものが100ちょいしかいなかった。
それでも、現状はそれほどの数がいる。
原作みたいに『全騎手の8割が死亡・未帰還』にはならんのじゃないかな。
『あらロイド、そこでノルマは終わりでしてよ。これで、でっけえ堀の完成ですわ~!』
そんなことを考えながら作業していると、遂に最も外周の堀が完成した。
一緒に作業をしていたアゴルムやツヴァンクが、嬉しそうに手を振り上げているのが見える。
『総員、内側に戻れ! 橋を外して最後の仕上げをするぞ!』
現場監督である、北駐屯地のタロッグ聖騎手の声が響く。
これから外周の堀に……鋭い金属片と一緒にした『毒』が散布される。
見た目は前世で言う重油っぽいものだが……その内容は魔物の内臓を『動力体』に加工する時に出る廃液のようなものだ。
俺達ヒューマノイドならひと舐めどころか、皮膚に触れただけで血反吐を吐いて死ぬような、高濃度の毒である。
魔物は即死とはいかないが……動きは鈍るし、やがて死ぬ。
金属片で傷を受ければ、より毒の周りは速くなるだろう……南駐屯地の撤退戦で使った毒バリスタみたいなもんだ。
『お疲れロイド~。帰ったら一緒にご飯食べましょうね~!』
「はい、お腹が空きました……上等騎手」
これにて、中央駐屯地要塞化計画は概ね完了だ。
俺達はここで籠城し……魔物の群れを押さえつけながら、やがて来るだろう帝都の援軍を待つんだ。
それがいつになるかはわからないが……上がやると決めたんなら、俺たち一兵卒はやるしかない。
死を前提とした無謀な作戦ではないし……いよいよ危ないとなったら、撤退の許可も下りるだろう。
ともかく、完成する前に大規模な群れが襲ってこなくてよかった……どの駐屯地でも使用された『臨界魔導弾』が効果を発揮したんだろう。
油断はしないが、これで随分と戦いやすくなったもんだ……
・・☆・・
「もぐむ……すんげえよなロイドのヨロイ。あぐぐ……まるで人間みたいに滑らかに……むぐ……俺も古式に乗ってみてえな……あぐあぐ」
「……そうか」
「にゃんだよ……むぐ、肉嫌いか? 燻製だけど……あぐあぐ……うめえだろ……」
「……美味いよ、美味い」
「それならもっと美味そうにむぐ……食えって。あ、はいラァバさん、あーん」
「んむぅ……んふふ、アンタに食わしてもらうと美味しいよ、マルク」
「あはは、それは俺も……もががが」
――地獄だ。
目の前で、友人がその恋人とナチュラルに『あ~ん』を繰り返している。
なんだこの地獄は。
気まずい、気まずすぎる……
一緒に飯を食おうとやって来たマルクよ。
お前……訓練校時代は空気の読める男だったよな?
なのに……なんだ、この現状は。
テメエ……恋人ができた代償に大事なモノを失ったんじゃねえだろうな……
「ロイドロイド、ねえロイド」
「なんですか上等むぐぅうう!?」
横を向いた瞬間に燻製肉と野菜が捻じ込まれた。
リタさん……貴方はそういうことをやるヒトじゃなかっ……やるヒトだったわ。
前に寝込んだ時、リンゴで殺されかけたわ……そういえば。
「わぁ……わぁあ……」
一緒のテーブルについている顔が真っ赤なアリシアさん。
何ですかその目は。
俺まで破廉恥連中と一緒にせんでもらいたい。
「おいしい? ねえおいしい?」
「んぐぐ……ええ、美味しいですよ……でも、俺は自分で食えますから……」
すると、なんか頬を膨らませるリタ。
「な~に~? もう照れちゃって~? いいのよ、甘えていいのよ~?」
この人の中で俺はどういう位置づけなんだろうか。
弟枠なのか、部下枠なのか最近わからなくなってきた。
「それにしても……ミュゼちゃんのお陰で戦力も向上したし、この先に希望が出てきたわね?」
『大いに希望を見出してくださいましよ~』
ここは格納庫なので、当然近くにザインブルグはある。
中央駐屯地には南駐屯地よりも大きな市場があるが、現在は完全に無人区域だ。
ここからも非戦闘員は全員撤退済みだからな。
なので、俺達はこうして駐屯地単位で食事を摂っているわけだ。
騎手内で、持ち回りで食事当番を回しつつな。
しっかし、ファンガリア上等騎手も料理ができるとは思わんかった……アイツ、なんでもそつなくこなすんだな。
あの性格さえマトモなら、まだ貴族以外にも慕われると思うんだが……
意外な所ではムカスタだ。
アイツ、どうやら実家は酒屋らしくって……煮込み料理を作らせると結構、いやかなり美味い。
本人的には騎手の方が好きだからこの仕事をやってるそうなんだが……ヒトは見かけによらんものだ。
「あの『ルプレーナ』っての、本当にすごい武器ね~。試射したけど、弓より好きかもよ、アタシ」
『当然でしてよ? 少々旧式なのが困りものですが……魔物程度には過ぎた武器ですわ~』
俺も撃っている所を何度か見たが、500メートル圏内なら大抵の魔物は貫通できそうだった。
『岩石人』みたいな硬い連中には何発か撃つ必要があるだろうが……それでも、今までのように接近戦をするよりかはマシだ。
エネルギー源が魔力なので、残弾数とかに気を使う必要がないのもいいな。
「この近くに遺跡があればなあ……」
『残念ながらありませんわ。ここいらはシグムント王国時代はさほど栄えていない地域でしたので』
ままならんなあ……あまり遠いとこの状況じゃ行けないし。
プロローグを生き残って自由に動けたら、発掘しに行くのも悪くないかもしれんな。
変な連中に渡らなきゃ、ヨロイは強力な兵器だし。
『――接近警報! 接近警報!』
瞬時に空気が引き締まる。
これは……格納庫のスピーカーからか。
声は女性というか、カララ上等騎手だな。
『北西より魔物の群れ、接近! 数、推定500! 南駐屯地所属の騎手は、全員出撃準備!』
今日の当番は俺達だからな!
要塞化が完了してから攻めて来てくれて助かったぜ!
「マルク! あたしらも戻るよ~!」
「了解でっす! ロイド、頑張れよ~!」
ラァバに米俵よろしく抱え上げられたマルクは、俺に手を振りながら超高速で去って行った。
……そっかあ、獣人のパワーならああやって移動した方が理にかなってるってことか……いや、実益も兼ねてるんだなあれ。
だってマルク、むっちゃ匂い嗅がれてるし……
「愛されてるねえ……よし、出撃するか!」
『こっちの暖気は完了済みでしてよ~!』
素早く食器を片付けた俺達は、それぞれのヨロイに向かって走り出した。
・・☆・・
「魔導加速砲――発射ッ!」
『ふぁいえる! でしてよ~!!』
ぢぢ、という音を発して魔弾が発射される。
『だんちゃーく……』
それは、外壁上からあっという間に堀を跳び越えて――
『……今っ! でしてよ~!』
遠く離れた位置にいる、バカでかいトリケラトプス……『二本角』の長に命中した。
加速しきった魔弾は、展開している魔力シールドを貫通。
首根っこにめり込んで……炸裂! 首を起点にして、周囲の魔物ごと吹き飛ばした!
『でっけえのはそれで全滅でしてよ! しばしご休憩さなったらいかが?』
「ああ、そうする」
攻め寄せた魔物の数は膨大だが、外側の堀の毒にやられて移動速度は激減。
走るうちに動きを鈍くし、途中の堀に苦戦。
そうして有効射程まで近付かれた時には、ザインブルグやウォードロンの遠距離攻撃、または『ルプレーナ』の射撃によって死体へと変わっている。
『あはは! これ楽しい~!!』
リタも、エルフの魔力をいかんなく発揮して大暴れしている。
おおすげえ……今、一発で2匹を射抜いたぞ……
今のところ、肉薄されるような場面はまだない。
……今の、ところは。




