第45話 再編、中央駐屯地。(帝歴1000年、12月)
「ら、ラシュタム聖騎手! なんということを……!」
「これは問題になりますぞ!」
「同輩である聖騎手にこのような……!」
例のハゲ聖騎手が白目を剥いて倒れ、一瞬呆気に取られた部下たちが泡を食って喋り出した。
この感じ……こいつらも同じ穴のムジナって感じか?
嘆かわしい……平和の弊害だな。
「は? コイツが同輩ィ? おっもしれえ事言うなァ……木っ端共」
エキドナはまず、一番近くにいた騎手に近付く。
なんつーか、武術のタツジンみたいな感じの動きだ。
ススス……って感じ。
「あひゅぃい!?」
で、ソイツの脛を軽く蹴った。
そう見えたけど、蹴られたヤツは片足を大きく弾かれて床に倒れ込む。
弁慶が号泣して失神してそう。
「ふざけんなよ、馬鹿どもがァ……駐屯地付きの聖騎手ってのはなァ……撤退するときゃ、『一番最後』だって決まってんだよォ……!」
今度はまた別の1人に近付き、腰をポンとはたく。
「ぎゃががッ!?」
ソイツはトラックに横から突っ込まれたみたいに、横に吹き飛んだ。
……なんちゅう、馬鹿力か。
「そぉんな卑怯者で、臆病者はなァ……もう、聖騎手じゃあ……」
「っひ!? や、やめ――!」
エキドナは地面に倒れて失神しているハゲの足を掴んで――
「――ねぇんだよォッ!!」
そのままヌンチャクよろしく振り回して、もう何人かを続けざまにぶん殴った。
まるでアニメか漫画だぜ……あのハゲ、大分デブなのに……
『んまぁ~なんて力持ち! わたくし、胸がスッとしましたことよ~!』
お前胸ないじゃん……
「――バハラク聖騎手は、急な病気のようだなァ!」
大きな声。
入口から3人の男がこっちへ歩いてくる。
発言した先頭の男は……バルクハルク聖騎手だ。
ってことは、その後ろにいるのはたぶん……北と西駐屯地担当の、聖騎手!
「は……はぁ? へ?」
ハゲ……バハラクの取り巻きで無事だった騎手が、目を見開いている。
それに構わず、バルクハルクたちはこちらに歩いてくる。
「これでは籠城戦の指示なぞ無理だなあ、御両人」
「おう」「ええ、然り」
続く男たちも鷹揚に頷く。
バルクハルクは、残った取り巻きたちをじろりと睨んだ。
その眼光に、揃って半歩下がる取り巻きたち。
「この上は仕方があるまい……バハラク聖騎手と志を同じくする諸君も、帝都へ退きたまえよ。もとよりそのつもりだったのだろう? この中央駐屯地は……我ら3駐屯地の聖騎手が預かろう」
ごくり、と誰かの喉が鳴った。
「おお、言い方が回りくどかったか……」
ぽん、と手を打ち……バルクハルクが再度口を開いた。
「――決戦に腑抜けはいらんと言った!! 荷物をまとめ、そこの『病人』と共にとっとと消えて失せろッ!!!!」
格納庫を震わすほどの大声を受け、蒼白な顔色になった取り巻きたちは……倒れている仲間や聖騎手を抱え、一斉に走り出した。
「東門に物資とアゴルム隊を置いている! それ以外のものを持ち出せば、皇帝陛下より死を賜ると思えッッ!!」
走り去る連中の背中にそう叫んだ後、バルクハルクはニヤリと笑ってエキドナを見た。
「エキドナ、しかし手が早いな……儂がやりたかったことを取るなよ」
「はん、アホ言うなよバルクハルクのとっつぁん。アンタに殴られたらあの馬鹿、首が捥げちまうだろォ?」
俺は別にそれでもいいと思うけどなあ……
「ベルク二等騎手、もう大丈夫だから降りてこい。ヨロイのお嬢ちゃんも迷惑かけたな」
『やっていいなら魔弾で粉々にしてやりたかったですわ~』
ミュゼの返事に、残る男たちは愉快そうに笑った。
「がははは! コイツは随分と話の分かるヨロイだなぁ!」
「もうないと思いますが、次にちょっかい出してきたらそうしてもいいですよ。はははは!」
どうも、ハゲ以外の聖騎手たちは全員『話がわかる』ようだな……ありがてえや。
「ロイド=ベルク二等騎手であります!」
ザインブルグから降り、聖騎手たちの前で敬礼する。
「変なのに絡まれて御苦労だったな、ロイドよ」
バルクハルクは俺の肩を叩き、苦笑。
「ついでだから紹介しておこうか……といっても、今のでわかったろうが」
彼がそう言うと、まず近くにいた……浅黒いスキンヘッドの筋肉ダルマが俺を見た。
革鎧が弾けそうだな……腕なんかリタのウエストくらいはあるぞ。
「坊主がガルムの倅か! もう騎手になるくらいの年頃なんだな……俺はタロッグ=ロイマン、北駐屯地の聖騎手だ」
続いて、その横の……ナイスミドルって感じの、細見で銀髪の男が微笑む。
「良い目をしている。やはり狼の子ですね……ハラルド=ガイマーです。西駐屯地の聖騎手ですよ」
2人とも親父殿を知ってるのか……そして、やっぱり駐屯地の責任者だった。
両方原作には出てこないな……同じ苗字のキャラはいたが。
「父を、ご存じでありますか」
俺が言うと、タロッグがニヤリと笑った。
「ったりめえだよ。あんな凄腕の騎手はそうそう忘れられるもんじゃねえ……なあ、ハラルド?」
「ええ、私も随分彼には助けられました……感慨深いですね」
親父殿の評価、騎手連中にはすこぶる高いんだよな……いやまあ、やったことがやったことだし……異名もあるし……
「しかもその息子が……はは、喋る古式ヨロイで大立ち回りときたら……辺境の噂にもなろうってもんだ。お前さん、ここじゃあもうかなりの有名人だぜ?」
「そ、そうでありますか」
有名人かあ……まあいいや、別に。
生き残ることが先決なんだからな、今は。
『まあ、わたくしのようなヨロイに乗るのですから? それはその通りでしてよ~?』
能天気なミュゼの声が格納庫に響く。
「ははは、本当に中にヒトが入ってるみてえだ! 羨ましいねえロイドよ、戦ってても華ってモンがあるなあ!」
『まあ! そこのおじさまは女を喜ばせる術を心得ておいでですわね~?』
……やっぱり順応性が高いなあ、聖騎手。
それくらいじゃねえとやっていけないんだろうか?
「エキドナ、邪魔者がいなくなった所で再度会議だ。これからの方針を決めねばならん」
「あいよ、おとっつぁん。……ボウヤ、色々世話んなったなァ。今度酒ぇ奢ってやるよ」
「おぐふ!? あ、ありがとうございます……」
エキドナは俺の腹を嬉しそうに叩き、聖騎士たちと連れ立って歩いて行く。
軽く叩いたのになんちゅう衝撃だ……腹筋鍛えててよかった。
「ロイド! お嬢さんと一緒に宿舎で待機しておけ!」
「ハッ!!」
……ふう、なんか色々あったけど……少なくとも中央駐屯地はマトモになりそうだな。
「……でも、諸々片付いた後って……大丈夫なんだろうか?」
無能とはいえ、中央駐屯地の聖騎手をボコって追い出したんだからな。
あの公爵家の連中なら、あることないこと触れ回って面倒なことにしそうなんだが……
原作では色々暗躍しまくってたもんなあ。
「――大丈夫ですよ、ロイドくん」
「あっ、そうなんですか……うぉお!?」
横に! 横に女性騎手がいる!
しかも見覚えがある……この人は! 近衛5番隊の……!
「これは、失礼いたしました! テトリア騎手!」
「ふふふ、いいのですよ。お久しぶりですね」
……なぜこんな推定最前線に、近衛の騎手が……あっ。
今気付いたけどこの人……ひょっとしたら『原作キャラ』なのかもしれん。
いたもん、これ系のヒト。
近衛として働きながらも、実際は内偵とか情報収集が主な……クノイチ的人物!
原作では『トリリア』って名前だったが……そっちもありふれまくった名前だし、なにより彼女は変装の達人だった。
魔法を使って顔を変える技術を持っていたから……この人みたいに、目立たない容姿にすることだってできるはず!
「先程の話ですが……私が、バハラク聖騎手の言動を直接帝都の『上』まで報告しますので……ふふ、『どこかの公爵家』が横槍を入れることはできませんよ、決して」
「そ、そうで、ありますか……」
俺は何も言うまい。
いや、何も言えない。
一介の二等騎手には重すぎる話題だ……答えは沈黙!
気にしても仕方ねえしな!!
「ロイドくん、しばらく会わない間に立派になりましたねえ。これは、姫様もお喜びになるでしょう」
皇女殿下が俺のことなんか覚えてるわけないじゃろ。
さすがは近衛……リップサービスも一流かい。
っていうかいつの間に『くん』付けで呼ばれるほど親密になったんだ?
心当たりが全然ないが?
「光栄の極みであります! 騎手殿!」
俺の肩をポンと叩き、テトリアは前に出る。
そして、ザインブルグを見上げた。
「喋れるヨロイなんて初めてよ、お嬢さん。ロイドくんと一緒に頑張ってね」
『当ったり前でしてよ~? 大船に乗ったつもりでいらしてくださいまし~』
くすり、と彼女は笑う。
「ふふふ、そうね。とっても面白い言い回し……シグムント王国時代の諺かしら?」
『ええ、そうですわ』
違います、たぶん俺の脳味噌経由の日本からです。
「ふふ、頼もしいわ。帝国は安泰ね……ロイドくん、帝都からの援軍は必ず来ます。諦めないで、そして……命を大事にしてね」
俺を見るテトリアに、俺は敬礼した。
「ハッ! このロイド=ベルク! 二等騎手の名に恥じぬよう、奮励努力致します!」
「うふふ、よろしい、励みなさい二等騎手……では、また会えることを祈っているわ」
綺麗な返礼をして、テトリアは歩き去っていく……足音が極端に小さい。
『おおっと、また調べておりますわ。油断も隙もないクノイチさんですのね~?』
……お前がいてくれて本当によかったよ、ミュゼ。
『んっふっふ、もっと頼ってくれてよくってよ~?』
……お前、なんか最近リタに似てきてないか?
よし……帰るか、宿舎に。
なんか色々疲れる日だったな……
『リントブルム、貴方もよろしくですわ』
『御意』
――そういえばコイツ、喋れるようになったんだった……
渋い男性の声ですねえ……




