第44話 無能はしまっちゃおうね~……!(帝歴1000年、12月)
「北駐屯地は壊滅だよ、人的被害はそれほどじゃないけど……『臨界魔導弾』が炸裂する前にさ、さっきの『岩石人』の群れが丸まって突撃してきて……外壁を突き破って入ってきたんだ。炸裂はして、群れはその場でほとんど死んだんだけど……施設はもう使い物にならないんじゃないかな」
「そりゃあ……大変だったな」
中央駐屯地、内部。
そこの南側のひと区画が、俺達南駐屯地の騎手たちに割り当てられている。
一番先に避難した非戦闘員は、復帰が難しい怪我をした騎手たちと一緒にもうここを離れていた。
帝都に向かって送られたらしい……よかった。
以前に疎開した連中も、同じように移送されている。
これは、なんと皇帝陛下直々の指示らしい。
『辺境を支えた功臣たちを決して見捨てはしない。1人も残さず確実に移送せよ』というな。
絶対王政の国だからアレだけど、選挙でもあったら支持率はストップ高だろう。
相変わらず状況は地獄と同義だが、良い国に生まれたもんだね。
で、俺は格納庫にザインブルグを安置し……さっきまでミュゼに指示されながら装甲を磨いたりしていた。
ここに避難するまでに結構な汚れがね……ねぎらいも兼ねて、ピカピカにしてたってわけ。
「それにしてもお前……随分とその、ラブラブなんだな?」
「らぶ、ら……? またロイドの謎言語だ」
そして、俺の横で椅子に座り……ザインブルグを横目に話しているマルク。
先程のお姫様抱っこは解除されて、今は1人である。
ミドンナはリタと何やらお話をしているようだ。
「お熱いねってことだよ。手紙には書いてたけど……どうやらミイラにはなってねえようだな」
「あはは、まあな。……ロイドの送ってくれた強壮剤も役に立ってるし、さ」
訓練校卒業から2年経過したが、コイツは……『それ以外の意味でも』成長しているようだ。
以前にはなかった余裕すら感じる……! 悔しくなんかないぞ!
「俺も本当は恥ずかしいんだけど……ラァバさん、四六時中くっ付いてくるんだよ……その、『そういう仲』になってから」
「獣人は情熱的っての、本当なんだなあ……」
俺の知っている原作には、マルクは出てこずミドンナだけが出てくる。
その際の描写も『恋人を失った』的な陰は見えないから……ここも原作が破壊されているな。
俺という存在がいたことでの、バタフライエフェクトみたいなもんだろうか。
「部隊の連中とかにやっかまれてないのか?」
「いや、むしろ……その、尊敬されているフシがあるんだよな。獣人と『戦える』なんて凄い、ってさ」
……そっちかぁ~。
確かに、獣人の性欲って凄いからなあ……原作でも何度も何度も言及されてたし。
……マルク、本当は人間に見えるオーガとかじゃねえのかな?
「でもさ、ラァバさんって本当にカワイイ人なんだよ? 料理も上手いしさ、家事なんかも……」
「おーおーおー、ノロけんじゃんか……ちょっと待ってくれよ、口から砂糖吐きそう」
『おほほ、ロイドには耳に毒ですわね~?』
うるせえよ。
「え……よ。よよよヨロイが喋ったァ!?」
『あら、ごきげんようロイドのご友人さん? わたくし、ミュゼと申しましてよ?』
ああそうか、コイツとは初対面だったな……
なんか、周囲でもすっかり受け入れられていたから忘れかけてた。
新鮮な反応だよな~?
「じゃあなロイド! しばらくは待機らしいから、また来るよ!」
「おお、まあ……元気でな」
しばらく話をして、マルクは帰って行った。
……お姫様抱っこで。
無茶苦茶うなじの匂い嗅がれてる……情熱的だなあ、獣人って。
「ねぇ……お、お友達?」
「うん、訓練校の同期」
何故かザインブルグの足の影からアリシアが出て来た。
ほう……ヨロイマニアで他にさほど興味を持たない彼女でも、ああまで直球のイチャイチャは恥ずかしいのか。
「な、なんかすごいね……噂になってたけど本当なんだ……獣人と付き合って干からびてない人間がいるって……」
「UMAみたいな扱いになってんなあ……」
「ゆう……ま?」
「どっかの方言でバケモンって意味だ」
椅子に深く体を預けて、息を吐く。
ああ……疲れがジワジワやってきやがった。
ここに到着するまで気を張りっぱなしだったからなあ……
「アリシアも座れよ、疲れたろ……お互いにお疲れ」
「うん……ロイドは凄かったけど、ボクはあんまり疲れてないけどね……」
椅子に座り、差し出したカップを受け取るアリシア。
中身は今朝出発する時に野営地で作っておいた黒茶だ。
乾いた豆を粉々にしてポットにぶち込んでお湯を入れるだけだから、超楽。
「あ、黒茶だ……ボク、これ好き」
「おお、ホッとする味なんよな……それで、聖騎手たちは?」
首を回すと、ボキボキと音がした……こってるなぁ、我ながら。
後でストレッチしとこ……
「まだ戻らないよ。会議、長引いてるみたいだね」
今現在、バルクハルク聖騎手はここの中心にある宿舎で会議の真っ最中だ。
北駐屯地、西駐屯地、そして『例の』中央駐屯地の聖騎手でな。
どうやら南駐屯地が一番最後に撤退してきたらしい。
「どうなるんだろうね……これから」
アリシアは不安そうにしている。
「まあ、ここで踏みとどまるか……退くか、だろうな。退くならグランツ伯爵領……ってとこかね」
原作では、そこが最終防衛ラインになる。
「だよね……」
「俺達は聖騎手に従うだけさ……あ!」
俺が大声を上げると、アリシアが器用に跳ねた。
「なに!? 急に大きな声出さないでよ……!」
「すまん、アリシア。だけどツィガノフ統括を呼んでくれないか? ちょっとした提案がある!」
そうだ、全ての駐屯地の兵が撤退しているのなら……ここにいる筈なんだ!
『オルヴァネイター』に乗っている……『鉄壁』エキドナが!
西駐屯地へ援軍に行っていた、彼女が!
『ああ、『起こす』のでして? 確かにこの状況では戦力は多い方がいいですわねえ』
そうだ!
今『仮契約』状態なら……『本契約』まで持っていけば、かなりの戦力になるハズだからな!
・・☆・・
「初めまして! 南駐屯地5番隊所属、ロイド=ベルク二等騎手であります!」
疲れた体に鞭を打ち、敬礼。
「ああ、楽にしな二等騎手。ふぅん……いい目、してんじゃないのさ」
俺の目の前には、1人のドワーフがいる。
身長は150㎝少々と小柄だが、薄着からうかがえる体は……筋肉質でガッシリとしている。
そうかと思えば、胸の部分にはリタに勝るとも劣らない柔らかそうな塊が2つ揺れていた。
薄着だから色々と目に毒だ。
「エキドナ=ラシュタムだ。聖騎手をやってる」
褐色気味の肌に、意志の強そうな目をしている。
ドワーフらしく豊かな髪は濃い緑色を含んだ黒髪で、無造作に長い三つ編みとして束ねられている。
史上4番目の若さで聖騎手になっただけあって、年齢の方はユーリ統括騎手よりもひょっとしたら若いかもしれない。
元々ドワーフの女性は若く見えるし、かなり。
この人は援軍扱いなので、会議には参加していなくってよかった……
「で、ボウヤがコイツを強くできるっての?」
「ハッ! 正確には、自分のヨロイが、であります!」
向かい合って立つ俺の眼前……エキドナの後ろにヨロイがある。
銅色に鈍く輝く、巨大なヨロイが。
ここは、西駐屯地から撤退した騎手たちに割り当てられた宿舎群の一角。
そこに、俺は来ている。
もちろんヨロイに乗って、だ。
『ごきげんよう、ドワーフさん。わたくしはミュゼと申しますわ?』
ざわわ! と騒音。
俺達を遠巻きに見ている、西駐屯地の騎手たちの声だ。
こっちはザインブルグを見慣れてねえからな……そりゃあ驚くだろう。
『近くに『お仲間』の反応がありましたので、ロイドに無理を言いましたの。貴方のお乗りになっているヨロイ……『リントブルム』を『起こし』に来ましてよ?』
「たまげたねえ……帝国語で喋るヨロイなんざ初めて見たよ」
エキドナは愉快そうに微笑んでいる。
肝っ玉が据わってんな……流石は聖騎手。
「しかし、リントブルム……いい名前じゃないか? 意味はなんていうんだい?」
『帝国語に直しますと、『揺るがぬ大樹』とでも言う感じですわ』
なるほど……言い得て妙だ。
エキドナの後ろに立っているヨロイ……リントブルムは、全長8メートルほどの巨大なヨロイだった。
ザインブルグよりも頭一つ分以上は高い。
原作で知ってはいたが、こうして見るとより一層迫力がある。
全身を覆う銅色の装甲板は、まるで大盾をそのまま貼り付けたように重厚だ。
どこかアゴルムに似ているように感じるフォルムだが、各部位は洗練されている。
そして……一番目を引くのはやはり、両腕にそれぞれ握られている『城塞盾』だろう。
恐らく立てて構えれば、10メートルに届くんじゃないかっていう大きさだ。
その表面はいくつかのスリットが刻まれており、『原作通り』内部に何かがあると確信させてくれる。
「なんてイカした名前なんだ! 気に入ったよ、アタイは! ……それで? コイツはどうすりゃ強くなるんだい?」
『操縦席に座って、ロイドが伝える言葉を唱えてくださいまし。後はこちらでやりますわ』
それを聞くや否や、エキドナはリントブルムに走り寄り……ひらりとコクピットに飛び乗った。
すげえ身体能力だ……おっと、俺も準備せんと。
コクピットに歩み寄り、懐から取り出した紙を渡す。
「腹部装甲板を閉じてこれを唱えてください、聖騎手。そして……唱えたら自分に返していただけますか?」
「機密保持か……わかったよ、ボウヤ」
紙片を受け取ったエキドナは、そう言ってにやりと微笑んだ。
……こんな開けた所だと、誰に聞かれてるかわかんねえからな。
――ここは、特に。
『ソレに搭載されている武器につきましては、『精霊』が教えてくれるでしょう……しっかりとお話なさってくださいね?』
『おお! コイツはすげえ……出力が4倍以上に膨れ上がったよ! ありがとね、お嬢ちゃん!』
エキドナの嬉しそうな声が通信越しに聞こえてくる。
機密保持のため、俺もザインブルグに乗り込んで通信で話しているわけだ。
あれから『本契約』はすぐに終了した。
どうやらリントブルムにも、あの血を抜く工程は必要ないらしい。
同時並行で搭乗者のロックもミュゼに頼んだので、『誰か』に勝手に乗って行かれることはない。
搭載されている『供給』やなんかの説明は、リントブルムの精霊に任せよう。
ちなみに、俺は原作知識で知っているが……リントブルムの武器は――
「――双方! ヨロイから降りろ!!」
……こちらに向かって駆けてくる一団がいる。
ああ、あの寒そうな頭頂部には見覚えがあるなあ……
『あぁ? 誰かと思えばここの無能聖騎手じゃねえかよ。ロクに顔も出さなかった癖に……何の用だ?』
怪訝そうなエキドナに、通信。
「古式ヨロイを手に入れたいそうですよ。自分も随分と粘着されました……お気をつけください、聖騎手」
『はぁ……? ああ、うん……アンタはそのまま乗っときな。アタイに任せときなよ、ボウヤ』
そう言うと、リントブルムの腹部が展開。
そのままするっとエキドナが降りた。
しかしボウヤ呼び……なんか、悪くねえな?
『新たな性癖が……』
違う! たぶん違う!
「ラシュタム聖騎手! 私と部下たちはこれから帝都に撤退する! よって、その古式ヨロイを護衛として――え?」
早速エキドナにまくしたてていたハゲ……聖騎手が、寄って行った彼女に正面から抱きしめられて目を丸くしている。
あ、これは……
「ふんッ!!」「――ェンッ!?!?!?」
なんて見事なベアハッグだ……ハゲさんが〇イキのマークみたいに反り返ったぞ……
背骨へし折れてないか?
「くはは、馬鹿の相手はこいつに限るねぇ」
そう言って、エキドナはペイっと聖騎手を放り投げた。
うわ……白目向いてる……




