第43話 中央駐屯地、到着。(帝歴1000年、12月)
『み、見えた! 中央駐屯地だ!』
『よかった……外壁に損傷はねえ! 先行した部隊も無事みたいだ!』
『ひとまず、助かった~……』
通信に、喜びの声が満ちている。
峠を越えた俺達の眼前には……中央駐屯地の姿が見えた。
誰かが言ったように、外壁に損傷はないし……周囲に魔物もいない。
『ロイドロイド、お疲れ様! やっと着いたわね~』
「ええ、よかった……」
リタからの通信に返しつつ、俺は肩の力を少し抜いた。
南駐屯地から脱出した俺達は、途中で魔物に襲われていた部隊を救い……ついに、目的地の中央駐屯地までたどり着いた。
あの時襲われていたのは物資運搬をしていた『ランゲッタ』の護衛部隊で……西の方角から現れた鬼人の群れの襲撃を受けたのだという。
南駐屯地方面は『臨界魔導弾』のお陰でまだこちらに群れが到達していないっぽいので……たぶん、激戦の西駐屯地あたりから餌を求めてやってきた一団だろう。
被害内容は……アゴルム5機、ツヴァンク2機の喪失。
そして……死者が、3名だ。
2人の二等騎手と、1人の準騎手だった。
鬼人の岩棍棒で腹部をやられていて、あの様子では恐らく即死だったろう。
3人の遺体から遺髪と形見を回収し、残った遺体はその場で燃やされ、灰は土に埋められた。
本当なら葬式でも出してやりたかったが……そんな余裕はなかった。
再利用できる部品を回収したヨロイも、魔物が接近した時用の……即席の『臨界魔導弾』へと細工され、その場に捨て置かれることになった。
そして、それから2日。
何度か散発的に襲ってくる魔物の群れを退けつつ、俺達は中央駐屯地まで到着したのだ。
『――ロイド! 気を抜いてはいけませんわ! 西の方角から魔力を探知! ヒトでもヨロイでもありませんわ!』
一瞬ほっとした気持ちに、ミュゼが喝を入れる。
「バルクハルク聖騎手! 西の方角から魔力反応……何か来ます!」
ざわ、と通信から言葉が漏れる。
ここに来るまでに、皆はザインブルグの性能を嫌と言う程わかっているから……疑う反応はなく、驚きの反応だけだ。
『『ランゲッタ』を護衛しつつ中央駐屯地へ向かう! ベルク二等騎手、先行して遠距離から迎撃を頼めるか!?』
「問題ありません、行きます!」
他の皆は疲労困憊だけど、俺は魔力だけは全快状態だからな。
『供給』万歳、ってやつだ!
『しゃーなしですわ~、最後の一仕事でしてよ~』
おう、頼むぜ相棒。
『しゃーなしですわよ~?』
疲れて……いるかどうかは知らんが、テンションが低いからいつも以上に人間臭い。
お前ミサイル撃ちまくって上機嫌だったじゃねえかよ。
『これがあなたの知識にあった『賢者たいむ』とやらかもしれませんわね~』
いつの間にそんな余計な知識を……
脳で繋がってるのも考えもんだな……基本的に筒抜けだもん、思考も。
まあ、いいけど……
『ボクも行く! アナンタさんは隊列の護衛をお願い!』
アリシアのウォードロンが、先に走り出した俺を追ってくる。
「魔力は大丈夫か?」
『うん! 寝て起きたら全快だよ! 腕のやつ、あんまり魔力使わないし!』
そういうことなら手伝ってもらうか!
『2人とも! 『ランゲッタ』の避難が終わればこちらも援護に出る! 無理だけはするな!』
「了解です、聖騎手!」
リタのツヴァンクも一瞬来たそうにしていたが、護衛を優先するようだ。
探知頼むぞ、ミュゼ!
「やっておりましてよ~……む、むむむ?」
何がむむむだ!
「移動速度がかなり速いですわね……これは、今までにない波形でしてよ! お気をつけなさって!」
ここへ来て新キャラとかいらんのだがな……了解!
『そこのヨロイ! どこの所属だ!』
駐屯地の近くまで走ると、通信が入った。
まだ西方向からの敵は見えない。
「南駐屯地、5番隊所属、ロイド=ベルク二等騎手であります!」
『同じく21番隊所属、アリシア=ラシュムーン二等騎手です!』
後ろに追いついてきたアリシアからも通信が飛んでいる。
基本的に丸聞こえだからな、通信って……ミュゼなら個別に切り替えもできるけど。
『そうか、先遣隊は既に入場しているが……お前たちはどうしてそこにいる?』
相手は……城壁上にいるバリスタを持ったツヴァンクだ。
さすが中央駐屯地、要衝らしく遠距離武器もあるらしいな。
上等騎手以上だろうから、このまま敬語でいいか。
「ハッ! 我らの後方に最後の部隊がいますが、先程西方から魔物の反応を拾いました! 本隊の入場まで、こちらで敵を引きつけます!」
そう言いつつ、いつでも撃てるように背面の加速砲を展開。
『何!? こちらでは何の反応もないが……おお、その異形! 噂の古式ヨロイか! わかった、こちらにバリスタ部隊を展開させる……お前らも、危なくなったら逃げるんだぞ!』
「ハッ!」
聖騎手はアレだが、現場レベルではちゃんとしているらしい……教官殿もいるしな。
「アリシア、好きに動いてくれ……俺はまずここから狙撃するからな! 射線にだけは入るんじゃないぞ!」
『うん、わかった! この右腕にも慣れて来たから……1500セグント以内なら外さないよ!』
頼もしい……すぎる!
量産機に乗ってても、やっぱり主人公は主人公か!
『来ましてよ! 距離、1800! 稜線の影ッ!!』
拡大された視界に、予想位置を示す赤丸がいくつも表示される……多いな!
『高熱源体、多数接近! ポン……ツヴァンクの最高速よりも上でしてよ!』
今ポンコツって言いかけたろ!
しかし、そいつはなんて速度だ……!
「とりあえず一射目はこのままいく! 魔導弾、加速開始――!」
『加速上昇、砲身内、圧力上昇中でしてよ……来ましてよ!』
西方向、ミュゼが言った稜線の影になっている部分から――丸い何かが飛び出した!
何だアレ!? 岩……回転する、岩だ!
ってことは……!!
「アレは恐らく『岩石人』だ! 高速回転して突っ込んで来るぞ、アリシア! 進行方向に立つな! 避けろ!」
『うん、わかった!』
足を止めて戦うとヤバい!
『加速臨界! 発射域!』
「――発射ァッ!!」
担いだ加速砲が吠え、魔導弾が射出される。
それは、ミュゼが速度から割り出した予測進路を転がる巨大な岩石を――貫通! すぐさま爆発させた!
散らばる岩石の破片に混じって、どす黒い体液と内臓らしき破片が見える!
『こっちは、動きながら狙う!』
横方方向へ走り出すウォードロン。
子供の頃遊んだゲームの主人公みたいに、右腕をまっすぐ突き出したまま!
『岩石人』
それは、一見すると岩の塊に見える魔物だ。
正確には、岩石に酷似した皮膚を持った……ヒト型の魔物である。
その装甲は厚く強靭で……生半可な攻撃は通さない。
そのため、刃物よりも鈍器で対応することが推奨されている。
移動方法は、さっきやっていたように丸まって高速回転しながらのものだ。
当たると痛いどころの話ではなく、ヨロイごと撥ね飛ばされる程の衝撃力を持っている。
「なんで北方の魔物が西から来るんだよ……!」
『いるものはいるんだから仕方ねえですわ~?』
あーあー、そうだよな!
北駐屯地よりもさらに北の雪山にいる魔物の癖によ……一生雪に埋もれてろってんだよォ!
「部隊もそうだが、外壁に突撃されるとヤバい! 機動戦を行う! ミュゼ! 撃てるならミサイルは全部――お前に任せた!」
『ええ! 任されましてよ! まるちろっくは大好物ですわ~!』
加速砲なら問題なく一撃で殺せるが、動きが止まっちまう!
今の感じだと……こいつにはミサイルと三連ガトリングでいい!
「行くぜェッ!」
ウォードロンとは逆方向に走り出す……うお、どんどんお代わりが来やがった!
斜めに移動しながら、引き付けて、殺すッ!
『ファイア! ファイア! ファイア~!』
堰を切ったように放たれる無数のミサイル!
空中で分裂したそれらは、今まさにこちらに向かう岩の軍団に着弾していく!
「――そこォ!」
俺は、ザインブルグを走らせながら――撃ち漏らしをガトリングで撃ち抜いていく!
よし、3発も撃ち込めば死ぬな!
『ひとつ! ふたつ! みっつ! よっつ!』
アリシアのウォードロンも、1匹ずつ着実に……魔導砲を使って一発で頭を射抜いていく! しかも高速で走りながら!
やっぱコイツすげえわ! 主人公万歳!
負けてられんなあ! 俺も!!
『第一波壊滅! まーだ来ましてよ~!』
「了解! 全部穴あきチーズめいた死体にしてやるぜ!」
俺の気合に答えるように、『動力体』が音を立てて唸った。
・・☆・・
「おーい! ロイド! そこにいるのってロイドだよなあ!」
「……お?」
攻めて来た『岩石人』の群れを2回ほど殲滅し、やっと中央駐屯地に入った。
案内された入口近くの宿舎まで行き、ザインブルグから下りて固まった体をほぐしていると……聞き覚えのある声で呼ばれた。
この声は……同期で一番の友人の……!
「マルク! お前も生きて――」
訓練校時代の同室で、同期。
マルク=ヘルツォーンが……あの時と同じような人懐っこい笑みを浮かべて……
「――ンンン何だお前ェ!?!?!?」
トラっぽい獣人、『ラァバ=ミドンナ』上等騎手に……お姫様抱っこされた状態でやってきた。
本当になんだお前……なんなんだお前……
怪我をしてる様子はないけども……じゃあなんだお前……あっ、むっちゃ匂い嗅がれてる……
「いやあ~! 噂は聞いてたけどさ! すっげえな古式のヨロイって! 上から見てたけど、『岩石人』がまるで紙みたいにボロボロ死んでたぞ~!」
「嘘だろ……そのままの状態で話すのかよ……」
2人とも全然恥ずかしがってる風もない……ってことは、これは平常運航ってやつなのか……
「あー! ミドンナちゃん! 久しぶ……キャー! 破廉恥!!」
「よぉリタ! アンタも元気そうだねえ!」
あ、寄って来たリタ的にもこれは破廉恥な体勢なんだ……
しかし動じてねえな2人とも……これはアレか? バカップルってやつか?
「え? え? ま、 まさか噂は本当だったの!? アンタと新人騎手が、その、あの……!」
「あっはっは! そのまさかってやつだねえ!」
「そうなんですよ~! あっはっは!」
あっはっはじゃねえよ……元気そうでよかったとは思うけどさァ……




