第41話 撤退戦のはじまり。(帝歴1000年、12月)
『だんちゃーく……今! ですわ~!』
空間を引き裂いて放たれた魔弾が、大写しになった視界の――赤丸に着弾。
そこにいた他よりも大きい『鬼人』の魔導障壁を貫通。
胴体を抉って――爆発。
放たれた魔力の爆風が、周辺の魔物を引き裂いていく。
『10体即死! 15体重傷でしてよ~!』
よし、次ィ……!
『おやめなさい! 砲身温度、危険域! 発射状態を中断して緊急冷却に移行しますわ! 再使用まで、2分と46秒!』
っち、撃ちすぎたか……了解!
展開されている砲身から、即座に白煙が上がり始める……かれこれ10発以上はぶち込んだからな。
「先頭との距離!」
『推定2200セグント! 加速砲以外はまだ射程外でしてよ!』
まだ大丈夫、か……
駐屯地を囲んだ魔物の群れに対し、ザインブルグの魔導加速砲による砲撃を繰り返している。
少なくない数を吹き飛ばしたハズだが、そんなんは知らんとばかりに奴らはこちらへ進軍を続けている。
『楽しいけど、撃っても撃っても減らないや!』
『無理するんじゃないわよアリシア! まだまだ先は長いんだからね!』
2機のウォードロンが内臓している、右腕部の単発魔導砲……それはそれなりの射程を誇っている。
俺の魔導砲と並行して自由に撃ちまくっているが、やっぱり向こうさんの数が多すぎる。
あの魔導砲、威力はガトリングに比べて低いが魔力変換効率はいい。
『供給』が使えなくっても2人は大丈夫そうだ。
『いいぞ! 魔物が巻き込まれて進行が遅くなっている……我らも続く!』
バルクハルク聖騎手の声が響き、彼らのヨロイも動き出した。
聖騎手配下の2機、ロジンとユーリのドラウツェン、それにグラーフオウガ。
その5機は、周囲に並んでいる岩をひょいひょいと持ち上げた。
あれは、駐屯地の改修や補修で出た瓦礫だ。
それ以外にも、何かの破片のような鋼材もある。
『ツヴァンク隊は待機! 1800セグントを切ってからバリスタを放て!』
『『『了解!』』』
まずグラーフオウガが岩を持ち上げ……投げた!
ぶおん、と大きな音がして……山なりに岩が飛んで行く。
続けてロジンとユーリもそれに続いた。
なんちゅう出力だよ……
『んまぁ~原始的。ですが昔の偉い人も言っておりましたね……『質量は力』!』
ミュゼのどこか呆れた声が終わるころ……まず、バルクハルクの投げた岩が三本爪らしき魔物に衝突。
密集していた魔物たちは、雪崩を起こして倒れ……しばらくして後続の魔物たちにグシャグシャと踏まれていく。
仲間意識とかねえな……やっぱり、どうなってんだアレ。
見ている間にも、次々と大岩が着弾していく……約2キロの遠投かよ、帝国製でも上位のヨロイはとんでもねえな。
『っと、砲身冷却……完了しましてよ!』
再び射撃体勢……片膝を突き、右手で砲身を掴む姿勢を取り、狙いを定める。
岩はアホみたいな速度で降り注いでいるが、数が違いすぎるからな……撃ち続けないと!
「加速開始……!」
ぶん、と重低音が唸る。
『脅威度算出! 丁度いい所にあの6本腕の熊さんがいましてよ!』
六つ手熊か! どこに……赤丸! 先頭のちょい後ろ!
いい位置だ……狙い撃つぜ! 魔力を強く放出……!
『出力臨界点――撃てましてよ!』
「発射ァッ!!」
――ぢ、という音。
加速しきった魔弾が射出され……六つ手熊の胸を抉る!
一瞬魔力の光が見えたってことは、あいつは長か! 接近されると面倒だからちょうどいいや!
……だけど。
「撃っても撃っても減らねえ……むしろ、増えてる気がする」
既に2キロの距離にまで近付かれた魔物の群れは、もう、アレだ。
前世のニュース映像で見た記憶が微かにある……大津波に近い!
見渡す限り魔物で、ところどころに目らしき赤い光がチラチラ見える。
大迫力だぜ、オイ……!
どんどん後ろから『お代わり』が合流してんだろうな……!
『可能な限り撃ち続けろ! 今しがた『臨界魔導弾』の設置が全て終了したと伝令があった!』
バルクハルクからの通信。
よし、終わったか……じゃあ、引き付けるだけ引き付けて撤退の準備だな!
アレが炸裂したらこいつらも俺達を追うどころじゃないハズ……ないよな?
『ま、少しは期待してもバチはあたりませんわね~……次弾、発射準備完了でしてよ!』
了解……発射ッ!!
今度はデカイ『大兎』に着弾だ!
「しゃあッ! 次ィッ!!」
『凄いよロイド! ねえ、でも魔力は大丈夫? 逃げる分も残しておかないとさ……』
魔導砲を発射し続けているアリシアから、心配そうな通信が届く。
魔力は……まだ半分以上残ってるし、いざとなればいくらでも補給できるからな!
俺の体のことを考えなければ!
「問題ないぜアリシア! ほぼ毎日魔力枯渇起こして寝るようにしてたからな! 俺の魔力はエルフの子供並だとさ!」
『ロイド!? アンタそれやめろって言ったのにずっとやってたの!? 駄目だって言ったじゃないのお馬鹿~!! 頭パーになっちゃうわよ!』
『あ、あはは……すごいや、ロイドは』
割り込んできたリタに怒られたが、『供給』を使用した『比較的』体にいい方法に切り替えてるから大丈夫だ!
『先頭との距離、2000セグントを切りましたわよ! 魔導凝集光砲、射程距離ですわ!』
「次はそっちだ! 『薙ぎ』は任せる……胸部装甲板展開! 魔力、圧縮開始ィ!!」
がこん、と音。
ザインブルグの胸が左右に開き、ソーラーパネルに似た砲口が露出する。
『脅威度算出! ろっくおん! 魔導圧縮……圧力上昇! 通常発射可能域へ! そのまま過充填へ移行! ですわ~!』
視界のインジケーターの目盛りが少し減る。
チャージすると加速砲よりも魔力、使うもんな……!
『魔導充填、120%! 撃てましてよ!』
「――撃てェッ!!」
――閃光。
胸から発射された一条のビームが、殺到する群れの先頭……二本角を容易く貫通した!
そのまま、貫通した光は後続も同じように貫き……!
『ぎゅいーん、でっすわ~!』
先頭から50メートルほど貫通した後、ミュゼが回した上半身の動きに連動して……左へ薙いでいく!
一瞬で、先頭を起点として扇状に魔物が切り裂かれた!
「ぐ、ぬぅ、ぎぎぎ……!」
一気に魔力が減ってキツイ!
『照射中止! 余剰魔力放出!』
ぷふぅ……今のでざっと30匹くらい殺したぞ……!
後続の魔物たちは、急に出現したバラバラ死体に足を取られて転げ回って……踏み潰されていく!
『聞きしに勝る威力だが……いかんせん数が多すぎる。ベルク二等騎手! 休んで魔力を回復させておけ! お前に赤旗の狙撃をやってもらうからな!』
「了解ッ!」
そう言いつつ、右手を籠手から引き出して腰の短剣に触れる。
『そちらを利用しますわ~』
すると、短剣から俺の体に魔力が流れ込んでくる……うん、やっぱり『供給』程の違和感はないな。
「旗までの距離は?」
『1500セグント、到着までは待機でしてよ~。ああ、わたくし! 早くミサイルを撃ちまくりてえですわ~!』
興奮しているのか、どんどん口調が面白くなってきやがんなコイツ……
狙撃に使うには勿体ないから、加速砲は温存しておこう。
『バリスタ、射撃開始! 弾頭を忘れるな!』
『『『了解!』』』
ツヴァンク隊でバリスタを持っている連中が射撃を開始した。
ヨロイ用のバリスタは、ばつんばつんと轟音を上げながら矢を放っている。
一発撃つと人間用みたいに足で弦を引いて再装填だから、さほど発射間隔は短くない。
でも、発射されるのは金属製の矢で……それも、バルクハルクが言ったように特殊な『弾頭』がセットされている。
『へえ、この時代の方々も考えましたのね~?』
ミュゼが感心している。
魔物に突き刺さった、もとい貫通した矢は……先端が破裂。
そこから、四方に向かってキラキラ光る金属片をばら撒いたからだ。
アレは原作で見たことあるぞ……『動力体』の細かい破片を混ぜた『弾頭』は、炸裂すると中に入っている『毒』を塗った金属片を散布する。
人間相手なら掠った瞬間に死ぬほどの高濃度だが、魔物たちは即死とはいかない。
でも、しばらく走った後に弱い連中から泡を吹いて倒れていく。
そして、毒によって死ぬ前に……グッシャグシャに踏まれて死ぬってワケだ。
だが、遠距離武器は高級品で……さらに矢も高級品。
そんなに数は揃えられないんだよな……
この時代、今までこんな修羅場とかないし。
原作だとこの後に量産体制が整うんだよなあ……畜生め!
今までは接近戦で対処できるくらいの魔物しかいなかったもんな! おのれ神よ!
『あら、わたくしがいましてよ~?』
まあ、そりゃそうなんだけど。
思えばコイツ、原作の世界線ではずううっと埋まってたんだよな……
その点では、今の俺は恵まれてると言える。
あの時地下水脈に落下してよかったなあ……
『うふふ、ロイドったら……ちょっとほめ過ぎでしてよ~?』
『ロイド! アンタ今ミュゼちゃんと話してたでしょ! 休むのはいいけど集中しなさいよ~!』
通信は漏れていないのに何故バレるのか。
何者なんだあの巨乳エルフは……
「りょ、了解であります」
『あらあら、ごめんあそばせ? 今ロイドからリタさんが美人過ぎて困るという相談をですわね……』
『ぬわぁんですって!? 許すわ! 毎秒その話をしなさいロイド! あと困らなくていいの! ぜぇんぜん困らなくてもいいのよ~!』
なんか解決したけど状況が悪化した気がするな……
一応、ミュゼが指向性を持たせているから他にはこっちの返答は聞こえてないけども。
リタ元気になり過ぎだろ……
『ふんぬッ! どりゃぁあッ!!』
あああ、ついに岩まで投げ出した。
ツヴァンクの性能をフルで発揮してんな、アレ……あ、二本角の頭がひしゃげた。
『そんな愉快な話をしている所に、接近警報でしてよ! もう狙えますわ、旗が!』
「聖騎手! 距離接近! 赤旗を狙撃します!」
『よし! 先頭が通過してからやれ!』
「了解……!」
この距離なら、さほど魔力を込めなくてもいける!
右腕のガトリングを――
『たーげっとろっく! ミサイル発射! でっしてよ~!!』
あ、お前なあ!?
腰から放たれた一発のミサイルは、俺の抗議も聞かずに空間を疾走。
あっという間に魔物を躱しながら赤旗の根元に着弾して――
「――う、ぉお!?」
目測、半径100メートル以上を魔力の炎で吹き飛ばした!
地面が爆ぜ、今まさに走っていた魔物たちは下半身を千切られながら上空に高く吹き飛んでいく。
『素敵ですわねぇ! 他もいっちゃいましてよ~! ろっく! ファイアファイアファイア~!!』
続けて残りの全弾が発射。
空中で弾頭が弾け――同心円状に設置された赤旗へ殺到!
「うお、まぶし!?」
戦場のそこかしこが、半球状の爆発に包まれた!
『動力体』の爆発ってすげえよな……地下から脱出する時に使わなくてよかった……
『よし! いいぞベルク二等騎手! ツヴァンク隊は発射をやめろ! この場の瓦礫を全て投射し終えたら……撤退だ! 刻限が近いぞ!』
え? もうそんな時間か……よし、もうちょいだ!
ミュゼ! ミサイルを好きなだけ撃っちまえ!
『お~っほほほほ! あなたって本当に最高の騎手ですわね、ロイド!』
さあ、これで終わり……じゃねえもんな!
全てはこれからだ……生き残るぞ、俺!!




