↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/55

第39話 南駐屯地での安息。(帝歴1000年、12月)

『解析完了しましてよ』


 ベッドに寝転んで、親父殿の形見であるナイフを弄んでいると……念話。

そういえば、先日貰ったこいつの解析を頼んでたんだよな。

お前何でもできるなあ。


『当たり前でしてよ~? これくらいお茶の子キャンキャンでしてよ!』


 さいさい、な……お茶の子に何の恨みがあんだよ。

で、このナイフはどんなモンなの?


『それは『魔導剣』でしてよ』


 ……え、なんか聞いたことある。

それって……原作にも出てくる、魔力の刃を伸ばせる武器だろ?

『リュンゼル』の人間版的な。


『でしてよ。技術自体は魔道歴1500年くらいのものですわね~、その頃はヨロイの技術も全然発展していなくて、最悪の場合は防毒マスクとそれで魔物と戦ったそうですわ~』


 ……今の帝国よりもハードモードだ。

ビームソードは浪漫だし『リュンゼル』は強いけど、さすがに今は役に立たないな……というか、コイツが魔物相手に役に立つ未来が絶対に来てほしくない。

この身一つで魔物とチャンバラなんか……考えただけでも怖い。


『あら、他にも使い道はありましてよ? ソレは術者の魔力を貯蔵しておくこともできますの。騎手の魔力が枯渇した時に、ヨロイを『再起動』するための『保険』として持ち歩く方も多かったと聞いておりますわ』


 あ、そうなんだ……そっか、追加のタンク扱いってことか。

ちなみにどれくらい溜めておけるんだ、これ?


『だいたい、ロイドが生成できる1日分の魔力でしてよ』


 思わずベッドに跳び起きてしまう。

嘘だろ……有用も有用じゃねえかよ!

俺の一日分!? 『供給』で回復する前に全快できるってことじゃねえか!


『ですわ? 大気から取り込む『供給』とは違って本人由来の魔力ですから……拒絶反応も少なくってよ?』


 おおお……親父殿、なんていいものを遺してくれたんだ……

形見ってだけでも貴重なのに、これからの戦闘で必ず役に立つぞ、コイツは!

使い方は!?


『柄頭の部分に親指を当てて魔力を流せばよくってよ。刃を出す時は普通に握った時に人差し指の所にあるトリガーを引けば展開されますわ。『リュンゼル』とは違って、最大展開時間は……そうですわねえ、最大で1から2時間くらいかしら?』


 実際に戦いに使うなら、ほぼ使いたい放題って感じか。

『リュンゼル』みたいに一瞬一瞬展開すれば長持ちするし……


『魔力残量を見るには、等身の根元に埋まっている宝石の色で判断しましてよ。『動力体』のように濃い蒼が最大、透明がゼロですわ』


 鞘から抜くと……両刃の短剣っぽい形状の根元に宝石が嵌まっている。

当然ながら今は透明か。

よし、今日は午前中に出動したし……夜にかけて魔力をこめていくか。

もう12月もそろそろ中旬に入るしな。


「ロ~イド~!!」


「うわぁあっ!?」


 ばぁん! と音を立ててドアが開く。

入ってきたのは? 勿論我が上官殿のリタである。

二等騎手になったから厳密に言うともう部下ではないが、たぶんそれ言うと半泣きで大暴れするから言わない。

でもノックの文化は根付いてほしい。


「なーに? 若い男がベッドの上でナイフなんか弄っちゃって……暗いわ! っていうか怖いわよ!」


「せ、せめてノックしてください……ビックリするので」


「アンタとアタシの仲じゃないの! 大丈夫よ!!」


 大丈夫じゃねえよ!? このムチムチエルフがよぉ~!!

一応体は思春期なんだぞもう! 前世の魂があるからなんとか理性が勝ってるんだぞ!!

前世の16歳とか記憶があいまいだけど、たぶん毎日女体のことしか考えてなかったんだぞ!!


『ふむふむ、なにやら河原で助平な本を拾っていた記憶が……』


 やめろ! 今この瞬間に思い出したわ!!

仕方ねえだろ! 河原のエロ本には謎の魔力があんだよ!!


「明日は午後からだし、タリアナとアナンタ誘って飲みに行きましょ! アンタもアリシアちゃんとか友達呼んできなさいよ!」


「ああ……はい」


 ……美女と美少女しかいねえ飲み会じゃねえか。

任務の日は筋トレしねえから、まあいいけどよ……男が俺一人は辛いな。

よし、被害者としてムカスタを呼んで行こう。

綺麗所しかいないから喜ぶだろ。


 立ち上がると、ベッドに置いていた手紙が床に落ちた。


「あら、ご家族からの手紙?」


「いえ、訓練校の同期からです……行きましょうか」


 マルクからの手紙をテーブルに置いて、スキップするリタを追って歩き出した。

ちなみに内容は、


『お前には特別に教えておく……ミドンナ騎手がキスしてくるたびに舌入れてたら、この前ベッドに引きずり込まれました。俺は大人になってしまった……あと、魔物由来以外の理由で死ぬかもしれません。獣人の体力を舐めていました。ミイラになる。死んじゃう。たすけて。(意訳)』


……と、なっている。


あの野郎……一足先に大人になりやがって……!

元気で長生きしろよ! 

『プロローグ』前に鬼人の金玉製の強壮剤を送ってやるから頑張れ、親友!



・・☆・・



「「「かんぱ~い!!」」」


 がちん、とジョッキが打ち鳴らされる。

いつもの酒場で、いつものようにエールを煽っている。


「んぐんぐ……ぷは~! 今年ってやばいよね、全然寒くないし雪も降らないし!」


 口火を切ったのはリタだ。


「雪かきしなくていいのはいいんだけどね! アレ毎回めんどくせえからさ!」


 タリアナはこの中の誰よりも身長が低いというのに、誰よりもデッカイジョッキを持っている。

さすがはドワーフ。

生まれついての飲兵衛だ……たぶん肝臓が8つくらいある。


「俺は結構好きですけどね、雪かき」


「あはは、ロイドは変わり者だから……」


 なんだとアリシア。

お前だって相当なもんだぞ主人公様。

数多の騎手に口説かれてるのに、ヨロイの話しかしねえって評判だぞ。

その癖やたら距離は近いらしいからもう魔女だ、魔女。

火あぶりにされんように気を付けるんだな、この世界にその概念ねえけど。


「あんまり寒くないのはいいけどさ、やっぱりよくない予感がするよねえ……」


 アナンタは少し心配そうだ……

バルクハルク聖騎手が言うまでもなく、駐屯地全体に『この先、何か起こりそう』って雰囲気はジワジワ広がっているからな、現状。

まあ、楽観してだらける方向にいかないだけマシと言えばマシなんだが……


 以上、俺含め総勢4人のメンバーでの飲み会です。

――美女と美少女しかいねえじゃねえかよ!!


 あ? ムカスタ? 逃げたよ!!


『いい匂いが充満して呼吸しすぎて死ぬかもしれんから』とかいうワケの分からん理由でな!!

あいつ、ひょっとして以前に中央まで送った飲み屋の女の子に操でも立ててんのか……?


「こいつは羨ましいなあ坊主、両手から華が溢れてやがる」


 料理を運んできたおやっさん……元騎手の男が、ニヤニヤと笑っている。

この人は最後まで避難しないって、奥さんだけを中央への便に乗せたんだ。


「俺みたいな奴には目に毒ですよ。おやっさん……あの、疎開しなくていいんですか?」


 料理を受け取り、質問。

ふむ、今日のメインは芋料理か……酒に合っていいな。


「何が起こるかわからんのなら、飯と酒くらいはしっかり出せる店がいるじゃねえか。それに、いざとなりゃ俺ァ準騎手よりはマトモにヨロイが動かせるぜ?」


 そりゃ、騎手生活を『生き残った』もんな……


「むしろお前らみたいな若いのこそ、生き残らなきゃならねえんだぞ? 騎手は帝国の盾だが、それだけじゃねえ……次につなげていかねえと駄目なんだ」


 そう言うと、おやっさんは俺の頭をガシガシとかき回してから厨房へ戻って行った。

いいこと言うなあ、さすが元騎手。

『次につなげた』経験者でもあるし……


「あのね……おやっさんの息子さん、西駐屯地にいるんだってさ」


 おやっさんが厨房に戻ったのを確認して、リタが言った。

そうか……激戦区に……今はどうなっていることやら。


「『鉄壁』がいるなら大丈夫だと思うけど……楽観は駄目だよねえ」


 同じドワーフだから信頼しているんかな、タリアナ。

いや、『異名』持ちは一騎当千の騎手……しかも乗ってるのは仮契約とはいえ『オルヴァネイター』だ。

ウォードロンのような量産機ではなく、機能特化型のワンオフ機。

『原作』では大活躍したから、こっちでも大丈夫だとは思うが……

エキドナの動きが原作通りとは限らんけど、確かめる術はない。


「少なくとも、こっちだってヨソの駐屯地を気にする余裕はないわよ。まったく……帝都ももっと援軍を寄越してくれてもいいのにね~?」


「あのねリタさん、魔導院の先輩が手紙くれたけど……ちょっと南が騒がしいからそんなに出せないんだって……」


 南、南ね……ふん。

そっちは『原作』通りになりそうだな。


『ロイドの知っている原作通りですのね~?』


 ラギアギア帝国の南にある国とは、本編で色々、バチバチにやりあうことになるからな……

今はそれどころじゃないが、生き残れたら気に留めておこう。

そっち方面に回されるかもしれないし、生存者。


「それにさあ、南駐屯地は西方辺境領で一番損耗が少ないんだから。そりゃあ援軍も後回しってもんだよ」


 もう空になったジョッキに新しい酒を手酌でどくどく注ぎ、タリアナが言った。

俺達が遠距離無双してるからなあ……


「北では『鎧蜥蜴』の群れがよく出るってさ。アイツらってちょっと硬いからねえ……」


 北の方は本家本元だもんな。

この前みたいにこっちに出る方がおかしいんだよ。


「大丈夫よ! コッチにはアタシと……ロイドもいるんだからね! タリアナ!」


「へいへい、ご馳走様……でも、『遊撃隊』が活躍してるお陰でやりやすくなってるしね……古式ヨロイってのはいいもんなんだねえ。ロイドちゃ~ん、また見つけたら私にも1体おくれよ? それも重装甲でとびきり頑丈なのを、さ」


「あ、あはは……」


 残念ながら西方辺境領に『在庫』はないんよなあ……

そんなに情熱的に見つめないでいただきたい、ロリ巨乳よ。

酒で頬が赤いから、なんかすごい色っぽいぞ。


「見つけたのはヨロイで、俺じゃないんですよ……」


「駄ァ目~! 次はアタシのヨロイを見つけてから! ロイドと一緒に大活躍するんだからね~! 今だって大活躍してるけどさ!」


「むぐぐぐ」


 リタはすぐに抱き着いてくるな……俺を後輩兼抱き枕かビーズクッションとでも思ってんのかね。

よかったな、俺が理性の塊で……そうじゃなかったら、お前もう立って帰れないぞ。

おれの理性をキレさせたら大したもんですよ。


「でも、ロイドのヨロイのお陰で凄いヨロイに乗れてるんだよ、ボクも。ありがとね」


「使いこなしてるのはアリシアの腕前だからなあ……お前さ、時々瞬間移動してない?」


「え、えへへ、嬉しい」


 アリシアは、はにかみながら酒を飲んでいる。

深紅の髪がキラキラ光って凄い……綺麗!

俺の赤茶けたぼさぼさヘアーではこうはいかんな。


 本編主人公だからそうなのか、ヨロイが好きすぎるからなのか。

ウォードロンの出力もあるんだろうが、それにしたってコイツが乗ってると獣じみた反射神経で動くんよな。


『天性の才能、とでも呼べばいいのかしら……彼女、ひらめきとセンスは凄まじいですわよ?』


 ミュゼもそう思うか。


『んまぁ~? 乗っているのが精々高級量産機と、後々乗ってもわたくしよりも古いヨロイですからぁ~?』


 褒めたと思ったらこれだよ。

でもなあ……ここの近所にアリシアの未来の愛機こと『ヤルダヴァート』が埋まってたらなあ。

余ったウォードロンをリタあたりに回せるのになあ……

北方辺境領はさすがに遠すぎる……いったん帝都経由で向かわないといけないからな。

この状況だと敵前逃亡扱い待ったなしだよ。


「アタシだって中々のモンでしょ。ロイド~?」


「むががが」


 だから抱き着いてくんなよもう!

顔が母性の塊に圧し潰されてんだぞ! なんだこのエルフはもう!

リタにとって俺は一体どんな存在なのか、そろそろ気になってきた……


「りぃ、リタ上等騎手のツヴァンク捌きは天下一品ですよ、ハイ」


 実際、遺跡から発掘したロングソードを用いての接近戦では向かう所敵なしだと思う。

とにかく魔物の弱い箇所を斬るのがうめえんだわ……このヒトは。

後々登場する本編で大暴れする片鱗はもうある、凄いある。


「にゃーははは! 聞いた聞いたみんな、今の聞いた~!?」


 一瞬で機嫌を直し、俺を抱えたまま揺れるリタ。

いい匂いがすると思いきや、発酵の甘いエールの匂いしかしねえよ。

大分こぼしてんな……なんか胸元湿ってるし。


「はいはい、聞いてるわよリタ。あんたってば本当にロイドが好きねえ~? 私も若くて有望な部下に出会いたいわ~」


「そいつは私もそうだよ。最近の準騎手はひ弱な連中が多くってさぁ……」


 愚痴を言い合うアナンタとタリアナ。

それを楽しそうに見るアリシア。

そして、俺を抱えたまま上機嫌に酒を飲み……俺の後頭部に結構な勢いでこぼすリタ。

悪くないな、悪くない……この空気は。


 ――この日が、最後だった。

こんなにゆるく、満ち足りた、南駐屯地での幸せな日は。


 これから、俺にとっての人生最初の……試練が始まるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これ以上ない布陣にできたのに、 この日が最後の「安息日」か…
原作あり転生物は本編前にいかに準備ができるかだけど、壊滅状態以上の情報なしだと頑張るしかないもんな。現時点では知り合いの誰れヤバい状況でも助けたいと思うほど部隊の人間といい関係を結んでるし。  なんと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。