第37話 遊撃隊、奔走す。(帝歴1000年、11月)
『ロイド! そっちに行ったよ!』
アリシアからの通信。
「任せろ――そこォ!!」
右腕を滑らせつつ、ガトリングを発射しながら薙ぐ。
小高い丘になっている場所に着弾の土煙が立ち、向こうから躍り出てきた影を――薙いだ!
「――ギバボッ!?!?」
不明瞭な悲鳴を最後に、その影の頭が綺麗に吹き飛ぶ。
一瞬動きを止めたそいつは、ゆっくりを後ろ向きに倒れていく。
『ロイド! そいつで最後よ~!』
「了解!」
ガトリングを格納し、倒れた魔物に近付く。
画面越しに……黒く染まったムキムキの死体が見えてきた。
全長5メートル超の、ムキムキの死体である。
『解体は任せといてね! ロイドの剣だと全部切れちゃうから!』
足音を響かせながら寄ってくるのは、リタのツヴァンク。
もう既に、短いが鋭いナイフを握っている。
「すいません上等騎手、お願いします」
『いいのいいの~! 適材適所ってヤツなんだから!』
嬉しそうにそう言い、ツヴァンクはナイフをムキムキ死体の腹にどんと突き刺した。
うぐ……何故だろう、獣型の魔物ならそう思わないが……こうも『リアルなヒト型』だと、どうにもグロく感じるのは。
『人間さんって不便ですのね~? 二足歩行する生命体がみぃんな同族に見えるんですもの~?』
理屈じゃないんだから仕方ないじゃんよ。
・・☆・・
試運転も終え、晴れて俺達は部隊の枠を超えた『遊撃隊』としての任務を開始した。
メンバーは古式鎧騎兵に乗る俺、アリシア、アナンタ、そして我が上官殿であるリタ。
ここに、総責任者としてユーリ統括騎手かロジン統括騎手。
だったのだが……ロジンは5番隊と21番隊の人員をまとめて面倒見ており、実質ユーリがこっちに専属のような形になっている。
やっぱり大部隊を指揮するとなると、経験も豊富なロジンの方が都合がいいようだ。
ユーリの方は、柔軟な発想で我らの火器運用を指示してくれるしな。
こちらもまた適材適所ってわけだ。
で、今日も今日とて出撃したワケだが……
『前の『鎧蜥蜴』もそうだったけど、今回は『鬼人』……生息域が明らかに狂ってきているわ』
ユーリが解体された死体を見てそう言う。
俺が吹き飛ばした魔物の頭は、人間によく似ていた。
筋骨隆々のボディビルダーを5メートル級にし、頭に1本ないし2本の角を生やして紫がかった黒塗りにすれば……『鬼人』になる。
本来は、帝国よりも南の地域に生息している……前に戦った『手長』よりも頭のいい魔物だ。
群れで行動し、岩や金属を削ったり加工した武器を使い……ちょっとした初期文明のようなものさえ作り上げている。
それでいて、我らヒトとは絶対に意思疎通しないし、できない魔物……それが、『鬼人』である。
『こいつら、本当に連携がしっかりしてた。この子じゃなかったら攻撃を喰らってたかも』
アリシアが冷静に話している。
俺達は『手長らしき魔物を見つけた』という情報に基づいてここ……南駐屯地から南西に半日の距離にある森林地帯にやってきた。
しかし、そこで遭遇したのは『鬼人』だった。
ユーリの指示によって徹頭徹尾引き撃ちに徹した結果、さほど苦戦もしなかったが……『鬼人』の群れは予想以上に連携が巧みだった。
森に隠れてこちらに接近し、何匹かで隊列らしきものを組み……大岩を板状にした原始的な『大盾』を掲げて突っ込んできた。
そして、その後ろは投石用の岩を持ち、最後尾は近接用の棍棒を持っていた。
……まあ、偽装はミュゼが見抜いたし、岩の大盾は三連ガトリングで粉々になったけども。
だが、アリシアが言う通り……一般的な近接オンリー編成だともっと苦戦したことだろう。
まずアゴルム隊の被害が大きそうだな……どうしても動きが鈍いし。
『大量、大量~。これは高く売れるわよ! 皆射撃が上手だから綺麗に取れたし!』
ウキウキのリタが、ヨロイ用の袋を担いで戻ってきた。
アレの中身は……しっかり血を抜かれた『鬼人』の各種内臓である。
ヤツらの心臓は『動力体』の材料になる価値の高い素材なんだ。
他にも腱はいい弓の弦になるし……金玉、もとい睾丸は加工すると高級な滋養強壮剤となる。
異世界ファンタジーで言う所のオークって感じかな?
残念ながら、魔物の例に漏れず肉食うと死ぬけど。
『うっひひ、臨時収入ねリタ! これでいい酒飲みに行きましょ!』
『それいい! 素敵ね~!』
アナンタのウォードロンも嬉しそうに革袋を担いでいる。
俺も嬉しい、臨時収入は。
仕送りもしたいが……疎開の件もあって最近嗜好品が高くなってるからな。
ファーストコンタクトは最悪だったが、前世同様すっかりこの世界でも喫煙者になってしまった。
こっちの煙草は体にいいから、ヨボヨボの爺さんとかも喫ってるけどさ。
『統括、どうする? もう帰る?』
『そうね、そうしましょう。『鬼人』の内臓はさほど腐りやすいわけじゃないけど……それでも長持ちはしないもの。目的の魔物は討伐したし、野営するほどじゃないものね』
今回『鬼人』、しめて32体を屠ることになった。
とんでもない数だが、遠距離攻撃主体の古式ヨロイが3機もいればオヤツみたいなもんだ。
勿論、油断はしないが……安定した遠距離武器ってのはそれだけでチートなんだよなぁ。
『よし、ここで撤退するわ! ベルク二等騎手、殿をお願いできる?』
「ハッ! お任せください!」
いざとなれば魔力を強制的に回復できるから、それが順当だろう。
皆には教えてないけども。
『帰ったらピッカピカにしてくださいまし! 埃っぽい空気でお肌がザラついておりましてよ~!』
「はいはい、お姫様」
今更だけど、お前厳密にはザインブルグじゃないじゃん……
・・☆・・
『む? むむむ……?』
「何がむむむだ」
帰還中、急にミュゼが変な声を出した。
『少々お待ちになって……れーだーの感度を上昇させましてよ』
最近、俺の影響かすっかりカタカナ文字になってきたな……わかりやすくっていいが。
しばしの沈黙の後、ミュゼは声を張り上げた。
『皆様ぁ~! 後方にお気をつけなさって――上空に反応がありましてよ~!』
じょ、上空? まさか龍でも出たのか!?
『龍ならもっと離れていても莫大な反応がありましてよ! これはそれほど大物じゃなくってよ!』
とはいっても……空から来る魔物か!
『南地域には飛行型の魔物はいなかったはずだけど……もう今更ね! 古式3機は迎撃体勢! リタ機はドラウツェンの後方に!』
さすがは統括騎士。
いち早く戦闘体勢に入り、彼女専用の装備でもある大盾を構えた。
ロジンはハンマー、ユーリは分厚い大盾だ。
アゴルムでは持つこともできないほどの重さだろう。
『『『了解!』』』
一斉に動き出す俺達。
後方の空にはまだ何も……いや?
なんか、黒い点が複数見える。
『おっきくてぶっさいくな鳥さんでしてよ! 数、8ですわ~!』
でかい不細工鳥……まさか、アイツか?
『ユーリさんっ! 『大鷲』かもしれないよ!』
既に右腕の魔導砲を展開させ、アリシアが言う。
『大鷲』……その名の通り、遠くから見ればデカイ鷲によく似た魔物だ。
アニメで見たが、近付くと鷲どころか鳥類に見えない。
だって……頭部じゃなくて胴体に顔があるし。
「ミュゼ、内蔵火器で対応可能か?」
『とりあえず牽制でミサイル、本番でミサイル、駄目押しでミサイルでよろしくってよ?』
お前ひょっとしてミサイル撃ちたいだけだな?
でもまあ……それでやってみるか。
「射程に入り次第ミサイル斉射、タイミングは任せる。俺は撃ち漏らしをガトリングで狙う」
『あいこぴー! でっすわ~!』
記憶由来アニメの影響かちょいちょい変わるな、了承の台詞。
ややっこしいから統一してほしいんだが。
『撃ちます!』『こっちも!』
先に、2機のウォードロンが右腕の魔導砲を撃ち始めた。
真の遠距離武器はアレしかないもんな。
魔弾が空を切り裂き、推定『大鷲』に殺到していく。
その弾丸は1匹の翼を射抜いて、体勢を崩させる……お、やるな!
飛行型の魔物は厳密には翼だけで飛んでるわけじゃないが、翼は魔力の放出器官だからな。
そこをやられると飛べなくなるか、飛行速度が明らかに落ちる……っと!?
『散開しましたわ! んでも~? 既にまるちろっく済でしてよ~! ファイア! ファイア! ファイア!』
勢いよく両腰から放たれていくミサイル!
撃ち尽くすと魔力で再装填し、しばらくしてからもう一度全弾が発射される!
空中に放たれた誘導弾が、左右に広がった『大鷲』目掛けて分裂を繰り返して猛追していく!
「ギュアァ!?!?」
ミサイルの一発が着弾すると、大鷲が悲鳴を上げて動きを止めた。
そいつに、ミュゼが操作した残りのミサイルが殺到、空中で粉々になっていく。
『空の魔物がこんなに楽に相手できるなんてね!』
『ええ! 普通なら投石とかバリスタ頼みだもんね!』
距離が近付いてきた大鷲の群れに、ウォードロンの砲弾も再度命中し始めた。
大鷲たちはミサイルをなんとか躱そうと慌てているので、結構砲弾が命中している。
俺は、撃ち漏らしに向けて三連バルカンをサイティングして放っている。
「統括! 大鷲の体で貴重な部位はありますか!?」
『特にないわ! しいて言えば羽がいい枕の材料になるくらいね! でも気にしないで!』
了解、それならグズグズになっても大丈夫だな!
『ろっくおん、発射! ろっくおん、発射ですわ~!』
俺の魔力のこともちょっとは考えてくれないかな、コイツ。
本当にトリガーハッピーなんだから……あとなんでロックオンの発音だけたどたどしいんだよ。
ちょっとかわいいな。
『気が散りましてよ~!』
すまんすまん。
『おおっと、1機、いえ1匹こちらに突っ込んで来ましてよ! 魔力が高い……ボスでしてよ!』
「了解! 長を撃つ! 頭部魔導機銃も起動! 左腕と合わせて四門で狙う!」
こちらに向かってくる影は、他の連中よりも大きい!
的がデカいとやりやすいねえ!
「――全力斉射ァ!!」『粉ッ々にしてやりましてよ~!』
両腕と頭部から、魔弾が滝のように放たれる。
思いっきり撃つと流石に消費がキツいな……インジケーターの目盛りがジワジワ減っていく。
「ギュウウガァアア!? ゴォオオアア!? ギャアアアッ!?」
長らしく、しばらくはシールドによって凌いでいたが……これだけの物量差はどうにもできんらしい。
あっという間にシールドが消滅し、長の体中を抵抗なく魔弾がハチの巣にしていく。
やがて悲鳴も消え、重力に従って……長は墜落。
盛大に土煙と血煙を上げた。
『残敵、ありませんわ~。皆様、お疲れでしてよ~』
ミュゼの声に力を抜く。
『大鷲』は初遭遇だったが……流石に古式ヨロイ3機の敵じゃなかったな。
『ノン! わたくしとザインブルグ、そしてロイドが筆頭でしてよ!』
ああうん、そうだね……
『仕事が全然なかったけど、まあ楽な分には文句ないわね! さあ! 今日のアガリでいいお酒飲んじゃうわよ~! ロイドもね!』
「はい!」
リタはいつでも元気だなあ……




