第36話 試運転、付き添い。(帝歴1000年、11月)
『凄い凄い凄いよ~! 出力がツヴァンクの比じゃないよ~!!』
『あっははは! なにこれ、なにこれ~!!』
目の前を、2機のウォードロンが駆けている。
地面を蹴り飛ばし、後続のヨロイを置き去りにして。
『あなたたち! 嬉しいのはわかりますが落ち着きなさい! 先行しすぎよ~!!』
俺と並んでいるドラウツェンから、ユーリの声が響く。
『いいな~。ロイドロイド、次遺跡で見つけたらアタシに乗せてね』
「俺が発掘したわけじゃないんですけど……」
リタのツヴァンクが、ザインブルグの肩をゴンゴンつついている。
『リタさん! 装甲に傷がつきましてよ! おやめくださいまし!』
『ミュゼちゃんごめーん』
ミュゼまで加わって姦しいこった……
リタもすぐに仲良くなったな、それにしても。
ウォードロン2機の『本契約』後、ユーリはロジンと一緒にバルクハルク聖騎手の元へ向かい、この度の顛末を報告した。
ロジンは前から内蔵火器については知っていたが、上手いこと誤魔化してくれたみたいだ。
そして、その会合の結果……『魔物の異常発生現象が終わるまで、この情報は秘す』という結論に落ち着いたってワケだ。
じゃあ他の騎手にはどうするかと言うと……どこから情報が漏れるかわからんので、何かが起きるまではそっちも内緒にしておく。
結論として……ザインブルグを始めとする古式鎧騎兵3機は、ユーリかロジンの管轄となり……『遊撃隊』として活用されることになった。
どういうことかと言うと、哨戒任務で『手に負えないくらいの魔物』が出ると俺達が出動。
遠距離からズタズタにして殲滅、という形になった。
これならバレる心配はない。
もしもの時の護衛として、事情を知っている5番隊と21番隊から上等騎手以上の人員が護衛に付く。
……5番隊からは、本人の強硬な主張によってリタがほぼ固定メンバーになった。
そのさらに控えとして、トッド上等騎手もな。
だけど、リタはずっと自分がついていく! って主張してたから……まあ、そうなるだろ。
我ながら愛されたもんだわな。
そして、本日。
11月も中旬を過ぎた今……ユーリ統括騎手の元、内蔵火器の『試運転』として哨戒任務に出ている。
それにしても、情報を全部開示したわけじゃないが……これで少し気が楽になった。
あ、言ってないことはミュゼとの脳派リンクとか、血を抜かれた本契約のこととかな。
念話というか、テレパシー機能はウォードロンに搭載されていないので……言っても混乱させるだけだってことで。
魔力の『供給』についてもだ。
やっぱりザインブルグは特別なヨロイだなあ……わかってたけども。
『もっと褒めてもよろしくってよ~? おーっほっほっほ!』
脳がキンキンする……!
あんまり感情豊かなんでユーリも驚愕してたぞ。
本当ならウォードロンの『精霊』でも驚愕レベルなのに、すっかり感動がかすんでたじゃねえかよ。
可哀そうなカーナビくんたち……あっちは基本的に質問したことにしか答えないけど。
『喜怒哀楽の概念すら知らない連中でしてよ。わたくしとは違いますわ~?』
じゃあお前は何なんだよ……
『あらまあ、『お前は何か』と聞かれて、ロイドは答えられまして~?』
すまん、哲学的な質問はサッパリなんだ……俺は思想家じゃないからな。
『前方! 距離200セグント! 『三本爪』、確認したよ~!』
『こっちも! 数、おおよそ10! 統括統括、やっていい? やっちゃっていい~?』
おっと、アリシアたちが魔物を見つけたか。
さすが古式ヨロイ、目がいいねえ。
あ、ウォードロンたちにはザインブルグみたいな全周囲モニターは搭載されてないけど……バイザーでの視界はむっちゃよく見えるらしい。
ミュゼに言わせれば『廉価版の量産型』だけど、この時代なら超一流の性能だ。
アリシアたちに追いつくと、もう既に片膝をついた射撃体勢になっていた。
AIに聞いたのか、初めてなのにしっかりしてんな~、姿勢。
俺は前世で見た数々のロボアニメの記憶でわかってたけど、この世界ってまず遠距離攻撃可能なヨロイが少ないからな……
『わたくしも麗しい異名が欲しいですわ~! 『赤い彗星』とかよろしいのではなくって?』
そりゃ赤いけど……通常のヨロイより三倍以上速いけど……それは駄目だろ。
コイツ、俺の脳から直接ロボアニメの知識まで読んでやがるからなあ。
いいよな、当の本人たる俺は忘れかけてても、記憶上はクリアに見えるらしいからな。
いつか超暇になったら、夢の中で上映会して欲しい。
今はそんなことしてる暇ないけども。
『『レッドバロン』とかもいいのではなくって~?』
赤いけど……俺男爵じゃないし……騎士爵だし……
バイクかロボか戦闘機かわかんないし……
『許可するわ! 両名、内蔵火器を起動なさい! いけそうなら撃っていいわ!』
お、見とかなきゃ。
射撃体勢になったウォードロン。
その右腕の装甲板が展開し……ライフルみたいな筒が出て来た。
単発式だからな……見た目は中距離用って感じかな?
『撃ちます!』『こっちも!』
どん、どん、どん……くらいの感覚で、魔弾が発射されていく。
サイクルは遅いが、威力は十分……こちらに走ってくる三本爪が、一撃で体を捥ぎ取られて即死していく。
『なんて威力……それに……2人とも! 魔力は大丈夫なの!?』
『大丈夫! 全然疲れないよ!』
『帝都で乗ったノイネリッターと比べ物にならない魔力変換効率よ、統括!』
俺は乗ったことはないが、帝国製のヨロイとは比べられん感じだろう。
杖ですら最低10倍程度の差があるんだからな……
三本爪はどんどん数を減らし、それでもこちらに向かってくる。
生存本能どうなってんだよっていっつも思うわ、魔物ども。
戦闘になったら頭のネジが100本くらい抜けるんだろうか。
『統括! もう1つの火器も試したい!』『あ! 私も私も~!』
『許可するわ、でも無理はしないで!』
許可が出ると、2機はすぐさま立ち上がって走っていく。
そして、距離を取って並んだ。
その2機に、三本爪が複数体飛び掛かろうと近付いて――
――胸から広範囲に広がる魔力波に巻き込まれて、バラバラ死体へと形を変えた。
おお、拡散魔導砲ってああなるのか……! 近接なら威力は高そうだな!
『は~、しょっべえ威力ですこと~?』
そういうこと言わないの……お前が凄すぎるだけなんだから……聞こえてないからいいけども。
『すっごい! これすっごい~!』『遠くから敵を蹂躙できるって……楽でいいわね!』
アリシアたちは大喜びだ。
魔力切れも起こしていないようだし……これは凄まじい戦力向上になるぞ!
『ベルク二等騎手、貴方も試して頂戴。ちょうどお代わりが来るから』
「了解!」
リタは見慣れているのでもう何も言わないが、ツヴァンクは小さく手を振っている。
器用なこっちゃ……
アリシアたちが挽肉にしたのと同じ三本爪が、喚きながらコッチへ走ってくる。
危機感がなさすぎる……いいけどさ。
「ミサイル準備」『しておりましてよ~』
走ってアリシアたちに追いつき、前に出る。
「お前の好きなタイミングでやれ」
『たーげっとろっく! ミサイル斉射、ですわよ~!』
テンションの上がった声と一緒に、両腰のミサイルが放たれる。
計4発の光弾が斜め上に飛び――炸裂。
無数の弾頭に分かれ、それぞれの目標へ向かって疾駆。
あっという間に、都合8匹の三本爪の脳天が綺麗に粉々になった。
遠すぎて悲鳴も聞こえんな……っと、まだ来るか。
「両腕部魔導機銃、起動!」
装甲板が分かれ、せり上がるガトリング。
「銃身回転開始――全力斉射ッ!!」
射程に入った瞬間、三本爪が粉々になっていく。
もうすっかり慣れたもんだから、左右の腕で別々の目標を撃つなんてのもお手の物だ。
光と共に魔物がミンチになっていき……む! 最後尾の奴は長だな、ちょっとデカい!
そんなら……!
「頭部バルカン起動、同時発射!」『倍返しだ~! でしてよ~!』
コイツは油断したら名台詞を喋る……!
頭部の二門と、両腕。
計4つの発射口から放たれる無数の光弾が、こちらへ猛進してくる長に着弾。
数発程度は奴の展開した障壁に阻まれたが……数の暴力で体が削れていく。
ザインブルグから200メートル程度の所で、長の体は作りかけのジグソーパズルめいた状態になった。
そのまま、走ってきた勢いで倒れて……即死。
『は~! 撃ち甲斐がねえですわよ~! もっとガッツを見せてくださいまし~!!』
敵は弱ければ弱いほどいいから、それについてはノーコメントだ。
「統括、排除完了しました」
『……ハッ!? そ、そのようね……なんてこと、ウォードロンの時点で規格外なのに……凄いわね、ザインブルグは。あなたの魔力量も……』
あっけにとられた感じだな、ユーリ。
なんか……すいません、ウォードロン。
お前らの衝撃を上書きしちゃって……
『凄いよロイド! その腕の奴、もう一回見せて! 見せて~!』
アリシアは普段の冷静さというか、淡白さはどこかへ消えさっている。
その気持ちはヨロイにも出ていて、今もザインブルグの目の前で小刻みに飛び跳ねている始末だ。
『とんでもないわね……それ、絶対にドラウツェンみたいな指揮官機でしょ』
アナンタはどこか冷めているけど、それでも声には熱がある。
魔導院直属部隊だもんな……やっぱりヨロイには興味があるんだろう。
『ロイド~! 凄いわ! よくやったわ~! さっすがアタシの素敵な部下よ~ッ!』
そしてリタは基本的に俺を褒めないってことはない。
慣れてはきたが、背中がこそばゆいねぇ……
『ほーっほっほっほ! ああん! 賞賛が心地よいですわ~!』
コイツのメンタリティは無敵だな。
AIだからかもしれんが。
・・☆・・
『周辺に敵影ナシ、そりゃあ昼間にあんだけぶち転がしたら当然でしてよ』
「だよなあ」
ザインブルグのコクピットから見える景色は、すっかり夜だ。
今回の試運転兼哨戒任務は、1泊2日の日程なので今日は野営となっている。
俺以外のメンバーが上位騎手で占められており、不測の事態が発生してもすぐに逃げられるって寸法だ。
俺が二等騎手の原則通りにアゴルムに乗っていたら、きっと俺だけ逃げ遅れる。
アレも悪いヨロイじゃないが……鈍重すぎるからな。
『ロイドロイド~、まーたミュゼちゃんとお話? ねえねえ、アタシも混ぜてよ~』
夜警組のリタからの通信だ。
『よろしくってよ、一緒にお話しいたしましょう。わたくし、エルフの方とお話しするのは久しぶりでしてよ』
『え? シグムント王国にも同族いたんだ……ウチの部族にそんな伝承ないんだけど』
あ、そうなの?
それ系は設定資料にも出てこん情報だからなあ。
『ええ、たくさんいらっしゃいましたわ。特によくお話したのは……『明けの森』のミュリオーネさんですわね~。今でもお元気だと嬉しいのですが、どちらにいらっしゃるのやら……』
ガタン! と音がした。
リタがコクピットでひっくり返ったようだ。
ベルト締めてなかったな……
『あいだだ……う、うっそでしょ!? 『明けの森』っていったら……北方の『始祖の世界樹』があるとこじゃない!? エルフはエルフでも……エルダーエルフじゃないの!?』
あ、それは知ってる。
ただでさえ寿命の長いエルフの中でも、アホみたいな時間を生きてるエルフだ。
原作にも出てきたな……ミュリオーネって名前じゃなかったけど。
『あら? 違う種類でしたの? それでしたらリタさんはおいくつなのかしら? ミュリオーネさんはよく『自分は500にもなっていない若造』とおっしゃっていましたが……』
『若造じゃない! 死ぬ死ぬ死んじゃう! ウチら普通のエルフの寿命は精々500年だもん!』
そんなに違うのか……そりゃ、たしかに別種と言っても過言じゃないなあ……
俺みたいなヒューマンからしたら、そもそも500年でも超長いんだけど……




