第34話 波乱の誕生日。(帝歴1000年、10月)
「ロイド~! 16歳おめでと~!」
「おめでとう、ロイド」
ガツン、と合わされるジョッキ。
そうしてくれたリタとアリシアに向けて、俺もそうする。
「ありがとうございます」
今日は俺の誕生日だ。
誕生日を祝う風習がない帝国において、我が上官殿やアリシアはそうではなかったらしい。
こうして市場の酒場で祝われている。
これで16歳になっちまったな……
あっという間の1年だったよ……
『おめでとうございましてよ! 前世を含めると『カンレキ』くらいかもしれませんわね~?』
……いいんだよ、記憶は曖昧だし、それに体は若いんだから……!
あ~、するっと17歳になれればいいんだけどなあ……
『そこはロイドの頑張り次第でしてよ、お気張りになってくださいまし~!』
……まあ、そうだよなあ。
と、いうわけで10月になってしまった。
あれからも魔物の数は日に日に増えていき、『哨戒任務』ではなく『交戦任務』に従事することもまた増えた。
我が南駐屯地はまだ死者こそ出していないが……怪我人はいる。
そして、ヨロイも損耗率も上がっている。
この時代のヨロイはどうしたって近接戦偏重になるから、魔物に接近すれば不慮の事故も増えるし……防御をしてもダメージは機体内部に蓄積されていく。
やはり、運用故仕方ないが……アゴルムのダメージが増加傾向にあるようだ。
「2番隊のギャバン準騎手、片手片足の骨折で中央駐屯地で入院だってさ……ここの設備じゃ対応できないからってね」
リタがジョッキを煽りながら言った。
ああ、同期の1人だ。
真面目で堅実な男だったけど……それでも怪我したのか。
「ヨロイが地面に足を取られた所に『二本角』が突っ込んできたんですって。アンタたちも気を付けなさいよ~?」
遠距離で対処できるならともかく、二本角のタックルは脅威だからなあ……
装甲も厚いし、突進力は侮れない。
「リタさん、それじゃ2番隊はどうなるの?」
「予備役のドワーフが入る予定だけど、そもそものアゴルムが損傷してるから……修理待ちみたいよ。胸と左肩関節が破損してるみたいでね」
「ああ、関節の部品は数が少ないし、調整も大変だから……」
しかしリタとアリシア、仲良くなったなあ。
まあ、アリシアは主人公だけあって誰とでも仲良くなれる性格だし……リタの方も同年代みたいな接し方だもんな。
「お、やってるね~、混ぜて混ぜて」
そんなことを言ってたら21番隊のアナンタも来た。
おお……白黒エルフの揃い踏みだ。
……あれ?
「アナンタ上等騎手、腕をどうされました?」
ちょい前に名前で呼んでもいいと言われたのでそうしているが……右腕に包帯が巻かれている。
「あーこれ? 今日8番隊の手助けで交戦任務に出たんだけどさ、手長に殴られたアゴルムを避けきれなくってね……打ち身よ、そんなたいした傷じゃないわ」
見た所本当にただの打ち身のようだ。
そうか、味方がぶつかってきたのか……この人も操縦技術は一級品だから、味方を受け止めようと一瞬判断に迷ったのかもしれん。
「アナンタも助っ人? アタシもよ~! ロイドのサポートしなきゃいけないのにさあ、なーんで他のとこばっかり……」
ぐでえ、とテーブルに突っ伏すリタ。
うわ……胸が大変なことになってる……
「リタ上等騎手は凄腕ですし……あと、俺は二等騎手になったので厳密にはもう直属ではないので、その件もあるのでは?」
「うぇへへ……うん、アタシ凄腕。って、直属だろうとそうでなかろうとロイドはアタシの大事な部下! 部下だもん~!」
「ぐぅうええ」
何が気に障ったのかはしらんが、急に抱き着くのはやめてくれ!
わかった! わかったから!!
面倒見が良すぎる……やっぱりこの感じで部下と所属部隊が2回も全滅したらあんな感じの原作キャラになるわ、この人。
『わたくしもロイドの記憶で知って驚きましてよ? 同姓同名の別人だと言われた方がまだ信用できますわ~?』
ダウナーな表情だと雰囲気も変わるからなあ……
あと、原作ではもっと前髪が長いし。
今思えば、傷もあったしなあ……
「あはは。ロイドとリタさん、いつ見ても仲がいいね」
「仲がいいって言うか、保護者って言うか……ま、悪いよりはいいわよね」
アリシアたちはニコニコしながらお茶を飲んでいる。
……助けてくれまいか?
「――ベルク騎士爵!」
あ、久しぶりな気がするエリオット=ファンガリア上等騎手だ。
後ろの取り巻き共も全員いるな……性根はともかく、連中も腕は確かなようだ。
怪我してないし。
「ふん、変わらずに励んでいるようだな!」
「はっ、ファンガリア上等騎手もお元気そうで!」
……ひょっとして俺の様子を見に来たのか?
こんなデレはいらないんだけど。
「当たり前だ! あれしきの魔物どもに我がツヴァンクはビクともせんわ! 我が配下たちもな!」
「それは、素晴らしい! 流石は上等騎手のお手並み! 他の皆様も……その技量! その勇猛さ! 自分も大いに見習いたく思います!!」
おお、上機嫌がわかりやすい。
取り巻き連中もニコニコじゃないか。
なんか最近俺に対する警戒を解いたのか、親分に似てチョロいですねキミたち。
……いい奴らじゃないけど、悪すぎる奴らでもないのかも。
取り巻きは原作に出てこないし……たぶん、連中が死んでさらに性格が歪んだ感じなのかな、エリオットは?
「……時に、中央駐屯地の聖騎手のことだが」
すすす、と寄って来るファンガリア。
香水が臭いのはマイナスポイントなんだよな~……もうちょっと薄めにすればいいんでないの?
俺が獣人なら吐くかもしれんぞ。
ホラ、人より感覚が優れているエルフのリタもなんかうげ~って顔してるし。
「……アレは公爵家たちの恥部のようなものだ。アレを見て公爵家を知った気になってはいかんぞ、ベルク騎士爵よ」
耳が早いというか、なんというか……
コイツ、プライドも気位も高いし能力もあるから……アレ系はほんと嫌いなのかも。
「はい、いいえ上等騎手! 常日頃のファンガリア公爵家の誉れの高さを思えば、まさか……かの方を同一視などは……滅相もございません!!」
「……そうだ! そうだ騎士爵よ! それでよい! ふふふ……そのまま励むのだな! はーっはっはっは!!」
肩を叩くな肩を。
お前、しっかり鍛えてるから地味に痛いんだよ。
「ハッ! ありがたき幸せ!!」
ドヤ顔全開で去って行く一行を、酒場の皆が『またかよ……』って顔で見送りつつ、酒の肴にしている。
もう風物詩の一種みたいなもんだな、アレ。
「……ふう、行った行った。飲み直しましょうか」
椅子に座り直すと、リタのジト目が返ってきた。
「アンタ切り替え早いわねえ……ま、ロイドがいるとアイツの被害に遭わないからいいけどさ」
「そーそー、腕は悪くないけど、っていうかむしろいいけど……アイツ、他国出身者とか平民に超上から来るもん。本人は助言とかのつもりなのかしらね、アレって」
他国出身かつ爵位ナシのエルフたちは冷めた顔をしている。
「ボクなんかまだ継いでもいないのに、この前いきなり『そこの女男爵!』って言われてびっくりしたよ……なんで男爵家だって把握してるんだろ、ちょっと怖い」
くぴくぴと茶を啜るアリシア。
基本的に爵位で話しかけるもんな、アイツ。
そういえば俺の騎士爵も初めから把握してたし……奴の頭の中には貴族名鑑でも入ってるのかもしれない。
「……まあ、例の聖騎手のような無体はしない方ですから」
「比べる対象が悪すぎるわよ……中央の奴でしょ? 前にロイド引き取りに行った時にアイツったらずううううううっとアタシのおっぱいしか見てなかったわよ……あんな直球な変態、生まれて初めてだったわ。聖騎手じゃなきゃぶん殴ってたわ……!」
ド直球すぎるな……俺だって見ちゃうがさすがにガン見はせんぞ。
「ま、そんなことより追加よ追加。アタシはエールにするけど皆は?」
「私もそれでよろしく、あと燻製盛り合わせ」
「ボクは葉野菜のサラダ追加で」
「俺は燻製腸詰と冷やし黒茶を」
ともあれ、こうして誕生日の夜は更けていくのだった。
平和だな……毎日こうだったらいいのにな……
・・☆・・
「ヨロイ立ち上げ、急げ!」
「偵察部隊は何してやがったんだ!!」
「今それ言っても仕方ねえだろ! 急げ急げ!」
こんなに早いフラグ回収とかふざけんなよ……なんて思いながら、握った水晶球に魔力を流す。
「10番機、いけます!」
微かな振動と共に、ザインブルグが立ち上がった。
「よーし! 西門に走れ! あ、そうだ内側で『例の武器』は使うんじゃねえぞ!」
「了解ッ!!」
ドワーフの整備士に怒鳴り返し、5番隊宿舎の格納庫から小走りで出る。
遠距離武器のことは、5番隊限定で開示してるからな!
「リタ! お前無理すんな死ぬぞ!」
「おぶぶぅ……ろ、ろいどがいくのにアタシがいかないなんてぇ……」
……誕生日会で飲み過ぎたリタが、ドワーフに取り押さえられている。
あんなに飲むから……
「リタ上等騎手! あなたの分まで働いて来ますから、安心して休んでてください!」
「う~にゅ~……ろいどがいいこぉ……しゅきぃ~……」
力なく手を振る彼女を横目に、出撃する。
気持ちよく帰って来て、風呂にでも入るかと思ってたらこれだ。
なんでも、駐屯地の目と鼻の先まで魔物の群れが来ているらしい。
種別も定かじゃないが……駐屯地の危機かもしれん。
部隊に関係なく出撃する必要がある。
『ロイド、ボクも一緒に行くよ!』
「はいよ、心強いね!」
21番隊宿舎から、アリシアのウォードロンが飛び出してきた。
2機で並び、道を走る。
駐屯地の宿舎周りは、ヨロイが全力疾走しても壊れないようにしっかりと固められている。
そのおかげもあって、俺とアリシアはあっという間に西門の内側に来た。
『反応、来ましたわ! 確かに門の向こうに魔物がいましてよ! まだ取りつかれてはいませんわ~!』
「了解……アレを使うか!」
門前は何機かのヨロイが渋滞を起こしていて、すぐには出れそうにない。
「アリシア! 先に行く!」
『わかったー! 気を付けてね!』
助走を付けて……ジャンプ!
「噴射ッ!」『らーじゃ!』
跳躍の頂点で噴射機構を作動させ――城壁を跳び越える!
ここの高さは5メートルちょいで、外堀があるから……これくらいなら跳び越えられる!
『んま~? なんですのアレ? 龍にしては不格好ですのね?』
空中で、外にいる魔物が見えた!
翼のない龍にも見えるそれは……馬鹿な! なんでこいつがここに!?
「――鎧蜥蜴だ! かなり北にいる筈なのに……!」
装甲マシマシのコモドドラゴン、というかもう恐竜だな!
北駐屯地からさらに北にしか生息していないのに……
ともかく、その鎧蜥蜴は……見た所3匹!
どこかの部隊のヨロイと戦っている。
「こちら5番隊のベルク! 助太刀します!」
『おお、古式ヨロイのベルクか! 助かる……だがここはいい! 一番奥へ行ってくれ! 苦戦してる!』
「了解!」
古式ヨロイのベルク……『訓練狂い』とかよりはマシだな!
『このまま直進ですわ! ポンコ……半壊したアゴルムが襲われておりますわね!』
コイツ今ポンコツって言いかけたな……だが了解、加速!
地面を蹴ってショート噴射! 三段跳びのロングバージョンで、急ぐ!
何度目かの短距離ジャンプで――見えた!
鎧蜥蜴にのしかかられている……アゴルム!
奥にもう1機転がっているが、そっちは動いてない! 腹が無事だから生きてると思うが……
『ぐぅああ!? 誰か、助けて――装甲が破れる!?』
「そのまま寝てろ!」
背中から引き抜いたランスを右手で握り――魔力を流す!
「――ブーストッ!!」
そのまま、少し跳躍して――投げる!
真っ直ぐ飛んで行ったランスが、今まさにアゴルムの腹を噛み破ろうとしている鎧蜥蜴の首に突き刺さった!
「ギィイイイイエ!?!?」
「――でいりゃぁッ!!」
走り込んだ勢いで、首からランスを生やしたそいつを蹴って引き剥がす!
悲鳴を上げて地面に仰向けに転がる鎧蜥蜴を――腰から抜いた『リュンゼル』で突いた!
一瞬だけ展開された魔力の刃が、柔らかい腹を破って背中から突き出す!
息の根が止まったのを確認し、緊張を解いた。
『新手はありませんことよ。あなたも随分操縦が巧みになりましたわねえ』
「ふぅ……とんだ誕生日だった、ホント」
今日くらいは勘弁してくれよ……
しかし、魔物の生息域すらバグってきたか……いよいよって感じだな。




