第33話 内蔵火器、全解放。(帝歴1000年、9月)
『――いいかロイド、無理だけはするな。お前に昏倒される方が大変なんだからな……全部をなんとかしようと考えないことだ』
「はい、統括。肝に銘じます」
通信越しに聞こえるロジンの声は、俺への心配に満ちている。
『そうよ! いざとなったらアタシが担いででも帰るわ!』
リタもそうだ。
心配されるのは仕方ねえな……俺、5番隊で最年少だし。
『――来るぞ! アゴルム隊は大盾を構え、10番機の側面に展開!』
『『『了解!!』』』
仲間たちの頼もしい声に……俺は両手で球を握りしめた。
『いっきますわよ~! 今日は撃ち放題でしてよ~!!』
……コイツはブレんなあ……
・・☆・・
猛暑は9月に入っても緩むことはなく、俺達は日陰にへばりつくようにして生活していた。
そんな今朝、ロジンによって俺達は全員招集された。
哨戒の順番もまだなのにどうしたんだろうと思っていたが……
『哨戒に出た10番隊が負傷者多数で撤退し、その後を魔物の群れが追っている。よって、儂らが代わりに出撃することになった……南駐屯地初の交戦任務だ』
と、いうことになった。
前にも言ったが交戦任務とは、哨戒任務で接敵した魔物を壊滅させられなかった時に発動される任務だ。
『魔物の群れだが、種族違いの混成だそうだ。にわかには信じられんが、心してかかれ……総員! 出動準備!!』
そう檄を飛ばされ、俺達は10分ほどで支度を整えて……西に向かっての出撃となったわけだ。
『確認しましたわ。距離500セグント、土煙で見えにくいですわねえ……ええと、『二本角』でしてよ! 推定頭数は、最低でも20!』
今朝を思い出しながら、気を引き締める。
俺の目には平原に上がる土煙にしか見えないが、ミュゼが言うなら間違いないだろう。
「――推定『二本角』確認! 近付かれる前に数を減らします……アゴルム隊、もう少し横に離れてください!」
『わかった、頼むぞ』
ザインブルグの両足を肩幅に開かせ、腰を落とす。
今から撃つものの反動は『夢で』知っているが……現実ではどうなるかわからんからな。
睡眠訓練以外は毎日のようにザインブルグに座って、あの気分が悪い魔力総量の増大に勤しんできたんだ……やるぞ!
「ミュゼ! 『完全起動』――背部装甲板、展開!」
『ちょっと!? ロイドのヨロイ、背中が割れたんだけど……えぇ、なにそれ~!?』
リタの驚愕音声を聞きながら、振動を感じている。
今のザインブルグは、背中を覆っている装甲板を左右に展開させ……折り畳まれた『砲身』を、右肩の後ろから伸ばしているんだろう。
リンクしているからか、肩甲骨のあたりに違和感がある。
『砲身展開完了……射撃位置へ! ですわ!』
展開しきった砲身が前方に倒れ込んできて……その砲身を右手で掴み、固定。
「魔導弾、加速開始……!」
『魔力循環正常、加速、問題なく実行中』
背後の『動力体』が輝き……掴んでいる砲身から振動が伝わってくる。
『高出力魔導加速砲』……その名の通り、砲身内で魔弾を加速して放つ、いわばレールガン。
まあ、加速させるのは実体弾じゃないし、電気も流れないがな。
あくまで俺のイメージはそれだ。
『出力上昇……60、65、70、75……』
「ぐ、ぬぅ、ぬぅう……!」
振動が増大し、『動力体』の光が明滅する。
魔力総量は増えてるはずなのに、相変わらず消費がえぐい……!
まあ、初めに夢で使用した時は発射した瞬間に魔力が半分消えたから成長と言えば成長、なんだが……!
『95、100……! 撃てましてよ!』
視界には、土煙から多数の角が突き出しているのが見えてきた!
よし……狙いは先頭の個体、顔面にロック!
「――発射ァッッッ!!」
――ぢ、という聞き馴れない音。
「反動、制御!」
発射の衝撃に倒れないように、下半身を意識する――
『だんちゃ~く……今ッ!!』
400メートル以上の距離を、発射された魔弾が一気に駆け抜けて――先頭の二本角を貫いた。
遠すぎてハッキリとは見えないが、顔の真ん中からケツに向けて一直線に大穴が開いた気がする!
「よぉ、し!」
そして、それだけではなく……魔力を含んだ衝撃波が、着弾地点を中心に炸裂!
土煙を晴らし、固まって突撃してきた二本角の群れを、バラバラに砕きながら吹き飛ばす!
『おーっほっほっほ! 素ッ敵な威力ですわ~! ケダモノが木端微塵でしてよ~!』
おお……こうして見ると圧巻だな……
『一応、供給しておきましてよ』
「ぬぐぅう……!」
体感で2割ほど減った魔力が、ジワジワと戻っていく……この速度ならなんとか我慢できるな……!
『キャーッ! すごいすごい! ロイドったらすごーい! 今ので半数以上死んだわよ~!』
『なん、とも凄まじい……ロイドは休んでおけ! アゴルム隊、10番機の前に展開! 生き残りを迎え撃つ!』
『『『了解!!』』』
「りょ、了解」
まだ撃てるが……やめておこう。
皆に任せて、魔力の回復を待つか。
『畜生、まだ来やがる……! 統括! 今度は『三本爪』と『大兎』が混じってやがるぞ!』
砲撃を潜り抜けてこっちまできた二本角は、全部で8匹。
初撃で10匹は殺したが、戦意は十分以上だった。
だが、ロジンのドラウツェンとツヴァンク隊が問題なく皆殺しにした。
そして一息ついていたら……新手! ヴェロキラプトルとクソデカ兎が徒党を組んで走ってきた!
どう見ても20匹以上はいるな……よし、使うか!
「統括! 初撃はお任せを! もう一つの武器を試します!」
『先程の他にもまだある、か。わかった、頼むぞ!』
「了解!」
完全に回復した魔力を練って……意識を、胸に向ける!
「充填開始……!」
『胸部装甲、左右展開。砲口露出……出力安定、でしてよ』
がごん、と音。
胸の中心が開き、左右へと展開された音だ。
『ちょっとォ!? 今度は胸が開いたんだけど、どうなってんのそのヨロイ!?』
そりゃ、普段から開きっぱなしだと粉塵とか入っちゃうしな……
体から吸い出された魔力が、前方……胸に集中!
『充填魔力、通常発射域。撃ちまして?』
「まだだ、距離があるからもうちょい溜める……!」
画面の隅にインジケーターめいたものが表示される。
ミュゼがやってくれたんだな……
今は半分以上溜まってる……もうちょい!
『魔導圧縮反応、臨界点でしてよ』
「よし……『薙ぐ』動作はお前に任せるぞ! ……発射ァッ!!」
投射された画面が、一瞬白くなる。
元に戻った時には、既に魔物の集団に……胸から発射された極太の光線が直撃していた!
〇レストファイアー! とでも叫びたい気分だな!
『――踏ん張りなさって! 『薙ぎ』ますわよ~!』
ぐん、とザインブルグが上半身を回す。
それに追随して、光線が魔物を薙いでいく。
『胸部魔導凝集光砲』は、魔力に強い圧力をかけて胸から発射する。
さっきの加速砲とは違って一撃の破壊力は小さいが……
『おーほほほ! これはこれで素敵でしてよ~!』
今群れているような比較的防御力が低い連中は……圧縮された魔力が刃のようになって、斬れる。
現に今も、ウォーターカッタ―のような感じでスパスパとバラバラ死体を量産している。
運よく射線を躱せた奴も、バラバラになった味方の成れの果てに躓いて将棋倒し状態だ。
『おっと、砲身加熱警報。一旦中止、ですわ~』
ビームが停止し、装甲板の隙間から蒸気に似た余剰魔力が噴き出た。
……ふぅ。
『おお……すげぇ! 何だ今の』
『ロイドのヨロイが持ってる剣を伸ばした感じか』
『おい、もう十分だから休んどけよ! 楽させてもらった分、後はこっちに任せな!』
仲間たちが口々に通信しながら、ザインブルグを追い越して前に出ていく。
五体満足で残っている魔物たちは……うん、そう多くないな。
もう一度任せよう。
『なるほど……中央駐屯地のアイツが欲しがるわけだな、これは』
横にはロジンのドラウツェンが付き、俺を護衛するようにハンマーを構えている。
「あの聖騎手のこと、ご存じなんですか?」
『バハラク公爵家の……庶子だ。どんな手管を使ったかは知らんが、いつの間にかあの地位におさまっていた男でな……堂々と苗字を名乗っているのも謎だ』
バハラク公爵家……うげェ!?
原作にも出てくる、陰謀大好きなクソ公爵家じゃないか!?
主人公、もといアリシアも色々と妨害工作とかされてたなあ……特に中盤がなあ、色々えげつない手を使ってきやがって……
しかし……なるほど、納得。
あの家の出身なら庶子だっていっても何某かのコネ的なもんはあるだろ……絶対。
「それは……」
『平時ならまだしも、このような場合においては枷にしかならん男だ。儂もバルクハルク聖騎手経由で帝都の『騎手院』に苦情を上げてはいるが……さて、どうなるかな』
あ、クレームとかは入れてくれてるのか。
『『原作』に出てこないのなら、たぶんどこかの道端で野垂れ死にするのではなくって?』
原作通りに歴史が進むならな……でも、家の連中は出てくるんだよなあ。
アリシアには申し訳ないが、クソを煮詰めたようなカスばっかりなんで絶対に関わりたくねえ。
その癖失脚するのは中盤を過ぎた後だからなあ……
もしも俺にちょっかいかけてきたら、原作知識で失脚を速めてやんよ……!
『先の展開を知っていても、証拠がなければ先に排除するわけにもいけませんものね~? シグムント時代にもああいった手合いはいましてよ。人類というものはどうしたって『バグ枠』というものが発生するのかもしれませんわね~?』
かもしれんな……蟻にだって一定のニートが発生するくらいだし。
『――いずれにせよ、巻き込まれて損害を出すようなことでもあれば……その時には『不幸な事故』にでも遭ってもらおうか』
底冷えのするロジンの声が響く。
……最終的にはそうなるかもしれんなあ、アイツ。
案外、それが原作に出てこない理由なのかも。
西方辺境領崩壊のドサマギでこう……サックリと。
『でいりゃぁあああッ!!』
突撃したツヴァンクの中でも、最も先頭にいるリタ機が大暴れしまくっている。
例の遺跡から回収した切れ味のいいロングソードを振るって、三本爪や大兎の首という首を狩り続けているな……まるで無双ゲームだよ、見た目が。
純粋な操縦技術なら、たぶん5番隊、いや南駐屯地でも最上位ランクだな。
人間が生身でやる演舞みたいな動きをよくもまあヨロイで……
『あら、わたくしもその気になればできましてよ! ロイドだってそうでしてよ?』
できるけどやったらゲロ吐くよ、あの動きは。
なんだよ、宙返りして魔物を踏みつけにして跳ぶって。
俺ならガトリングで掃射するなあ。
『数は多かったが、これならなんとかなる。しかし、西に続きここでも魔物が増えて来たな……』
ロジンの声に、ちょいと現実に引き戻されちまった。
……そうだな、これからだもんな。




