第30話 唸れ、ドリルランス。(帝歴1000年、7月)
『っち、魔力に気付かれた……こっちへ来る、補足される前に離脱する!』
バッシュからの通信が響き、全隊に緊張が走った。
『どのみちこれだけのヨロイがいれば『長』は誤魔化せんな……総員! 応戦用意! アゴルム隊は変わらず密集して盾を構えろ! ツヴァンク隊は遊撃だ! 俺が指示したとおりに動け!』
ずんずんと、ヨロイたちが動き回り始めて地面が揺れる。
どうせ気付かれたんなら、もう今更だしな。
『じゃ、先に準備だけはしておきますわ~。ちょおっとチクッとしましてよ~?』
「いっづ!?」
シートから針が飛び出て、背中の数か所に軽く刺さる。
初めてコイツに乗った時を思い出すぜ……!
俺がミュゼに指示した『供給』という言葉。
正式名称は『大気圧縮式魔導供給装置』
それは、一定以上の『オルヴァネイター』に搭載されている……『搭乗者への魔力供給装置』のことだ。
通常、失った魔力は時間経過で回復するか、『魔力補填薬』って薬を使うしかない。
後者は回復魔法を使える職種に国から支給される程の貴重品だ……買えないこともないが、俺の給料では月給の半分以上が吹き飛ぶし、辺境では満足に出回っていない。
『供給』は、大気中の魔力をヨロイが取り込んで圧縮し、搭乗者に強制的にぶち込む装置だ。
時間経過の何百倍も回復は早いが、その分体に与える負担は大きい。
魔力の枯渇と急回復を短時間に何度も繰り返すと、最悪の場合は脳に悪影響が発生する。
だから、できれば『プロローグ』まで使わずにいたかったが……この状況では仕方がない。
「俺の魔力量がヤバくなったら、遠慮なく使ってくれ」
『かしこまりましたわ~』
息を整えていると……前方の丘を越えてバッシュのツヴァンクが駆けてくるのが見えた。
速い……人間が全力疾走するような走り方ではなく、小ジャンプを繰り返すように跳びながら移動している。
もう発見されたから、音を消す必要はないってことだろうな。
「ゴーラム上等騎手、先頭の1匹目に突っ込みます。せめて2匹はこちらに引き付けますので」
『わかった。重ねて言うが無理すんじゃねえぞ、お前には19機の味方がいることを忘れんな』
「了解です!」
両手で球を握り込み、魔力を流す。
俺の魔力が、ザインブルグを通して右手のランスに流れ込む……イメージ!
『動力体』の輝きが強くなり、高出力を示す重低音が響き始める……!
「最終安全装置解除だ、ミュゼ」
『了解……魔導経路接続、仮称『ドリルランス』……暖気開始しましてよ!』
右手に振動が伝わってくる。
槍の部分が変形し、表面に突き出た棘を含んだ部分がゆっくりと回転を始めた。
見てるだけなら格好いいんだけどなあ……
『んなっ!? なにそれ……か、かっこいい~……!』
アリシアもそう思ってるみたいだな……気が合うねえ、主人公!
『こっちに来るぞ! 前に1匹、遅れて2匹だ!』
バッシュ機が駆け込んできて、腰からロングソードを引き抜きつつ振り向いて戦闘体勢。
それと同時くらいに……前方の丘から影が飛び出してきた!
「ホォォオオヴァアアアアアア!!」
今日まで散々ぶち殺してきた『手長』を、一回り以上大きくしたような姿をしている。
どちらかと言えば細めの体系だった手長だが、そいつは……異様に上半身と腕が発達している。
その強靭な腕で、地面を大きく抉りながらこちらへ向かってきている。
ほとんど足使ってねえな、アレ。
ともあれ、アレは間違いなく今までで一番の強敵だろう……遠距離攻撃以外の出し惜しみは、ナシだ!
短期決戦で片を付ける――!
「やるぞミュゼ! 『完全起動』ッ!!」『っしゃあ! ブチ上げでしてよ~!』
動力体がさらに光り輝き、体から出ていく魔力の総量が明らかに上がった!
「――ベルク二等騎手、吶喊しまァす!!」
地面を蹴る、蹴った瞬間に――
「――噴射機構! 最大出力! 1セクタッ!!」『らーじゃっ!』
――シートに体が押し付けられる。
殴りつけるような重力と少しの浮遊感を感じた瞬間には、手長が目と鼻の先にいる。
なんて、凄まじい加速、力――!
「――チャージッッッ!!」
魔力の光を撒き散らしながら高速回転するランスを突き出し――突撃。
視界に大写しになっていく手長の顔が、大きく目を見開いて……体をよじろうとしている。
「逃がす、かァ!! ランス、ブーストォッッ!!」
右から圧力が強くなる。
ランスから後方へ向けて、圧縮された魔力が高速で噴出されていく。
ザインブルグが揺れ、装甲が軋み、さらに加速! そして――
「ホギャッ――!?!?」
なんとか回避しようとした手長の右胸に、ランスが食い込む。
皮を、肉を巻き込んだ瞬間、鮮血がほとばしり――勢いよくその内部に、穿孔していく――!!
「オォオオオオオオオオオオッ!!」
右胸の部分を半分以上引き千切り、ランスが貫通。
よし! コイツは後方に任せよう!
俺の相手は――仲間の惨状に目を見開いている、後方の2匹、だ!!
このまま、速度を落とさずに――ジャンプッ!
「噴射機構再始動! 最大出力、1セクタ!!」『らじゃらじゃ、ですわ!』
ぐん、と再び加速! 吐きそう!
今まで稼いだ速度を落とさないように、新手へ!!
「チャージッッ!!」
こちら寄りの1匹に向けて、踏み込む!
「ッホッホッホッホ!!」
距離がある分、そして仲間がやられた分……対処できる時間があったか!
手長は腕を大きく振り上げ、俺の突撃に合わせて振り下ろしてくる!
「舐、めェ! るなぁ! ブーストッ!」
ランスの方も全力で噴射させて――その腕の、内側に、突っ込む!!
「ボギャァアアアアアア!?!?」
鳩尾に食い込んだランスが、血と臓物を撒き散らしながら穿孔!
『きったねえですわ!? メインカメラが汚れましてよ~!!』
「たかがメインカメラが汚れただけだ!!」
投射される視界が赤一色だが、問題ない!
「千切、れろォ! 死ねェえッ!!」
「ギャアア!! ギィイイイイイイ!?!?」
手長を縫い付けたまま、両足で着地!
地面に足がめり込む感触と、振動……ブレーキ!!
同時に振動するランスを――右へ振る!
そし、てぇ!
「左腕三連魔導機銃! ゼロ距離ッ!!」『極短距離消失術式、起動でしてよ!』
盾から手を放して――展開したガトリングを手長に押し付ける!
盾は肘にひっかけてあるから落ちない!
「撃てェ!」『ファイアファイアファイア! ですわ!!』
密着した状態でガトリングが吠え、あっという間に手長の胸に細かい穴が開いていく!
後続からはザインブルグが壁になって見えないし、手負いの手長に集中しててそれどころじゃないだろ!
ほんの数秒、撃つだけでいい! このモードがあってよかった!
「おうりゃぁあああああッ!!」
ぶちぶちと嫌な音が響き……ランスとガトリングで大穴の空いた手長の体が、上下に千切れた!
よし、2匹目はこれで――
「ぐあッ!?」
コクピットが轟音と同時に振動!?
なんだ、何をされた!?
『投石でしてよッ! 残り1匹、こちらに向かって来ますわ! 左斜め前!』
手長の死体を捨て、赤い視界で確認――飛んできた岩を盾で防ぐ!
結構な威力だ……暴れすぎてこっちを標的にしたか!
「ホォオオオオ! ボバアアアアアア!!」
「うるせぇ――サル野郎! ランス、ブーストオン!!」
手長が新しい岩を投げようと振り被った瞬間に――石突から魔力を発生させるランスをぶん投げる!
ジャイロ回転で安定したランスは、光の尾を引きながら真っ直ぐ飛んだ!
「ぐぅ、う! 噴射機構、最大! 0,5セクタァ!!」
『魔力危険域、供給開始でしてよ』
加速するコクピットの中で、魔力が急回復!
っぐ!? すんげぇ気持ち悪ィ! たしかに、これを複数回繰り返すのは体に悪そうな予感しかしない!
「ガギャギィイイイイ!?!?」
中々機敏じゃん手長! 左腕しか捥げてねえな!
だけど――!
「――っだらぁあ!!」
ランスを必死で避けた手長は、盾ごと突っ込んだザインブルグには反応できなかった。
タックルと同時に付きつけた『リュンゼル』が、その胸の中心で――刃を発生させる!!
「ホ、ギョオオオオオオオオッ!?!?」
毛を焦がしながら背後に貫通する魔力の刃は、数瞬後に心臓を破壊した!
『きったねえですわ! きったねぇですわ~!!』
我慢しろ! 近接縛りなんだから!!
俺だって嫌だよ!! 画面にグロいもんが大量に張り付いてるんだからな!!
……手長は地面に倒れて死んでいる。
魔物は確かに脅威だが……心臓を破壊されて生きてる連中はいないからな。
あ、部隊の方はどうだろうか!?
『問題ありませんわ。あの金棒を持ったポンコツが挽肉にしましたわよ』
「だから帝国製のヨロイをポンコツって言うなよ……総出力、いつものに戻しといてくれ」
復唱はなく、体に感じる重圧が半減した……
わかってたけど、完全起動モードは魔力がゴリゴリ減るなあ。
とりあえず、ランスを拾って帰ろう。
『ロイド、それ大丈夫?』
「返り血と返り臓物だ。死ぬほど嫌だが問題ないよ……そっちは?」
部隊の方に戻ると、アリシアのウォードロンが駆け寄ってきた。
手に持った槍に返り血が付いてるってことは、彼女も戦ったんだな。
『大丈夫! ロイドが活躍したおかげ……すごいね! 手長の長を2匹もやっちゃうなんて!』
「凄いのはヨロイだよ」
おお、地面で手長が死んでる。
……上半身がほぼないんだが?
『ベルク! よくやったな……損傷はないか?』
金棒を持ったツヴァンクがこちらを向く。
……俺と同じくらい返り血まみれだな。
たぶん、あの棍棒でメタメタに殴ったんだろう。
「問題ありません、ゴーラム上等騎手。奇襲が上手くいきました」
『さすがは古式ヨロイといったところだが……お前も腕を上げたな。アレだけの挙動をして昏倒していないのがその証拠だ。『訓練に取りつかれた男』の面目躍如だな』
俺そんなダサい名前で呼ばれてんのかよ……
訓練校時代の『ヨロイ狂い』とどっちがマシなんだろうか。
『ツヴァンク隊、半数が前進! この先の状況を確かめろ! それ以外のツヴァンクはこの場で警戒! ラシュムーン、お前も確認する方へ回れ! ベルクはここで休め、少しでも魔力を回復させておくんだ!』
『『『了解!』』』
「了解!」
さっきの『供給』でほぼ全快なんだが、ここは従っておこう。
『ロイド~、川が、川があったら洗ってくださいまし~ッ!』
あったらな、あったら。
わかったからそんな情けない声出すなよ……




