第29話 中央駐屯地へ向けて。(帝歴1000年、7月)
「おぉおおおッ!!」
気合を込めて叫ぶと、背後の『動力体』の輝きが強くなる。
「ホファ! ギッギギギギ!!」
「離れろ! なんか臭い気がするッ!!」
唸りを上げるザインブルグの左腕が、力強く前に振るわれる。
何かが軋むような異音を発生させながら――盾に腕を叩きつけていた『手長』の体がザインブルグの力で揺らぐ!
「でいッ――」
さらに押し込み、相手の体がバランスを崩して後ろに倒れていく。
その、のけぞった喉を――
「――りゃぁッ!!」
ふぉん、と軽い音を立てて――『リュンゼル』の光刃が通過。
不細工な顔を歪ませ、目を見開いた手長の首が……後ろに落ちた。
一拍置いて、首からはどす黒い色の血が噴出する。
「……ふぅう」
大地に倒れ込んだ首なし死体が痙攣するのを見つつ、俺は息を吐いた。
『あーっ! ザインブルグの機体がくっさい返り血まみれですことよ! 嫌ですわぁ~! 川の近くに行ったら必ず洗ってほしくってよ~!』
脳内にキンキン声が響く。
……コイツどんどん面白AIになってねえかな?
「……それには同意だな。それで、周辺の状況は?」
『ん~……あ、今最後の1匹がジョーブツいたしましたわ。ロイドのお友達の赤毛ちゃんがやりましてよ』
視界の隅に、アリシアのウォードロンが手長の顔面を槍で貫くのがちょうど見えた。
アイツもやるねえ……っていうか、素の操縦技術は俺よりも上なんでねえかな?
こっちにはザインブルグっていうでっかいアドバンテージがあるが。
『よくやったラシュムーン! よーし! それで最後だ! 各員、損害報告ッ!!』
『こちらバラン! 左腕に損傷、装甲表面だけです!』
『こちらトルニム! 無茶な殴り方をして右手の動きが鈍いです!』
『こ、こちらムカスタ! 胸部装甲板に損傷! 表面だけです!』
四方八方に散っている仲間たちの声が通信に集まってくる。
ムカスタ……うん、外から見ても嘘じゃなさそうだ。
初めて戦ったが……『手長』の腕によるぶん殴りは脅威だな……
初めて『手長』に遭遇してから3日後。
俺達は、馬車の群れを護衛しながら……中央駐屯地まであと1日の距離まで到達していた。
本当なら昨日くらいには到着予定だったんだが……『手長』の群れが散発的に襲ってくるせいで、計画ほど進めてない。
どこで連絡を取ったのか知らんが……連中は、なるほどいやらしい。
一気に攻めて来ず、散発的に原始的なゲリラ戦のような戦法を取っている。
岩の影、林の奥、森のはずれ。
こちらが視認しにくい場所から、何度も何度も襲撃を受けた。
……護衛対象を含めて、俺達は100人くらいだから……さぞ魅力的な『餌場』に見えているらしいや。
もっとも、実戦になるとただ突っ込んで来るだけの連中だから……俺達は、いまだに1人も倒れていない。
ちょっと疲れで倒れそうな顔をした奴らもいるにはいるが。
『損傷機を内側に入れる! 無事な機と交代しろ! ベルク! お前は最後方を頼む! ラシュムーン機は中段だ! 中央駐屯地からもヨロイ隊が派遣されるはずだ……それまで誰も死ぬんじゃないぞ!』
『了解!』
「了解!」
ゴーラム上等騎手の号令で、陣形が変更される。
古式鎧騎兵2機を同じ位置に置いとくのは悪手だからな……
それにしても、やっぱりアゴルム隊の損傷が激しいな……
動きが遅い分、基本的な戦術が『防いで殴る』だし。
躱せる機動力があるツヴァンクとは違う。
もう一つ気になることがある。
中央駐屯地からの援軍……昨日には合流できてるって話だったんだがな?
向こうで何かトラブルでもあったか?
この世界、長距離通信魔法とかはない……わけじゃないが、この時間軸だと帝都で研究段階なんだよなあ……たしか、正式採用されたって描写は12巻だから……今は考えるだけ無駄か。
なお、今は鳩によく似た鳥を使った通信が戦場では主流である。
馬とかは魔物に見つかったら喰われちまうからな。
街道は安全だったが……これからはどうなるかわからん。
「ムカスタ、あとちょっとだから頑張れ。無理すんなよ」
『おう、こんなとこで死ぬわけにはいかねえしな……任せとけよ』
そう言いつつ、戦列の最後方に移動している。
くっそ……これが11月とかなら、思う存分遠距離無双してやるんだがな……
もし使って中央駐屯地から帝都に報告でもされたら、『プロローグ』までに魔導院行きが決定しちまうよ……
『12月にむっちゃ魔物来るから勘弁して! 来年まで待って!!』なんて言えんからなあ……
『わたくしも早く大暴れしてえですわね~?』
「お前ミサイル撃ちまくりたいだけだろ。このトリガーハッピーめが」
『ロイドの前世には素晴らしい言葉がありますのね~』
「褒めてないんだが……ま、いいか」
愉快なトークをしつつ、早歩きで最後尾に到達。
『ところで、そのランスの機能なら開示してもよいのではなくって? 『リュンゼル』はもう見せましてよ』
「開示してもいいけど、純粋に俺が疲れる」
ザインブルグの後ろ腰に懸架された馬上槍。
今までは使用しなかったが、コイツにも別の機能がある。
『わたくしの担当技官はよく『不合理』と言っていましてよ。懐かしいですわ~』
「そりゃ、遠距離攻撃手段山盛りの時代ならな……」
このランス、正式な名前は……『魔導噴進式穿孔槍』と言うらしい。
『リュンゼル』みたいな名前がないのは、まだ試作段階の兵器だったから、らしい。
らしい、と言うのは……この機能をちょいと前にミュゼに教えられたからだ。
俺はそれまでやたら頑丈なランスとしか思ってなかったからな。
「背中の噴射機構よりはマシとはいえな……先の見えない状態で魔力を大量消費するのはキツイよ」
『確かにそうですわねえ』
このランス、安全装置を解除した状態で魔力を流すと……槍の根元と、石突の後ろから圧縮して噴射する。
いわばジェット噴射みたいなもんだ。
で、その状態で十分に加速すると……今度は変形した槍全体が噴射する魔力で回転を始める。
突進力と、高速ドリル回転で敵の装甲を抉りつつ貫通する……って感じか。
控えめに言って浪漫の塊だが、それは傍から見てるならそう言えることだ。
『当事者』としてはたまったもんじゃない。
実際、夢の中の訓練で試したらとんでもねじゃじゃ馬だったからな、魔力ドカ食いするし。
『リュンゼル』の連続稼働とどっこいどっこいの消費量だぞ。
『全隊! 前進!!』
おっと、列が動き始めた。
もう手長の群れはこりごりだよ……頼むから来ないでくれ。
・・☆・・
『全隊停止! 前方から、戦闘音だ! バッシュ上等騎手、偵察を頼む!』
『了解!』
歩き出して3時間くらい経つ。
……確かに、街道の先から何かが聞こえる。
ここからじゃ、間にある丘に遮られて何の音かわからんな。
『――金属が割れる音、それと複数の獣の声、ですわ!』
さすが、耳がいい!
そりゃあどう考えても戦闘音だな……
『偵察が戻るまでそのまま警戒! アゴルム隊は大盾を構えて馬車を囲め!』
『『『了解!!』』』
今偵察に出たバッシュ上等騎手は、ツヴァンク乗りの中でも機体制御が抜群に上手いベテランだ。
全力疾走しつつ、音を極力出さないという上級技能が使える。
自分の足で走るわけじゃないのに、なんて優れたイメージ力だ……今までの経験が濃いんだろうな。
「ゴーラム上等騎手! こちらベルク二等騎手! 後方に敵影無し、前方に合流してもよろしいですか! こちらのヨロイが前方からの異音を拾っています!」
『耳がいいな、そのヨロイ……いいだろう! こっちへ来い!』
「ハッ!」
『リュンゼル』を持ち、前方に向かって移動を開始。
ちなみにザインブルグは『ロイドのヨロイ』とか『5番隊の古式ヨロイ』って言われている。
だって俺は対外的には古代文字を読めないことになってるし、『精霊』と会話できないってことになってるからな。
あの遺跡に追加調査が入ってもいないし、伝える手段がないのだ。
21番隊は行きたがっているが、状況がそれを許さない。
「ミュゼ、情報を拾い続けてくれ」
『かしこまり~でしてよ~』
力が抜けるなあ……
隊列を横切り、ゴーラムの横に到着。
彼のツヴァンクは、もう例の長大な金棒を大地に突き立てて保持している。
『ふむん……間違いありませんわ、戦闘音ですわね。それも……劣勢ですわ、金属を殴りつける音が断続的に聞こえていましてよ』
っち、やっぱりか……
「上等騎手! 獣の吠える声と、金属が殴られ続けている音が聞こえます!」
『……中央からの援軍がやられている可能性が高いな、それは』
ツヴァンクの腕が動き、金棒をずんと肩に担ぐ。
『だがまだ動くな、バッシュ上等騎手が帰るまで待――』
『――なんてこった、中央の援軍は壊滅状態! 5セグント以上はある大型の『手長』だ! しかも……3匹!!』
バッシュの声にざわ、と通信内に声が広がる。
その大きさ、間違いなく群れの『長』だ。
だけど……
『馬鹿な……長が徒党を組んでいるだと? そんなのは聞いたことがねえぞ』
『バッシュのやつが見間違うとは思えねえが……』
『この戦力で、殺しきれるか? 後ろに馬車を抱えてるってのに……』
これは……不味い。
退くことはできない……ここらは見晴らしがよく、手長の視力はいい。
今はまだ見つかっていないが、向こうが全滅してるってんならこちらに気付かれるのも時間の問題だ。
バッシュが偵察に行ける距離なら、20機のヨロイが出している魔力にすぐに気付かれる……!
……『奥の手』の一つをここで切る必要がある、な。
「……ゴーラム上等騎手、敵がこちらに来るなら自分が先陣を切ります」
『威勢がいいな、ベルク。何か秘策でもあるってのか?』
ごくり、と唾を飲み込む。
ぶっつけ本番だが……やるしかねえ。
遠距離攻撃を封印して、強敵に当たる……その手段を。
『リュンゼル』を腰に戻し、背中からランスを引き抜く。
さっきはやらねえって言ったが……この場ならこれしかないな。
「コイツを使って、敵をかく乱します。隙ができたら、囲んでぶち殺してください」
『……自信はあるのか?』
夢の中では成功しました、とは言えんな。
「失敗しても、死ぬ気はないです。全力でやります」
しばらく通信の向こうが静かになる。
『……どちらにしても、3匹に同時にかかってこられるよりはマシ、か。危険だと感じたら絶対に無理はするなよ……』
こちらを見るツヴァンクの目が光る。
『お前さんが死んじまうと、俺がリタに殺されちまうからな』
「ああ、それは怖いですね。俺ももう一回殺されそうです……了解」
軽口で返し、少し前に出る。
左手で盾を構え、右手のランスをきつく握る。
「……ミュゼ、『供給』の準備を」
『言うと思っていましたわ。やれと言われればやりますけど……わたくしが危険だと判断したら中止しましてよ』
「はいよ、相棒」
……やるか。




