第25話 実地訓練、大規模。(帝歴1000年、5月)
『抜けたぞロイド! 頼む!』
「了解ッ!」
通信に叫び返し、意識を集中する。
『来ましてよ! 正面、距離35セグントですわ!』
「――頭部二連魔導機銃、起動! 斉射ッ!!」
コクピットの上の方……ザインブルグの頭部から振動。
ミュゼが指定した円に向かって、青色のレティクルが重なる。
次の瞬間には、斜め上から連続した魔弾が放たれた。
「――ビギュッ!?!?」
それは、今しがた木立から飛び出した魔物……うすらでかいウサギのバケモンの頭部に着弾。
首から上を穴あきチーズめいた肉塊に変えた。
そいつは走ってきた勢いのままに、地面に転がる……どう見ても死んでるな。
「よし!」
『ヒューッ! こいつは楽でいいぜェ! でかしたロイド!』
サイム二等騎手の歓声が響く中、俺は緊張を解いた。
『凄まじい威力だな……ロイド、魔力は大丈夫か?』
「はい、問題ありません」
5番隊の皆が集合し、死体を検分していたロジンが聞いてきた。
『ロイドってば凄いから大丈夫よね~? アタシが魔力循環もほぼ毎日教えてるしね~?』
ロジンのドラウツェンの傍らで、リタのツヴァンクが嬉しそうに揺れている。
「ええ、上等騎手のお陰で魔力には十分な余裕があります」
『聞いた聞いた総括ゥ!? アタシの教えよ、アタシの~!』
嬉しそうにもほどがあるだろ……
『んま~! 何を言いますの! わたくしとの脳内訓練のたまものでしてよ! お間違えなさらないで!』
お前も張り合うんじゃないよ……向こうに聞こえないのに……
『遠距離攻撃がこれほどの頻度で可能とは……これでは『ノイネリッター』が玩具に見えるな』
「元々の技術力が段違いでしょうからね……」
ロジンが言った『ノイネリッター』ってのは、帝国が技術の粋を結集して帝歴995年に作られた……『魔法攻撃』主体の鎧騎兵である。
魔導院の協力で作成された長杖型の武装を持つのみの、徹頭徹尾遠距離攻撃に特化したものだ。
だが、原作知識からすると動きは遅いし装甲も薄い。
搭載された『動力体』のエネルギーをほぼ全て魔法攻撃させることに振り分けているのだ。
アニメ版では後々接近戦の標的になってたなあ……
『統括! 北方に新たな反応……『大兎』がまだいます!』
『話はここまでだ、ロイド……無理のない範囲で援護しろ。頭なら潰しても言い訳になるが、胴体は撃つなよ』
「はい!」
おっと、新手か。
大手を振って火器が撃ちまくれるんだ……楽しいねえ!
――と、いうわけで。
我が5番隊は今年に入って2度目の大規模哨戒任務へと出ている。
今回は南駐屯地から東へ2日の距離までだ。
以前にリタから言われたように、俺は今年に入ってから5番隊限定でザインブルグの火器について情報開示をした。
ロジンからは何故上に報告しないのかと聞かれて、『まだ未知数な状態だし、このタイミングで帝都に招集でもされたら辺境防衛の任務に支障がある』と言っておいた。
納得してくれたようだな……ザインブルグ1体抜けただけでも辺境領は大変だしな。
現在は特に何も起こっていないとはいえ、『プロローグ』にここにいないって状態はまずい。
それに……帝都でどれだけ調べても、このヨロイの技術を転用できるとも思えない。
なので、しかるべき時……プロローグが発生する今年の12月まで、俺はここを離れるわけにはいかん。
……実はミュゼと一回相談したことがあるんだよ。
『魔導院に全面協力し、プロローグまでに帝国の技術の底上げをして対応することは可能か』ってな。
んで、その答えは『ノー』だった。
シグムント王国の技術は帝国とは比べ物にならんほどの水準にある。
あるが、その間を埋めて一足に技術革新をするのは不可能なんだそうだ。
『足し算引き算を勉強している子供に、いきなり特殊相対性理論の概念を教えるようなモノ』だと、俺の脳内知識を引用しつつ教えてくれた。
……それは駄目だな、うん。
ヨロイに使われている技術だって、ミュゼが知っているものを作り出せる加工技術自体がまだ未発達なんだそうだ。
ソフトもハードも、俺がミュゼと出会ったころに全面協力しても到底開発は無理だとのこと。
だから俺達は、いつものように訓練に勤しみまくる道しか残されていないというわけだ。
話を戻して……本日は晴れて皆の前で内蔵武装を初披露する日だ。
これまで21番隊のアレコレでバタバタしてたから、このタイミングならいいかと思ってな。
『先の出来事がわかっていても、言えないというのはヤキモキしますわね~?』
「俺と同じ気持ちになってくれて嬉しいよ、ミュゼ」
腕部三連魔導機銃を放ちつつ、答える。
コクピット内部の会話は、俺が意識しないと外に伝わらない。
脳のリンクが進んだのか、馴染んだのか……ともかく、イメージが飛躍的にスムーズになった。
クソデカ兎……『大兎』というあまりにも安直な名のそいつが、遠くで頭部を吹き飛ばされた。
うし命中確認、待機。
『それで最後だ! よくやったロイド!』
「ありがとうございます!」
今回はザインブルグの能力を見つつ、部隊全員も普通に戦う。
俺だけに任せるということにならないの、ほんといい部隊だわここ。
嫉妬とかも全然ないみたいだし……チーム単位で動くからかな?
「あとなあ……未来をわかっている、ってのがそもそもの間違いかもしれんしな」
『まあ、そうですわね。あなたの知っている物語そのままという保証はありませんし』
再びミュゼとの会話に戻る。
そこが一番の問題なんだよなあ……地理情報とかは合致しているが、歴史が一致するかは未知数なんだよ。
それなら『プロローグ』も起きないんじゃないか……なんて、思いたくなるが。
「今年に入って明らかに増えてるもんな……魔物」
『ですわねえ。駐屯地での会話からコッソリ統計をとっておりますけど、異常な数値でしてよ』
――魔物の出現数が、多くなっている。
これは、間違いのない事実である。
いつもは5匹程度の群れで行動する魔物が、今では10匹いることもザラだ。
まだ死者は出ていないが、南駐屯地全体で怪我人が増えつつある。
ヨロイを破壊されて……というわけではなく、衝撃による打ち身や骨折などでだ。
骨折ともなれば活動可能人員は減り、それで怪我人がさらに増える悪循環も始まっている。
俺のいる5番隊や、古式鎧騎兵『ウォードロン』2機を抱える21番隊は大丈夫だが……欠員により仮合併目前となっている部隊もある。
……去年俺に模擬戦で太鼓にされた公爵家ボンボン新人のいる13番隊も、その1つだ。
あの新人は大怪我して、今はここを離れた中央駐屯地の病院へ叩き込まれている。
謎の自信に裏打ちされたアイツは、無理に突出して『二本角』3体に袋叩きにされたそうな……死んでないけど、南無南無。
このままアイツは離脱かねえ? ある意味幸せもんだわな。
そういえば、プライド激高なファンガリア上等騎手も、『同じ公爵家として情けない限りだ!』とコメントしていた。
アイツはバリバリの差別主義者で選民思想持ちだが……唯一の美点として『貴族として上に立つものは、勿論人として優れていなければならない。優秀な公爵家として下々の愚民共を導かなければならん』という考えを持っているって所だ。
歪んではいるがアレも一応『ノブリス・オブリージュ』かもしれん……俺に今の所実害がないからそう言えるのかもしれんが。
『まだ来ましてよ! 誘導弾の使用を推奨しますわ~!』
「頼む! 火器管制は任せた!」
言うや否や、両腰から放たれるミサイル!
空中で炸裂した弾頭が、こっちに見え始めた兎どもの頭部を炸裂させていく。
『ほほほほ! 鎧袖一触ですわ~!』
ほんとコイツ、武器撃つの好きだな……
『胸部魔導凝集光砲の試運転もしまして?』
「このコンディションで撃つと昏倒するから駄目」
夢の中で試したけど、威力が馬鹿高いから魔力もドカ減りするんだわ。
しかも背部のキャノンも消費がデカいというね……単体の魔物ごときには過ぎた威力だよ。
今は各種バルカンと腰ミサイルで魔力減ってるし。
……魔導なんちゃらって名前、格好いいんだが俺が言いやすいように変えようかな?
咄嗟に言うと舌噛みそうだし。
『こっちも仕留めた!』
『こちらもだ!』
『ああ、こんだけでけえのに毛皮しか金にならんのが残念だ……』
『魔物が食えればなあ……』
他のメンバーも問題なく処理が終わったようだ。
ザインブルグが凄いヨロイなのも間違いないが、そもそも年季の入った騎手は皆強いからなあ。
弱いと死ぬし。
あと、魔物が食えないのは俺も辛い。
解体した後の見た目は普通の肉に見えるからなあ……今回なんか兎だぞ、見た目。
毒さえなかったらなあ。
『うげー、全部で16匹も! 秋の繁殖期でもないのにコレってやっぱ変よ、統括!』
『例年にない多さだ……これは、聖騎手に報告を上げねばな』
がしゅん、と横に来たのは……サイムのアゴルムだ。
装甲は返り血まみれだけど、大きな傷はない。
『……西駐屯地はもっとやべえってよ。訓練校の同期がいんだけどさ、20のうち4部隊が機能してねえって。今は予備役のドワーフ入れてなんとか18部隊で回してんだとさ』
「……厳しいんですね、西は」
……原作にわずかに出てきた『西駐屯地が最も激戦区』情報だ。
この世界がフィクションかよく似た世界かはともかく、俺の周辺以外は概ね『歴史』通りってわけか。
『ロイドのことを伏せるのはやはり正解だな。帝都行きどころか西に放り込まれかねん』
ロジンの言う通りだな。
これ以上の原作ブレイクは何が起こるかわからん。
『駄目よ! もしそうなったらアタシもついていくんだから!』
『……これだ。その場合は5番隊から2人抜けちまうぜ! 絶対に内緒にしよう!』
『リタは本当にロイドが好きだなあ? げへへ』
『ロイドよお、そのでっかい尻に敷かれる日も遠くねえかもな~?』
敷かれたくないと言えば嘘になるかもしれんが、今はそれどころじゃないからパス。
『あったりまえでしょ! ロイドは多少凄いヨロイに乗っててもまだ15歳! 成人したてのまだ子供なのよ~! それに! アタシの! 大事な! 初めての! 部下っ!!』
このエルフさんは本当に……
「……いつもお世話になっています、リタ上等騎手」
『ふっふーん! 感謝が言える子は素敵よロイド~!』
同時に、通信に混じる笑い声がいくつも。
……やっぱりいい部隊だよな、ここって。
「……だから、俺はここで生き残りたいんだよ」
『んまぁ~おセンチな我が騎手ですこと。ま、よくってよ……それくらいの方が乗り手としては面白いですわ』
そいつはありがたいね、本当に。
『無駄話はそこまでだ。革を回収したら野営地へ移動する……せめて減らせるだけ減らさんとな、魔物を』
『『『了解!』』』
ロジンの指示に、俺達は一斉に動き出した。
『んもう、まぁた荷運びですのね~……』
「下っ端の宿命だ、諦めろ」
コイツが動くわけでもないのに、変なAIだよほんと。
・・☆・・
『周辺に反応ナシ、ですわ~。今日は静かな夜でしてよ』
「了解」
暗闇の中でも、昼間のように見える。
他のヨロイにも暗視機能は搭載されているが、ザインブルグのモノは比べ物にならない。
脳がバグりそうなほど昼間だ。
現在、夜警の為に周辺地域を監視中。
小高い丘に陣取っているので、見晴らしがいい。
これなら何が出て来てもすぐにわかるだろう。
ちなみに今日の夜警チームは二等騎手のグレッグ、物静かすぎて俺も声を聞いた記憶が殆どない。
必要な時にはちゃんと喋るんだがな。
だが、彼は我ら5番隊の中で随一のスケベ野郎で、休日には必ず娼館に突撃している。
しかも向こうだと小粋なトークでモテモテらしい。
生き残れたら、いつか教えてもらいたいもんだ。
「なあ、そう言えば聞いたことなかったけど……シグムント王国時代も魔物って多かったのか?」
『多さはそれほど違いはありませんでしたけど、ちょいちょい今は見かけない種類が多かった……らしいですわね?』
「らしい?」
『わたくし、作り出されてほぼすぐに休眠に入りましたので。ロイドが乗ってからの方が実際の戦闘経験は豊富でしてよ? 記録だけは豊富にありますが』
ああ、そういやコイツって王国末期も末期のヨロイだったわ。
『は~、暇ですわねえ~?』
「いいだろ、平和なんだし」
少なくとも今はそれでいい、今は。
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