第24話 昇進、そして運命共同体。(帝歴1000年、4月)
「ロイド=ベルク準騎手……貴様は練達を怠らず、隊と心を合わせ、この辺境の為に私を捨て励み抜いた……若輩なれど、その功績は大なり!」
目の前には、バルクハルク聖騎士がいる。
見えてはいないが、俺の後ろには5番隊の皆も。
たぶんリタはニッコニコなんじゃねえかな。
「よって、本日この場より……皇帝陛下の許可を以て! ロイド=ベルクを、二等騎手へと昇格せしめるものとする!」
バルクハルクはそう言って……俺の右胸に、二等騎手を表す認識表をピンでとめた。
「貴様は南駐屯地の同期の中で最も早い昇格だが……これに慢心せず、より一層帝国の、皇帝陛下の御為に身を粉にして励むのだ!」
どん、と拳を胸に当てて敬礼。
「ハッ! 謹んで拝命いたします! この先も一層、帝国と皇帝陛下の御為に奮励努力いたします!!」
俺は、窓ガラスが震えるほどの大声でそう叫ぶのだった。
・・☆・・
「ベルクくん、おめでとう」
「うべぇえ……ら、らしゅむーん、にとうきしゅ……ありあとう、ごじゃまう……」
アリシアが2人位見える気がする……
景色が揺れる……揺れる……
「うわぁ……物凄く飲まされてたもんね。ハイこれ、お水だよ」
「あじゃじゃじゃす……」
もらったコップを一気に煽る……冷たい水が喉を滑り落ちていって、ちょっとだけ視界がクリアになった気がする。
『この時代のお酒は酒精が低いですわねぇ。ジグムント王国のモノならあなた、死んでいましてよ?』
……あれ、ミュゼの声が響くたびにちょっとずつ楽になってくるぞ。
『あなたの脳に働きかけて、少し楽になるようにしていますの。あまりやるとパーになりますから、ちょっとだけでしてよ』
「(ありがたいが恐ろしいすぎる……!)」
古代AIは遠隔で脳がいじれるのかよ……
「ねえねえ、本当に大丈夫? ドワーフと飲み比べなんかするからだよ?」
横に座ったアリシアが、顔を覗き込んできた。
ひぇえ、この世界って顔面偏差値高い連中多いけど……さすが主人公、その中でも群を抜いてるぜ。
小説版の表紙、もう絵画レベルだったもんなぁ……描いたイラストレーター、俺が死ぬまで第一線で活躍してたし……
「……大、丈夫、であります」
「大丈夫なヒトはそんな声出さないってば」
21番隊と一緒に古代遺跡を発掘してから、1月。
あの後、『ウォードロン』2機と遺跡に安置されていた武具類は無事に搬出された。
古式鎧騎兵もそうだが、シグムント王国の作ったヨロイ用の武具はこの世界の水準を大きく超える。
よって、発掘された『ウォードロン』2機は21番隊へ。
数が多かった武具類は、各部隊の騎手で適性の高い者たちへと振り分けられた。
なお、ミュゼは『んまぁ~? あんな数打ちの安物をありがたがるんですわね~?』と不思議がっていたが。
彼女の時代の一般武器はあんなもんじゃなかったようだ。
……なんで滅んだのかすごい気になるけど、原作にはその描写ないんだよなあ。
本日をもって、俺は二等騎手へと昇格し……5番隊宿舎1階、ヨロイたちの傍らで、祝いの酒盛りの真っ最中である。
昇格はまあ……ここへ来て大体1年だから……空前絶後ってほどじゃないが、普通とも言えないスピードである。
原作では、準騎手1か月で二等騎手になった天才とか出てくるし。
残念ながらアイツはこの時間軸だと東方辺境領の駐屯地所属のはずなので……ここにはいない。
今回の昇格の理由で大きなものは『貴重な古式鎧騎兵を使いこなして職務に励んだこと』と、『新たな古式鎧騎兵と武装類の発掘に貢献したこと』ってところかな……それ以外にも、真面目に働いたことと訓練の虫になってたことがあって……最後の一押しに親父殿のことなんじゃないかな?
親父殿は『騎手の騎士』で、龍に一矢報いるほどの英雄。
俺も同じ立場だし、対外的には真面目にしている。
つまり国は『コイツこの先裏切らねえし、有望だな』って確信を持ったんだろう。
そんなつもりは毛頭ないけどな、家族も帝都に住んでるし。
俺にとってなにより大事なのは『プロローグを生き残る』ことだからな。
正直後のことは知らん……というか、原作知識があるのでその先の方がまだ予測できる。
……主人公が横でお茶を飲んでいるってでっけえバグがあるけども。
どうすんだよこの状況。
バタフライどころじゃねえぞ、このエフェクトは。
「あとさ」
「……ふぁい?」
主人公がその深紅の目で睨んできた。
うわぁ……お目目綺麗。
俺に前世の記憶がなかったら惚れてたかもしれん。
「敬語、やめてよね。同い年だし、もう同じ二等騎手なんだから」
アリシアはむう、とかわいく頬を膨らませている。
そこ気になるか?
「それにね、魔導院には準騎手の階級がないんだよ。だから初めからボクは二等騎手なの」
「ふぇ……そうなんれすか」
思考はマトモになったが口が回らん。
そういえばそんな設定あったわ……今まで生き死にに直結してなかったから忘れてた。
「そうなの! せっかく同い年の友達なんだから、敬語やめてよ」
「にゃるほろ……」
……同い年の『友達』か俺達?
え? そんなに仲良くなったか?
そりゃあ隣の宿舎だし、顔を合わせたら世間話もしてたが……ほぼ10割ヨロイの話しかしとらんぞ?
色気ゼロぞ?
まだリタとの方がフワフワした話ししとるわ。
「ね、やめてね。アリシアでいいよ、ボクもキミのことロイドって呼ぶからさ」
「……ふぁい……」
目力が強いわぁ……
そういえば、原作でちょいちょい思ってたけど距離感の詰め方がエグイなこの子。
ネット上で『無自覚距離ナシ美少女』とか『初恋泥棒』とか呼ばれてた理由がよくわかる。
こんなん思春期のオスガキにとっては劇物だぞ……
俺?
前にも言ったが四六時中リタがいるからもはや耐性がある。
心が体に引っ張られることはたまにあるが……まあ、慣れた。
やはり、四方八方に美人がいると慣れる。
「ロイドロイドロ~イド! 飲んでりゅ? 飲んでりゅ~?」
「グベベベベ」
酒臭さの化身と化したリタが突撃して抱き着いてきた。
また禁酒させられても知らねえぞこいつ……!
「リタさん、飲み過ぎるくらい飲んでるよ」
「あー、アリシアちゃん! そっかそっか……んじゃお水あげゆ! ゆ!」
「ゴボボボボ」
次の瞬間にはいつの間にか持っていたコップが口にねじ込まれた。
中身はちゃんと水だったが、これじゃ拷問と変わらんぞ! しかし君たちも仲良くなったもんだな!
「ちょっとリタ! 死んじゃう死んじゃう!」
黒エルフのアナンタがなんとか助け出してくれた……
「ぐべぇえ……」
テーブルに身をゆだねる。
ああ、冷たくて気持ちいい……
『酩酊し、判断力を鈍らせる液体を好んで摂取するとは……人間さんは不思議ですわねえ~?』
「(それは人類永遠の課題だよ……たぶんな)」
呆れかえったミュゼの声にそう返しつつ、俺はこのままちょっと眠ることにした。
もう収拾つかんし、一応主役の俺を置いてけぼりで進行してるから大丈夫だろ……
「サイム二等騎ぅ〜! 脱ぎますっ!」「いよっ! 待ってました!」「帝都のお嬢さんたちをその『槍』で釘付けにしてやれ~!」
……寝た方がいいな、目を開けると地獄が見えそうだ……
・・☆・・
「……ふぐぅ」
ちょっと震えながら身を起こす。
おお、相変わらずの1階部分だ。
……あだだだ、座ったまま寝たから体中がバキバキだよ。
『お目覚めでして? おはようございますわ、ロイド』
「おはいお……」
朝の光の中に照らし出された光景は、大惨事の一言に尽きる。
お客さんとして参加していた21番隊の方々のうち、女性陣はいない。
だが……
「うぷ……二重の意味で吐きそう」
男性であるドワーフ整備士や、ウチの隊員たちは……何故か一様に全裸で地面に転がっている。
なんだよ……あの後裸踊りの大会でも開かれたんか……?
さすがにロジンはいないが、トッドやサイムは見たくもないブツをさらけ出して大の字になっている。
しかしでっか……サツマイモか何かか?
「ロイド、ロイド」
ん? 誰……ああ、アリシアか。
なんで扉の隙間から手だけ出してんだ?
あ、全裸まみれだからか。
「起きた? ウチのお風呂場解放するから来なよ。5番隊のお風呂、酔ったドワーフさんたちが酒風呂にしちゃったから今使えないんだよ。リタさんが危うく死にかけたんだよ」
なにしてんだよ……いくらドワーフでも死んじまうぞ。
「OH……わかりまし……わかった、ありがとうアリシア」
そう答えると、手だけの彼女はぐっとサムズアップした。
この世界にもそのハンドサインってあるんだな……
『お風呂は最高だと昔の技官が言っていましたが、ロイドの様子を見るとあながち嘘とも思えませんわね?』
「シグムント王国時代から変わらぬ真実だなぁ……」
21番隊の風呂場で、天井を見上げる。
女性隊員が多いからか、随分と狭い男湯だが……ま、1人だから問題ない。
「風呂と石鹸がある世界って素敵だよな……それだけでいいよ……」
そう呟いて、ぱしゃりと顔を洗う。
ふう、いつでも風呂に入れる魔法万歳。
『――あら、ロイドの『知っている世界』はもっと便利そうでしたけど』
「ああ、いや上を見たらきりはないんだが……お前、今なんて?」
コイツは……今何を言った?
俺の前世についてか? 何故?
俺はコイツに前世関連のことなんか何も話して……話して……
「……そもそも、初手で脳がリンクしたから筒抜けか!?」
『ですわ。あの時は14年しか生きていない人間のはずなのに、人生の情報量が多くて驚きましたわね~?』
そうか……そうか、そうか!
コイツが俺の無駄に豊富な考古学知識についてそんなに突っ込んでこなかった理由がそれか!
『しかし驚きましたわ。ロイドの世界にはこの世界と『本当に似た』物語がありますのね』
「……お前もそう思うか? ここが完全にフィクションの中じゃないって」
前から薄々思っていたことだが。
『ですわ。偶然の一致か、それともそちらの世界の作家さんが何らかの手段でこの世界のことを知って、それをモチーフにしたとしても……『書かれていない』部分が存在するはずがありませんわ?』
「だよなあ、それならお前の存在がなかったことになるもんな。設定資料集に載ってたのはあくまで『ミュゼリア』シリーズだけだし」
『ええ。それにわたくしには知識として魔道歴も含めますと数千年の歴史知識がありますのよ? それすらも全て作家さんの考えたこと……とするのはあまりにナンセンスでしてよ?』
今度は湯に頭ごと沈める。
しばらく潜ると……すっかり冴えた頭になっていた。
「だよなあ……でも、知ってたなら言ってくれればよかったのに」
『今までは色々バタバタしていましたから。このタイミングが丁度いいのではなくって?』
……まあ、そうか。
『なんにせよ、わたくしも地下から折角明るい所に出てこれたのですわ? その『ぷろろーぐ』で死ぬのは御免でしてよ』
「俺だってそうだよ……」
ざば、と浴槽を出る。
さすがにのぼせちまうからな……
「……じゃあ、『真の意味』でよろしくな……相棒。俺達2人で生き残ろうぜ」
『ええ、よろしくってよ?』
握手ができないのが残念だが、俺には得難い相棒で……共犯者ができたようだ。
スッキリしたら、今日の訓練の再開といこうか!
「ローイド、ロイド~? のぼせてない? アタシが拭いてあげよっか~?」
「ちょちょちょちょっと! 駄目だよリタさん! ここ男湯!!」
脱衣所にダダ甘巨乳エルフがいる……もうちょっと風呂場にいよう。
アリシアにリタが引きずり出されるまで。




