第21話 マジで! 原作が始まる前に! 原作が終わるかもしれん!(帝歴1000年、2月)
「この度、21番隊が新しく創設されることになった」
雪深い朝。
朝食後、5番隊全員は2階の広間に集められた。
そして、ロジン統括騎手は俺達にそう告げた。
「着任は恐らく4日後になる。特に儂らで何かをするというわけではないが……一応、耳に入れておけ」
21番隊……?
特に荒れているわけでもない、まだ危機が迫っている予兆もそれほどない南駐屯地に……?
聞こえてくる話では、むしろ西駐屯地の方がザワついてるのに?
しかも、こんな雪の中を帝都方面から?
「統括、じゃあ……宿舎はウチの隣になるんですか?」
俺の前にいたサイムが聞く。
この駐屯地は、番号通りに宿舎が並んでいる……わけではない。
人員の入れ替えや、怪我や死亡などで再編された部隊が結構バラバラに散らばっているんだ。
それで、ウチの隣は俺が着任した時から空き宿舎だった。
「ああ、そうなる。別に殊更仲良くしろとは言わんが……近所になるんだから揉めるなよ」
「じゃ、何かあったらロイドに折衝役になってもらうか!」
「そいつはいい! なんせあのファンガリアのクソガキを大人しくさせられるんだからな!」
何人かがどっと笑った。
……嫌だよそんな役。
アイツは超絶わかりやすいから大丈夫なだけで、俺が別段対人関係に優れてるわけじゃねえんだぞ。
『末路』の件で色々思う所があるから、かろうじて我慢できてるってだけなんだからな。
「ねー統括、それはそれとして……そもそもなんで増員したの? ここって損耗も未帰還もないのに」
リタがそう聞くと、ロジンは少し黙って……息を吐いた。
「どうせ遅かれ早かれわかることだからな……そいつらは通常の騎手隊じゃない。いや、騎手はいるし整備士もいるんだが……『所属』が儂らとは違う」
「えぇ~? なにそれ? 謎かけ?」
……通常じゃない特別な騎手隊が、辺境に来る?
あれ、なんかそれ……聞き覚えがあるような気がする……『原作』で……
「――連中は『魔導院』から派遣されてくる特務部隊だ」
……知ってる! 俺その部隊多分知ってるぞ!?
「はあ? 『魔導院』? 頭でっかちの学者連中がなんで辺境に……?」
「そんなん今まで聞いたことねえぞ?」
「っていうか、あいつらって帝都の外に出てくるんだな?」
隊員たちがざわつき始める。
『マドーイン? 耳慣れないですわ、なんですのそれは?』
ミュゼからの思念に、脳内で返す。
「(あ~……シグムント王国で言う所の『大書院』みたいなもんだ。もっともお前が知ってる規模とは全然違うだろうけど)」
『まあ~、ロイドはとっても物知りですわね? そう……あんなモノ好き共みたいなのがこの時代にもいるのですわねえ』
ミュゼは、俺が何を知っていても深く聞いてこない。
それがAIとしての考えなのか、俺が説明するまで待っているのかはわからん。
ちょっと一言で説明できんからなあ……
『魔導院』
それは、帝都の中心部にほど近い場所に存在する……いわば研究機関だ。
鎧騎兵を、魔法を、魔物を。
帝国が抱える様々な事象について研究し、それによって何かを開発したりもする。
新たな鎧騎兵のテストや、試作機の作成だってしている。
帝国における研究機関の集合体……まあ、そんな感じだ。
前にサインブルグをなんとか起動させようって頑張ってた連中もそうだったな。
ちなみにミュゼに言った『大書院』も同じような感じだ。
今でも出土する遺跡のほとんどに、連中が関わっている。
さっき言ったように規模が段違いではあるがな。
もちろん、シグムント王国のほうがでっかいって意味で。
「あー! ねえねえ統括! そいつらが来るようになった原因ってさ……!」
「おわわわ」
リタが俺の腕に飛びついてぐいぐい引く。
やめて! 双丘が! 双丘が押し付けられて何も考えられなくなるから!!
論理的な思考を本能が凌駕するから!!
「――ロイドのヨロイのこと!?」
そうリタが言うと、皆が『あ~……』って顔になった。
え? 俺の……あああ! そういうことか!!
ロジンが俺に目を向ける。
「……名言されていないが、そうだろうな。今までこれといって何もなかった南駐屯地近くで、古式鎧騎兵と……シグムント王国のものらしい遺跡が出た。奴らからしたらこう考えるだろう、『また出るかもしれない』と」
……これが、俗に言うバタフライエフェクトって奴なのだろうか。
嫌な汗が止まらない。
俺は、その『特務部隊』についてよく知っている。
……とても、そう、とてもよく知っている。
何故なら……
――『帝歴1002』の『主人公』が所属しているのが……その特務部隊なのだから!!
・・☆・・
「ふうん、鎧騎兵自体は他と変わりないのねえ……違うのは色と編成だけか。なーんか色味が悪役みたいねえ、ロイド」
「そうですね……」
あっという間に4日が経過し、件の『特務部隊』が南駐屯地にやって来ることになった。
色々考えたが、俺はもう諦めの境地である。
だってどうにもならんし。
そして、もう来てお隣で荷下ろしの最中である。
『本編主人公』が、ここへ来た……かもしれん。
まだ確認はしてないけど。
これはもう、原作には影も形もなかった展開である。
主人公が活躍するのは今から2年後……ここが完膚なきまでに滅んでしまって、さらに1年後なのだ。
それまで主人公は帝都の魔導院で暮らし……帝歴1002年に始まる出来事によって世に出る。
だけど……どうすんだよもう……これ。
このままだと主人公、最悪この駐屯地と一緒に滅ぶかもしれんぞ。
原作が始まる前に終わるかもしれんぞ?
このロイドの目をもってしても、この展開は見抜けなんだ……!!
「んねえ、どしたのロイド~?」
俺とリタは、宿舎2階のベランダから隣の宿舎の荷物整理の光景を眺めている。
特に出迎えの宴とかないし、こっちは普段通りだ。
「大丈夫だって、魔導院の連中だってもうアンタからあのヨロイを取り上げたりしないわよ。そんなに心配しなくってもいいわよ?」
「は、はい」
何か勘違いしたようで、慰めるように頭を撫でられた。
いや、そっちは心配してないんだけど。
『わたくしのセルフ封印は現在125番まで実行されましてよ。たとえロイドが今この瞬間に生命活動を停止したとしても、向こう500年は解けませんわ~』
「(そいつはありがたいよ……)」
こうしてミュゼが多重ロックを厳重にかけてくれているし。
そもそも、この時間軸には解明されていない『強制起動呪文』があっても今のザインブルグは動かないのだ。
この上125個もロックがあるんなら……それはもう、ザインブルグをぶっ壊すよりも難しいに違いない。
俺が心配しているのは原作がどうなっていくのか、それだけである。
あの後のロジン曰く、彼らの赴任任期は『最低でも1年』とのことだ。
ってことは……『プロローグ』に滅茶苦茶かぶっている! やべえ! ホントに原作が始まる前に終わるかも!!
そんなことを考えながら、連中を見ている。
ドラウツェンが1、ツヴァンクが5……それに。
「アタシ久しぶりに見たわよ『ランゲッタ』。こっちじゃ使ってないもんね」
アゴルムよりも重厚で、アゴルムよりも鈍重な物資輸送用鎧騎兵……『ランゲッタ』が4体の、計10体だ。
輸送用らしく、背部には背負い籠、それに腰には装甲板で構成された荷車も連結済みだ。
いつ見ても二足歩行の重機みたいなヨロイだなあ……角ばってるし。
当たり前だけど当然、戦闘用ではない。
まあ、弱い魔物くらいはタックルすれば殺せるかもしれんが。
そして、全部のヨロイが灰色と黒で塗装されている……あれ、辺境だと超目立つと思うんだが。
後で塗り直すんだろうか。
「あ、珍しい~! 見て見てロイド! 『スキア』の子がいるわよ~」
リタが指を差す。
宿舎横の広場でツヴァンクから降り、荷運びをするドワーフ連中に指示を飛ばしているのは……銀色の髪を長く伸ばしている褐色のエルフだった。
俺達は主に『黒エルフ』と呼ぶが、リタが言った『スキア・エルフ』というのが正式名称である。
「む! ロイドの目がなんかやらしい気がするわ!」
「すごく気のせいですよ上等騎手」
俺は改めてこう思っただけだ……『ボンキュッボンが普通の黒エルフより、スレンダーが普通なエルフのリタの方が乳も尻もデカいな……』と。
なんでだよ、やっぱり先祖にナイスバディの異種族がいたんじゃないのか?
「へー、っていうか……なんか女性騎手多くない? こりゃ、男どもが騒ぎそうね~」
ここから見える範囲では、騎手はほぼ女性。
整備士ドワーフも女性が目立つ。
……普通なら、それを見て健全な15歳である俺もテンションが上がるんだろう。
だが、上がらない。
むしろ彼女たちの姿を認めるたびにテンションが下がっていく……何故なら『知っている』顔が多いからだ。
挿絵で、アニメで見た顔が、だ。
……そして、極めつけには――
「――あら、あの子ってば綺麗な紅い髪ね~! ロイドと同じくらいの年頃かしら?」
今、ドワーフの整備員と一緒に箱を運搬している……女の子を見てしまった。
燃えるような深紅のショートカットに、人間女性としてはスラっとした高めの身長。
着ている服からしても騎手……その、女の子を。
――不意に、彼女がこちらを見た。
離れていてもわかる、深紅の目が俺とリタにピントを結ぶ。
リタは『カワイイ子ね~』なんて言いながら小さく手を振り、俺はただ頭を下げた。
彼女はちょっと目を丸くして、はにかんで会釈を返してきた。
……畜生、やっぱりいやがった!
ワンチャン帝都で留守番しているかと思ったが、俺の切なる願いは届かなかったらしい。
いや、彼女は何も悪くないんだが。
会釈した後、作業へ戻った彼女こそ……『帝歴1002 鎧騎兵、走る』シリーズの主人公にして、最終的に『紅の鏑矢』の異名で知られることとなる……騎手。
『アリシア=ラシュムーン』……おそらくこの時間軸では、準騎手。
……来ちまった~~~~~~!!
主人公が本当に来ちまったよ~~~~~~~!!!!
どうしよう! どうにもできないけど、どうしよう~~~~~!!!!
「ね、ねえねえロイド、本当にどうしたのよ!? あ、ひょっとしてあのスキアの子が気に入ったとか? それとも今の赤毛の子!?」
ぐわんぐわんと俺を揺するリタ。
「……いやあ、あのドラウツェンの脚部が気になって。こっちみたいな不整地用じゃなくって街道用ですかね? あと、右端のツヴァンクが持ってるのってヨロイ用のバリスタですよね? 流石は魔導院の機体、お金かかってますねえ……あれ、上等騎手?」
「ああ……うん、いつも通りのロイドだわ。もっと女の子に興味を持ちなさいよ~!」
誤魔化せたけど、何故かかわいそうなモノを見るような顔をされた。
なんでだよ、対外的には気になるでしょうが!? 騎手としては!?
・・☆・・
「ロイドロイド! お前も見たか21番隊! すんげえぞ……美少女に美人ばっかりだ! 都会の匂いがする気がする!!」
「たぶん気のせいだよ、ムカスタ」
21番隊の着任も終わり、夜。
落ち込んだ気分を何とかするために珍しく飲みに来たら、3番隊のムカスタに捕まった。
ちなみに、リタはいない。
彼女は正月の所業があまりにもヒドすぎたため、ロジン直々に2ヶ月の禁酒令が出ている。
『変なオンナにひっかかるんじゃないのよ~!』なんて言っていたが、そもそもこの駐屯地に変な女はいない、と思う。
引っかかるつもりもないが。
「いいよなあお前、隣の宿舎なんだもんな~……! なんで3番隊は反対方向なんだよ~!」
「知らないよ、それは聖騎手に言ってくれ」
「言えるわけないだろォ~?」
まったく、そんなに気になるかね……ほぼ全員が美女か美少女で構成された部隊が。
……超気になるな! 俺も記憶がなければコイツと一緒になってキャッキャしてたな!!
ああくそ、初めて原作知識があるのを苦痛に思う日が来るとは……!
「ああ、今から合同の任務が楽しみだぜ……俺のアゴルムさばきにキャッキャしてもらうんだ!」
「そうかよ……頑張れ」
「お前はあんな美人の上官がいるのにヨロイに夢中な変態だが、俺は違うぞ!」
「なんだとこの野郎、誰が変態だ!!」
『ええ、まあ……その、ですわね? 嬉しいことは嬉しくってよ?』
ええい、問題をややこしくするんじゃない!!
「――ねえ、そこのキミ……ベルク準騎手だよね?」
……違うと! 言いたい!!
とっても! 言いたい!!




