第20話 雪原に吠えるガトリング。(帝歴1000年、1月)
「見渡す限り真っ白だ……」
『そうよ~、アタシの後ろから離れるんじゃないわよ~ロイド』
俺のこぼした呟きを、リタが拾う。
前方に見える景色は、すっかりホワイトアウトしている。
ザインブルグに先行するツヴァンクの青い飾り布が、そこだけ世界に色を付けているように感じた。
『降雪で機器に若干の乱れはありますが、索敵に不備はありませんことよ!』
「(ありがとう、いざとなったら頼むぞ)」
『よろしくってよ~!』
頼れる相棒に感謝しつつ、ザインブルグを歩かせた。
主にリタがはしゃぎ、主にリタが食い、主にリタが吐いた新年が明け……もう1月も中旬に差し掛かっている。
本当に大変だった……タリアナがいなければ即死だった。
ああ、ベロンベロンになったリタ関連でな。
俺が服を脱がせて風呂に入れるわけにもいかんからね……嗚呼、まさか今世初に見た生乳が酔いつぶれたリタのものとはな……綺麗は綺麗だったが、吐しゃ物トッピング付きだから全然嬉しくねえ。
ゲロの処理に必死だったから、全部片付いてベッドに入った時に『あ、俺今日おっぱい見たわ……』って思い出したくらいだし。
まあとにかく、新年が明けてこれくらいになるともう駐屯地は平常運航だ。
雪が降ろうが、寒かろうが、魔物が忖度してくれるわけじゃない。
というわけで、本日の俺はリタとコンビを組んで街道の雪かき作業に勤しんでいたわけだ。
といっても中央駐屯地まで雪かきをするわけじゃない……遭難するし。
南駐屯地から精々5キロくらい北までだ。
『初めは調子よかったんだけどね~』
「辺境の天候は荒れますねえ……」
ほんと、出発した時は良かったんだよ。
それが昼過ぎくらいに猛吹雪になって来て……今に至る。
大まかな距離はわかっているので、雪かきを切り上げて帰還中だ。
遭難の危険がある時は中止してもいいって決まりなんだよな。
『ロイドのヨロイ、ピカピカ光るからはぐれなくていいわ~』
「お役に立てて光栄です」
ザインブルグは頭部と両肩、それに腹にカメラ的なモノがあって……それをフラッシュよろしくチカチカさせることができる。
視認性は抜群だ。
『帰ったらラーラおばあちゃんの店に行きましょうね! あそこの煮込み、ウチの里よりずうっと美味しいもの!』
「はい、お供します」
寒くなってからラーラ婆さんの店、ヘビロテなんだよな。
毎日食っても飽きない美味さだからいいんだが……それはそれとして白米は欲しいよな~。
なんとか米が手に入らんものか。
煮込みの汁をぶっかけて食いたいぞ。
『人間さんは不便ですのねえ……』
魔力で生きてる? ミュゼは不思議そうだ。
ちょっと羨ましくはあるよなあ……
『あら? ……前方、斜め左方向約50セグントに複数の動体反応。吹雪ではありませんことよ?』
「(了解)」
シールドを構え、腰から『刃の無い剣』を引き抜く。
「上等騎手、左前方で何か動きました」
『なんですって? こっちは何も……来た! 微弱だけど魔力反応!』
斜め左に出て、リタのツヴァンクと並ぶ。
「援護します」
『ん~! すっかり立派になっちゃってもう……反応が強くなったわ、こっちに向かってくる! この感じは……たぶん『雪狼』! 群れで来るわよ!』
雪狼……冬の間に出る、狼に酷似した魔物だ。
体高4メートルを超え、『6本』の足で雪原を駆け回って襲ってくる。
だから狼に『酷似』した魔物なんだよ。
……アニメで見たけど、狼には見えんかったぞアレ。
『来るわよロイド! 背中合わせ! ……って、アンタその剣使えるの!?』
「大丈夫です、慣れました!」
ロングソードを引き抜いたツヴァンクの後ろに移動。
雪狼は獲物を中心にグルグル回って狩りをするからな、少人数だとコレがベストなんだ。
『夢の中では毎回でしたけど、実戦投入は初めてですわね。『ユキオオカミ』が何かは知りませんが……『リュンゼル』に斬れない敵はそんなにありませんわっ!』
『光を放つもの』という意味らしい剣を握り、盾を真っ直ぐ前方に掲げる。
ミュゼとの夢訓練もしたし、宿舎近くの訓練場でも同じようにやってた……もう熟練者だぜ!
動きの速い雪狼相手なら、ランスよりこっちだ!
『来るわよッ!』「了解ッ!!」
がいん、とツヴァンクの方から音。
1匹目がそっちに行ったか……じゃあ次は俺だな!
「ハルルルルルルル――!!」
唸り声と、足音……来た!
「ガァアアアッ!!」
横から飛び掛かってきたのは……六本足に、白い毛皮の魔物だった。
顔はどちらかと言うと超好戦的な熊に見えるし、目なんか4つもある。
ほら見ろ! やっぱり狼に全然似てねえじゃねえかよ!
ザインブルグは足元の不安定さにも関わらず鋭く動く。
涎まみれの口に、まず盾を叩き込んで突進を妨害。
そして――
「でいりゃあッ!!」
空中を薙いだ『リュンゼル』。
その鍔元に魔力が集まって――ほんの一瞬、閃光のように刀身が形成された。
それは空中にいる雪狼を横になぞって、消える。
だが、一瞬で十分だった。
感触もなにもない、空ぶったような一撃は……着地した雪狼の首を綺麗に刎ねた。
『そう! 『リュンゼル』は斬る瞬間だけ魔力を通せばよいのですわ! あの研究者たちは何もわかっていらっしゃいませんのね~?』
帝都から派遣された連中は、これを『魔力消費が凄まじく、連続使用できない』っていう一点で使えない武器扱いした。
馬鹿だよなあ、『ほぼなんでも切れる』んだから、チャンバラする必要なんかないってのに。
俺の魔力で『連続稼働時間30秒』だけど……一回の展開がゼロコンマ1秒以下なら好きなだけ使えるじゃねえかよ。
ま、使えない認定は有難いけどな……有能だと思われたら帝都に持ち帰られる可能性もあったし。
むしろランスが持って帰られそうだったぞ、謎金属で超硬いからって。
聖騎手が『防衛力に直結するからやめろ殺すぞ(意訳)』って止めてくれたけどさ。
『ハッ!』
「ギャイッ!?!?」
リタの気合と、聞こえる雪狼の悲鳴。
『まだまだ来るわよロイド! こいつら、いつもより群れの数が多いわ!』
「了解ッ!」
まだまだ来るか……気合入れんとな!
『今度は5匹同時に来ますわ!』
あいよ、相棒!
・・✩・・
『これ……何が起こってるのよ……!』
通信越しに聞こえるリタの声が、少し疲れている。
「……秋の間に大繁殖でもしましたかね?」
あれから、襲ってくる雪狼を斬って斬って斬りまくった。
すでに俺達の周囲には、さっきまで命だった屍が散らばっている。
その数、10匹以上。
『血の臭いを辿っているのかしら? 魔力反応はまだあるし……!』
まさか、雪かきに出てこんなデカイ群れに遭遇するとはな。
雪狼は通常の魔物に比べて一緒に行動する数が多いとは言っても……これは。
ひょっとして、『プロローグ』に繋がる『何か』がもう始まっているのか……?
『――新たな反応! 方角そのまま、数……10、でしてよ!』
マジかよ! 明らかに異常な数だ!
馬鹿正直に戦ってると消耗が酷くなる一方だぜ……!
……リタなら、まあ……いいかな?
見られても。
「……上等騎手、試したいことがあります……俺を前に!」
『は? 何言ってんのよロイド! その剣が凄いのはよくわかったけど、定石を崩しちゃ死んじゃうわよ!』
鎧騎兵2体の戦術『背中合わせ』
死角をかばい合い、臨機応変に対応できる防御陣形。
だが、それは――『近接オンリー』の時の最適解に過ぎない!
「説明は後でします、俺に――任せてください!」
『……ほーん? アンタってば格好いいこと、言うようになったじゃないの! わかったわ、もし駄目でもアタシがカバーしたげるから……好きにおやんなさーい!』
リタはちょっと、いやかなり嬉しそうだ。
なんかむず痒い気持ちで背中合わせを解除し、ツヴァングの横に並ぶ。
「(ミュゼ、制限を一部解除! 遠距離攻撃ができるくらいに!)」
『かしこまりましてよ。総出力の5割まで戻しますわ』
ヴン、と背後の『動力体』が唸る。
『ちょっと、剣を腰に戻してどうしようって……え、ええ!? なにそれ~!?』
右腕の装甲板が左右に展開し、せり上がる三連ガトリング!
『画面に推定位置を投影いたしますわ! 発射のタイミングをあなたに!』
吹雪一色の視界に、ミュゼが丸い円をいくつも表示させた。
『距離、50セグント、45セグント、40セグント――』
「(俺の声を外に漏らさないようにしてくれ!) 銃身回転開始、右腕三連魔導機銃……全力射撃!!」
――音にすれば、キュキュキュキュだろうか。
そんな音を響かせて、三連魔導機銃は青白く輝く圧縮された魔力弾をばら撒き始めた。
実弾ではありえないほど弾道の安定したそいつらは、吹雪の中に表示された赤丸を……右から左になぞる!
赤丸はその端から次々と消えていく――
『命中、命中、命中……第一波壊滅。続いて第二派、来ましてよ~!』
「回転中止! 腰部四連多段誘導砲、起動! 索敵開始! 発射はそちらに任せる!」
再び表示された赤丸群に、ロック完了を示すように青い円が次々と重なっていく。
『捕捉完了、全弾発射! でしてよ~っ!』
ちょっと気の抜ける掛け声とともに、両腰から合計4発の光る誘導弾が発射された。
それはしばらく斜め上に向かって飛び……空中で炸裂!
計12発の光弾に変わり、上空から赤丸に向かって速度を上げて殺到した!
そして、雪の中から……連続した爆音!
『――全ッ弾命中、残敵ありませんわ~! 皆殺しでしてよ~!!』
コイツ、夢の中でも火器管制任せるとテンション高いんだよな。
トリガーハッピーか何か? 使う魔力は俺由来なんだからちょっと加減してくれませんかね?
「ふう……上等騎手、とりあえず群れは殺しました」
『え? は? 今のって魔導弾? あんなにいっぱい……ロイド! アンタ魔力なくなってない!? いや、それもあるけど……なによそのヨロイは~!?』
彼女の精神状態を反映したのか、リタのツヴァンクはワタワタと大慌てしている。
「ああはい、後で説明しますので……とりあえず、革を剥いで駐屯地に帰りましょうよ」
でも、後半の10体はズタズタになってんだろうなあ……
威力が高すぎるのも困りものだ、ホント。
・・☆・・
「成程ぉ……昔国の方でも聞いたことあったけど、古代のヨロイってすっごいのね……」
カップを両手で持ち、ふうふうと冷ましながら……俺に向かってリタは言った。
あれから、雪狼の革を剥いでまとめ、俺達は帰路についた。
一応確認したが、遠距離攻撃で倒した方はグズグズの肉塊になっていたので……穴を掘って埋め、駐屯地には『雪狼10体と遭遇した』ということにした。
それでも数がいつもより多いので、ちょっとした騒ぎになった。
そして、俺の部屋に戻って来て……ザインブルグについて説明をしたんだ。
といっても、『なんかヨロイの各部位で遠距離攻撃できそうな気配がしたので、やってみたらできた』という形でだが。
ミュゼのことを言うと、なんかややこしくなりそうな気がしたので……
「アンタの魔力量は人間にしちゃかなり多い方だけど、あれだけの魔法を使えるなんてねえ……魔力の変換効率が異常よ、あのヨロイ」
「そうみたい、ですね。アゴルム以外のヨロイを体験したことはないですけど、話に聞くのと全然違います」
リタの淹れてくれたお茶を飲む……ふう、相変わらず美味いや。
今日は緑茶みたいな味がするなあ。
「とりあえず、あの武器のことは統括と5番隊の連中には話した方がいいわ。アレだけできるなら戦術に幅ができるし……大規模哨戒の時に役立つわ」
「はい、わかりました」
リタが顔を顰める。
「でもそれより上は……今はやめといたほうがいいわね。またぞろ帝都からやかましいのが来ちゃうから」
それには俺も同意だ。
いつか……具体的には『プロローグ』が来るまでは秘密にしておいた方がいい。
もし俺だけ帝都に……なんてことになって皆の危機に間に合わなかったら、流石に寝覚めが悪い。
いや違う、原作のリタ並みにダウナーロイドになる自信がある。
死んでも死にきれねえ……
そう思う程、5番隊は俺にとって大事な場所になっちまった。
「んふふ、じゃあじゃあ、アタシが魔力操作や循環についても~っと教えたげる! まずはラーラお婆ちゃんの所で夜ご飯にしましょ!」
そうだな、とりあえず飯だ、飯!
……ラーラばあさん、冬の間に貯金とんでもねえことになってそうだな。
皆行くもんよ、この時期。
やべえ薬でも入ってるのかってくらい美味いんだよなあ。




