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第18話 愛機と二人三脚。(帝歴999年、11月)

『右前方、距離18セグントですわ!』


「(了解!)」


 意識した瞬間に、その方向へ機体が向く。

木立が揺れ、奥の闇に……踊る影が見える!


『有効射程距離内、右腕三連魔導機銃の使用を推奨いたしますわ』


「(却下、ランスで行く!)」


 足を肩幅に開き、左手のシールドを前に!


「ブキィイイイイッ!!」


 来た! クソデカい……猪!

推定、体高4メートル!!


『行ったぞロイド! やれェ!!』


 サイム二等騎手からの通信!


「はい! ロイド準騎手、吶喊します!」


 涎を撒き散らす猪の突進を、シールドで受け止める!

ずずん、と轟音が響くが……こっちに伝わる衝撃は、脚部で問題なく受け止められた、後退もない!


「おうりゃぁあッ!!」


 同時にランスを突く! 鋭い穂先が猪の片目に突き刺さって――まるで豆腐みたいに、頭部を貫通!

突進の勢いで脳を破壊され、猪はその場で即死した。


「排除完了! 二等騎手! 新手は!?」


『よくやったロイド! ソイツで最後だ!』


「了解!」


 ランスを引き抜いて腰にマウントし、猪を横たえる。

大出血した猪の後ろ脚を持って……持ち上げる。

ダバダバと地面に血が流れていく。


『大物、しかも雌だ! コイツはいい値で売れるぞ!』


 喜ぶサイムの声を聞きつつ、俺は肩の力を抜いた。


『あなた、近接戦闘にこだわり過ぎではなくって?』


「(人の目があるから駄目だって、そう言ったろ~?)」


 このAI、俺に遠距離武器を使わせたすぎるよな……



・・☆・・



 あの訓練場での一件から、一か月。

帝都から派遣されたっていう研究者が何人もやって来て、なんとかザインブルグを起動させようとしていたが……

その努力は全て徒労に終わった。

原作には『強制起動呪文』と呼ばれる、待機状態のオルヴァネイターを起こすものがあるが……この時間軸ではまだ明らかになっていないし、『本契約』者である俺がノーと言えば絶対に起動しない。


 魔法的アプローチも技術格差で駄目だし、外部からの機械的アプローチも勿論無理。

ああでもないこうでもないと彼らは連日連夜やっていたが……ザインブルグの外装にすら何もできなかった彼らは、ついに結論を出した。


 『何らかの原因により、この古式鎧騎兵はロイド準騎手にしか動かせない』と。


 よって、晴れて俺はザインブルグを愛機とすることになった。

そして今日はその初陣……サイム二等騎手と組んでの哨戒任務である。


『古式ヨロイっての、初めて見たけど……中々のモンだな。ツヴァンクよりも機動性があんじゃねえのか?』


「そうですね、頼もしいですよ」


 全出力の2割だけど、現状。


『んまぁ! 違いましてよ! ザインブルグはあのようなポンコツと比べ物になりませんことよ~!!』


 ムキー! とでも言うような声が脳裏にキンキン響く。

……この一か月、ブレスレット経由でちょいちょい話し続けていたらこうなっていた。

さすがは古代超文明製のAIといったところか……どんどん人間っぽい感じになっていったぞ。

お嬢様口調は治ってないけどな、たぶんこれが仕様なんじゃねえかな。

シグムント王国の技術者が愉快な変態だったんだろう、たぶん。


「これで終わり、っと……」


 血抜きの終わった猪……『巨猪』というそのまんまな魔物の革をザインブルグでベリベリと剥いだ。

さっきサイムが言ったように、雌の革はしなやかで丈夫なので高く売れる。

名前は猪だがコイツはしっかり魔物なので、肉を食うとのたうち回って死ぬことになるがな。

ちなみに通常の猪は別にいて、そっちは食える……ややこしいなあ、もう。


 剥いだ革を荷車に乗せて、丈夫な綱で固定。

そうして、荷車の綱をザインブルグの腰に回す。


『はぁ~……わたくしが荷運びなど……』


「(申し訳ないが、下っ端の俺の愛機なんだからこらえてくれよ)」


 荷運び嫌なんか、コイツ。

なんともようわからんヨロイなことよ。


『仕方がありませんわね~……』


 嫌々な雰囲気が脳に伝わってくる……


『なあロイド、その槍はいいもんだが……腰に下げている出来損ないの剣みたいなのは結局なんだ?』


 モーニングスターを持って横に来たサイムからの通信。


「なんでも、魔力を流すと刀身が発生する剣……らしいですよ? 帝都の方が言うには」


『はぁ~……そいつはなんとも。シグムント王国ってのはすげえんだな、使えるのか?』


「いえ、要求される魔力量が多いんで……慣れるまで外での使用は禁止されています。一般的な騎手が展開できる時間は……だいたい10セクタくらいだとか」


 ちなみに1セクタは大体1秒な。


『うええ、何ちゅう燃費の悪さなんだ……そいつは中々使いどころに困るなあ』


「本当、そうですよね……帰りますか?」


『お、太陽の位置からしても頃合いだな……帰ろうか。そうだロイド! 今日はリタがいねえから……いいとこへ飲みに行こうぜ! 綺麗所と楽しくおしゃべりだぜ?』


「はい、お供します!」


 リタは怪我で欠員の出た4番隊の助っ人として遠くに哨戒に出ている。

少なくとも今日は帰ってこない。


『よーし! 俺の奢りだから気にすんなよ! とっとと帰って身綺麗にして、夜は宴だ! ははは!』


 ウキウキしながら歩き出すアゴルム。

その後ろについて、荷車を曳いていく。


『この時代の方々は魔力が少ないですわねぇ……ロイド騎手はまだマシな部類ですが、鍛錬を怠っていましてよ!』


「(平和な時代の弊害ってやつだな……)」


 この一月の間に、ザインブルグには現代のことを話しておいた。

所属していた国がとっくのとうに滅んでいる、という事実を……彼女はあっけらんと受け入れている。

そういう所は、AIっぽいと言えば、ぽい。


『ですが、効果的とはいえ……連日の魔力枯渇は心の方に影響を及ぼしかねませんわ?』


 魔力は、空になって復活する時により総量を増やす性質がある。

前にも言ったが『先』のことがわかっている俺は5歳の時に『思い出し』てから、ほぼ毎日就寝前には魔力を空にして気絶するように寝ることを繰り返している。

だから、俺の魔力総量は同年代騎手の大体3倍くらいはある。

あ、『人間の』3倍だぞ、リタみたいなエルフとは種族ブーストが違うのでまた別の問題だ。


 乱暴に考えると、腰にある刃のない大剣を30秒は稼働させることができるってこと。

これはザインブルグの専用武器なので、他の鎧騎兵はそもそも使えないか……魔力の変換効率が全然違うので、もっと短い時間しか展開できないんだそうだ。


「(ヤバそうだったら教えてくれ)」


『しょうがありませんわねえ……特別でしてよ?』


 完全に人間と話してる気分だぜ……話が分かる愛機って、チートだよな。



・・☆・・



『魔力変換技術自体が落ちていますのね……まさか、遠距離攻撃が可能な鎧騎兵がそれほど少ないとは』


「(そういえば言ってなかったな、すまん)」


 5番隊宿舎、大浴場。

無事帰還した俺は……貸し切り風呂を堪能しながら、AIと会話している。


「(シグムント王国時代はそうじゃなかったんだな。内蔵火器の時点で気付いてたが)」


『その通りでしてよ。むしろこの時代の方々はほぼ接近戦で災禍巨獣に立ち向かっている……その方が危険ですわ! 遠距離攻撃は正義でしてよ!!』


 それは俺も大いに同意なんだがな……


 ヨロイによる、遠距離攻撃。

これは可能と言えば可能なんだが……それが『魔力』を用いるとなると問題が一層難しくなる。

現状、一番簡単なのがヨロイ用の杖を使うことだろう。

補助具があれば、騎手経由で杖から魔法を放つことはできる。

だが、それはかなりの魔力を消費することになる。

シグムント王国時代の杖とこの時代の杖では魔力の『変換効率』が全然違うのだ。


 ざっくり言うと、1の魔力で10の威力を発揮するのがジグムント王国時代の杖。

対して、この時代のものは……1の魔力でせいぜい2程度の威力なのだ。

つまり、強い魔法を放とうとすると、この劣悪な変換効率性で……騎手の負担が爆増する。

しかもこの時代の一般的な騎手は平和な時代が続いた弊害で、魔力がさほど多くない。

それなら、魔法を放つのではなく近接戦でぶん殴った方が早いし簡単というわけだ。


 この先はそんなことも言ってられんが、この時間軸では魔物の群れも精々5匹くらいだし……突っ込んで殴ってもそれほど苦戦しない。

まあ、プロローグ以降はそれどころじゃないんだが。

魔法ってのは集団が多ければ多いほど威力を発揮するから……現状ではそんなに需要はないってワケ。


「(ちなみに物理的な遠距離武器もそう多くないし、高級品だぞ。それ作るくらいなら剣でも槍でも作った方がいいってのがこの時代の考え方だ)」


『ロイド騎手の言う『脳筋』理論ですのね……なるほど、理解しましたわ』


 溜息をついているような気配。

コイツほんとにAIなんか? 人間臭すぎるわ。


「(遠距離への攻撃手段はどっかで訓練はしたいんだがな。悲しいかな準騎手の俺には単独行動の自由がないんだ……駐屯地で試したら、また帝都の研究者がダッシュしてきそうだし)」


『平和なのも考え物でしてよ……ですが、その手立てはありましてよ?』


 え、マジで!?


『ロイド騎手が眠っている間に、わたくしの思考とリンクさせますわ。夢の中という形にはなりますが、そこで疑似的に訓練を行えるかと』


「(……オルヴァネイターはそんなことができんのか)」


『否定、ですわ! これは『ミュゼリア』であるわたくしにしかできませんことよ~!!』


 道理でその要素、原作に出て来んわけだぜ……


『ですので今晩……は無理でしょうから明日から早速やりましょう。魔力を使用しますので、昏倒するまで枯渇させるのはおやめになって?』


「(了解、相棒……そろそろ上がるわ、のぼせちまう)」


 訓練のめども立ったことだし……夜に備えるかな。


『ああ、昼に言っていた夜のお店に行くのですわね? そういうところは国が変わっても変わりませんのねえ……『男は愚か』と、よくわたくしの担当技官が言っていましたわ』


 急にシグムント王国に親近感がわいてきたな……



・・☆・・



「さあさあ、飲んで飲んで~♪ 新人クン!」


「い、頂きます……!」


「んっふふ、照れちゃってかわいい~!」


 夜。

ウッキウキのサイムに連れられ、俺は歓楽街にある飲み屋にやってきた。

想像したように、まさに異世界のキャバクラだった。

俺の左右には、程よく豊満で程よく筋肉のついた美女が座っている。

幸せな感触だ……いい匂いもする……天国って意外と近所にあったんだな。


「安心したぜロイド……お前さんは真面目で遊ばねえからな、てっきり女にまるで興味ねえって思ってたんだが……杞憂だったようだ!」


 向かいの席で馴染みらしい女性の肩を抱いて笑うサイム。


「じ、自分はまだ準騎手の身分ですので……まだその、早いかと」


「まあ、普通はそうなんだがお前はなあ……大分苦労してんだから、たまには羽ぇ伸ばせよ!」


 まあ、たまにはいいかな?

しかし、前世含めると結構な年齢のはずなんだが……やっぱり体に引っ張られてる感じがするな。

朧げだが『そういう』店に行った記憶もあるってのに……でも年相応に見られるのは悪いことじゃないな。

ただでさえ最近、ちょっと有名になってきたんだから。

周囲の目は気にしてもしすぎることはないと思う。

少なくとも、今はまだ。


 そう考えつつ、ジョッキを煽った。

この世界の安い酒って、アルコール度数低いよなあ……

でもなんか、いつもより美味い気がしないでもない!!


「きゃ~! いい飲みっぷり! 将来有望よ~!」


 左側の女性が腕に抱き着いてくる。

ううむ……おっぱいってやっぱりいいな!


「スケベな顔しやがってよ! そんなに乳が好きかぁ?」


「はぁい! 大好きであります!!」


「がははは! 正直で結構! 俺も大好きだァ! よ~し、今日は飲むぞ~!!」


 ああ、久しぶりに酒が美味く飲めそうだ。



 ――追伸。

翌日帰ってきたリタに何故か速攻でバレた。

俺は何もされなかったが、サイムは正座で説教されていた。

すまない。

俺は何も悪くないと思うが、すまない。



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― 新着の感想 ―
シグムント帝国でも魔物を食べる技術は開発できんかったんかな? リタさん!?嗅覚?が鋭すぎる・・・
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