第16話 予想通りだけど、予想外。(帝歴999年、10月)
――帝都のおふくろ、それに妹よ。
九死に一生を複数回潜り抜けたロイド=ベルク準騎手です。
いつのまにか秋になり、冬の気配を感じる気がしないでもない今日この頃……そちらは、いかがお過ごしだろうか?
俺は今日も元気に……お部屋から一歩も出れておりません。
何故なら……四六時中俺の部屋にいる過保護エルフが、トイレと風呂以外でお外に出してくれないからです。
今も、ニコニコしながら椅子に座ってリンゴを剥いてくれています、とっても優しいね。
ちなみにこの世界でもリンゴはリンゴです、言葉って不思議。
あ、それと寝込んでいる間に15歳になりました。
この国には誕生日を祝うって風習はないので、スルっと成人に進化しました。
10月10日って覚えやすい誕生日なのになあ。
基本的に、大みそかにあたる日に誕生日祝いも何もかも一緒にするって感じだもんなあ。
「ん~? なぁにロイド、お腹空いた? 待っててね、今準備するから!」
「いえ……大丈夫です」
……だってリンゴ、それで5個目だから。
リンゴだけで腹がいっぱいになりそうよ……飯が食えなくなる……
「遠慮しないのぉ! ほらほら、アタシが食べさせたげるから~! あ~んして! あ~ん!」
「ちょっとやめむぐめめめ、ももっも! もん~!!」
リンゴに……いや過保護ダダ甘エルフに殺される!!
・・☆・・
駐屯地に帰ってきたら、予想通り大騒ぎだったらしい。
まあね、準騎手が地下水脈に落っこちて行方不明になって……それから古代文明の鎧騎兵に乗って帰って来たんだから。
俺が聞く立場だったら2回、いや3回は聞き返す自信があるね。
ザインブルグに血液をチュー! された俺は、戦闘機動での魔力消費も相まって気絶しながら帰って来たんだけどな。
なんでも、ザインブルグに乗せられたままアゴルムに前後を持たれて運ばれたらしい。
それで、気が付いたら翌日だったってワケ。
『知らない天井だ』って言う前にギャン泣きのリタが全力で抱き着いてきたけど。
死ぬかと思った。
それからは……まず駐屯地にある病院で検査と治療。
俺の体はそこら中に擦り傷と打撲があったが大したことはなかった。
腕と背中にはザインブルグ由来の傷もあったが、それは出血も止まっていたし化膿もない。
一番ひどいのは両掌だったな。
お医者さん曰く、綺麗に洗って軟膏を塗ったのがよかったらしい。
かなり深かったらしく、それやんないと最悪化膿して毒素が全身に回るレベルだったとか……消毒って大事だなあ。
んで、ようやく宿舎に帰れると思ったら……病室に聖騎手が来た。
ロバスト=バルクハルクという名の、南駐屯地の最高責任者である。
面と向かって話すのは初めてだった。
ロジンよりも少し若い感じだが、短く刈り込んだ銀髪に2メートル近い鍛え上げられた肉体……まさに、雰囲気は歴戦の戦士。
騎手の最高位にいるだけあって、そこにいるだけでも緊張したな。
たぶん、片手で俺を殺せると思う。
そこで聞かれたのは、俺が地下水脈に落ちてからの顛末だった。
俺は、『本契約』のことや『精霊』と対話可能なことだけを隠してすべてを語った。
だって、『何で知ってるの?』って言われたら答えられんし。
遺跡で回収したモノは、既にロジン経由で向こうさんに渡っていたらしいのは驚いた。
……まあ、それはしゃーない。
俺は『探索者』じゃないので遺物を総取りする権利はないのだ。
国に仕えてる、つまりは公務員みたいなモンだしさ。
根掘り葉掘り聞かれたが、ザインブルグに関しては『とりあえず腹部装甲板が開いていたので乗り込んだ。変なのに色々言われたが、言葉が全部わからなかった。でもアゴルムと同じように動かせたので、散らばっていた装備をかき集めて探索を続けて脱出した』で押し通した……押し通せた。
だってオルヴァネイターについて、その名前すら現状何もわかっていないのだから。
既に存在する同型機についても、この時間軸では『仮契約』オンリーで動いているはずだ。
それは、本編中盤以降に主人公たちが秘密を知るまでは変わらない。
『シグムント王国の貴重な鎧騎兵』という扱いで……まあ、ちょっと強い美術品のような扱いなのだ。
能力はそれなりに高いが、性能にロックがかかっているからな。
・・☆・・
「おいおいリタ……お前またここにいたのかよ。ロイドはもう大丈夫だからちょっとは放っておいてやれよ……」
そんなわけで、現在はあれから半月後なのだ。
リンゴに殺されそうになっていると、サイム二等騎手があきれ顔をしながら部屋に入ってきた。
基本的にこの駐屯地の人間はノックという文化を知らんらしい。
もう慣れたけども。
「何言ってるのサイム! ロイドだって嬉しいに決まってるわよ! ね~ロイド!」
美人が近くにいるのは嬉しいが……いすぎるのは困りものだ。
思春期的な、色々な意味で。
「とても嬉しいですが……その、夜くらいは1人で眠れます、リタ上等騎手。自分も、もう15歳ですので」
「えぇぇ~?」
そう言うと、リタはあからさまにショックを受け……サイムはドン引きしている。
「お前なあ……そりゃ、さすがに過保護だぜ? 母ちゃんかよ……」
「違ぁう! アタシはロイドの素敵で頼れる上官で、素敵なお姉さんよ!!」
そこ、こだわるよな……俺にエルフの姉はいません。
「はいはい、そいつはよかったな……ロイド、お前さんに客だ。聖騎手付の上等騎手が来てるぜ」
「はい、すぐに向かいます」
よかった……貴重な外出のチャンスだ。
リタは俺を部屋から出してくれんし、ロジンも『今月いっぱいは静養』って言うし……もう体は大丈夫なんだけどな。
筋トレくらいしかすることがないし、それすらリタに見つかったら涙目で阻止される。
俺、まだ15歳なんだよな……対外的には。
『中身』はたぶん60を越えてる気がするんだが。
「アタシも一緒に――」
「リタはドヴォルのおやっさんが呼んでたぞ。お前昨日の哨戒でツヴァンクをぶん回し過ぎて両腕痛めたろ……カンカンだぞ」
ドヴォルっていうのは、ウチの整備士のトップであるドワーフのおっちゃんだ。
俺みたいなガキにも優しいが、ヨロイを雑に扱うと死ぬほど怒られるからな……
「ううぅ~……ロイド、ロイドぉ! 何か嫌な事言われたらアタシに言うのよ! ボッコボコにしてやるんだから~!」
「ぐむぅう!?」
涙目で俺を抱きしめ、窒息させかけて……リタは肩を落として部屋から出て行った。
聖騎手の直属をボコらんでくれんか?
愛が重すぎる……
「ふう……やれやれ、アイツの過保護にも困ったもんだな」
苦笑いしつつ、サイムが肩を叩いてくる。
「でもなあ……アイツ、前に部下になるはずだった新人が赴任直前に事故で死んでな……それもあって、ああも過保護なんだろうよ。そこはまあ、わかってやってくれ」
「え、そうだったんですか……」
今明かされる驚愕の事実じゃないか。
そっか……なるほどなあ。
「ま、仲はいいみたいだが……それで、本当に夜は一緒に寝てるのか?」
「……同じベッドじゃないですが、はい。言っても帰ってくれなくて……」
リタ、毎日寝袋持ち込んでここで寝るんだよな……
せめて俺が床に行くからベッドに寝てくれって懇願は、毎回笑顔で無視されている。
落ち着かないんだよ……俺の部屋なのに。
「弟分も大変だな……おっと、『例の話』はまだだがな? その前に綺麗所と飲める場所に連れてってやる、帰還祝いって奴だ」
風俗はまだだが、キャバクラには連れてってくれるのか。
俺も異世界キャバクラには興味があるから、楽しみではある。
「まあ、とりあえず行ってきな。統括の部屋で待ってるってよ」
「了解です」
さて、今度は何かな……?
「ロイド=ベルク準騎手であります!」
ロジンの部屋に入り、敬礼。
部屋の中には、ロジンと……女性騎手がいた。
長い黒髪が艶やかな、長身でスレンダーな女の人……なんかリタよりエルフっぽいかもしれん。
「カララ=ラドンセ上等騎手よ、楽になさい」
「ハッ!」
カララの指示に、敬礼を解いて楽な姿勢になる。
美人さんだが原作には出てこないな、この人も。
「ロイド準騎手、体の具合はどうかしら?」
「ハッ! 問題ありません! 今からでも任務に復帰できます!」
俺の答えを聞き、カララはロジンの方を向く。
彼はその視線を受けて頷いた。
「ロイド準騎手の回復力は優れている。医療魔法士からのお墨付きもあるぞ」
お医者さんの正式名称だ。
今回の俺は投薬と塗り薬で治ったが、傷の度合いが酷いと回復魔法で治療してくれる。
回復役は貴重なので、この基地では上位の高給取りだ。
回復魔法って習得無茶苦茶難しいからな……
「そうですか……それではロイド準騎手、私と一緒に来て。本部であなたにやってもらいたいことがあるの」
本部……ああ、成程ね。
このタイミングで俺を呼ぶってことは……『お手上げ』ってことか。
・・☆・・
「ここに運ばれてからずっとこの状態なのよ、外部からの操作を一切受け付けないし……」
南駐屯地の中心、通称『本部』。
以前来た第5皇女殿下も宿泊した場所だ。
そこにある、広い訓練場の片隅に……片膝をついた状態で、ザインブルグがいる。
腹部装甲板は閉まり、魔力の気配もない。
気絶していたから覚えていないが、俺がコクピットから出された瞬間にこうなったらしい。
安置したら装甲板を開けてくれたらしいし、精霊のお陰だな。
……よし、機能してるな『本契約』。
正式に『本契約』すると、俺の許可なしでは他人が動かすことはできなくなる。
勿論、腹部を開けることすら。
意識を失わなければ、他にも色々ロック条件を出したんだがな。
「貴方はコレで戦闘行動をしたと聞いているわ。それで……体も本調子に戻ったなら、少し調査に協力してほしいの」
「ハッ! 全力でご協力させていただきます!」
この訓練場は外から見えないので、野次馬の目はない。
今も周囲にいるのはカララ、聖騎手、それにお手伝いさんっぽいもう一人の女性騎手……じゃねえ!?
聖騎手の横にいるの、近衛5番隊のあのモブ顔女じゃないか! いつの間に帝都からこっちへ単独で……?
……こうしていても始まらない、とりあえず乗り込むか。
ザインブルグとの会話はしないようにせんと、あっという間に拘束とかされるかもしれん。
古代語の翻訳モドキができるなんて知られたら、帝都の研究機関に叩き込まれちまう。
そう思いながら近付いたら……思った通り、ザインブルグの目が光って腹部装甲板が即座に展開した。
「……やはり、紐付けられている……」
ぼそり、と近衛女が言った。
……一般騎手よりはさすがに何か知ってるか、流石皇女殿下の護衛。
「……今、何も特別なことはしていないわね? それじゃ、乗り込んでみて?」
「ハッ、了解いたしました」
この状況にビクついているフリ……半分は真実だが……をしながらコクピットに乗り込み、ベルトを締め――装甲板が閉まった!?
「ロイド準騎手!?」
外から狼狽するカララの声。
「問題ありません! 急に閉まりました!」
「そ、そう……とりあえず動かしてみて!」
「了解!」
籠手に手を入れ、魔力を流す。
すると背後にある『動力体』が反応を始め……前方の景色が透過された。
ちなみに、コイツに搭載されている『動力体』は見えてるだけで2個、原作の通りなら見えない所に2個だ。
見えない所にあるのは、劣化しない特別製のものである。
これも、現在の帝国では絶対に作れないものだ。
さて、外に聞かれるわけにはいかないから……小声でザインブルグに指示を――
『――ごきげんよう。お待ちしておりましたわ、ロイド騎手』
「……お前なんなん?」
古代言語かと思ったら、急にAIがお嬢様言葉で話し出した。
……なにこれ、あ! まさか……!!
『周辺の会話から言語体系を再構築いたしましたの。これで、ロイド騎手の補佐をより正確に、強力に行えましてよ』
……やってた! 原作でもこれやってた!
周囲の言葉を聞き取って……学習して現代語になってた!!
流石は超古代文明の生み出した戦闘用AIだ……!
……主人公の機体は執事っぽい話し方なのに、なんでこいつがお嬢様口調なのかはわからんが。
『ご安心あそばせ? ロイド騎手とわたくしの間には魔導感応網が構築済みでしてよ? 近くならば思うだけで指示は十全に理解できましてよ』
「(そうか……これからよろしく頼む)」
一瞬で色々起こり過ぎたが、まあこれはこれで……
言語がわかるって言っても、そりゃ即座に伝える方がいいしなあ。
『ええ、お任せになって? この音声も周囲には届きませんから、ご安心を』
至れりつくせり、か。
「魔導主機関起動、ザインブルグ、総体起こし!」
『了解でしてよ。あら、お声に出さなくても大丈夫ですわ?』
「(これは俺の趣味だから気にするな)」
『素敵なご趣味ですのね』
ぐぅん、とザインブルグの体が動く。
外のメンツはちゃんと動いたことに驚いているな……これで、俺に任せてもらえるかねえ、コイツは。
しかし、愉快なヨロイだなあ……




