第14話 邂逅、『オルヴァネイター』(帝歴999年、9月)
『シグムント王国』
ラギアギア帝国よりもはるか昔に、現在の帝国領内を含む広範囲を支配していたとされる国家だ。
現在と遜色ないどころか、大きく凌駕するほどの魔法文明が栄えていたという。
これは与太話じゃなく、実際に世界各地に存在する遺跡が発掘されて得られた『事実』なのだ。
魔力変換効率が高く、人間の魔力でも魔物に有効打を与えられる杖。
『毒ガス』こと『瘴気』を完全に遮断できる極薄の布。
魔力を注げば、無限に水が湧き出す器。
刃こぼれしても魔力で再生する剣や槍。
魔弾を発射するライフルのようなもの。
枚挙に暇はないが、そんなマジックアイテム……俗に言う『魔法具』が見つかることも多い。
そしてなによりシグムント王国においては、帝国に先んじること遥か昔に……『鎧騎兵』が実用化されていたのだ。
ラギアギア帝国が、辺境領の多くを魔物からもぎ取った後……先人たちは出土品の鎧騎兵を解析し、無理のない技術を使う製造工程に落とし込み、遂に『鎧騎兵』を開発するに至った。
知っての通り、ヨロイの力は凄まじく……拡大した辺境領を防衛する『帝国の盾』たる存在になったわけだ。
そんな超古代文明の遺跡。
そこに今、俺は立っているわけだ。
「未来で壊滅した西方辺境領にもあったのか……遺跡が」
本編中はのんきに発掘作業なんかしてられる状況じゃなかったもんな。
一応この世界にもトレジャーハンター的な存在、『探索者』はいるが……一般的な評価は高くない。
夢を追い続ける、浮世離れしたアホ共だってな。
後のメインキャラクターにいるような『一流』なら別だが、それ以外はほとんどギャンブラーと大差ない。
「ともかく、これは……なんとかなるかもしれん!」
シグムント王国の遺跡は、お宝の宝庫だ。
いや、別に大金持ちになりたいとかそういうことではなく……ここには『使える』魔法具が眠っている可能性が高いんだ。
だって、どう見ても手つかずの遺跡だしな。
西方辺境領にあるって情報すら俺は知らんかったし。
本編中の知識なら、北方辺境領には主人公たちが迷い込む遺跡はあったが……こっちは何の情報もない。
魔法の杖でも出てくれれば、『動力体』を爆発させんでも合図は出せる!
エルフ以外のほとんどの種族は、杖みたいな補助具ナシだとロクな魔法を使えんからな。
これは希望が湧いてきたぞ……!
ありがとう! 超古代文明!!
「むぐ……美味い!」
希望が見えてくると急に腹が減る。
早速口に放り込んだ干し肉を咀嚼しつつ、俺は通路に沿って歩き出した。
いつもなら塩味しか感じない硬い硬い干し肉が、今この瞬間だけはステーキに感じるぜ……!
・・☆・・
「も、もう一歩も動けん……」
慎重に周囲を確かめて、床に腰を下ろす。
背嚢を下ろし、水のボトルを掴みながら頭を預けて息を吐く。
……喜んで出発したものの、俺は大事なことを忘れていた。
「遺跡あるある……だよなあ……」
手つかずの遺跡には、手つかずの……『防衛機構』があるってことを。
「俺の馬鹿野郎がよ……危うく死ぬところだった……」
不用意に足を踏み出せば、槍が壁から飛び出る。
壁を気にして歩けば、天井から鋭利な鉄片が降り注ぐ。
そうかと思えば、床が開いて剣山が仕込まれた落とし穴が顔を出す。
道はずっと一本道で迷いようがないものの、気の休まる暇がなかった。
「嗚呼……俺も仲間にアチュルが欲しいよ」
本編登場人物で、主人公の仲間かつ最高峰の『探索者』である美少女を思い出しつつ目を閉じる。
訓練のお陰で魔力察知には慣れたもんだが、それが遺跡の防衛機構ともなると全くの門外漢だ。
脱出したいのは山々だけど、急ぐと死ぬかもしれん……慎重に行かねば。
「んぐ、んぐ……ぷは」
飲み過ぎにならんように気を付けて水を飲み、大きく息を吐く。
駄目だ……寝袋を出す元気もない。
適度に涼しいし、このまま寝よう……風呂入りてぇ……
リタ、それに皆……俺はなんとか生きてるから、心配しないでください……
・・☆・・
「たぶん朝だ、たぶん」
夢も見ず、ぐっすり寝たような感覚もないが……ともあれ疲れは最低限取れている。
さあ、便宜上朝飯を摂ったらまた歩こう。
……なんか、全身の傷が熱を持っているような気がする。
これ以上熱が出ないといいんだが……とにかく、行くぞ!
罠に気を付けて……!
「出発……んん?」
立ち上がり、少し歩いて……違和感。
ポケットに入れていた小石を掴み、前方に放る。
「やっぱり……」
床に落ちた小石の近くから、それなりの速度で槍が飛び出した。
結構な警戒ようだな……この先に何があるのか知らんが、安いものではないらしい。
今日も気を引き締めて行くとしよう。
……こんなことになるなら、洞窟エリアでもっと小石を拾っておくんだった。
予想しろってことの方が無理だけどさ。
……あ、背嚢のポケットに小銭入れてたな。
死んだら何の役にも立たんし、小石代わりに使っていくか……
「まさか、これは……」
槍を躱し、倒れてくる壁を避け、落ちてくる天井から必死で逃げた。
〇ンディー・ジョーンズよろしく、転がってくる大岩がないだけマシな状況だった。
そうして必死で歩き続けた俺の前は……行き止まり。
継ぎ目もない、真っ白い壁で通路は完全にふさがれている。
だが、俺は絶望していない。
これまで一本道で、終点は地下水脈へ出るというなら……行き止まりはあり得ないからだ。
この先は、また違った空間になっているだろう。
だって、この壁に似たものは本編に出てくるからだ。
主人公たちが北方辺境領で迷い込んだ遺跡にも、同じような壁が出てくる。
そして、それは壁ではなく……
「……こほん、『タラムゼーレ』!」
しいんとした遺跡に俺の声が響き……しばらくすると地響きが。
継ぎ目すら判別できなかった壁が、振動しながら左右に開いていく。
「……丸暗記、万歳」
普通なら学者連中が膨大な時間をかけて調べるんだろうが、俺には『原作知識』がある。
今のは、古代シグムント語において『道を開け』と言う意味の単語だ。
ボロボロになるまで原作を読み込んだ俺は、この程度の古代言語なら問題なく使える。
ちなみに、俺たちが普段使用しているのは『帝国語』だ。
前世の英語のように、いくつかの国でも話されている。
ごうんごうんと開いた壁の先は……うん、ちょっと感じが変わったな。
今までよりも高級そうな石材を使っている気がしないでもない。
天井からの明かりの数も増え、先がわかりやすい。
「こっから先は罠がないはずだ……ないよな?」
今までは遺跡の『通用口』
これからは、さしずめ内部だ。
床はより一層掃き清められた大理石のようで、壁や天井も今までより高級そうだ。
まだ一本道だが……何かいいモノが見つかれば御の字なんだがな……
「『タラムゼーレ』!」
綺麗な通路の先は、さっきよりも一回り大きい扉で塞がれていた。
それに声をかけつつ、『戦利品』を確かめる。
ここに来るまでにいくつかの小部屋があり、そこにはちょこちょこと遺物が残っていた。
「長めのナイフ、ランタン、古代貨幣の入った革袋……それに謎の宝石がいくつか」
これが当たりか外れかはまだ判別できん。
古代貨幣はともかく宝石の知識はないし……ナイフやランタンが『魔法具』かも確かめてない。
遺跡の遺物には時々『呪い』がかかっている場合がある。
脱出行の途中で呪いで死ぬなんて絶対嫌だ。
折角数々の罠を避けてきたってのに……まだこの遺跡の全てを見たわけじゃないので、探索が終わってから考えることにする。
魔法の杖がなかったのが痛いなあ、あったらリスク覚悟で試すんだけど。
扉が重い音を立て、左右にゆっくりと開いていく……
「――なんだッ!?」
持っている『動力体』がいきなり輝きを増した!? 俺、魔力おかわりしてねえぞ!?
――ひとつ、またひとつと明るさが『増え』た。
扉の先、地面から真っ直ぐ奥へ伸びる……赤い色の石材で構成された床。
その左右に、『動力体』によく似た水晶が嵌まっている……灯篭? ランプ? がある。
それが、手前から奥へと順々に点灯していく。
「……原作で、知ってる景色だ、これ」
本編で、主人公一行が迷い込んだ北方辺境領の地下遺跡。
そこの最奥で……同じようなものを読んで、見た。
俺の推測が正しければ……これは、『大当たり』だ。
光が灯るにしたがって、部屋の全容が見えてくる。
広さは騎手の宿舎1階の……半分くらいか。
10メートルちょいの長さがある、正方形の部屋だな。
壁には、所狭しと紋様と壁画が刻まれている。
書かれている文字は恐らく古代文字……いくつかはわかるが、さすがに原作でも全て網羅しているわけじゃないからな。
幅2メートルほどの色違いの赤い床は、真っ直ぐ奥へ。
そして……最奥に明かりが灯った。
暗闇に宿っていた闇が、蒼白い光に払われた。
そこには――
「……やっぱり、あったか」
呟きつつ、目をやる。
祭壇だ。
帝国の宗教様式とは少し違う、大きな祭壇がある。
用途不明の器具や、遥か昔に燃え尽きた蝋燭の残骸。
高級そうな布は経年劣化によって雑巾以下と化し、ここにもまた生命の匂いはしない。
――その奥に、巨大な『人影』
祭壇の後ろに、壁と一体化したような形状の……玉座めいた椅子がある。
そこに、巨人が……否、『鎧騎兵』が、項垂れるように座っている。
手足は、玉座から伸びた枷のようなもので固定されていた。
始めに目に入ったのは、赤色。
アゴルムよりも人間に近いバランスのそいつは、流麗な金属の鎧を身に纏っていた。
表面が滑らかすぎる……高級な芸術品にも見えるな。
関節部は黒いゴムに似た物質で保護されていて、継ぎ目も見えない。
その肩、肘より下、胸、腰鎧、そして膝から下が……鮮やかな深紅に塗装されている。
頭部はバイザーを上げた騎士鎧風で、その縦にいくつも線の入っているバイザーだけが赤い。
そこ以外は、少し青みがかった輝く銀色だ。
そして、人間の目がある部分には、澄んだ青色の水晶が2つ嵌まっている。
「『オルヴァネイター』……」
それは、ラギアギア帝国が鎧騎兵の開発に研究に研究を重ねた……『学習元』の鎧騎兵。
オルヴァネイターとは、シグムント王国語で『ねむりしもの』という意味を持つ。
そんな、オーバーテクノロジーの結晶体だ。
それが俺の目前で……静かに鎮座している。
どこを見ても、帝国製の鎧騎兵よりも高度な技術で作られている。
……外見に経年劣化は見られない。
シグムント王国の発達した魔法文明によって、ヨロイ全体に『状態保存』の魔法が強くかかっているんだろう。
「公式では帝国に5機しかいないってのに……6機目か、こいつは」
帝国のオルヴァネイターは、本編中に5機登場する。
4機は元々各方面に配備されていて、残りの1機は原作主人公が北方辺境領から発掘する。
つまり、こいつは原作では影も形もなかった1機というわけだ。
……俺は『帝歴1002』そのものじゃなく、それにとてもよく似た世界に来たのかもしれない。
原作に書かれていないものを多く見すぎているからな。
「……関係ないか、今は」
とりあえず……目の前のコイツを起動させて、ここから脱出することを考えよう。
全てはそれからだ。
祭壇の横を通り過ぎ、オルヴァネイターの前に立つ。
ちり、とうなじの毛が逆立つ感覚……魔力を放射されている……目の前の、コイツから!
ってことは……コイツの『動力体』は、まだ生きてる!
悠久の時を経て、なお!
『――アプファール、デナ、コンセロイア?』
俺しかいない空間に、鈴の鳴るような女性の声が響く。
勿論、言ったのは目の前のオルヴァネイターである。
しゃ、しゃしゃシャベッタ~! と、普通なら驚くんだろうが……俺は平然としている。
だって原作で知っているからな。
全てのオルヴァネイターには『精霊』と呼称される……まあ、言ってみれば戦闘補助用のAIに似たモノが搭載されている。
当然ながら古代シグムント語で喋るのだが……俺にはわかる! 原作で読んだから!
今のは『お前は誰だ?』的な意味!
ううう、中二病時代に古代語を丸々暗記した甲斐があったなぁ……!
「……イーラ、メステ、ロイド=ベルク。ダ、ラトルク、メウ……ヴァレイア。 (我が名はロイド=ベルク。国に仕える騎手である)」
『チサント……チサント……ハラウ。ジャルミータ、ロロウア。 (検索中……該当なし。身の証を立てよ)』
よし! 通じた!!
初めてプラス方面で原作知識が役に立った気がする……感動だ!
身の証ね……この場合はこうだ。
無言で『動力体』を掲げ……魔力を流す。
青白い光が強くなり、空間を強く照らす。
『……ラーグ。ロイド=ベルク……ミア、トリスタ、デ、ヒュメル。 (確認。ロイド=ベルク……貴方を魔力持つ命と認定します)』
よぉおおおし!
シグムント王国時代に何があったかわからんが、こいつらは魔力を持たない生命体を『敵』と判断する。
俺は魔力がバリバリある現地人間なので、第一関門突破だ。
さて……この次からが本番だぞ!
『ロイド=ベルク。イーラ、ヴォル、セグメヌト。 (ロイド=ベルク、私は盟約の言葉を求めます)』
……来た!




