第12話 落下オチなんか認めねえぞ!! (帝歴999年、9月)
「……あの、リタ上等騎手」
『ん、なーにロイド?』
暗闇の中で呟くと、即座に返事が返ってきた。
「その……親父のことなんですけど」
俺達5番隊は角土竜との戦闘後もしばらく歩き続け……四方が開けた小高い丘で、野営をすることになった。
テントを張り、食事をし……そして、今はもう真っ暗だ。
俺とリタは夜警として、テントから少し離れた所にいる。
テントを挟んで対角線上だが、通信は問題なく届く。
野営地の周囲には『魔物避け』として刺激臭のする粉が撒かれているが、最悪の事態が起こらないように、こうしている。
魔物避けはおまじないでもなんでもなく、実際に効果を発揮するが……ある種の強い魔物には効かない可能性があるんだ。
『ガルムさんの?』
「ええ、以前皇女殿下の護衛の方が漏らしていまして……『南駐屯地の最前線で死んだ』と」
油断はしないが、このくらいの話はできる。
おふくろに手紙で聞くのもアレなので、何か知っているかと思ってのことだ。
この人は……基本的に俺にダダ甘いからな。
『っち、あの近衛女ったら余計なことを……子供に対する配慮って言葉、知らないのかしらね~……』
なんか怒ってるな……
そういえば俺、14歳だった。
前世のことがあるから、すっかり大人のつもりだったが……対外的には成人前の小僧だ。
なるほど、だからおふくろは教えてくれなかったのか?
ふむん……子供に優しい異世界だな、ここ。
『……まあ、知っちゃったのは仕方ないわね。でも、楽しい話じゃないわよ?』
「はい、覚悟しています」
そう言うと、しばらくの沈黙の後……リタは話し始めた。
『あらかじめ言っとくけど、アタシがその時任地を離れてたのは本当。だから、人から聞いた話になるけど……あれは、帝歴989年の8月だったわ』
俺が4歳の時だな。
『今回みたいに、ガルムさんの所属していた15番隊は大規模な哨戒任務に出たの。『大型の足跡が発見された』って理由らしいわ』
「『大型』……ですか」
基本的に、魔物は全部でかい。
だから、改めて『大型』って呼称されるってことは……その中でも群を抜いてデッカイってことだ。
『そう、足跡から推測される大きさは最低でも10セグント。だから、当時の南駐屯地で上位の実働部隊だった15番隊が派遣されたの』
1セグントは、だいたい1メートルくらいの単位だ。
ってことは10メートル級……文句のない『大型』だな。
ちなみにさっきの角土竜は『小型』で、5メートルを超えてくると『中型』という区分になっている。
まあ、『大型』以外はそんなに言われることもないが。
「そこで、親父は……」
『……うん、結局帰って来たのは2人、二等騎手と準騎手だけ。その2人からの聞き取りによるとね……』
一拍置く、リタ。
『――出たのは、『龍』だったって』
思わず息を呑む。
……なるほど、よくわかった。
それが本当のことなら……俺に話すはずもない。
いや、それどころかおふくろも知らない事だろう。
「……なるほど、それは言えませんね」
『龍』……いわゆるドラゴン。
この世界に存在する魔物たちの中で、明確に『上位』だとされている存在だ。
最低でもその体躯は10メートルを超え、基本的に1~2匹で行動する。
原作での姿は、背中に大きな翼を生やした四つ足の化け物だった。
まるで戦闘機の先端のように尖った顔に、鋭利な装甲板をズラリと生やした長い尻尾が印象に残っている。
その体は、強靭な鱗によって守られており……俺のような新兵はともかく、上位の騎手たちの駆る……上位の鎧騎兵の攻撃でも一撃で有効打を与えることは難しい。
そしてその巨体故に、簡単な体当たりでも凄まじい威力を発揮するし、動きは速く、空まで飛ぶ。
それだけでも脅威だが、その上奴らは『魔法』を使う。
体内に脈動する魔力を練り上げ、圧縮し……咆哮と共に口から放つ。
ドラゴンブレス……こちらでは主に『息吹』と呼ばれるそれは、堅固な城壁をまるでバターのように溶かして吹き飛ばす。
頑丈だと言われている俺のアゴルムも、マトモに喰らえば一瞬で溶けて同じ運命をたどるだろう。
いや、ブレスを正面から受け止めて無事なヨロイは……原作でも数えるほどの数しか出てこないし、なによりワンオフ……専用機みたいな連中だけだ。
原作でもいくつかのエピソードで主人公が戦うことになったが、決して容易い相手ではなかった。
何人も、それなりの騎手が犠牲になることもあったのだ。
『しっかり勉強しているのね……そうよ、『龍』は『災禍指定巨獣』に分類されるの。その出現に関わる全ての情報は……上位の騎手と一部の公爵家、それに皇族を除いて開示が制限されるのよ』
『龍』は、騎手隊どころか小さな街すら滅ぼす魔物の一種だ。
リタが言う『災禍指定巨獣』たちの情報は、一般市民には絶対に知らされることはない。
即座にパニックが起こり、避難させるのも一苦労になるからだ。
それどころか、本来なら俺のような準騎手にも知らされることはない。
「……親父は、どんな風に」
『ガルムさんは、他の騎手と一緒に……若い二等騎手と準騎手を逃がすために戦ったそうよ。逃げる二等騎手が最後に見た時は……半壊したツヴァンクで『龍』の目に槍を突き刺していたって』
……龍の攻撃を潜り抜けて、反撃を?
親父殿は、本当に強い騎手だったんだな……
『辺境の赤狼』……親父殿を知ってる人たちが、どこか誇らしげにそう言う理由がわかった気がする。
鎧騎兵の軍勢を滅ぼすような魔物に、死んだとはいえ一矢報いたんだから。
『その後龍が息吹を吐いて……吹き飛ばされて生き埋めになった生き残りが気付いた時には、もう何も残ってなかった……って。地面は溶けてガラスになってて、遺体も……鎧騎兵の残骸すらも、何もね』
「……そう、ですか」
控えめに言って地獄みたいな状況だ。
プロローグの前に、この西方辺境領に『龍』が出てたなんて……
おぼろげな記憶をたどると、確かに葬式に親父殿の棺はなかった。
その代わりに、使い古された革鎧が燃やされ……その灰が墓に収められた、と思う。
帝国において、葬儀の最後は基本的に火葬である。
そうか……死体も残らなかったんだな、親父殿。
『ごめんね、ロイド。アンタが聞きたがってるのはわかってたけど……こればっかりは、ね? 近衛女も知ってただろうけど、口に出さなかったのは相手が『龍』だったからよ』
「いえ、むしろ……自分で聞いておいてアレですけど、俺に言ってよかったんですか?」
情報漏洩みたいなモンだろう、これ。
『いいの! アンタはアタシの大事な部下なんだから!』
……本当に俺にはもったいない、いい上官殿だ。
『あ! でも他で言っちゃ駄目だからね! これは2人の約束、ね?』
「はい、勿論ですリタ上等騎手。……ありがとうございます、本当に」
そう言うと、くすくすと笑い声がした。
『あらぁ? 何のことかわからないわ、アタシ♪ さあ、張り切って夜警よロイド! 油断しちゃだめなんだからね~!』
「はい!」
死んだ親父殿のことを考えながら……手槍を握りしめた。
・・☆・・
『これだ、多いな……『中型』だろう』
翌日。
夜警を代わってグッスリ眠り、早朝に起きた俺達はテントやらを撤収。
火の始末を終えると、すぐさま鎧騎兵に乗って行動を開始した。
進むうちに平原に点在する草はやがて背を高くし、それらが密集した草原へと姿を変えていた。
そんな中、先頭のドラウツェンが停止……地面を指差している。
先輩方のヨロイの隙間から見ると……確かに、このアゴルムを越える大きさの足跡があった。
それも、いくつも。
やや湿った地面に刻まれている。
『先遣哨戒の情報とも合致する。各員、いつでも戦えるように武装を持っておけ。ここらに雨が降ったのは3日前だ、まだ新しい』
『『『了解』』』
まだ反応はないが、あれだけの足跡……間違いなく、この先に『群れ』がいる。
大盾の位置を調整しつつ、皆を追う。
『ロイド、お前は他の新人よりも魔力操作に長けているし、魔力総量も多い……多めに展開しておけ。先のことは考えなくていい』
ロジンからの通信。
「はい、了解です」
『動力体』に流す魔力を多くすると、鎧騎兵の反応速度は上がる。
だが、その状態では『動力体』の劣化も早まる。
少なすぎると逆に『動力体』の劣化は遅くなるが、ヨロイの動きも鈍くなる。
そこら辺のバランスを肌感覚で覚えつつ、最適な魔力量を心がけるんだが……ロジンがこう言うってことは、劣化を考えずに常時最大出力を出せるようにしとけってことだ。
『お前さんの腕前なら、おいそれとは死なんだろう。儂らも用心するが、お前も自分1人で戦えるように備えておかねばな……おいリタ、それとなく寄るんじゃない。ロイドのためにならん』
『えぇえ……統括ぅ、まだ早いんじゃ……ロイドったら14歳なのよ?』
ごいん、と4番機の頭がハンマーで軽く叩かれた。
『エルフの14歳と一緒にするんじゃない。ロイドはもう一端の男になりつつある……それをわかるんだよ、お母ちゃん』
『いっだだ……ちがぁう! お母ちゃんじゃない! 素敵なお姉さん! そうよね、ロイド~?』
やっぱり姉目線で俺を見てたのかよ……
「……はい、自分はリタ上等騎手を実の姉のように尊敬しております」
『んま~! ねえ聞いた? 皆聞いたァ!? なんっていい子なのかしら!!』
……割と冗談のつもりだったが、リタの4番機はクネクネと恥ずかしがるように動き……可視化できるほどの、魔力を放出した。
アレ、余剰魔力か……どんだけ放出したんだよ。
さすがエルフ……とでも言えばいいのかね?
『……ロイドよ、おめえも大変だなぁ?』
どこか同情するように、サイム二等騎手の声が響いた。
彼は俺に『素敵な初体験』をさせるべく準備に余念がないが……リタに嗅ぎつけられんことを祈るばかりである。
「ははは……」
苦笑いしつつ、手から放つ魔力を一段階ほど多くした。
背後の『動力体』が低く唸り、コクピット内を照らす光が強くなる。
……さて、どっからでもかかってこい!
『正面! 数、5! 突っ込んで来るぞ、アゴルム、前進……受け流せェッ!!』
『『『了解ッ!』』』
俺を除く4体のアゴルムが、大盾を構えて腰を下ろす。
その向こうには……土煙!
『『二本角』よロイド! 絶対正面に立っちゃ駄目!』
「了解ッ!」
かなり背の高くなった草原を蹴散らしてこっちへ来る土煙。
その隙間から、鈍く輝く黒角がチラホラ見える!
この目で見るのは初めての『二本角』……黒光りする、装甲満載トリケラトプス!
前世の装甲車も驚く速さで、そいつらはこっちに殺到してくる!
背筋がひりつき、口が渇く……だけど、皆はいつも通りに静かに立っている!
『まだだ――』
少しも震えていない、ロジンの声。
『まだだ――』
振動が足を伝わり、土煙から最初の一体が飛び出す!
『――今ッ! 受け止めろッ!』
『『『オォオオオオオオオッ!!』』』
空気が爆発したような、轟音!
前列のアゴルムたちが揺れ、足元の地面がめくれ上がる!
でも――倒れない!
『ぬぅううううううあッ!!!!』
9番機……サイムが叫び、両手で握った大盾を、横に振る!
突進の勢いを逸らされ、首を曲げながら『二本角』の頭が……盾の影から出てきた!
『――ぬぅんッ!!』
そこに、ドラウツェンのハンマーが横から叩き込まれる。
頬の装甲板がひしゃげ、目を剥いた二本角の首が――激しく横へねじれる!
『逃がせ! 囲めツヴァンクッ!!』
『『『了解ッ!!』』』
頭を殴打された二本角は、若干よろけながらアゴルム隊の間を抜ける。
そこへ――リタの4番機が突っ込む!
『ハァアアッ!!』
翻ったロングソードが、顔面の装甲板を避けて――延髄へ突き刺さった!
『はいよォ!!』
その横から進み出たトッドの2番機が、突き刺さったままのリタのロングソード……その柄頭を、跳躍しながら盾で思い切りぶん殴った!
「ギピィ!?!?!?」
釘のように打ち込まれたロングソードが、根元まで首に埋まる。
ここからは見えないが、貫通したんだろう。
なぜなら、二本角はそれっきり動かなかったからだ。
『次が来るぞ! 構えろ!!』
アゴルムが受け止めてズラし、ドラウツェンがぶん殴って頭を揺らす。
そして、後列のツヴァンクが急所を突いて殺す。
そんな、徹底したルーチンワーク。
俺を除く5番隊は、一塊の群れのように動いている。
残念だが、そこに混ざれるほど俺の練度は高くない……だから、油断せずに目で見て盗むんだ!
盾を構え直し、頼れる先輩方の雄姿を誇らしく眺めた。
『――ッ! アゴルム下がれ! 儂が出る!!』
2匹目、3匹目と二本角は倒れていき……次が5匹目という時に、ロジンが叫んだ。
それに返答もせず、アゴルム隊はゆるく散開しつつ後退。
すぐさまドラウツェンが前に出た。
突出したドラウツェンの後ろに、盾を構えたアゴルムが再び展開。
『長だ! 長が来る……! でかいぞ、油断するな!!』
今までで一番大きな土煙……そこから、さっきまでより一回りは大きい二本角が飛び出した。
体中に纏った黒い装甲板に、薄く魔力と……赤い毒の煙が纏わりついている。
『こぉおお……!!』
ドラウツェンが、両手で握ったハンマーを大上段に振り上げる。
その先端からは、ヨロイを通して注ぎ込まれた魔力の余剰分が大気へ拡散していく。
ある一定の強さから、魔物の装甲板は魔力を纏う。
それを砕き、斬るにはこちらも魔力を武器に乗せる必要がある。
『動力体』に魔力を流すのとはまるで違う難易度で、俺は毎日死ぬほど訓練してなんとか会得はした。
それができなければ俺達は、『中型』の魔物にすら勝てないのだ。
「ブフォオオオオオオオオオオオッ!!!!」
群れを殺されて怒り狂った二本角が、目を血走らせて吠える。
奴の突き出た角の先端にも、稲妻に似た魔力が走っている。
『オォオオオオオオオオオオッ!!』
それに臆することなく、ドラウツェンが一歩踏み込む。
突進の真正面に身を置いて――残像すら見える速度で、ハンマーが振り下ろされた!
無理やり音にすれば、『めぎ』と『どご』だろうか。
ともかく、大型トラックの正面衝突よりも激しい音が響き――
『ぬぅううあッ!!』
ドラウツェンが、後ろに下がる。
打ち込まれたハンマーヘッドは二本角の眉間にめり込んでヒビを入れたが、それでも突進の勢いは完全には弱まらない!
『ぐぬぅうううううッ!!』
アゴルム隊のすぐ前まで、ドラウツェンは足を地面にめり込ませながら動き――止まった。
目測で5メートルを超える巨獣の突進を、鎧騎兵1体で止めたんだ。
『っすぅうう――こぉおお……!!』
ロジンの呼吸音、それと共に深紅のマントが翻る。
風じゃなく、胴体から放出された膨大な魔力によって。
『ぬぅっ――』
二本角にめり込んだハンマーが、体液を纏って大きく後ろに引かれる。
『がぁああああああああああああああッ!!!!』
目いっぱい逸らしたハンマーヘッドが、加速。
胴体を真横まで捩じった勢いを余す所なく乗せ、魔力で輝く先端が――変形。
内部から杭を展開させたそれが、二本角の左目に轟音を上げて突き刺さった!
「ブガァアアア!? ガァアアアアア!?」
『総員吶喊! 後方に回り込んで突けい! 10番機は防御姿勢のまま、待機ッ!!』
二本角の悲鳴に負けない、大音量の命令。
『『『ラーグ・ヴァラール!!!!』』』
『騎手万歳』という意味の雄たけびを上げ、全員が走り出す。
ツヴァンクが剣を両手で持ち、まず側面に回り込んだ。
そして、全体重を乗せた突きを放つ。
脇腹、脇の下、胸。
いずれも装甲の隙間を縫って、次々と突き刺さっていく。
それに続くアゴルム隊が、鈍重だが重さのある突撃で――さっきのように、突き刺さった剣の柄尻を大盾でぶん殴る。
4本の剣が、ほぼ同時に柄尻まで二本角の体に埋まった。
「ギィイイイイ! ガバァアアアア!?!?」
叫び、なんとか身をよじろうとする二本角。
だが、それを許さないのはドラウツェンだ。
身じろぎもせず、目に叩き込んだハンマーを体全体で抑え込んでいる。
そうしているうちに、ツヴァンク隊は背中に懸架されていた新しい剣を引き抜く。
そして、間髪入れずに先程のように勢いよく突き刺す。
それに続くアゴルム隊も、すかさず大盾でそれを打ち込んだ。
「……すげぇ」
この世界で『杭打ち』と呼ばれる戦術……小説で読んでいたし、アニメで見ていたがこうして目の前で見ると迫力が段違いだ。
統率された鎧騎兵の、暴力。
これだけやらないと、魔物は倒せないのだ。
……これだけやっていても、西方辺境領は滅んだのだ。
――りぃいん、りぃいん。
「ッ!?」
コクピットに鳴り響く音……これは新手……じゃない!
今まさに死にそうになっている二本角に、魔力反応!?
馬鹿な!? 二本角は放つタイプの魔法は使えないハズ――
『ロイドッ! 避けてェ!!』
――油断は、していなかった。
俺ができる限りの魔力を通わせていた、アゴルム。
その愛機は、俺の獣じみた予感をダイレクトに反映。
脚部関節から火花を散らすほどの速度で、通常はできないハズの動作をした。
横へ、跳んだのだ。
「な、にぃい!?」
二本角の、まだ健在な長い角から――雷撃のような、魔法攻撃。
それは、今しがた俺が立っていた箇所を薙ぐように一直線に通過した。
直撃を避けたハズのコクピットに、振動と――感電に似た、衝撃。
「ぐっが、ああぁ!?!?」
コクピット内部から火花が散り、握り込んでいた水晶球が手の内で破裂。
革手袋越しの掌を切り裂きながら、そこ経由で俺の全身を逆流した魔力が蹂躙していく。
視界が明滅し、背後の『動力体』もまた、点滅を短い間隔で繰り返す。
「う、ごけ……!」
アゴルムが、一切の操作を受け付けない。
さっきの電撃が、『動力体』の展開する結界を貫通したんだ。
外部から逆流した余剰魔力が、アゴルムの操作系を麻痺させたんだろう。
『ロイド! ロイドぉ!!』
『ロイド、大丈――駄目だリタ! 近付くな!!』
リタの悲鳴と、普段にない焦ったロジンの声。
それを珍しく思いながらも、体は、アゴルムは動かない。
――浮遊感。
意識が途切れるのではなく……『足元』が崩壊した。
アゴルムの機体が、太ももまで地面に埋まり――貫通。
魔力リンクがかろうじてつながっている視界には、眼下に広がる深い谷が見えた。
地下空間に、音を立てて川が流れている。
く、クレバス!? まさか、こんな所に……さっきの雷撃で、表層が崩れたのか!?
『ロイド! 聞こえているなら魔力を流せ! 流し続けろ! 『動力体』が生きている限り、水は反発す――』
『イヤァアアア!? ロイド! ロイドぉ~!!』
俺のアゴルムは、落下した。
その結果として、通信は一瞬で切れて――体がバラバラになりそうな衝撃と、轟音が襲い掛かってきた。
「……こんな所で、死んでたまるかよォ!!」
俺は、血まみれの両手を握りしめて――意識が消えるまで、魔力を放出し続けた。




