第11話 哨戒任務、本格参戦。(帝歴999年、9月)
「ふぅ……」
継続した振動。
揺れるコクピットに合わせ、固定ベルトが体に食い込む。
整備士さんに頼んで、内側に綿でも付けてもらおうかな……
なんてことを考えながら、アゴルムを歩かせる。
視界には、俺に先行する9機の鎧騎兵、その背中が見える。
『大丈夫ロイド? 休む? 水飲む~?』
「問題ありませんリタ上等騎手。このまま行けます」
そう答えると、他のヨロイからも通信が入ってきた。
『おいおい、リタは本当に心配症だな』
『ロイドは無理なら無理ってちゃんと言うだろ』
『過保護もここまで来るともう母ちゃんだな、がはは』
『なにさー! 心配してもしすぎるってことはないんだからね~!』
うーん、なんともにぎやかだ。
グループチャットみたいだよな、この通信。
ちなみに通信距離はごく短距離で、目測50メートルを過ぎると繋がりにくくなる。
そして基本的に範囲内の全員に伝わるので、個別通信とかはできない。
『お前たち……新人がいるんだ、索敵は気を抜くんじゃないぞ』
『『『了解!』』』
和気あいあいとしていても、ロジンの一声で皆引き締まる。
辺境を預かる騎手隊に、基本的に無能はいない。
少なくとも、こうして外へ出る連中には。
9月に入り、うだるような暑さも少しはマシになってきた。
そんな今日、俺達5番隊は全員での哨戒任務に出ている。
昨日帰還した12番隊の哨戒で多数の魔物の足跡が確認されたからだ。
場所は、駐屯地から西へ行った草原……いや、平原へ。
俺は留守番か、それとも前のように魔物素材の運搬役かと思っていたんだが……ロジンが渋るリタに命令して、こうして末席に加わることになった。
準騎手としては、この駐屯地で1番早い抜擢らしい。
同期の準騎手たちの中で頭一つ抜けてるってことだな。
日々の訓練が実を結んだとも言える。
ま、準騎手の中の一番なんか自慢できたもんじゃないがね。
これから、鎧騎兵の足で2日かかる場所まで行く。
『魔の領域』としては……『中層』に該当する場所だ。
『浅い』ところよりも魔物はよく出るから、本当に油断は禁物。
ちらり、とアゴルムの右手に視線を落とす。
そこには鈍い輝きを放つ手槍が握られている。
前にロジンに勧められて使ったら、随分手に馴染んだ。
どうやらこのロイドボディは槍に適性があるみたいだな。
全長3メートル、先端以外も全て金属で構成された手槍だ。
生身では到底持てそうにない重さだな……鎧騎兵、万歳。
『気を張り過ぎるなよ、ロイド。心配せんでも俺達がガッチリ守ってやっからな』
「ありがとうございます、サイム二等騎手」
リタの次に近いアゴルムから通信。
二等騎手であるサイムは、俺と同型のアゴルムに乗っている。
装備は大盾と、モーニングスターだ。
鎖の遠心力を使うことで威力は高くなるが、扱いが棍棒とは比べ物にならんくらい難しい。
そいつを実戦に使うってだけで、彼の力量がわかる。
いや、しかし壮観だな。
俺を含めてアゴルムが5体、ツヴァンクが4体。
それに……先頭を行くのは、ロジン統括騎手が乗り込む鎧騎兵……その名を、『ドラウツェン』と言う。
アレは統括騎手に支給される、いわば指揮官機だ。
黒光りする重装甲を纏い、指揮官機であることを示す深紅のマントをはためかせている。
パッと見た感じは、どこもかしこも分厚くアゴルムの正当進化版……って感じだが、頑丈さと機動性は2倍じゃ足りない。
あの全身の黒い装甲板は、等級の高い魔物の外殻と魔法金属を合わせたものだ。
俺が遭遇したこともある『三本爪』の一撃を受けても傷一つつかず、それどころかあちらさんの爪をへし折る程の硬さがある。
動かすための魔力量も多く、搭載されている『動力体』は2つ。
『動力体』の出力は並列させると2倍ではなく2乗となるので……あの鈍重そうなボディで風のように早く動く。
ちなみにだが、俺のアゴルムに『動力体』を2つ搭載すると……機体が出力に耐えきれず最悪コクピットが爆発して死ぬ。
先週、なんとか頼み込んでドラウツェンとの模擬戦を行ったが……ただのパンチで5メートルは吹き飛ばされて、危うくコクピットをゲロまみれにするところだった。
そんなドラウツェンの持つ武器は……ハンマー。
持ち手が鎖になっている連邦の白い悪魔の得物ではなく、全長がヨロイの全長とほぼ同じ長さの両手持ちハンマーだ。
アゴルムで持とうとすると、重すぎて肘と肩関節が死ぬってドワーフさんが言ってた。
指揮官機が動くってことは、今回の哨戒は荒れるぞお……よほど、謎の足跡ってのはヤバいらし……
――ちり、ちりりりりり。
強い魔力反応!
そう思った時には、1列で進んでいた隊列が既に広がり始めている。
『反応、正面。防御陣形! 10番機は最後尾!』
『『『了解ッ!』』』
二等騎手たちのアゴルムがまず動き、最前列へ。
ツヴァンクはその後ろで、新人故俺は最後部だ。
5番隊の基本防御陣形は、ツヴァンクの前にアゴルムを配置して盾とする。
そして動きを止めた敵に、身軽さを活かしてツヴァンクが殺到するのだ。
シンプルだが強力な陣形だ。
ドラウツェン? 最前列だよ?
この世界の指揮官機は、指揮を執りながら真っ先に突撃するのが普通とされている。
……普通ってなんだろうな?
「10番機! 配置完了!」
俺のアゴルムが動きを止める前に、もう皆は展開を終えている。
速いなあ……二等騎手たちのアゴルム。
ほんとに同じ機体かよ。
無駄な動きが極限まで少ないんだろうな。
しかし、周囲のどこにも魔物の姿が見えないんだが……
背の低い草がまばらに生えている平原だから、視認性は抜群……まさか!
なんか原作でも似たようなシチュエーションあったぞ!!
『――来るぞォ! 正面! 『角土竜』!!』
もこ、と地面が盛り上がって――長く鋭い、茶色の角が飛び出した!
『ぬん!』『こっちも!』『おお!』『おらぁ!!』
耳をつんざくような轟音。
その長い角は、アゴルム隊の構えた大盾によって受け止められている。
『ぬおう!!』「――ギュピィイ!?!?」
そしてロジンのドラウツェンは、超高速でハンマーを地面に叩きつけている。
角は根元から砕け、盛り上がりかけた土の塊の中から、真っ赤な体液が噴出した!
『ツヴァンク! かかれいッ!!』
『『『了解ッ』』』
ロジンの号令に、ツヴァンク4体が一斉に動く。
前方のアゴルムを軽やかに跳び越えて――地面から突き出ている角の根元に、ほぼ一斉にロングソードを突き刺した!
重力と体重を全て注ぎ込んだ一撃は、その半ばまでを地面に埋めて……くぐもった悲鳴を上げさせた。
突き刺しながら剣を抉る念の入れようだ……たぶん、魔物連中は即死だろう。
一瞬で終わっちまった……俺の出番は当然ながらない。
――ちりり。
反応は、後ろ!
油断はしてないよ、俺は!
『ロイド、後ろッ!!』
盾を構えたまま振り返る!
急速旋回は血反吐吐くほど訓練してるからな!
足元の地面が盛り上がる――来るッ!!
「――んぐぐっ!!」
突き出された角に、盾を合わせる! 轟音と、振動!
外側に逸らす、逸らす、逸らすッ!!
火花を散らしながら、角を受け流しつつ――
「でぇい……りゃあッ!!」
右手に持った手槍を、突き出す!
ロングソードよりも長い穂先が――地面に突き刺さった!
「ゲェエエエァ!?!?」
噴き出す鮮血……! このまま、捻る!!
フィードバックした感覚が、なんとも言えない感触を感じさせる……まだ!
引いてェ! また、突くッ!!
「ギェガ、ガガ……ガ……」
再び突き入れた手槍に伝わる感触が、弱い痙攣へと変わっていく……
そして、静寂へ。
「ふぅう……」
ずるりと引き抜いた穂先は、魔物の体液で濡れていた。
そのまま、もう一度突き入れて確認……よし、死んでる。
もう反応はない。
「死亡確認! 周辺……新たな反応ナシ! 引き続き索敵しまァす!」
『よし! 2番機、4番機は10番機の援護並びに後方索敵!』
『了解!』『了解ッ! 大丈夫、ロイド! ローイド!』
4番機……リタがあっという間に後ろへ走ってきた。
そして、俺が倒した魔物を見て……細かく飛び跳ねている。
『アンタ最高! やっぱりロイドは天才かもしれないわ~!!』
ほめ過ぎ……
『おいリタ、いくらなんでも褒め過ぎだぞ……ロイドは調子に乗るような男じゃないが、気を付けろ』
遅れてやって来た2番機……トッド=バリック上等騎手がため息交じりにそう言った。
『大丈夫よ! ロイドは賢いし真面目なんだもん! んね~ロイド~?』
「索敵は継続中……新たな反応はいまだありません! 『角』を取ります! 援護をお願いします!」
そう言い、手槍を腰にあるアタッチメントへ。
そのまま、そこにある小ぶりのナイフを取る。
『まっかせなさい! ロイドには指一本触れさせないからね!』
頼もしいことで……
さて、地面から突き出た角を左手で握って……引っ張る!
盾は腕の側面にマウントされているから、自由に動く……っと。
ずるり、と地面の下から……顔面が槍でグズグズになった『角土竜』が出て来た。
モグラというか……俺には装甲に包まれたでっかいカピバラに見える。
体の下半分は毛皮だが、上半分はアルマジロめいた装甲付きのカピバラだ。
ちなみに全長は3メートルを超える。
「ふんぬ!」
角の根元にナイフを何度か振り下ろす。
そうすると、ヒビが入って……角は根元からポキリと折れた。
『角土竜』の角は武器に……なるんじゃなくて、粉にすると……ある薬の材料になる。
コイツの体の中で、この角だけに含まれる成分があるらしい。
これが結構高く売れるので、貴重な収入源の一つだ。
「ここで折るか」
運びやすいようにガンガン殴って砕いていく。
この角は横方向からの衝撃にはそれなりに弱い。
折って、頑丈な革袋に入れて……一番の下っ端である俺のアゴルムに背負わせるって寸法だ。
残った死体は、ザクザク切り刻んでまとめて燃やす。
『角土竜』の体で金になる部分はもうないからだ。
「コイツの心臓も使えればいいんですけどね……」
『駄目ね、等級が低いから何の足しにもならないわ』
『動力体』に使えるくらいの魔物は基本強いからなあ……
俺でも対処できる『三本爪』や『角土竜』はそんなに金にならんのが辛い所だ。
それでも、売却した金は臨時の給金としていくばくかは還元されるけど。
『よし、後続はおらんだろう……処理して移動するぞ! 日が暮れるまでもう少し歩く!』
『『『了解!』』』
今晩の野営地はどこになるんだろうか。
安全ならそれに越したことはないんだけどな……




