ジャージを着替える
プロロードレースの選手たちは、1年の大半を企業名の入ったジャージで走る。
国籍の異なる者が同じ目的を持ち、同じバスに乗り、同じ監督の指示を聞く。山岳で誰が風を受け、誰がボトルを運び、誰が最後に勝つのか。役割は契約とチーム戦術の中で決められる。
世界選手権だけは、その関係を1日だけ組み替える。
UAE チームエミレーツ XRGのマクナルティはアメリカ代表になる。同じチームのデル・トロはメキシコ代表になる。チームではポガチャルのために働く2人が、別々の国の勝利を求めて走る。
レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのレムコはベルギーへ戻る。普段はヴィスマ|リースアバイクという別のチームにいるワウトが、共同エースになる。シモンズとチッコーネはリドル・トレックのチームメイトだが、モントリオールではアメリカとイタリアに分かれる。ピドコックとオスカー・オンリーはイギリスのために一緒に走り、翌週からはまた別のチームへ帰る。
昨日の味方は今日の敵であり、今日の味方は1年を通じての味方とは限らない。
しかも無線がない。
ベルギーは補給地点で渡すボトルに紙片を付け、監督からの情報を選手へ伝える方法まで試していた。だが、ボトルを取り損ねれば情報も落ちる。誰かに見られれば作戦も読まれる。180人を超える選手が山の周囲で分裂すれば、監督が書いた時点の状況は、選手が受け取るころにはもう存在しないかもしれない。
だから各国が準備できるのは、答えではなく原則だった。
フランスはポール・セクサスを勝たせる。そのためにブルーノ・アルミライル、ヴァランタン・パレパントル、パヴェル・シヴァコフ、ジョルダン・ジェガットらが長い距離を使い、レースを難しくする。
ベルギーはレムコとワウトという異なる2つの勝ち方を持つ。独走になればレムコ。少人数のスプリントならワウト。どちらを選ぶかは、レースが教える。
メキシコにはデル・トロがいる。しかしフランスやベルギーほどの人数はいない。彼自身が追い、彼自身が攻撃し、彼自身が最後まで残らなければならない。
そしてアメリカには、明白な絶対エースがいなかった。
マッテオ・ジョーゲンソンは世界選手権前、国境を越えたアメリカ・バーモント州で調整しながら、コースと展開を調べた。普段なら所属チームのスタッフが用意するような戦術資料を、自分で作って仲間へ渡した。
クイン・シモンズが大きな動きに入る。
マクナルティとジョーゲンソンは、他国に追わせて脚を残す。
集団が戻った瞬間、2人のどちらかを1人で送り出す。
アメリカのスポーツディレクター、マイケル・クリードが示した数の目標は単純だった。先頭集団の1割以上を、常にアメリカ人にする。
誰を勝たせるかは決めすぎない。
誰でもいいから、アメリカ人を勝たせる。
前夜、選手たちは自分のエゴを少し脇へ置いた。世界選手権は個人に与えられるタイトルである。虹色のジャージを1年間着るのは1人だけだ。それでも、その1人の名前を、スタート前に固定しなかった。
それは曖昧な作戦ではなかった。
中心人物を、局面ごとに変えられる作戦だった。




