見たいように見ればいい
2021年。
ヴィンゲゴーは、ログリッチについて行く選手だった。
ログリッチが落車してツールを去り、自分の順位を狙うことになった。
翌年、ヴィンゲゴーはツールを勝った。
その翌年には、ログリッチがツールへ行かなかった。
代理だった選手が強くなった、なんて話ではない。
世界で一番大きなレースを勝つ選手になった。
以前と同じ場所へログリッチを戻せばいい、では済まなくなった。
だから、ログリッチは出て行った。
ここは、間違えないようにしておこう。
追い出されたわけではない。
本人は後になって、「あのブエルタを勝っていたとしても移籍した。」と話している。
もっと大きな機会を求めて、自分で出て行った。
そしてBORAでは、本当にエースになった。
ツールへ行くただ1人のリーダー。
チームの責任者は、ログリッチを純粋なリーダーと呼んだ。
これまで話題にもならなかった細かなところまで指摘して、チームに改善を求める選手だとも話していた。
しかし。
こうしたい。
ここが弱い。
ここを改善したい。
そんな風にチームを使って成長するレムコと違って、ログリッチからは何も聞こえてこない。
私は、そんな風に思っていなかったか。
聞こえてこなかったのではない。
少なくとも、一度は聞いている。
忘れたのは、私だ。
その後、リポヴィッツがツールで3位になった。
ログリッチは8位。
そしてレムコがやって来た。
2026年のツールでエースになったのは、レムコとリポヴィッツだった。
ログリッチはブエルタへ向かった。
敵を、持ち込まなくていいはずなのに。
そんな見方だってできる。
でも、本人は違うことを言った。
レムコが来れば、責任から少し退ける。
もう少し平穏に。
もう少し自由に。
自転車選手であることへ集中できる。
それを、居場所を失った人間の強がりだと読めば、そういう物語になる。
長いあいだ背負っていたものを降ろせる安堵だと読めば、まるで違う物語になる。
どちらなのか。
知らない。
◆
ピドコックは、大きなチームを出た。
ワールドツアーから、プロチームへ。
格だけを見れば下がった。
でも、そこでは明確に中心になった。
信頼されること。
同じ成功を見ていること。
自由に自転車へ乗れること。
本人の口から、移籍して得たものが聞こえてくる。
レムコからも聞こえてくる。
コミュニケーションが良くなった。
空力を詰めた。
タイムトライアルバイクでのコーナリングを改善した。
ここを変えた。
ここが良くなった。
次は、こうする。
未来の話だ。
一方で、ログリッチについて探すと。
次はどこへ行く。
まだエースなのか。
誰と組む。
まだグランツールを勝てるのか。
来年は、どのチームなのか。
夏にはLottoだと言われていた。
今度はTudorだという。
まだ決まっていない。
ログリッチが何をするかではなく、ログリッチをどこへ置くか。
そんな話ばかりが、目につく。
もちろん、本当にそんな話ばかりなのかはわからない。
スロベニア語の記事まで毎日追いかけているわけではない。
英語の記事を探し、日本から見ている。
検索結果に出てくるものを読んでいる。
そのうえ。
私は昔ほど、ログリッチについて調べなくなった。
これは、メディアのせいだけにはできない。
私が、追わなくなった。
ブエルタ4勝。
だから強い。
ブエルタに向いている。
36歳。
なら、この順位でも十分。
事故明け。
なら、仕方ない。
ポガチャルがいる。
なら、勝てなくても仕方ない。
全部、たぶん正しい。
数字は、嘘ではない。
だけど。
少し前に、自分で書いたばかりだった。
途中の谷を省いた数字は、嘘ではない。
それでも、そこにいた選手の仕事を消すことがある。
ブエルタ4勝という数字だって、同じなのかもしれない。
凄かったことを示す数字。
今も凄いと言うための数字。
そして。
これ以上を期待して、傷つかないための数字。
予防線。
ログリッチが「どうなるか見てみよう。」と言っている裏で、私は先に説明を用意していた。
年齢だから。
相手が強いから。
チームが変わったから。
落車したから。
どうなるか見てみよう。
そう言っておきながら。
どうなっても大丈夫なように、先に答えを作っていた。
今年のブエルタで、ポガチャルとログリッチが並んでクールダウンしている姿を探した。
見付からなかった。
昔は、そんな映像を探した記憶すらない。
ハイライト動画を見ていれば、レースが終わった後の映像まで切り取ってくれていた。
ゴールする。
自転車を降りる。
ローラーへ乗る。
別のチームの2人が、隣同士で映っている。
何か話す。
笑う。
今、同じことをしていないという意味ではない。
仲が変わったという意味でもない。
私はただ、その姿を見付けられなかった。
見る側が変わった。
Last KM、最後の1kmを切り取るようになった。
見せられるものも変わった。
そこに、見ないという結果が残る。
だから。
ログリッチだもん。凄いんだって!
なぜか今なら、手放しで言える。
あの瞬間は、本当にそうだった。
もう凄くないのでは、という問いを、ずっと奥へ押し込めようとしていた。
それを、本人が潰してくれたから。
次もそう言えるか。
自信はない。
また年齢を数えるかもしれない。
また落車を怖がるかもしれない。
また誰がエースなのかを気にするかもしれない。
また、数字の後ろへ逃げるかもしれない。
それでも。
ログリッチは36歳になって、世界選手権で初めてみたいに逃げを走った。
本人まで、自分でも驚いたと言った。
まだ、初めてのことがある。
だったら。
次のログリッチを決めるのは、まだ早い。
次に見る私がどうなるのかも、まだわからない。
どうなるか見てみよう。
また次のレースで会いましょう。




