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2026 UCI Road World Championships ~どうなるか見てみよう~  作者: 水川かずみ
番外編 懐古 世界選手権のその後で
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19/28

思うに

 ピドコックは、何もないところからデル・トロを疑ったわけでもない。




 世界選手権では、普段のプロチームが解体される。UAEで一緒に走る選手たちも、国旗の違うジャージへ着替える。


 敵になる。

 少なくとも、その日だけは。


 ジャージを着替えれば、関係まで着替えられるわけではない。互いの脚質を知っている。どこまで踏めるのか知っている。どんなときに前へ出るのか知っている。苦しいときの癖も、強いときの癖も、何百時間と一緒に走ってきた経験の中にある。


 世界選手権は、それを消してくれない。



 2024年。

 チューリヒ。



 ポガチャルが、100km以上を残して動いた。


 先行集団へ追いつき、そこからさらに人数を削る。最後に残った1人が、フランス代表のパヴェル・シヴァコフだった。普段はUAEで、ポガチャルを支える側にいる。


 このとき、ポガチャルは速度を緩めた。

 シヴァコフを待った。


 シヴァコフ自身も、「UAEのチームメイトでなければ待ってもらえなかっただろう。」という趣旨のことを話している。

 ポガチャルからも、「一緒に走れば後ろが牽制し合うかもしれない。」と声を掛けられたという。


 友情?

 利害?


 どちらでもある。


 シヴァコフには、世界選手権のメダルを取る可能性があった。ポガチャルには、100km近い独走を少しでも短くするため、一緒に走れる相手が必要だった。普段のチームメイトだから助けた。フランス代表シヴァコフ自身がメダルを取るための最善手だった。


 これらは、矛盾しない。同じ方向を向いていた。だから、一緒に走れた。


 ◆


 2025年。

 キガリ。



 ポガチャルが残り100km以上で動いた。


 スペイン代表のフアン・アユソがついた。

 その後、メキシコ代表のイサーク・デル・トロが追いついた。


 普段なら。


 ポガチャル。

 アユソ。

 デル・トロ。


 UAEチームエミレーツ。

 当時は同じチーム。


 その日は。


 スロベニア。

 スペイン。

 メキシコ。


 それでも、先頭には普段のチームメイトが3人並んだ。ポガチャルから見れば、それは都合が良かった。


 知っている相手。

 強い相手。

 走り方も分かる相手。


 本人は、「理想的な組み合わせだった。」という趣旨のことを話している。「できるだけ3人で遠くまで行きたかった。」と。

 ところがデル・トロは、少し違うことを言った。「ポガチャルを尊重しすぎないようにした。脚を使わせようとした。メキシコのために走った。UAEとして協力していたわけではない。」と。


 そういう立場だった。


 面白い。


 映像だけ見れば、ポガチャルとデル・トロは前で一緒に走っている。後ろとの差を広げている。


 ポガチャルから見れば、助かった。

 デル・トロから見れば、自分が勝つためにやった。


 どちらも成立する。


 自分が勝つための最善手。

 普段のチームメイトを助ける行動。


 一時的に、同じ方向を向いただけ。


 ◆


 2026年。

 モントリオール。



 マクナルティが逃げる。

 後ろに、デル・トロがいる。


 またUAE。


 そう見えても、不思議ではない。


 2024年。

 フランス代表シヴァコフは、スロベニア代表ポガチャルと走った。


 2025年。

 メキシコ代表デル・トロは、スロベニア代表ポガチャルと走った。


 2026年。

 アメリカ代表マクナルティが逃げた。

 その後ろには、メキシコ代表デル・トロ。




 また?




 そう思うための材料は、すでにある。だから、ピドコックの疑いそのものを、何も根拠のない言い掛かりにするのも違うと思う。過去を知っていれば、そう見える。


 ただし今回は、前の二年とは決定的に違う。


 シヴァコフはポガチャルと、同じ方向へ走っていた。

 キガリのデル・トロもポガチャルと、同じ方向へ走っていた。


 二人とも、自分のメダルや勝利の可能性を高めながら、結果としてポガチャルの勝率も上げていた。


 モントリオールのデル・トロは、マクナルティを追っている。


 前へ逃がすために後ろを止めているのではない。


 前との差を縮めるために走っている。

 マクナルティが飛び出す前から、自分で追う。

 マチューの動きにも反応する。

 ジョーゲンソンにも反応する。

 マクナルティが1人になったあとも、追走の先頭へ出る。


 もし本当にマクナルティを勝たせるためだけに走っていたのなら、ずいぶん変な助け方である。


 本人も否定した。「自分はアルカンシェルのために走っていた。他の国が受け身だった。勝ちたかった。」

 その一方で。「マクナルティが勝ったことは嬉しい。ブランドンは、この勝利に値する。」そうも言った。


 敵。

 仲間。


 どちらか一方ではない。


 両方の関係を持ったまま走っている。

 世界選手権だから敵になる。

 世界選手権が終われば、またチームメイトになる。


 積み上げてきたものは、一日だけ国旗を着たからといって消えない。

 どこからが友情で、どこからが利害で、どこまでが単なる脚の限界だったのか。

 外から一本の線を引くことはできない。


 映像に残るものがある。


 チューリヒでは、シヴァコフの自転車はポガチャルと共に同じ方向へ進んだ。

 キガリでは、デル・トロの自転車もポガチャルと共に同じ方向へ進んだ。

 モントリオールでは、デル・トロの自転車はマクナルティのいる方向へ追っていた。


 一度国境を越えてチームメイトと走った人に見えてしまえば、違う走り方だと言っても、同じ物語の中へ戻される。


 言葉だけではない。走りだって、見たいように見られる。




 また?




 そう思うための材料は、すでにある。だから、今回ポガチャルが出場していたら、マチューとワウトとログリッチによる、100km級の攻撃に参加しただろうな。


「先頭の1割以上を、常にアメリカ人にする。」


 はっはっは。


 足りるわけがない。


 なんて。

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この子の目からは、どう見えているかな
連載『一周できたなら、どこへでも』 最初から読む
そういうところが、ノンフィクション風
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