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2026 UCI Road World Championships ~どうなるか見てみよう~  作者: 水川かずみ
番外編 懐古 世界選手権のその後で
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17/28

王者の隣で

 ブランドン・マクナルティは、長い間タデイ・ポガチャルの隣で走ってきた。




 ともに1998年生まれ。ポガチャルの仕事を支える者と、支えられる者。そう書けば序列は明瞭になる。だが、2026年だけを見ても、その関係はそれほど単純ではない。


 7月5日、バルセロナ。ツール・ド・フランス第2ステージ。


 モンジュイックの周回で人数が減っても、マクナルティはまだプロトンの先頭を引いていた。日本国内の無料放送でも声が上がる。


「まだ牽いていますよ。」


 ツール公式記録にも、マクナルティがモンジュイックで激しいペースを作り、最終登坂の麓まで集団を牽いたことが残っている。


 まだ牽く。

 まだ牽く。

 集団を30人ほどまで削っても、まだ仕事が終わらない。


 先頭を引くのは、勝負から降りることと同じではない。自分の勝負を、仲間の勝負へ変換することでもある。最後の局面でアダム・イェーツへ仕事を渡すと、イサーク・デル・トロが飛び出した。初めてツールを走る22歳だった。


 後ろからポガチャルが来た。追いつく脚も、追い越す脚もあった。だがデル・トロの横へ並び、後ろのライバルを確認すると、前へ出なかった。


 デル・トロが勝った。

 その後ろにポガチャル。レムコ。ヴィンゲゴー。


 フィニッシュしたメキシコ人は、両手で頭を抱えた。自分がツールのステージを勝ったという事実に、身体の理解が追いついていないような仕草だった。


 その何分も前から、勝利の形を作っていた一人がマクナルティだった。


 ◆


 それから84日後。

 モントリオール。



 今度は、マクナルティが逃げている。


 残り50mで後ろを見た。誰もいない。ハンドルから両手を離し、頭へ置いた。


 デル・トロと同じ仕草だった。


 ただし、バルセロナで長く引いた者と、引かれて勝った者の位置は逆になっていた。


 今度はデル・トロが追う側にいる。


 同じUAE チームエミレーツ XRGでも、世界選手権では国が違う。デル・トロはメキシコ。マクナルティはアメリカ。


 普段なら仲間。

 今日は敵。


 映像では、マクナルティが逃げたあともデル・トロは追走集団の先頭を引いている。

 その走りを、ピドコックはレース後に疑った。


「終盤のデル・トロは、明らかにマクナルティのために走っていたと思う。」


 デル・トロは否定した。


「僕はアルカンシェルのためだけに走っていた。他のチームが受け身だったんだ。」


 それでも続ける。


「もちろん自分が勝ちたかった。でもブランドンは、この勝利に値するよ。」


 どこからが友情で、どこからが利害で、どこまでが単なる脚の限界だったのか。外から一本の線を引くことはできない。同じプロチームで走る仲間だからといって、世界選手権で勝たせる理由にはならない。だが、普段一緒に走っているという事実まで消えるわけでもない。


 敵と味方を一日だけ入れ替える世界選手権では、その境界まで道路の上で揺れる。


 ◆


 この2つの映像のあいだで、ポガチャルはマイヨ・ジョーヌと呼ばれる黄色いジャージを着た。自分の5度目の総合優勝を守りながら、デル・トロの総合表彰台と白い新人賞ジャージを守るためにも走った。


 エースは、常に仲間から一方的に働きを受け取る存在ではなかった。


 デル・トロへツールの1勝を渡した。黄色いジャージを着ながら、若い仲間の順位も守った。前年のグランプリ・モンレアルでは、マクナルティを先にフィニッシュさせてもいた。


 だから、世界選手権後のマクナルティの冗談には、すでに実在する過去があった。


「今度は、タデイに僕のために走ってもらう日があるかもね。」


 普段はポガチャルのために働く男が、虹色を着る。


 ただの役割逆転なら、冗談はそこで終わる。だが、ポガチャルはすでに仲間を勝たせるために走っている。マクナルティもまた、ポガチャルやデル・トロを勝たせるために何度も風を受けてきた。


 ツールを途中で去ったマクナルティは、パリへ戻り、ポガチャルと同じ金髪にして祝勝会へ現れた。

 同い年の2人が、同じ髪色で笑った。


 世界選手権の結果だけを見れば、2026年9月27日にマクナルティが突然、主役へ昇格したようにも見える。


 もちろん、そんなわけはない。


 7月には、デル・トロを勝たせる形を作っていた。

 9月には、そのデル・トロに追われながら、自分が勝った。


 そして今度は、虹色のジャージを着たマクナルティのために、ポガチャルが風を受ける日が来るかもしれない。



 まだ起きていない。


 だが、あり得ないとはもう、言えなかった。

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この子の目からは、どう見えているかな
連載『一周できたなら、どこへでも』 最初から読む
そういうところが、ノンフィクション風
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