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2026 UCI Road World Championships ~どうなるか見てみよう~  作者: 水川かずみ
2026 UCI世界選手権大会 ロードレース 男子エリート モントリオール
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15/28

リザルト

 アヴニュ・デュ・パルクへ続く最後の道に、星条旗が1枚だけ現れた。




 マクナルティは後ろを見なかった。



 見るために首を動かす余裕がなかったのかもしれない。見て誰かがいれば、脚が止まると知っていたのかもしれない。

 あるいはもっと専門的に、本人としては理解の上で、後ろを見るという行為が速度を妨げる抵抗を生むからなのかもしれない。


 そして、勝利の確信は訪れた。


 残り50mで、振り返った。


 誰もいなかった。


 ブランドン・マクナルティは両手を頭へ置いた。喜びより先に、信じられないという表情が出た。


 6時間17分4秒。


 273.4km。


 最後の32.6kmを1人で走り、アメリカに33年ぶりの男子エリート・ロード世界王者が生まれた。


 1993年のランス・アームストロング以来。その名前を口にすれば、勝利だけでなく、その後に崩れた歴史までついてくる。アメリカ男子ロード界にとって、長すぎる空白だった。


 13秒後、追走がフィニッシュへなだれ込んだ。


 マイケル・マシューズがスプリントを制して銀メダルを取った。


 前年には肺塞栓で長期離脱し、この年3月の落車では両腕を骨折した。一度ならず、自分の競技人生が終わると思った男だった。2週間前のグランプリ・モンレアルでは54位。それでもケベックで感じた脚を信じ、世界選手権に合わせ直した。


 11年前のリッチモンドでも銀だった。

 11年を経て、彼はまた、世界の2位になった。


 マチューが銅メダル。90km近く前からレースを動かし、何度も先頭を作り、最後にはスプリントする力まで残した。


「もちろん世界王者になりたかった。でも、自分が走りたかったレースはできた。」


 そう振り返った。


 4位シモンズ。5位デル・トロ。6位マッズ・ピーダスン。7位ピドコック。8位ジョーゲンソン。9位チッコーネ。10位ヒーリー。


 レムコは25秒差の12位。

 セクサスは2分47秒差の15位。


 世界選手権の一週間前なら、本命だった。

 39.2kmを支配し、個人タイムトライアル4連覇。ベルギーにはワウトもいた。


 それでも12位。


 世界選手権の一週間前なら、本命だった。

 グランプリ・モントリオール2位。

 デル・トロを何時間も見続け、フランス代表が序盤から大量の脚を費やして作ったレースの最後に、エース自身の脚が動かなくなる。


 それでも15位。


 強くなかったわけではない。計画が悪かったわけでもない。ロードレースは、計画を遂行した者から順に勝つ競技ではなかった。



 ブエルタを完走した主な選手たちの結果は、ログリッチが21位。ブイトラゴが27位でワウトは28位。総合優勝のマスと3位のガル、アルメイダもアルミライルもフィニッシュへ来なかった。

 普段のジャージへ戻してマクナルティのチームメイトを見れば、シヴァコフは26位。アダム・イェーツは31位。そして、デル・トロは5位。


 184人のうち、完走は58人だった。



 13秒。


 この数値もレース全体を表してはいない。10秒まで迫られたときより、ゴールの13秒の方が大きい。

 最後は、マクナルティが勝利を確信して速度を落とし、後ろは表彰台を賭けて全力スプリントしている。最後に提示した秒差は34秒。そこからここで特に大きく縮まったのは間違いない。

 ただし、すでに述べた通り、フィニッシュライン直前からは、集団とのタイム差が表示されなくなるというのが自転車レースあるあるだ。


 時計は正しい。


 ロードレースでは、時計が正しくないときがあるという罠が今回もあったが、リザルトの数値は、正しい。



 58人。


 この数値は、レースの厳しさを表しているだろうか。

 前年のキガリほど登らない。一昨年のチューリヒほどでもない。数字だけなら、難易度は下がったように見える。だが、登りが少ないことと、簡単であることは同じではなかった。何度も登れば、一回の数字以上に重くなる。

 短い登り、長い登り、風を受ける平坦、速度の乗る下り。そんなコースプロフィールからの前評判どおり、誰か1人の能力だけを測るコースではなかった。

 能力の意味が、数分ごとに変わるコースだった。


 だが数値だけでは、わからないこともある。


 ◆


 マクナルティは柵の向こうに妻サマーを見つけた。彼女は夫が人生最大の勝利へ近づいているのに、フィニッシュ区域へなかなか入れずにいた。間に合った妻と抱き合った。


 淡いUSAの、その肩に。

 今度は正真正銘の星条旗が掛かった。

 勝利を、証明するように。


 ジョーゲンソンが駆け寄り、彼を強く抱いた。


「世界選手権を勝ったんだぞ。」


 そう叫ばれて初めて、マクナルティの顔に笑みが広がった。


 朝、妻には冗談を言っていた。


「今日勝つなら、奇跡が必要だね。」


 フィニッシュしたあと、その言葉へ戻った。


「奇跡は起きた。」


 言語は成り立ちが異なるため、日本語の奇跡とは、ちょっとニュアンスが違うのかもしれない。


 魔法的な何か、というより。

 朝には冗談でしか口にできなかったほどの、願いのようなもの。

 やれるだけやりきった後に望むような、臨むために祈るようなナニカ。

 やはり今回も、道路の上には色んなものがあったのだ。


 そんな、驚くべきこと。


 そう和訳すれば、確かに驚くべきことは、起きた。

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この子の目からは、どう見えているかな
連載『一周できたなら、どこへでも』 最初から読む
そういうところが、ノンフィクション風
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