第二十四話 六席の店に、何人いるんやろ 2006年12月2週目。
十二月の第二週、朝番の二人が帰る前に、博之は来月のカレンダーをカウンターに広げた。
「僕の目標を言いますとね、ゆくゆくは二十四時間三百六十五日、僕がおらんでも回る店に
したいんですわ」
「夜中の三時もカレー売るん? うち、その時間よう来んで」
リーダーが先に断った。はるさんはもう笑っている。
「あ、二十四時間は言い過ぎました。三百六十五日、朝、昼、晩と開けられるのが理想です。
晩の仕込みが終わったら、ちゃんと鍵かけて帰ります」
「ほな安心した。で、あんたの休みはいつなん?」
「そこなんですよ。金曜の朝、お二人に鍵渡して、僕が十時に来たらもう昼の玉ねぎ切れてるでしょう。
あれを昼も夜もやれたらなあと」
「あんたはどこ行くの」
「南草津です。もう一軒、やってみたいんですわ」
口にしてみたら、ゼミで言われたことまでつるっと出た。
「僕がずっとここに立って月二十万やったら、そら普通に就職したほうがよかったやん、
で話が終わるでしょ。それはちょっと悔しいんです。ここの六席でどこまで売れるかも、
まだ試したい。けど僕、南草津の物件見に行きながら、ここで飯よそうのは無理やし」
「そら、お皿持って南草津まで追いかけてもらわなあかんな」
はるさんが、カレンダーの木曜を指で押さえた。ここも今は授業で休みやね、
と言う。一月には卒論があり、確定申告に向けて秋からのレシートも帳簿に
移さなければならない。夜、客が引いたらやろうと思って持ってきた封筒が、
三日も同じ棚に乗っている。翌朝の四十五食を仕込んで鍋を洗えば、さっさと下宿に帰りたかった。
「せやから目下、人集めです。誰か紹介して、入ってもらえたら、僕から千円出しますわ」
「千円は少ないわ。二千円ちょうだいよ」
「ほな、二千円で」
「えっ、あんた、もうちょっと考ええな。こっちがびっくりするわ」
言い値になったリーダーがいちばん困った顔をした。博之は千を二千に書き直した。
同級生とたくみにも同じ条件を伝えた。六席の店や。誰か一人にだけ千円余分に出したら、
明日の昼には「僕の千円は?」と匠が来る。
その週、リーダーとはるさんが一人ずつ、朝番の面接に友達を連れてきた。
「朝だけいうの、案外ええねん。十時に終わったら、一日まだこれからやろ」
リーダーの友達はそう言って、六時半には自転車で来られると教えてくれた。
はるさんの友達は、曜日が決まれば家の用事を合わせられるという。二人とも話はまとまった。
ただし、入れる日に丸をつけてもらうと、水曜に二つ並んで月曜が白い。
人が二人増えたら二日多く開けられる、という博之の暗算は早速外れた。
昼にはたくみが大学の友達を連れてきた。授業の時間割を四つ折りにして財布に入れている子で、
昼に入れる日と、夕方からなら来られる日とを、違う印で書いてくれた。
「夕方いけるんや。夜の仕込み、覚えてくれたらめっちゃ助かるわ」
「僕、家のカレーやったら作りますけど」
「十分や。うちも箱の裏から始まってるし」
得意になって大学ノートを開くと、十五食分の材料の下に「いつもの線まで水」と
自分の字で書いてあった。友達が二つの鍋を見比べた。
「どっちの、どの線です?」
「……貸して。今そこ書き直すわ」
たくみが横で声を殺して笑った。
四人目は、誰も連れてこなかった。夕方に来る常連のおっちゃんが、
三百八十円をきっちり置いてから、いつもならもう被っている帽子を膝の上でくるくる回した。
「兄ちゃん、わしでも雇うてくれるか。年末で定年やねん。正月から毎朝ずっとうちにおるいうのもな。
まあ、リハビリがてら、ここ来られへんかな思て」
「え、働くほうですか。おっちゃんがいつも来るこの時間は空いてますけど、朝、けっこう混みますよ」
「知ってるで。こないだ朝、外から見たもん。あの女の人らと仲ようしてもろたら、
わしもいけるんちゃうか」
翌朝その話をすると、はるさんは「ああ、福神漬けちょっとでええ人」と、
すぐ顔が浮かんだらしい。リーダーが気にしたのは別のことやった。
「混んでるとき、私が『先そっちお願い』って言うても、気ぃ悪うせえへんかな」
「そこ、一遍一緒にやってみてもらいましょか。僕も最初はおりますし」
次におっちゃんが来た日に、一月から試しに先輩の朝番についてもらう話をした。
「うち、鬼みたいに働けとは言いません。年も気にしてません。ただ、入るて決めた朝は
来てほしいんです。六時半、鍵持った人が一人来えへんかったら、もう一人、
寒いとこで待ちますから」
「朝早いのは大丈夫や。じじいやから、六時半にはもう何かすること探しとる」
「それやったらありがたいです。あとは狭いんで、みんなと仲よう。続けられそうかは、
お互いやってから決めましょ」
「おっしゃ。ほな正月、目覚まし捨てんと残しとくわ」
閉店後、博之はカレンダーの余白に候補の四人を書き出した。紹介のお礼は、
三人が勤め始めたら六千円。おっちゃんは自分で来てくれたから、その欄は空けた。
埋めたい夜も、まだだいぶ白かった。
明日、人に渡せる仕事を一つ作ってから帰ろう。博之はいつもの鍋に水を量って入れ、
ノートの「線」を消して、十五食分のリットル数を書いた。




