doing beetween No.004 選択の挟間
恒久登録まであと3日。
鉄平は鏡の前で何度もスマホを構えた。画面に映る自分の顔、「○○支持です」と一言投稿するだけ、それで終わるかもしれない・・・。
すべてが「誤解だった」で済むかもしれない・・・。けど、指は動かない。
支持表明したらそれは本当の自分の言葉になるから、今まで何も言わない事で守ってきたものが崩れる。後で気持ちが変わったら、その支持は永遠に残ることになる。
主張を持たないことが、こんな重大になるとは思わなかった。
昼過ぎ玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると宅配業者のような男性が立っていた。
手にはファイルを持っていた。
「有並鉄平様宛、社会言論相続機構から重要書類です、受け取りサインをお願いします」
男性の制服には相続機構のロゴはなく、ただの黒のジャケット、拒否する選択肢はなく、言われるままサインした。
ファイルを開くと「恒久登録同意書」と書かれた用紙。
内容はシンプルだった。
・貴殿の社会的立場を「○○反対」として恒久登録します。
・登録後、以下の適用が開始します。
1.公的機関・企業への情報共有
2.SNSプラットホームへの自動タグ付け
3.家族・同居人への二次相属適用・可能性署名を以って同意とみなす。
署名を拒否した場合でも、沈黙は同意とみなされます。
最後の行が鉄平の目を刺した。
"署名を拒否した場合でも沈黙は同意と扱われる"ってこと・・・、つまり何をしても、"反対派"になる。署名すれば正式に、拒否しても自動的に。
鉄平はファイルを閉じた。
「これ持って帰ってください」と突き返した。
「これは通知であり、選択ではありません、書類通知の返却は不可能で、貴殿の手に渡った時点で、手続きは進行中です」
そう言い残し男性は去った。
ドアを閉めた瞬間鉄平は膝から崩れ落ちた。
夕方母から着信があった。
「鉄平、さっき近所の人が来て、息子さん反対派ならうちの子供と遊ばせられないって言われたのよ、どうしたらいいのかと思って・・・」
鉄平は、返す言葉を探したけど、出てきた言葉は
「ごめん、オレ、何もできんわ」
といい、電話を切った。
過去の投稿を遡った。スイーツの写真・旅行の写真・動物の写真・景色の写真、日常のつぶやき、嬉しかった事など・・・。
すべてが誰かの「解釈」で色づけられている。
あのスイーツは「嫌い」、あの旅行先は「○○支持の場所じゃない?」
あの沈黙は「反対の証」
ベットに横たわりながら、鉄平は天井を見つめた。
恒久登録まであと2日
スマホの通知が連続で、鳴った。スマホを手に取りメールを開いた。
社会言論相属機構から、"最終上書き期限:明日23:59まで、期間後は一切の変更不可とする"
理解ができず繰り返して読み返した。
入力しようとしても、指が進まず、ゆっくり深呼吸して、心を落ち着かせることで、精一杯だった。




