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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第九章:(´・ω・`)魔王は未踏の大地で無双ターン

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魔王は聖武具に託す


 なぜ自分が悍ましき凶行に及んだのか。

 遥か遠い記憶を辿るも、どこか他人事のように曖昧だった。


 得られた恩恵(ギフト)は【アイテム・マスター】。

 当然のように騎士の道を歩んだ。


 誰も自分には勝てない。

 高性能の武具がなければ、と言わせないために自己鍛錬は欠かさなかった。

 結果、路傍の石ころだけで最強の騎士団を圧倒したこともある。


 順風満帆だったと思う。

 騎士団長をも飛び越えて軍の最高位に就いた。

 けれどあまりの強さに周りが困惑しているのがわかってからは、居心地が悪かった。


 暇(いとま)をもらう。

 世界が知りたかった。

 偶然訪れた太古の遺跡と呼ばれる場所で、聖武具を見つける。




 ――七つの神殿を踏破すべし。




 そんな声が聞こえたのを覚えている。

 言われるまま動くのは癪だったが、好奇心が勝った。


 ひとつ、ふたつ、みっつ、と神殿を攻略するうち、世界を知った。

 よっつ、いつつ。世界に疑念が生まれた。

 むっつを攻略したとき、得も言われぬ憤りを感じ、そしてななつ――。




「上の空だな。舐めてかかると足下を掬われるぞ?」


 ハッとして『次元境面』を展開する。

 黒い槍の切っ先が頬を掠めそうになったところで軌道を変えた。

 アレは肌に触れただけで呪われる危険な槍だ。念のために髪の毛すら触れさせてはならない。


 一歩踏みこめばこちらの間合い。長槍ではこの身を削れまい。

 それでもあえて数歩の距離を空けた。


「どうした? 昔でも思い出していたのか? そういえばお前、『災厄の魔女』と呼ばれていたのだったか」


「興味がないのではなかったのですか?」


「ない、とは言っていないぞ? あのときはケラの対処を優先したまでだ。時間に余裕があれば話は聞くつもりだったよ」


 かすかな違和感。

 エルザナードは感じながらも、ちくりとした胸の痛みに意識が盗られた。


 災厄の魔女。


 そう呼ばれていたのは知っている。

 それだけのことをしたのも事実だ。




 人を――唯一、神より恩恵(ギフト)を授かりし種族を、滅ぼそうと思った。




 それが自分たち(かれら)にとっての救いだと信じたからだ。

 同時に亜人たちを迫害し続けた彼らの、当然の報いだとも。


 おかしい。

 同じじゃないか。

 彼と想いは同じ(・・・・・・・)なのに、どうして――。


「あなたはわたくしを否定するのですか!」


 湧き出した怒りに任せて剣を振るうも、ガリウスはギリギリのところで受け流し、すぐさま体勢を整えた。


「当たり前だろう? 先に俺を否定して立ちふさがったのはお前だ。俺はただ抗っているにすぎない」


 ギリッ、と奥歯を噛んだ。

 二百五十年ぶりに肉を得た実感とともに、苛立ちに思考が囚われる。


「あなたが! 自らの命を軽んじるから!」


 突き出された槍を聖剣で思いきり叩きつけた。

 本来なら槍は弾き飛ばされるか、そうでなくとも衝撃に腕が痺れてまともに動かせないはず。


 しかしガリウスは事も無げにくるりと槍を回して重い衝撃を受け流した。

 苛立ちが、加速する。


「きっとあなたも絶望する!」


 世界の真実を知れば、そうならないはずがない。

 それでも抗おうとした。

 だが唯一の抵抗すら、たとえ虹色に至ろうと無駄だと知った。


 後悔はしていない。

 絶望し、疲弊していたがゆえの凶行だとの言い訳もしない。

 けっきょくは死後、〝庭師〟どもに取りこまれてしまったのも、自らの意志によるものだ。


(だからといって――)


 誰かが同じ目に遭おうとするのを、静観するわけにはいかないのだ。


 ギィィンッ!


 重い衝撃に手ごたえを感じる。

 槍を弾くのではなく突き飛ばす意図で剣を押し出すと、ガリウスは槍を横にして真正面から受けた。想定通り、とまではいかなかったが、衝撃を流しきれずによろめく。


 すぐさま軸足に剣先を走らせた。

 だがガリウスが軽やかに地面を蹴るや、ふわりとその体躯が浮き上がり、くるんと空中を転がるように避けて離れる。しかも離れ際にひと突き、こちらの動きを見越したように牽制が入った。


「大層な忠告をしておいて、いまだに俺を倒しきれないとはな」


「揺さぶろうとしても無駄ですよ。たんに殺さないよう丁寧に、慎重になっているにすぎません」


 違う。

 自身の思考が乱れていて、戦闘に身が入っていないとの自覚はある。

 それでも実力差を埋めるほどではないはずだ。


 こちらの攻撃をすべて捌いてはいるが、そんなものは時間の問題だ。一瞬でも隙を見せれば、その時点で終わるのに。


(いえ、隙はある……あるのです)


 さきほどよろめいたのは明確な隙だった。それ以前にも数回、決定的な隙はあった。


(だというのになぜ……)


 聖剣が届かないのか?

 掠れば終わり。聖剣の力をもってすれば、あちらの槍と同様、皮膚の薄皮にでも届けば骨まで断つ確信があった。

 なのに、届かない。


(それだけでは、ありません……)


 はたしてどれだけの時間、互いの刃を交えているだろうか。


 エルザナードは魔法を使っておらず、恩恵(ギフト)は要所で使うにとどめていた。聖鎧の効果で肉体的にも精神的にも疲労は最小限に抑えられている。

 それでも自覚するほどには多少なりの疲労がたまっていた。


 対するガリウスは常時、【アイテム・マスター】を発動している。でなければこちらの攻撃に対処できないのだから。

 肩当てなど一部の装備は『フェニクスの鎧』を加工したものだ。その自動回復効果があるにせよ、いくらなんでも限界は来ているはずだ。


(なのに、どうして……?)


 ガリウスの瞳は精気にあふれている。そう感じられるほど、力強い。

 数合、打ち合った。

 内心で舌打ちをする。


 どうしてもなにもない。

 考えてみれば当然だ。


 ガリウスは【アイテム・マスター】の発動自体に(・・・・・)精神力は使わない(・・・・・・・・)。アイテムの特殊能力を発動するときのみ精神力を削るという、特殊な使い方をしているとの話だ。


 体力もそう。

 アイテムを使うために最適化された動きをするため、ほとんど疲労はないだろう。『フェニクスの鎧』由来の装備があるのでまったくない、と言ってよいかもしれない。


(まったく厄介な特性ですね。であれば、シルフィード・ダガーや魔樹の呪槍の特殊能力を使わせたいところですけれど……!)


 眼前で火花が散った。

 今度は額の中心を目がけて、風の刃が死角から飛んで来たのだ。両手で槍を扱っていたのに、半身に構えた瞬間にシルフィード・ダガーを抜いて放ったらしい。


(ここでアイテムの特殊能力を?)


 不可解に感じつつ、またも『次元境面』で防ぐ。

 一瞬、視界が歪んだ。

 たまらず飛び退いて距離を取る。


「――ッ!?」


 気配を感じて顔だけ振り向くと、大樹に行く手を阻まれていた。衝突する直前、なんとか着地して大樹を背にする。


 ぞわり。

 身の毛が逆立つような感覚が降りそそぐ。


 上から横から斜めから、二十を超える風刃が襲いかかってきた。


(なるほど、わたくしに『次元境面』を使わせて疲弊させようとしているのですね)


 聖剣と聖鎧の特殊な力を組み合わせた、ガリウスが創り上げた特殊効果。使用するにはかなりの精神力を要する。


 ガリウスの思惑に嵌まるわけにはいかない。

 むしろアイテムの特殊能力を多用している今が好機。

 エルザナードは魔力を練り上げた。聖剣が光を帯びる。


 ひと振りだった。

 彼女に迫る風の刃は嵐に翻弄されるように、聖剣の風圧で掻き消えたのだ。


 だがその最中。


(なにを――ッ!?)


 ガリウスは漆黒の槍を右手に持って大きく後方へ引き絞っていた。左手には風の短剣を握りしめて前に突き出している。

 そう視認した次の瞬間には、槍が撃ち放たれていた。


 ガリウス自身は非力であっても、『フェニクスの鎧』由来の装備で筋力を極限にまで高められる。

 加えて長槍は風を纏い、ものすごい勢いでまっすぐこちらへ向かっていた。


 それだけではない。


「特攻……?」


 本人も槍の背後から突進してきた。快速ブーツと風のマント、さらには風の短剣で後押しし、槍と変わらぬ速度で迫っている。


(なぜ今になって?)


 考えてみれば、槍での攻防は苛烈を極めていた。アイテムの特殊能力を使っていないようでいて、『フェニクスの鎧』からの筋力強化もあったろう。なにより魔槍の特殊能力を発動しながらの攻撃ならば、精神力が限界まで削れていてもおかしくない。


 ゆえに最後の力を振り絞った、玉砕覚悟の最終手段に打って出た、というところか。

 読み違いをすぐさま修正。


(いいでしょう。粉砕してあげます!)


 そうすれば、ガリウスも折れてくれるはず。

 聖剣を握る手に力をこめた。『次元境面』は使わない。使わずとも対処は難しくなかった。


 漆黒の長槍を、横から刀身を叩きつけて弾き飛ばす。

 いつしか集まってきていた風刃は、魔力波でかき消した。


 その間に、ガリウスが肉薄してくる。

 手にした短剣の切っ先を、首元へ伸ばしてきた。


 すでに間合いに入られた。

 けれどエルザナードは慌てない。

 淡々と、まるで定められた事務作業のように、剣を寝かせて刀身で待ち構えた。


 短剣での攻撃は本命ではない。

 ガリウスの狙いは刃を交えたその瞬間、風の刃でこちらの急所を襲うこと。

 そう看破したエルザナードは、続けて魔力波を全方位に放とうと――。


「…………ぇ?」


 予想外の事態に、一瞬呆けた。

 ガリウスはあろうことか、短剣を手から落としたのだ。


 突進の勢いはそのままに、ぐらりと体を前に倒したかと思うと、その身を預けてきた。

 エルザナードは思わず、空いた手でガリウスを抱きとめる。だが次の瞬間。


「やはり甘いな」


「な、にを……なにをしているのですか、ガリウスゥ!」


 ガリウスは聖剣の刀身を握り、聖鎧の腹あたりにもう片方の手を当てたのだ。そのまま聖剣と聖鎧を、がっちり握って力をこめた。


「知れたこと。端から俺はコレが狙いだ。俺とお前、どちらの【アイテム・マスター】が上なのか、それを競うのがこの戦いだぞ?」


「そんなもの、初めから勝負はついて――なっ!? これは、どうして!?」


 ガリウスの顔を眼下に捉える。

 その両目は、いまだ虹色には至っていない。だというのに。


 ずん、と。

 身体が重くなった。

 聖武具の制御が、もっていかれる?


「戦いの中でいろいろ学ばせてもらったよ。虹色眼がどういうものか。お前自身の【アイテム・マスター】への理解のほどもな」


 結論を言えば、とガリウスはにらむように言い放つ。


「やはりお前は【アイテム・マスター】の本質を理解していない」


「本質、ですって……?」


「生身の戦闘能力に恵まれていたのが災いしたな。お前は自身の肉体を柱とし、【アイテム・マスター】を自身の付属物――ただの〝道具〟と割り切った」


「当たり前でしょう? 恩恵(ギフト)とはその人にあてがわれた能力のひとつ。いわば道具です。それを最大限巧く扱うために、自身を研鑽していくのが本筋ではないですか!」


 ガリウスはよく『アイテムに身を委ねる』と表現していた。

 その感覚は理解しがたいものの、けっきょくは【アイテム・マスター】を道具として使う延長線上の話ではないのか?


「他の恩恵(ギフト)がどうかは知らんが、【アイテム・マスター】に限っては違うと断言しよう。もちろん自身の研鑽は必要だが、俺とお前では目的が異なる」


 ガリウスは断言する。


「お前は『【アイテム・マスター】に振り回されない肉体』を求め、俺は『自身を〝道具〟として扱うために必要な能力』を欲した。【アイテム・マスター】と自分、どちらを上に置くかが根本的に異なる」


「そんな、もの……」


 おかしい。どう考えても優先順位が間違っている。

 けれど現状を鑑みれば、どちらが間違っていたかは明白だ。


 ずしりと、さらに身体が重くなった。

 片膝をつく。

 ガリウスを見上げる格好になった。


「あなたは初めから、わたくしを疲弊させるためではなく……」


「ああ、『疲れさせようとしている』と誤解してもらうよう立ち回った。接近して聖武具に触れてさえしまえば、勝つ自信があったからな」


「どうして……? あなたは、いまだ……」


 続く言葉を呑みこんだ。

 しかしガリウス自身が先を継ぐ。


「虹色に至らないのに、か。さて、俺にもよくわからないが、すくなくとも俺は虹色を欲したことは一度もない。必要性を感じなかったんだ」


 ガリウスは肩を竦めて笑う。


「実際、この戦いの中で虹色のお前を観察していたが、やはり俺より【アイテム・マスター】を使いこなせていないな、との感想しかなかった」


 こちらを貶めたり蔑んだり、そういった悪感情はまったく感じなかった。

 ただ無邪気な子どもが自信に満ちているだけなのだ。


「と、偉そうに言ったものの、もとよりハンデ戦だ。お前が俺を殺すつもりだったなら、聖剣のひと振りで勝負は決まっていた」


 何年前だろうか。

 初めてガリウスに会ったころを思い出す。

 まったく笑みを見せなかった子が、こんなにも大きく成長していたのだ。


 自分にはできないことを、彼は存分にやってのけた。

 たとえ虹色に至らずとも。

 ならばその行く末に、いつまでも自分を重ねてはいけない。


「……戻って、きてくれますか?」


 ただそれを願う。

 絶望を乗り越え、無事に帰ってきてくれるだけで、もう他には何もいらない。


「そのつもりだよ」


 ガリウスは聖剣と聖鎧から手を離し、くるりと踵を返した。


「? お待ちなさい! せめて聖武具を――」


「いや、それはお前が持っていてくれ。俺がいない間に、みんなを守ってほしい」


 一抹の不安が頭をよぎるも、


「ああ、ついでに、いろいろ問題は解決してくるつもりだ。今のところ確信はないが、『箱庭』の奥底には手が届くかもしれない」


 ひらひらと手を振る彼の背に、不安は風とともに流れていった――。



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