↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】公爵令嬢ラヴェリナ・ローデンベルクの秘密の離れ ~妖精と暮らす快適生活!?~  作者: 深谷 汎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/38

第28話 公爵、秘密の離れを見学する

毎日7:00・12:00の1日2話で予約投稿更新中


本作は完結まで執筆済みです。

最終話まで更新が止まることはありませんので、ご安心してお楽しみください。

応接室の奥の扉を抜けると、そこは小さな板張りの間になっていた。


床の一段高くなったところから先に、毛足の長い絨毯が敷かれている。段の手前には、布で作られた履き物がずらりと並んでいた。つま先が丸く、踵のない、見慣れない形だ。


「ここから先は土足禁止!」

娘が、段の手前でくるりと振り返った。


「……そうか」

ギルベルトは足元を見下ろした。屋敷内を靴を脱いで歩く日が来るとは考えたこともなかった。


「これを履くのか」


「うん! お父様のはこれ。お客様用の、いちばん大きいやつ」


差し出された一足は、厚手の紺の布を何枚も重ねて縫い合わせたもので、底には薄い革が当ててあった。


外履きを脱ぎ、足を入れる。


「……軽いな」

「でしょ?」


娘が、心の底から満足そうに笑った。


「慣れると、すっごく楽なんだよ。一日じゅう靴を履いてると足がむくむでしょ? あれがなくなるの。クロードなんて、自分用にもっといいのを作らせたんだから」


「お嬢様」


背後から、老執事が静かに口を挟んだ。


「あれは業務上、必要なものでございます」

「絶対、気に入ってるだけでしょ」

「業務上、必要なものでございます」


ギルベルトは振り返って、クロードの足元を見た。


三十年以上この家に仕えてきた男が履いているのは、黒く艶のある上等な革の一足だった。つま先には、控えめな銀の縫い取りまで入っている。ほかのものより、明らかに格が違う。


「……そうか」

「旦那様」

「何も言っていない」

「恐れ入ります」


まだ一部屋も見ていないのに、すでに何かがおかしかった。


◇ ◇ ◇


「ここが、妖精たちのお部屋!」


廊下の突き当たりで、娘が両手を広げた。


ギルベルトは戸口に立ち、中を覗き込んで――


まず、戸口そのものに違和感を覚えた。扉がない。蝶番の跡だけが、柱に残っている。


「……扉は」

「外した!」


「なぜ」

「妖精たちじゃ、重くて開けられないから!」

 

理屈は分かる。分かるのだが、公爵家の建物で、妖精が開けられないという理由で扉そのものを取り払う。その発想の順番が、すぐには腹に落ちてこない。


「それとね、こっち!」

娘が窓を指さした。

 

大きな窓の下の隅、手のひらほどの一角だけが四角く切り取られていた。上には小さな庇がつき、その庇の下に薄い布が垂らしてある。


「ここから、みんな自由に外に出られるの!」


言い終わるより早く、一人の妖精がその布をひょいとくぐって、ひゅんと外へ飛び出していった。数を数える間もなく、別の妖精が外から戻ってくる。


「ただいまー」

「おかえりー」


本当に使っている。


「雨風は入らないのか」

「その布、防水加工してあるから大丈夫! 冬は二重にしてるよ」


妙なところだけ、よく考えられている。


部屋の中には、小さな暮らしがぎっしりと詰まっていた。


棚の上に並んだ手のひらほどの寝台には、端切れで作った布団がかけてある。


胡桃の殻を器にした食卓。

糸巻きを脚にした椅子。


人形の家から持ってきたらしい家具もあれば、明らかに妖精の体に合わせて新しく作られたものもある。


「ここ、寝るとこ!」

「こっちは遊ぶとこ!」

「俺の家、これな」

「わたしのベッド見てー! 花びら入ってるの!」


妖精たちが次々と、自分の持ち場を紹介し始める。


ギルベルトは求められるままに寝台を覗き込み、花びらの詰まった布団を褒め、糸巻きの椅子の座り心地について意見を求められて、答えに窮した。


住んでいる。

 

伝説の中にしかいないはずの妖精が、自分の屋敷の敷地で、ごく当たり前に暮らしている。

 

◇ ◇ ◇


「次、アトリエ!」

「まだあるのか」


「あるよ?」

「……聞くのではなかった」


「何か言った?」

「何でもない」


隣の部屋に案内されて、ギルベルトはまた戸口で止まった。


小さな机が、いくつも並んでいた。

その上には紙の束、筆、絵の具の皿、墨壺。

そして机の前で、何人もの妖精たちが夢中になって筆を動かしている。


「そこ、もっと右ー!」

「台詞、ここに入るー?」

「背景まだ終わってない!」

「悪役もっと怖い顔にしろって」

「いま描いてるってば!」


騒がしい。

そして、恐ろしく本格的だった。


一枚の紙が何人もの手を渡り、線が引かれ、影がつけられ、枠の中に文字が書き込まれていく。王宮の書記局でも、これほど分業の行き届いた仕事ぶりはそうそう見ない。


「お父様、これがコミックを作ってるところ!」

「……そうか」


娘の声に、妖精たちが一斉に顔を上げた。


「ラヴェリナだー!」

「新しいお話できた?」

「ねえこれ見て、この顔どう?」

「いい感じ!」

「ほんと?」


そこでようやく、妖精たちの視線が娘の隣へ移った。


「……だれ?」

「でっかい」

「人間」

「人間なのは見れば分かるよー」


娘がぱんぱんと手を叩いた。


「みんな、紹介するね。この人は、私のお父様!」


「「「おとうさま!」」」


二十人を超える妖精の目が、一斉にギルベルトに注がれた。


「ラヴェリナのお父さん?」

「似てる?」

「似てない!」

「ちょっと似てる!」

「どこ?」

「眉間!」

「眉間はラヴェリナがむずかしい本読んでるときとおんなじ!」


ギルベルトは、生まれてこのかた、これほど遠慮なく観察されたことがなかった。国王の御前でさえ、人は彼の顔をまっすぐには見ない。


「ラヴェリナのお父様だから、パパさんだね!」

「パパさん!」

「よろしくね、パパさん!」

「……公爵と呼びなさい」

「パパさん、こっち来てー」


聞いていない。

机の端から、ルルが腕を組んだまま飛んできた。


「俺、ルル」

「先ほど聞いた」

「……そうだった」


ルルは気まずそうに頭をかき、それから机の上の一枚を持ちあげた。


「それ、昨日描き上がったやつ。辺境の話」


描かれていたのは、雨の中で布に霧吹きをかける少女の姿だった。


凛とした目元の娘が、兵士たちの前で胸を張っている。その向こうでは、水の粒が布の上を転がり落ちていた。


「アイリスの手紙に書いてあったこと、みんなで絵にしたの。できたてほやほや!」


グランツの娘か。ギルベルトは、今朝王宮で聞かされたばかりの内容を思い出した。


自分が書類でしか知らないことを、この小さな絵描きたちは、とうに一枚の絵にしていたわけだ。


「お父様、次いこ!」

「もういいのか」


「うん。あとで読めば分かるから」

「読むのか、私は」

「もちろん!」


その言葉に、妖精たちが色めき立った。


「読むの!?」

「どれ読む?」

「俺の描いたやつにしろよ」

「こっちのが面白いよー」

「悪役が出るやつ!」

「パパさん、あとでねー!」


どうやら、読むことはすでに決定事項らしい。


◇ ◇ ◇


次の部屋は、床が違っていた。


一面に、植物を細かく編んだ敷物が隙間なく敷き詰められている。


淡い黄緑色で、表面にはまっすぐな筋目が走っていた。戸口に立っただけで、刈ったばかりの草のような、乾いた青い匂いがふわりと鼻を撫でる。


「これが、先ほど言っていた……」

「畳!」


「たたみ?」

「本物とは、ちょっと違うんだけどね」


「本物?」

「あ」


娘の動きが止まった。


「……本物、とは」

「……理想形!」


「理想形?」

「そう! 私の頭の中の理想形と比べると、まだちょっと違うっていう意味!」

「そうか」


ギルベルトは娘の顔をじっと見た。娘は、すさまじい速さで目を逸らした。


「ここではね、室内履きも脱いで座るの!」

「もう履き替えたが」


「それも脱ぐの!」

「さらに脱ぐのか」


娘がさっさと室内履きを脱いで、ぺたんと床に座り込む。ギルベルトもしかたなくそれに倣った。足の裏に、ひんやりとした感触と、細かな編み目の凹凸が伝わってくる。


後ろからぞろぞろとついてきた妖精たちが、ここぞとばかりに飛び出した。


「こう座るの!」

「寝転がってもいいんだよ!」

「ごろごろできるの!」

「きもちいいよー」


一人がぺたんと座り、一人がごろんと仰向けになる。もう一人はうつ伏せで頬を畳に押しつけ、何人かはそのまま床の上をころころと転がり始めた。端まで転がると壁に当たって止まり、また逆向きに転がってくる。


「パパさん、こうだよー」

「頭から行くと目が回るから、横向きがいいよー」


妖精による、畳の使い方講座だった。

ギルベルトは正座のまま、それを無言で受講した。


「お父様も、寝転がってみる?」

「……座るだけでいい」


「気持ちいいのに」

「今はいい」


「クロードは寝転がったことあるよ」

「お嬢様」


「あるのか」

「業務上必要な確認でございます」

「またそれか」


この離れでは、「業務上必要」という言葉の意味がずいぶんと広いらしい。


◇ ◇ ◇


「次は、読書部屋! ここがいちばん大事!」


「……そうなのか」


ギルベルトの反応は、もはやかなり弱くなっていた。


その部屋は、壁の三面が天井まで届く書棚で埋まっていた。


革装の本もあるが、それより目を引くのは、背に手書きの題名が入った薄い冊子の群れだ。


何百冊あるのか見当もつかない。入口の脇には小さな台が置かれ、その上に帳面が一冊開いてある。


「それは貸出帳! 借りる人はそこに名前と題名を書くの」


何気なく目を落とすと、見覚えのある名前がいくつも並んでいた。


メアリー。

ベティ。

離れ付きのメイドたちの名だ。

そしてその合間に、ひときわ端正な筆跡で、クロード。


しかも、一度や二度ではない。

ギルベルトが無言で振り返ると、老執事は窓の外の空を眺めていた。

 

そして部屋の中央には、巨大で、柔らかそうな、何か。


「……ラヴェリナ」

「なあに?」


「これは何だ」

「クッションベッド!」


「ベッドか」

「クッション!」


「どちらだ」

「両方!」


説明になっていない。


「お父様用に、予備を持ってくるね! メアリー、手伝って!」


娘は奥の物置へ駆けていき、若いメイドと二人がかりで、大人の背丈ほどもある帆布の塊を引きずってきた。


中に何が詰まっているのか、引きずられるたびに布の擦れ合う、くぐもった音がする。


「はい、座って!」

「……これにか」

「そう!」


ギルベルトは、疑わしげにその塊の端に腰を下ろした。腰を下ろしたとたん、体がどこまでも沈んでいった。


思った以上に柔らかい。腰が落ち、背中が包まれ、膝から下が自然と持ち上がる。

どこにも力を入れていないのに、体のどこも無理をしていない。


「どう?」


「…………」


「気持ちいいでしょ?」

「……悪くない」


「でしょー!」


娘が弾けるように笑い、書棚から一冊の冊子を抜き出して差し出した。


「じゃあ、これ読んで!」

「待て。私は今――」


「コミック! これ、面白いよ!」


押しつけられるまま受け取る。表紙には、髪を結い上げた少女の絵と、題名が書かれていた。


開くと、四角い枠の中に絵が描かれ、人物の口元から伸びた囲みの中に台詞が入っている。


枠から枠へ目を移すだけで、場面が勝手に動いていく。文字だけの本とも、挿絵入りの本とも違う。子供でも読めるし、大人でも止まらない。


「この形式は……」

「読みやすいでしょ?」


「……確かに」


娘は満足げに頷くと、隣のクッションベッドにどさりと寝転がった。


「私はこっち読むー」


まるで自分の寝台のようにくつろいでいる。いや、実際いつもこうして過ごしているのだろう。ギルベルトは仕方なく、ページをめくった。


数ページ進んだところで、眉間に皺が寄った。


「ラヴェリナ」

「なあに?」


「この話、どこかで聞いたような気がする」

「気のせいじゃない?」


「そうか」


さらにめくる。

王宮の茶会。

並んだ令嬢たち。

わざとらしく躓く一人の令嬢。

その手から飛ぶ、ぶどう色の液体。


眉間の皺が、一段深くなった。


「ラヴェリナ」

「なあに?」


「これは」

「創作です!」


早い。答えが早すぎる。


「この、防水加工で飲み物が弾かれる場面だが」


「面白いでしょ?」


「面白いかどうかではない」


「でも、実際よりちょっと脚色してるよ! 本当はあんなに派手に飛び散らなかったし」


「実際?」

 

娘が、止まった。

ギルベルトは、ゆっくりと顔を向けた。


「……創作です」

「今、実際と言ったよな」


「気のせい!」

「ラヴェリナ」


「お父様、喉渇いてない?」


話題の転換が、強行された。


◇ ◇ ◇


娘が駆け寄った先には、部屋の隅に据えられた白い陶器の箱があった。大人の腰ほどの高さで、上に木の蓋が載っている。


「これが冷蔵箱! 最初に作ったのは小さくて足りなくなっちゃったから、あとで作り直した大きいやつなの。中に氷の魔石が入っててね、木の仕切りで分けてあるの。こっちの段に飲み物を入れておくと、ずっと冷たいままなんだよ」

 

蓋が持ち上がると、ひやりとした空気が足元へ流れ出した。娘はそこから小ぶりの瓶を取り出し、硝子の器に果実水を注いで差し出す。


受け取った器は、指先がしびれるほど冷たかった。


「それから、これ!」


娘は器に、細く透明な管を一本差し込んだ。


「ストロー!」

「……硝子か」


「そう! こうやって使うの」


娘は自分の器に同じ管を差し、口をつけずに管の端から果実水を吸ってみせた。


「ね?」

「何のために」


「雰囲気!」

理由が急に弱くなった。


「とにかく、飲んでみて!」


言われるまま、ギルベルトは管をくわえて吸った。冷たい果実水が、器を傾けることもなく、まっすぐ口の中へ流れ込んでくる。


「どう?」

「……まあ、楽ではある」


背中は柔らかな塊に支えられ、手には冷えた果実水、膝の上には読みやすい絵物語。


足元には毛足の長い絨毯。窓の外の庭は夕暮れの色に染まり、部屋の中は静かで、ときおり妖精たちの羽音が耳元をかすめていく。


快適だった。

驚くほど快適だった。

本邸の自室より、よほどくつろげるかもしれない。


だが、手元にあるのは、娘の実体験に基づいた疑いの濃厚な防水加工の絵物語であり、目の前を飛んでいるのは、本来人前には滅多に姿を現さないはずの妖精で、しかも一人や二人ではない。


快適さを味わう以前に、頭の中はとうに満杯だった。


「お父様?」

「…………」


「大丈夫?」

「……ラヴェリナ」


「なあに?」

「私は、少し」


「うん」

「頭を整理する時間が欲しい」


娘は少し考えてから、こくりと頷いた。


「じゃあ、私はコミック読んで待ってるね」

「そうしてくれ」


「お菓子も持ってこようか?」

「……頼む」


「はーい!」


ぱたぱたと部屋を出ていく娘の後ろを、何人かの妖精がついていった。


「お菓子ー!」

「クッキー!」

「魔力入りのやつー!」

「いっぱいー!」


遠ざかっていく賑やかな声を、ギルベルトは黙って見送った。


手元の絵物語に、もう一度目を落とす。ぶどう色の液体を弾いて、絵の中の少女が得意げに笑っていた。


娘のことを、自分はほとんど何も知らなかった。夕食の席で毎日顔を合わせ、話を聞いているつもりでいた。だが娘が話していたのは、この扉の手前の話だけだったのだ。


そして、さらに困ったことに。

この離れは、とんでもなく居心地がいい。


ギルベルトは、クッションベッドにもう少し深く沈み込んだ。頭の整理がつくまで、どうやらしばらく、ここから動けそうになかった。


◇ ◇ ◇


その夜の夕食の席で、ラヴェリナは何度も父の様子をうかがった。


父はいつも通り背筋を伸ばして座り、いつも通り黙ってナイフを動かしている。ただ、スープの皿が空になっているのに気づかず、二度ほど匙を口元へ運んでいた。


「旦那様、今日はずいぶんお疲れのご様子ですわね」


義母のセシリアが、心配そうに声をかけた。


「……王宮に呼ばれていた」

「まあ。何か難しいお話でしたの?」


「辺境で使われている、防水の品についてな。少し話を聞かれただけだ」


辺境、という言葉に、義母の手がほんのわずかに止まった。グランツ辺境伯領。義母の前の旦那様が、帰らなかった土地だ。


「……あちらは、持ちこたえているのでしょうか」


「持ちこたえている。死者は、まだ一人も出ていないそうだ」


「そうですの」


義母は小さく息をつき、それから穏やかに微笑んだ。


「よかった」


その横顔を見ながら、ラヴェリナはスプーンを握り直した。防水加工液を作ったのは自分だと、今ここで言うべきかどうか、少しだけ迷った。


けれど父が何も言わないので、ラヴェリナも黙っていた。父の横顔には「今日はこれ以上、何も増やすな」と書いてある気がした。


「お姉様」


隣の席から、リアが身を乗り出した。


「次のおはなしの夜、竜の続きからね? 嵐の中を飛ぶところ」


「うん、覚えてるよ」

「やった!」


十一歳になった妹は、嬉しいときだけ、まだ少し子供っぽい声を出す。


父がちらりとこちらを見た。その目が「おはなし」という単語のところで一瞬だけ細くなった気がしたけれど、何も言わずに、また皿へ戻っていった。


夕食のあと、廊下で呼び止められた。


「ラヴェリナ」

「はい」


振り向くと、父は少し離れたところで立ち止まり、窓の外の暗がりに目をやっていた。その方角には、離れの灯りがぽつりと見える。


「明日も王宮だ。今日のことは、しばらく私の胸にしまっておく」


「……はい」


「それと」


「はい」


父は、何か言いにくそうに咳払いをした。


「あのクッションの中身は、何だ」


ラヴェリナは瞬きをした。


「……細かく刻んだ端切れと、綿です。袋は帆布を二重にしてあって、口の紐をほどけば中身の量も調整できます」


「そうか」


それだけ言うと、父は踵を返して執務室の方へ歩いていった。その背中が、心なしか昼間より少しだけ丸い。


ラヴェリナはしばらくその場に立ち尽くしてから、口元がゆるむのを両手で押さえた。


あれは、落ちた顔だ。前世で、ラノベ布教に成功し、嵌った時の友達の顔と同じ顔をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。