第22話 破られた衣装と、布用接着剤
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本作は完結まで執筆済みです。
最終話まで更新が止まることはありませんので、ご安心してお楽しみください。
アカデミーに入学してからも、王太子殿下と婚約者候補たちのお茶会は変わらず続いていた。
ただ、会話は少し変わってきた。
同じ学び舎に通うようになって、授業や教師や試験といった共通の話題が一気に増えたのだ。三年間、天気と紅茶の銘柄と刺繍の話を順番に回していたのが嘘のようだった。
「昨日の魔法史、眠くなかった?」
焼き菓子に手を伸ばすふりをして、ラヴェリナは隣のアイリスに囁いた。
「眠かった」
「先生、ずっと同じ調子なんだもん。子守歌かと思った」
「分かる。でも古代王国の内乱のところ」
「あれ、小説に使えるよね!?」
「思った。主人公を王女にして」
「逃がす?」
「それ」
「追っ手は叔父!」
「いいわね」
「――何のお話かしら」
涼やかな声に、二人はそろって顔を上げた。
向かいの席で、ヴィオラ・ランベールが紅茶のカップを持ったまま、うっすらと微笑んでいる。
「なんでもありません」
「授業の復習です」
声がぴったり重なった。
ヴィオラは「そう」とだけ言って、それ以上は聞かなかった。
上座の王太子殿下も何か言いたげな顔をしていたが、ラヴェリナは気づかなかったことにした。
王太子殿下に話しかけられればきちんと答えるし、候補として必要な礼儀は守っている。けれど少しでも隙があれば、二人の会話はすぐ別の方向へ滑っていく。
「さっきのイザベラ様の言い回し、悪役の台詞に使えそうじゃない?」
「『〜ではなくて?』ってやつ?」
「そうそう」
「覚えておく」
月に一度の婚約者候補のお茶会は、いつの間にか、二人だけの創作会議の場にもなっていた。
◇ ◇ ◇
入学と同時に、婚約者候補たちには本格的なお妃教育も始まった。
社交に礼儀作法、語学、国政の基礎、ダンス。アカデミーの授業が終わったあと、決められた曜日に王宮へ通って講義を受ける。
候補者一人ひとりに、王宮の中の控え室まで与えられた。
「……本格的になってきたなぁ」
初日、ラヴェリナは自分用の控え室を見回して呟いた。
小さいが上等な部屋だった。
鏡台と長椅子と、衣装を掛けておく衝立。窓からは王宮の中庭が見下ろせる。扉には、ローデンベルク公爵令嬢の名を記した札が掛かっていた。
「お嫌ですか?」
付き添いのメアリーが、持参した衣装を衝立に掛けながら尋ねる。
「嫌っていうより……選ばれる確率が上がってる気がするのが嫌」
「またそこですか」
「大事なの!」
とはいえ、手を抜くつもりはない。落第して家の名に傷がつくのも、突出して目をつけられるのも困る。狙うのは、ほどほどに優秀で、ほどほどに目立たない位置だ。
そしてラヴェリナには、お妃教育の開始に合わせて持ち歩くようになったものがあった。
手のひらに載るほどの、螺鈿細工の小箱。蓋を開けると、中は仕切りで細かく分かれている。色とりどりのレース、細いリボン、花柄の端切れ、小さな布の花飾り。
そして隅の一角に、コルクで栓をした小瓶がひとつ。三年前の危機回避計画で開発を決めた、布用接着剤だ。
「準備万端」
「……これを使う日が、来るのでしょうか」
「来ないのが一番だよ。でも、来たときに困らないようにするの」
「はいはい」
メアリーの返事は軽かったが、以前のように笑い飛ばしはしなかった。ぶどう果汁がドレスの上を転がり落ちたあの日から、メアリーはラヴェリナの「こんなことがあるかもしれない」を、半分くらいは真顔で聞くようになっている。
◇ ◇ ◇
お妃教育が始まって、ひと月ほど経った日のことだった。
「本日のダンスの授業では、王太子殿下ご自身が皆様のお相手を務められます」
講師の一言で、広間の空気が変わった。
イザベラ・ドルトンは扇の陰で口元をほころばせ、その隣でカミラ・ベックがそわそわと手袋を引っぱっている。ヴィオラは表情ひとつ変えず、ただ背筋を一段と伸ばした。
「面倒」
アイリスが、口をほとんど動かさずに言った。
「聞こえるよ!」
「ラヴェリナにしか聞こえてない」
「殿下に聞こえたらどうするの」
「別に」
「相変わらずだね……」
ラヴェリナは「一人ずつ順番に一曲づつ踊る殿下は大変だろうな」と思った。自分はいつもどおり無難に、目立たないように踊ればいい。
候補者はいったん各自の控え室に戻り、ダンス用の衣装に着替えることになっていた。
控え室の扉を開け、衝立の前に回り込んだところで、ラヴェリナの足が止まった。後ろからついてきたメアリーも、同じ場所で止まった。
「お嬢様」
「うん」
「これは……」
「やられたね」
衝立に掛けてあった淡い水色のダンス衣装。その裾が、腿のあたりまで一直線に裂けていた。
引っかけて破れた裂け方ではなかった。布の端がほつれもせず、まっすぐに開いている。刃物か何かで、迷いなく切った跡だ。
メアリーが、ゆっくりとラヴェリナのほうを向いた。
「本当に……ございましたね」
「言ったでしょ!」
「ええ」
「服を破られることもあるって!」
「……今後は、お嬢様のご予想を疑わないことにいたします」
「そこまで!?」
驚いたものの、腹が立つより先に頭が回り始めていた。ラヴェリナは裂け目に指を当て、長さを目で測る。
「時間は?」
「別の衣装を取りに屋敷へ戻っていては、とても間に合いません」
「欠席は?」
「殿下がお相手をなさる日に、でございますか」
「だよね」
ラヴェリナは鞄を開け、螺鈿の小箱を取り出した。
「じゃあ、これの出番」
「……やはり、お使いになるのですね」
布用接着剤。三年越しの、初投入である。
◇ ◇ ◇
「裂け目を隠すだけだと、かえって目立つよね」
ラヴェリナは衣装を鏡台の上に広げ、裂けた裾を見下ろした。
「当て布をしたのが一目で分かってしまいますね」
「だったら、隠さない。最初からそういう飾りだったことにしちゃおう」
「飾りに?」
「うん!」
小箱の中から、衣装より一段淡い色の端切れを選ぶ。その上に重ねる細いレースと、小さなリボン。
「まず、裂け目の裏にこの布を当てて貼って」
「はい」
メアリーが小瓶の栓を抜き、細い刷毛で接着剤を薄く塗り広げた。ほのかに樹脂の匂いが立ちのぼる。
裂けた布の両端を寄せて当て布の上に押さえつけると、二十まで数えないうちに、しっかりと固まった。
「その上からレースを。もうちょっと斜め!」
「こうですか?」
「そう! 裾の線に沿って、流れる感じで」
メアリーの指先に迷いはなかった。レースの端を接着剤で留め、ひだを寄せながら裾に沿わせていく。裂け目の線は、みるみるうちに柔らかなレースの流れの下に沈んでいった。
「でも片側だけだと、補修したって分かっちゃうね。反対側にも同じ飾りをつけよう」
「破れていないほうにも、でございますか」
「うん。左右がそろえば、最初からそういうデザインに見えるから」
反対側の裾にもレースを流し、リボンを留め、胸元に布の花飾りを二つ散らす。鏡に映した衣装は、控え室に持ち込んだときとは別物になっていた。
淡い水色の上を白いレースが波のように走り、動くたびにリボンの先がふわりと揺れる。
「可愛い」
「元の衣装より、華やかになりましたね」
「だよね!」
ラヴェリナは鏡の前でくるりと一回転してから、はたと動きを止めた。
「メアリー、時間」
「……急がないと、遅れます」
「まずい!」
◇ ◇ ◇
広間にはすでに、ラヴェリナ以外の全員が揃っていた。
イザベラは、扉のほうを一度も見なかった。見なくても分かっているからだ。アイリスが何度も扉に目をやって「遅い」と呟くのが聞こえる。
ラヴェリナ・ローデンベルクは、時間に遅れるような令嬢ではないということを、三年間同じ茶会の席で彼女を観察してきたイザベラは知っている。
今ごろ控え室で青ざめているに違いない。別の衣装を取り寄せるには時間が足りないし、裂けた衣装で殿下の前に出られるはずもない。
遅れて来るか、来ないか。どちらにしても、今日の殿下の記憶に残るのは「時間を守れなかった公爵令嬢」だ。
扇の陰で、口元がわずかにゆるむ。ふと、ヴィオラ・ランベールの冷ややかな横目が、一瞬だけ自分の顔をかすめた気がした。イザベラは扇の角度を直した。
――その時、扉が開いた。
「失礼します。遅くなりまして、申し訳ございません」
謝罪の言葉とともに、ラヴェリナが入室してきた。
――イザベラの呼吸が止まった。
衣装が、裂けていない。
それどころか、裾には見覚えのない白いレースが波打ち、歩くたびに小さなリボンがふわふわと揺れている。胸元には布の花。控え室の衝立に掛かっていたときより、どう見ても格段に華やかになっている。
「……わぁ」
隣でアイリスが、素直な声を漏らした。
「ラヴェリナ。その衣装、可愛い」
「でしょ?」
「いつもと違う」
「あとで話すね」
「何かあった?」
「すごくあった」
「……楽しみにしてる」
「楽しみにしないで!」
イザベラのこめかみが、ぴくりと引きつった。
確かに、切ったはずだ。それなのに、あの短い時間で、誰が、どうやって。しかも、なぜ前より良くなっているのか。
◇ ◇ ◇
「では、始めましょう」
講師の合図で楽士が音を奏で、ダンスの授業が始まった。
一人ずつ、王太子と組んで一曲。ヴィオラの番は、見ていて溜め息が出るほど隙がなかった。カミラは緊張で肩がこわばっていたが、大きな失敗はしなかった。
そして、イザベラの番が来た。
「お願いいたします、殿下」
「こちらこそ」
王太子がいつもの完璧な微笑みで手を取る。音楽が流れ出す。
ダンスは得意だった。候補の中で自分より上手いのは、ヴィオラくらいのものだと思っている。いつもなら、体が勝手に拍子を刻んでくれる。
なのに今日は、頭の中からあの衣装が消えない。誰が直したのか。あの公爵家の地味な侍女か。そんな腕があるとは思えない。それとも初めから、予備の布を――。
「……あっ」
足が、半拍遅れた。
「大丈夫?」
王太子がさりげなく腰を支え、体勢を戻してくれる。
「も、申し訳ございません」
「気にしなくていいよ」
穏やかな声だった。穏やかすぎて、かえって焦りがつのる。取り戻そうとして踏み出したステップは、今度は音楽より少し早かった。
「落ち着いて」
「はい……」
講師の眉が、ほんのわずかに動くのが見えた。
ターンの途中、視界の端に壁際の二人が映った。
ラヴェリナとアイリスが、肩を寄せて何か囁き合っている。
「あとで衣装見せるね」
「何したの?」
「接着剤」
「接着剤?」
「布用」
「また何か作ったの?」
「作った!」
「見たい」
楽しそうだった。こちらの苦労など、欠片も気にしていない顔で。腹の底が熱くなった瞬間、イザベラは三度目のステップを踏み違えた。
「今日は、少しご調子がよろしくないようですね」
曲が終わると、講師が静かにそう告げた。
「申し訳ございません……」
イザベラは笑顔を作ってお辞儀をした。扇を握り直した指先が、かすかに震えていた。
◇ ◇ ◇
アイリスがいつもどおりの無愛想さでそつなく一曲を踊り終え、最後にラヴェリナの番が回ってきた。
「よろしくお願いいたします、殿下」
「うん。よろしく」
差し出された手を取る。手袋越しの殿下の手は、思っていたより温かかった。
音楽が始まると同時に、殿下が口を開いた。
「今日は少し遅かったね」
「……はい」
「何かあった?」
「ちょっとした事故がありまして。でも、解決しました!」
「……そう」
殿下の視線が、一瞬だけ裾へ落ちた。
「その衣装」
「はい」
「最初から、その飾りだった?」
ラヴェリナのステップが、ほんのわずかに固まった。
「……途中からです」
「やっぱり」
「お分かりになるんですか?」
「なんとなく」
にこりと、殿下が笑う。
「でも、よく似合ってる」
「ありがとうございます」
そこで話は終わりだと、ラヴェリナは思っていた。
甘かった。
――事故って、
衣装?
破れた?
自然に?
殿下は世間話と変わらない顔で、ひとつずつ質問を重ねてきた。ラヴェリナは答えるたびに一拍詰まり、三つ目にはとうとう何も言えなくなった。
「今の間で、大体分かった」
この人の前で黙るのは、自白するのと同じだ。
誰がやったかは分かるかと聞かれ、分かりません、と正直に答えると、殿下はそれ以上追及しなかった。
代わりに、控え室で何が起きたのかは確認しておく、と言う。もう直ったので、と遠慮してみたけれど、「君はそれでいいかもしれないけど、僕は駄目」の一言で片づけられた。
曲が終わると、殿下は何事もなかったように手を離した。
一礼して壁際に戻ると、アイリスが待ち構えていた。
「どうだった?」
「普通に踊ったよ」
「そうじゃなくて」
「衣装のこと聞かれた」
「ばれた?」
「ばれた」
「やっぱり」
「なんでみんな分かるの!?」
広間の反対側で、王太子殿下が侍従に何か短く告げるのが見えた。イザベラは、こちらを一度も見なかった。
◇ ◇ ◇
授業が終わると、王太子は侍従長を執務室へ呼んだ。
「今日、ローデンベルク公爵令嬢の控え室に出入りした者を確認してほしい」
「ローデンベルク公爵令嬢の……何かございましたか」
「衣装が破損していたらしい」
老いた侍従長の顔色が変わった。長年王宮に仕えてきた男に、それが何を意味するか説明する必要はない。
「ただちに調べを――」
「騒ぎにはしなくていい。まず事実だけ。誰が、いつ、あの廊下を通ったか」
「承知いたしました」
「それから、今後は婚約者候補の控え室に入れる者を限定して。本人と、その家から付き添ってくる者だけに」
「すぐに手配いたします」
深く頭を下げて侍従長が退出すると、執務室は静かになった。今後、控え室は、侍従に命じて授業が終わるまで閉じさせる。これで少なくとも、同じ手は使いにくくなるはずだ。
王太子は椅子の背にもたれ、今日のことを初めから辿り直した。
広間に候補者が集まりはじめたとき、一人足りなかった。
ラヴェリナ嬢は、時間に遅れるような人ではない。自由奔放に見えて、王宮での振る舞いだけは妙にきっちりしている。目立たないように、けれど隙は見せないように。三年見てきて、彼女の立ち回りはいつもそこに収まっていた。
その彼女が来ない。
アイリス嬢はしきりに扉を振り返り、カミラ嬢は手袋の指先をいじり、ヴィオラ嬢は背筋を伸ばしたまま待っていた。ただ一人、イザベラ嬢だけが、ほんの少し機嫌がよかった。
遅れている理由を気にする素振りもないのに、扇の陰から時折扉を窺っている。そのイザベラ嬢へ、ヴィオラ嬢が一度だけ冷たい視線を流したのも見えた。
三年前のぶどう果汁の日にも、イザベラ嬢とカミラ嬢は何度も目を見交わしていた。
いつもは時間に正確な令嬢の遅刻。見違えるほど変わった衣装。そして扉が開いた瞬間、イザベラ嬢の顔を走った驚きと、すぐあとに取って代わった苛立ち。
偶然が三つ重なることはある。だが、三つ重なった偶然が、ダンスの得意な令嬢の足を三度ももつれさせる確率となると、かなり低い。そこへ、ターンの途中で壁際から届いた「布用」の接着剤だ。
証拠はない。
だから今は、誰も責めない。
分からないのは、むしろラヴェリナ嬢のほうだった。
衣装を破られたなら、普通は別の衣装を取りに行かせる。間に合わなければ欠席する。
泣くか、怒るか、犯人を探してくれと訴える。どれを選んでも、誰も彼女を責めはしない。
それなのに彼女は、破れたところに何かを貼って元より可愛く仕立て直し、犯人のことより出来栄えを喜んでいた。
もう少し怒ってもいいのではないかと、こちらが言いたくなるくらいに。
ぶどう果汁をかけられた日には、水を弾くドレスを着ていた。衣装を破られれば、貼って直せるものを持っていた。
なぜ、先に用意されている?
「……衣装を破られる前提で暮らしてる令嬢なんて、いないよね」
額に手を当てる。
アカデミーに入ってからのお茶会もそうだった。以前は候補者たちの話題が王太子を中心に回り、どの席の言葉も、行き着く先は同じだった。
それが今では、テーブルの端でラヴェリナ嬢とアイリス嬢が、見当もつかない話で勝手に盛り上がっている。
王太子と話しているときより、あの二人で小声で何か企んでいるときのほうが、ラヴェリナ嬢は明らかに生き生きしていた。
婚約者候補のお茶会で、王太子がそっちのけにされるのはどうなのだろう。候補者同士の関係を見ておくのも務めのうちだと思って、黙って眺めてはいるけれど。
三年経っても、彼女が何を考え、何に備え、どこまで先を読んでいるのか、王太子にはその輪郭すら掴めていなかった。
とにかく、覚えておこう。次は見逃さない。
そう考えたところで、ふと思考が止まった。
いつから自分は、ラヴェリナ嬢に何かが起きるたびに「次は」と考えるようになったのだろう。
婚約者候補なのだから当然だ。
彼女だけではない。
ヴィオラ嬢も、
アイリス嬢も、
今日は冴えなかったイザベラ嬢も、
同じように見ておく必要がある。
「……そういうことにしておこう」
口に出してから、なぜわざわざ自分に言い聞かせたのかと思った。本当に全員を同じように見ているのなら、こんな言葉はいらないはずだ。
答えは出なかった。代わりに浮かんだのは、ターンのたびに揺れていた白いレースと、「途中からです」と白状したときの、あの気まずそうな顔だった。
王太子は小さく息を吐き、書類を一枚引き寄せた。
◇ ◇ ◇
その夜、離れの自室で、ラヴェリナは一冊の帳面を開いた。
七歳の頃からの革の手帳とは別に、十歳から付けている検証用の記録帳だ。
防水加工の試作が何回失敗したか、テテクの樹液を何倍に薄めたときに布が硬くなったか、浮遊魔法の練習で逆さまに何回回ったか。成功も失敗も、全部ここに書いてある。
ラヴェリナはペンを取り、新しい行に書き込んだ。
『布用接着剤。現場にて有効。補修所要時間、約十分。接着後の強度、ダンス一曲に耐える。改善点――レースと花飾りの在庫を増やすこと。左右対称に飾るなら、同じものが二つずつ必要』
少し考えてから、もう一行。
『犯人:不明』
そこでペンを止め、ラヴェリナは衝立に掛けた水色の衣装を眺めた。窓から入る月明かりの中で、白いレースがぼんやりと浮かんで見える。
困ったことが、ひとつだけある。
この衣装、元のものより、ずっと気に入ってしまった。




