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目覚めたら隣には彼女がいない



微睡みの中、誰かを呼ぶ声が聞こえる。

「…ク、シ……ク」

よく聞こえない。声が耳に届かない。途切れ途切れにしか聞こえない。

それでも、その聞き覚えのある声は何度も何度も呼びかけ、やがて意識を引き上げてくれた。


「目を覚ましてください」


「キャナリ…?」


何故か疼く体の痛みに耐えながら目を開けると、目の前には見慣れた小柄な少女がいた。その隣にはアイグルが顔を覗き込んでいた。2人の身なりはボロボロで、あちこちが黒く汚れている。キャナリの綺麗な髪はほつれ、アイグルの整った顔立ちは苦悶の表情を浮かべていた。シンクが目を開けた途端、2人は驚き、安心したように目を見開く。

「よかった、起きた。ああ…」

「んっ…キャナリ…」

キャナリは仰向けに転がっているシンクの両肩を、覆いかぶさる勢いで抱きしめた。シンクのがしっかり反応したことに安心したのか、眉を下げている。シンクはあまり見たことのない幼馴染の様子に戸惑った。アイグルは何も言わない。


「ここは、どこ…」


シンクは全身けだるくて体が動かせなかった。手足は痺れて、頭が重い。それでもどうにか上半身を起こし周囲を見渡す。そして言葉を失った。


広く広がる大地、その全体が黒く煤けていた。


遺跡のあった場所一帯は盛り上がった黒の土で溢れかえっており、もはや何があったのか分からない。かろうじて遺跡のカケラらしき残骸があちこちに転がっているのみ。黒煙が上がり、空に向かって上っている。キャナリやアイグルの身が黒く汚れているわけを動かない頭で理解した。


「なに、これ…」


シンクはぼんやりする頭で、その衝撃的な風景をどこかひとごとのように眺めていた。

無くなってしまった遺跡を目の当たりにし、動揺の色を隠せないネーベルの国民らの存在が、紙のように薄っぺらく感じる。

現実のこととはどうしても思えず、事態が飲み込めない。


「マリアは?」


ポツリと、雨のひとしずくのような一言が硬い空気を生み出した。寒い風が吹き、シンクは眉を寄せた。


シンクはキャナリを見た。キャナリの表情を見た。キャナリは、泣きそうな顔を浮かべていた。

シンクの瞳が凍る。



「マリア様は…」



キャナリの胸が動く。息を吸ったのだろう。その動きさえどこか他人事のように感じる。



「マリア様は見つかりませんでした」



シンクの目の前で薄い唇が動いた。




遺跡のあった場所は、今は殺風景な平地に変わり果てていた。





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