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満州に咲いた命  作者: 月羽めい
第三部 故郷での再出発
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第五十三章 静香が知った真実

来真が中国へ渡ってから、十年の月日が流れていた。


静香は最初こそ帰りを待っていた。いつか戻ってくると信じ、幸江の成長を見れば気持ちが変わるかもしれないと願っていた。だが年月がたつにつれ、手紙は減り、連絡も途絶え、二人の距離は少しずつ遠のいていった。


そんなある日、静香のもとに突然知らせが届く。


「来真さんが亡くなった。」


来真は中国で別の女性とともにモンゴル旅行へ出かけ、その旅先で心臓発作を起こして急死したという。静香はその事実を聞いた瞬間、しばらく言葉を失った。怒りも悲しみもあったが、それ以上に、もう二度と会えないという現実が胸を強く打った。


しかし、静香が本当に驚いたのは、その後だった。


葬儀や遺産の手続きを進めるため戸籍を確認したとき、静香は自分自身がすでに死亡した人として扱われていることを知った。生きているはずの自分が、戸籍上では「死亡扱い」になっていたのである。


つまり、来真は静香が死んだものとして扱い、そのうえで中国の女性と新たに婚姻関係を結んでいたのだった。


静香は書類を握りしめたまま、しばらく動けなかった。


「私が……死んだことになっている?」


かすれた声が、ようやく漏れる。


自分は生きているのに、戸籍の上ではもう存在しないことにされていた。その事実は、静香の心を深くえぐった。来真は静香との結婚をなかったことにし、別の家庭を作っていたのである。


だが、調査が進むにつれて、さらに重要な事実が明らかになる。


来真と中国の女性との結婚は、正式には認められていなかった。戸籍上、来真と静香の婚姻関係は残ったままであり、法律上の妻は静香だった。そのため、来真が残した遺産を受け取る権利も、静香にあった。


静香は、夫に裏切られたという思いと、法律上は自分の立場が守られていたという事実の間で、複雑な気持ちを抱えた。戸籍上は死んだことにされ、夫は別の女性と暮らしていた。それでも最後に残ったのは、静香が正式な妻として認められ、相続権を持つという現実だった。


静香はその事実をすぐには受け止めきれなかった。怒り、悲しみ、安堵、虚しさが、順番もなく押し寄せてくる。


そんな静香に、清子は静かに言った。


「つらかったね。」


静香は首を横に振ったが、その動きは小さかった。


「お母さん。」


一度言葉を切り、静香は濡れた目で清子を見た。


「私、もう大丈夫。」


そう言いながらも、声はまだ震えていた。けれど、幸江の小さな手がそっと袖に触れたとき、静香ははっきりと思った。


自分は、まだ生きている。


幸江の母として、ここまで生きてきた。その事実だけは、誰にも消せない。


清子は静香の手を握り、静かに告げた。


「あなたは、ずっと頑張ってきた。誰かに選ばれるためじゃない。あなたは、あなたの人生を生きてきたんだよ。」


その言葉を聞いた瞬間、静香の堪えていた涙があふれた。


来真が選んだ道は、もう変えられない。失われた十年も戻らない。けれど、静香の人生はそこで終わったわけではなかった。


幸江を守り抜いた時間。


母として歩いてきた日々。


それは、誰にも奪えない静香自身の人生だった。


静香は涙をぬぐい、静かに空を見上げた。


傷を抱えたままでもいい。裏切りを知ったとしてもいい。


静香はもう一度、自分の人生を歩き始める。


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