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弍頁:『出会い』

 "その人"は、平安時代の人が着ていた服装の一つの真っ白な狩衣のようなものを着ていて、腰のあたりから尻尾のようなものが生え、歩くたびに動いていた。 一言で現すなら"異様"。漫画やアニメの世界にいそうな見た目。少年が感じた第一印象はそれだった。こんな深い山奥に明らかに人間ではない何かがいて少年は視界に映るその存在を理解するのに時間を要した。


 そんな異様な見た目で突如現れた"その人"。普通ならば考えられない現状だが、少年は怪しい、おかしい、怖い。これらの、普通じゃない場面に出会した場合の一般的な()()感情も感じていなかった。

「....あ...の。」

少年は無意識に声を発していた。それも、目の前の者を呼び止めるような言葉を。

その言葉を聞き取ったのか、"その人"は立ち止まる。少し間を置き、ゆっくりとこちらを振り返る。

少年の視界にはじめて映ったその人の表情は、とても驚いて見えた。


「お前...私が見えるのか?」


とても驚いた表情と声色で"その人"は喋った。この薄暗い山に突然現れた異様な存在を目の当たりにした少年よりも、驚いた表情で。


 呼び止めたはいいものの、少年は何を話せばいいのか、これは現実なのか、それとも先程の苦しみで意識が途絶え、それにより見ている夢なのか。この世の全てが分からないような感覚に陥っていた。そんな少年の混乱をよそに、また"その人"が口を開く。

「今、私を呼び止めたよな...聞き間違えか...?」

自分を見つめたまま返答をしない少年に"その人"はもう一度問う。変わらず驚いた表情で。だが少し嬉しそうにも見える。


 とりあえず何か返答しなければと少年は考える。

「見え...ます。」

小さく震えた声でなんとか答える。するとその返答を聞いた途端、目の前の"その人"の表情が驚きから嬉しさへ変わった。と思ったら真顔になった。表情の移り変わりがあまりにも素早かった。そして"その人"は少年から少し目を逸らしながら、「この山は出入りしないほうがいい。人の子ならば尚更。先程のような輩がたまにうろついているからな。」"先程のような輩"。おそらくあのとても耐え難かった苦しみの元凶だろうと少年は理解した。あれは何だったのか。そして貴方は何者なのか。というかこれは現実なのか。少年には聞きたい事が山程あった。だが少年は何から問えばいいか迷い、口を開けずにいる間に"その人"がまた話し出す。


「ここは人間が来る場所ではない。先の件と私の事は忘れ、家へ帰りなさい。道に迷っているならば私が山の入口まで送り届けよう。」


 少し口角を上げ、優しい眼差しで"その人"は少年に言った。だが、その表情はどこか寂しいような、残念そうに見えた。


 民家も街灯もないこんな山奥に急に現れ、しかも自分を助けてくれた。しかも割と喋る。そして、迷子は放っておけないのか案内をしようとしている目の前の存在を少年は"怖い"などと思えなかった。例え、その見た目が、夢を見ているのかと錯覚するほど異様でも。だが、頬で感じた土の感覚がまだ残っている少年は、これが夢では無く、現実だと薄々気づき始めていた。


「おい、聞こえているのか?」


そんな少年の思考を妨げるかのように問う目の前の存在。少年は、迷子なのか聞かれている事を思い出した。

「え...と、迷子ではない...と思います。特に目的地を決めずに歩いてて…。」


「迷子ではないのか。ならばこの山で何を求めているんだ?」


*****


 少年は最近この村に引っ越してきた中学生だった。幼い頃に彼の両親は離婚し、彼は母と2人で暮らしていた。だがその母が病に倒れ、亡くなってしまい、この田舎村に住んでいる母方の祖母に引き取られたのだった。

 そして今日、祖母は出かけており、少年は1人で祖母が貸してくれた部屋にいた。その部屋は1人で使うには勿体無いほど広く、自分の荷物を全て置き終わってもまだスペースが余っており、落ち着かなかった。

 居間に降りたが、引き取られてから1週間も経っていないのに、誰もいない居間に無遠慮にくつろぐのは気が引けた少年は、日が暮れるまで静かに過ごせる場所を、散策も兼ねてなんとなく探しに出た。


 だが、この村に引っ越してきたばかりの少年は、当たり前のようにこの地に詳しくなかった。引き取られてからの数日は荷物の整理をしており、一人で出歩くのは初めてのことで、ここへ初めて来た時に通った大通り以外知らないのだ。

 なので仕方なく、その一度だけ通った大通りに沿って歩いた。時々、小さな公園や何を売っているのかよく分からない店が道路沿いにあったが、それらの確実に他の人がいる場所は好ましくなかった。図書館などのパーテーションで区切りのある落ち着いた場所を探していた。というかこの田舎村に静かに勉強や読書ができる図書館などあるのだろうか。コンビニなんて10時に閉まるこのド田舎に。本が置いてある場所があったとしても、良くて古書店くらいだろう。

 

 なので少年は、大通りを真っ直ぐ進み、途中カーブになっている所の先にある山を選んだ。危ないからと立ち入る者が少ないらしい。だが、以前まで割と建物の多い土地に暮らしていた少年は、山や森などの自然に興味を持っていた。その好奇心を抑えられず、奥深くまでは行かなければ大丈夫だろうと山に足を踏み入れてしまった。だが、歩いても歩いても薄暗く、開けた場所など一向に見つからない。挙げ句の果てには変なものに襲われ、そして今この現状だ。山になど立ち入らず、自分の部屋で大人しくしとくんだったと、後悔する。


「静かで見通しのいい場所を探していたんです…。人に会いたく無くて…。」


少年は、自分がただ1人になりたかっただけなのだと、気持ちを口に出して自覚した。だが、この言い方は目の前にいる"その人"に失礼だろうか。そもそも見た目から人間ではないだろうが、助けてもらった恩人にこの言い方は失礼だったと少年は心の中で反省する。そういえば、


「あの…、さっきは助けてくれてありがとうございました…!」 


少年はお礼を言っていなかった事を思い出す。見た目が、存在がどうであれ"その人"は確実に少年の命の恩人だった。


「礼など不要だ。その…いやなんでもない。静かで開けた場所を探しているんだったな。生憎、この山にそんな良い場所はほとんど無いと思うぞ。」

何かを言いかけたが誤魔化し、この山に少年の求める場所は無いと言う"その人"。ここまで歩いてきた苦労はなんだったのか。と少年は落ち込む。そんな少年の感情に気付いたのか、"その人"が話し出す。


「その…、この山は人間が立ち入るべき場所では無いが、一つだけ、静かな場所がある。お前が望むような場所かはわからないが…。良ければ、案内してやろう。」


 先程は全て忘れて家へ帰れと言っていたのに、今度は視線を逸らし、少し弱気な声で少年にこの山に留まる提案をしだした"その人"。急にどうしたのだろうか。少年には彼が何を考えているのか分からなかった。昔話に出てくる山姥(やまんば)のように家に招いて寝ている間に食おうなどと考えているのだろうか。少年にはそんな良くない考えが浮かんでいた。


「無理にとは言わないぞ、判断はお前に任せる。怖いならば断るといい。私はこんな事で怒ったりしない。」


そんな少年の考えを読み取ったかのように"その人"はゆっくり言った。あくまで少年の意思を尊重したいと言わんばかりに。

 少年はここで断ったらこれから先、断った事を後悔するような気がした。


「せっかくここまで静かな場所を探しながら歩いてきたんだし…、それに少し歩き疲れたから、その…、貴方の言う静かな場所で休みたい…です。あ、日が暮れる前には家に帰るつもりなので、それまで…。」


 流石に日が沈んだらこの山は真っ暗になるだろう。そんな山道を歩くのは危険だと思い、最後に何時に帰るのかを付け足す。まるで遊びに出かける前に子供が親と帰る時間を約束するみたいだ。


「そ、そうか。わかった。案内しよう。まだ歩くことは出来るか?すぐそこなんだが…。」


と、声色を明るくしながら"その人"は答える。少年が"その人"の姿が見えると答えた時に彼が一瞬見せた嬉しそうな表情といい、急に明るくなった今の声色といい、何が何だか少年には分からなかった。だが、一つだけ分かることがあった。それは彼に悪意が無いこと。そもそも悪意などがあったら少年を救ったりしないだろう。世の中の怖い内容の昔話を知っているためか、先入観を持ってしまった少年は二度目の反省をする。


「大丈夫です、まだ歩けます。」


出来るだけ笑顔を作って明るめに少年は答える。


「そうか、ならば行こう。足元に気をつけるんだ。」

そう言い、"その人"は腰から生える尻尾のようなものを先程より動かしながら、少年の前を歩き出した。

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