第三十三話 外から
第2セットが始まってすぐ、真帆は玄海が第1セットと同じチームではなくなっていることに気づいた。
最初に目についたのは、リベロの立ち位置だった。
第1セットより半歩ほど深い。その隣のレシーバーも少し内側へ寄り、リベロ1人に広い範囲を任せない形になっている。
第1セット、千尋と2人で気づいたことがあった。
玄海のリベロは上手い。普通のサーブならほとんど崩れない。ただ、沙耶先輩が打つような強いドライブ回転のかかったボールでは、触れてもAパスにならないことが多かった。
そこを千尋が狙った。実際に1点へつながった。
そして、玄海は次のセットにはもう修正してきた。
「……早い」
真帆はボトルを並べながら、小さく呟いた。
変わっているのはレセプションだけではない。
第1セットより、ブロックが明らかに整理されていた。
沙耶先輩へ3枚を揃えることばかり考えず、中央を最後まで捨てない。間に合わない時には無理に完全な壁を作ろうとせず、1枚だけでも手を残す。その後ろには、その手で限定されたコースを待つレシーバーがいる。
皐月先輩の速攻に1枚しかつけなかった場面でも、玄海のブロッカーは無理に止めようとはしなかった。手だけをコースへ残し、指先に当てる。
「ワンタッチ!」
ボールはそのまま玄海の後衛へ上がった。
そこから切り返され、今度は玄海が1点を取る。
止めたわけではない。
皐月先輩はちゃんと打てている。
それでも青嵐の1点にはならなかった。
真帆は、その違いを考えながらコートを見続けた。
玄海のブロックは、全部を真下へ叩き落とすためのものではない。
触ればいい。
後ろが拾える場所へ変えればいい。
壁の後ろまで含めて、一つの守備になっている。
第1セットより高さが増したわけではないのに、玄海の壁は確実に硬くなっていた。
序盤、青嵐は少しずつ離された。
それでも深見監督がタイムアウトを取った頃には、真帆にも玄海の攻撃側で気になるものが見え始めていた。
戻ってきた萌々香先輩へボトルを渡す。
「萌々香先輩」
「ん?」
「玄海のレフトなんですけど、二段トスの時だけ最後の助走が少し内側に入ってます」
萌々香先輩はボトルを口元へ運びながら、すぐに玄海のコートへ目を向けた。
「内側?」
「はい。普通に返った時よりです。多分、ブロックの外側を使おうとしてます」
「何本見た?」
「今ので3本です」
「ちゃんと数えてるんだ」
「たまたまです」
「絶対たまたまじゃないでしょ」
萌々香先輩は笑ったが、それ以上は何も言わなかった。
真帆も、まだ確信があるわけではない。
だから「多分」でいい。
見えたものを渡す。
使うかどうかは、コートにいる先輩が決める。
数ラリー後、青嵐のサーブで玄海のレセプションが乱れた。
高い二段トスがレフトへ上がる。
真帆は思わず身を乗り出した。
助走が内側へ入った。
萌々香先輩が、いつもよりほんの少しだけ外側を厚く閉じる。
玄海のスパイカーが打った。
手に当たる。
「ワンタッチ!」
美緒が拾った。
青嵐の切り返しから、最後は凜が打ち切る。
「よし!」
真帆は拳を握った。
自分が止めたわけではない。自分は相変わらずコートの外にいる。
でも、自分に見えたものが、あの1点の中に少しだけ入った。
それが嬉しかった。
青嵐は少しずつ点差を縮めた。
けれど玄海も崩れない。
そして第1セットと同じように、凜へサーブを集め始めた。
正面へ一つ。次は深く。その次は短く。
ただ凜に触らせるだけではなく、前後へ動かしてから攻撃に入らせている。
凜はまだ決めていた。
それでも真帆には、レセプションから左へ開く時の最後の2歩が、少しずつ窮屈になってきているように見えた。
深見監督も同じものを見ていたらしい。
「水瀬」
「はい!」
アップゾーンで身体を動かしていた千尋が、すぐにこちらへ来る。
真帆は10番のパドルを手に取った。
「3ローテ」
「はいっ!」
千尋へ渡しながら、真帆は小さく声をかけた。
「千尋。リベロ、もう第1セットと同じじゃないです」
「うん」
返事があまりにも早かった。
千尋は玄海のレセプション隊を見たまま続ける。
「半歩下がってる。隣も中に寄ってるから、その分外がちょっと広い」
真帆は少しだけ笑った。
「同じところは、もう駄目そうですね」
「私もそう思う」
「じゃあ、次ですね」
「うん。次探す」
青嵐がサイドアウトを取ったところで、千尋が入る。
凜と手を合わせ、エンドラインへ向かった。
第1セットで狙ったリベロを一度見る。
けれど、そこへは打たない。
リベロを助けるために内側へ寄ったレシーバーの、さらに外へ伸ばした。
玄海の選手が追う。
1球目がネットから離れる。
高いトスしか上げられない玄海に青嵐のブロックが揃い、切り返したボールを沙耶先輩が決めた。
千尋の修正が1点になった。
けれど、その次にはもう玄海側も外のレシーバーを少し前へ出していた。
千尋の2本目のサーブをきれいに返し、速攻でサイドアウトを取る。
「……本当に早いなあ」
真帆は思わず苦笑した。
千尋が見つける。
玄海が直す。
直したことで生まれた場所を千尋がまた見る。
その繰り返しだった。
そして千尋のサーブが切れてから、真帆にはもう一つ面白いものが見えてきた。
玄海は当然のように、今度は千尋へサーブを集めた。
途中から入った1年生。それも凜を休ませるために後衛を3ローテ回る選手なら、狙わない理由はない。
千尋が受ける。
返したらすぐに守備へ入る。
玄海が切り返す。
ブロックに触れたボールのコースが変わり、美緒が右へ飛び出した。
美緒は速い。
ボールを見てからでも間に合う。
腕に当てたボールが少し後ろへ流れたところには、千尋がいた。
千尋がつなぐ。
次のラリーでは逆だった。
千尋が短いサーブへ前に出る。その後ろへ打ち込まれたボールに、美緒が走る。
拾う。
また青嵐が攻撃できる。
真帆はいつの間にか、玄海の攻撃より2人の動きを追っていた。
美緒はボールを見てから間に合う。
千尋は、その美緒がどこへ行くのかまで見ている。
美緒が右へ動けば、その左を千尋が埋める。
千尋が前へ出れば、その後ろに美緒がいる。
声を掛け合ってから動いているわけではない。それでも、1人が動いてできた穴へ、もう1人が自然に入る。
玄海が何度攻撃しても、後ろ3つのどこかに2人のどちらかがいる。
「……すごい」
思わず声が漏れた。
千尋が入ったことで、凜が休める。
それだけではなかった。
美緒と千尋が同時に後衛へいる時間そのものが、青嵐の守備を別のものにしている。
玄海が千尋を狙えば狙うほど、千尋は試合に入っていく。美緒との距離も合っていく。
長いラリーの最後を沙耶先輩がブロックアウトで取った。
青嵐は少しずつ追いついていった。
千尋が1つローテーションを進み、後衛中央へ入ったところで、スコアは18対20。
青嵐が2点を追っている。
サーブ位置へ回るのは御子柴先輩。
そこで深見監督が動いた。
「篠宮」
「はい」
梓先輩が立つ。
「一ノ瀬と交代」
真帆は一瞬だけ目を見開いた。
怜奈先輩を下げる。
正規のセッターを外す。
けれどコートの配置を見れば、何を狙っているのかはすぐに分かった。
前衛にいるのは沙耶先輩、皐月先輩、怜奈先輩。
その怜奈先輩を梓先輩へ替える。
沙耶先輩。
皐月先輩。
梓先輩。
全員が高い。
しかも玄海のエースは、今が前衛にいる最後のローテーションだった。
この数ラリーだけ、エースの前へ青嵐が作れる最大級の壁を置く。
真帆は梓先輩へ交代用のパドルを渡した。
「行ってきます」
「……はい。お願いします」
梓先輩はいつもと変わらない顔で交代ゾーンへ向かった。
怜奈先輩が出る。
サーブ前の位置を確認したあと、御子柴先輩がサーブを打てば、梓先輩は玄海のエースと向き合えるライト側へ移る。
コートの中から本職のセッターはいなくなった。
普通なら、それだけで攻撃はかなり苦しくなる。
でも真帆は、今の6人を見て少し考えた。
後衛には千尋がいる。
御子柴先輩も、サーブを終えれば守備へ入る。
2人とも本職のセッターではない。でも、崩れた時に2本目を上げることには慣れている。
そして美緒は、1球目をただ拾うだけではない。
どこへ返すかまで選べる。
正規のセッターがいないのに、2本目を触れる人間が何人もいる。
「……変なチーム」
真帆は小さく笑った。
多分、褒めている。
御子柴先輩のサーブが入った。
玄海のレセプションは崩れない。
セッターへ返る。
玄海のエースがレフトへ開いた。
真帆にも分かった。
来る。
梓先輩は、もっと早くそこへ動いていた。
玄海のエースが跳ぶ。
梓先輩と皐月先輩が並ぶ。
強打。
止め切れない。
けれど梓先輩の手に当たった。
「ワンタッチ!」
ボールが後衛へ飛ぶ。
美緒が入った。
そして、その腕から上がったボールを見た瞬間、真帆は息を止めた。
ネット際だった。
近い。
普通なら、レシーブが乱れたと思う場所。
でも真帆はそう思わなかった。
「……わざと」
美緒は、あんなミスをしない。
自主練で何度も見た。
同じ場所へ返してと言われれば、何本でも同じ場所へ返す。少し散らしてと言われれば、その範囲へ意図的に散らせる。
美緒は今、千尋が使える場所へ1球目を置いた。
そして千尋も、その意図に気づいていた。
迷いなくネット際へ走る。
跳んだ。
ジャンプトス。
玄海のブロッカーが千尋を見る。
セッターがいない以上、千尋が2本目を触る可能性は高い。
沙耶先輩が動く。
皐月先輩も中央で攻撃へ入る。
その一方で、梓先輩はブロックから着地すると、もうライトで短い助走へ入っていた。
「梓先輩……!」
千尋の手がボールへ触れる。
大きくは上げなかった。
ほとんど触れるだけ。
ネット際に浮いたボールを、右へほんの少し流す。
梓先輩が跳んでいた。
玄海のブロックは遅れている。
振り抜いた。
ボールが床へ突き刺さった。
「よしっ!」
19対20。
1点差。
「梓先輩!」
真帆は、自分でも驚くほど大きな声を出していた。
千尋と梓先輩が手を合わせる。
美緒もそこへ寄る。
最初に玄海のエースへ触ったのは梓先輩。
そのワンタッチを美緒が拾い、千尋が使える場所へ置いた。
千尋はそれを理解してジャンプトスに入り、梓先輩は千尋なら上げてくれると信じて、ブロックした直後に攻撃へ切り替えた。
本職のセッターが1人もいないのに、玄海の壁が間に合わなかった。
6人が、その場で作った1点だった。
玄海がタイムアウトを取った。
選手たちがベンチ側へ寄ってくる。
真帆はすぐに動いた。
タオルとボトルを持ち、沙耶先輩、皐月先輩、梓先輩へ渡す。
交代で外にいる怜奈先輩も、すぐそばで玄海のコートを見ていた。
ここなら話せる。
真帆は怜奈先輩へ声をかけた。
「あの、怜奈先輩。多分なんですが、沙耶先輩に――」
「わざと動かさないブロッカーを置いてるね」
言葉の続きを先に言われた。
真帆は怜奈先輩を見る。
怜奈先輩は真帆を見ていなかった。
玄海のブロッカーを見ている。
「……はい」
「中央に振っても、1枚は沙耶のところから動かさない。沙耶を楽には打たせないつもり」
沙耶先輩もボトルを飲みながら玄海を見た。
「あー、やっぱあいつか。ずっといると思った」
「いるね」
皐月先輩が眉を寄せる。
「だから私が走っても、完全には釣れないんだ」
「そう。でも」
怜奈先輩の視線が、今度はアップゾーンの凜へ向いた。
「凜が前に来れば勝算ある」
真帆は少し考えた。
今は凜が千尋と交代して後衛から外れている。
だから玄海は、沙耶先輩のところへ1人を残しておける。
もう1人の強いレフトを、前衛で同時に見る必要がない。
でも千尋の3ローテが終わり、凜が前へ戻れば。
沙耶先輩と凜。
2人を同じやり方で守ることはできない。
真帆は「沙耶先輩へのブロックが変だ」ところまで見ていた。
怜奈先輩は、そこから先の勝ち筋まで見ている。
「……すご」
「何?」
「いえ、何でもないです」
怜奈先輩が少しだけ笑った。
その横で梓先輩がボトルを真帆へ返した。
「じゃ、あと1点稼いでくるわ」
「え?」
「1点」
梓先輩は玄海のエースを見た。
「せっかく入ったんだし」
タイムアウト終了の合図が鳴る。
梓先輩はそれ以上何も言わず、コートへ戻っていった。
19対20。
まだサーブ権は青嵐。
御子柴先輩がもう一度サーブを打つ。
玄海のレセプションは返った。
セッターへ。
そして、またエースがレフトへ開く。
玄海も分かっているはずだった。
さっき梓先輩に触られた。
それでもエースへ上げた。
真帆は息を詰める。
梓先輩が右へ入る。
皐月先輩も隣に並ぶ。
玄海のエースが跳んだ。
打つ。
今度は、ボールが前へ出てこなかった。
梓先輩の両手に真正面から当たる。
そのまま玄海側の床へ落ちた。
「よっしゃあ!」
20対20。
「梓先輩っ!」
また声が出た。
梓先輩が一度だけこちらを振り返る。
ほんの少し口元が上がっていた。
本当に1点、稼いだ。
青嵐が追いついた。
そして、まだ御子柴先輩のサーブが続く。
3本目。
玄海のレセプション。
またきれいに返る。
真帆はエースを見る。
さっきと同じようにレフトへ開いている。
梓先輩も見る。
皐月先輩も中央から寄れる位置を取る。
でも玄海のセッターは、今度はそこへ上げなかった。
中央を一瞬使うように身体を向ける。
青嵐のミドルが止まる。
そこから、反対へ振った。
「あっ」
壁が揃わない。
1枚。
横からもう1人が寄る。
でも間に合い切らない。
1枚半。
玄海のスパイカーが、その隙を迷わず打ち抜いた。
床を叩く。
20対21。
真帆は思わず玄海のセッターを見た。
梓先輩の壁を、力で破ったわけではない。
壁が完成する場所へ、打たせなかった。
さっきまで真正面から玄海のエースと勝負していた梓先輩を、攻撃そのものから外した。
玄海にサーブ権が移る。
そこで深見監督が動いた。
「一ノ瀬」
「はい!」
怜奈先輩が立ち上がった。
梓先輩がコートを出る。
たった数ラリーだった。
最初の1本でワンタッチを取り、そこから自分で攻撃までつないだ。
次はエースを完全に止めた。
そして玄海がブロックを散らして1点を取り返したところで、役目を終える。
戻ってきた梓先輩へ、真帆はタオルを差し出した。
「本当に1点取ってきましたね」
「でしょ?」
梓先輩はタオルを受け取りながら笑った。
「でも、次は振られた」
「はい」
「いいセッターだね、向こうも」
悔しそうというより、少し楽しそうだった。
怜奈先輩がコートへ戻る。
玄海のサーブ。
千尋が受ける。
きれいに怜奈先輩のところへ返った。
沙耶先輩が走る。
玄海の1枚は、やはり沙耶先輩の前に残る。
真帆にはもう、はっきり見えた。
怜奈先輩も当然見ている。
沙耶先輩へは上げない。
中央。
皐月先輩。
速攻が決まった。
21対21。
青嵐がサイドアウトを取る。
千尋が後衛中央から、後衛レフトへ移った。
これで3つ目。
ただ、玄海もすぐに取り返した。
21対22。
再び玄海のサーブ。
千尋が受ける。
怜奈先輩へ返る。
沙耶先輩が走る。
玄海のブロックが寄る。
トスは沙耶先輩へ上がった。
2枚。
沙耶先輩が外側の手を使う。
ボールが大きくコートの外へ飛んだ。
「よし!」
22対22。
青嵐がサイドアウトを取り、ローテーションする。
千尋の3ローテが終わる。
凜が12番のパドルを手に、交代ゾーンへ向かった。
千尋と入れ替わり、コートへ戻る。
真帆はその瞬間、怜奈先輩がタイムアウトで言った言葉を思い出していた。
凜が前に来れば、勝算がある。
凜が助走に入る。
反対では沙耶先輩も走る。
玄海のブロッカーは、沙耶先輩の前へ1人を残したい。
でも凜も捨てられない。
中央の1人が、ほんの少し迷った。
怜奈先輩は逃さなかった。
凜へ上げる。
「もってこーい!」
高く跳んだ。
遅れた2枚の間を打ち抜く。
「よし!」
23対22。
青嵐が前へ出た。
真帆も思わず手を叩いた。
怜奈先輩の言った通りだった。
沙耶先輩へ1枚を残すなら、凜が薄くなる。
凜へ寄れば、今度は沙耶先輩が楽になる。
1人増えただけで、玄海の硬い壁に迷いが生まれた。
勝てるかもしれない。
そう思った。
でも玄海は、やはり簡単には崩れなかった。
次の1本を高い二段で取り切る。
23対23。
さらに玄海のサーブで青嵐のレセプションを少しネットから離した。
怜奈先輩が走る。
沙耶先輩へ高めのトス。
2枚。
沙耶先輩がブロックアウトを狙う。
玄海の手に当たった。
でも外へは出ない。
後ろが拾う。
玄海の切り返し。
レフト。
真帆は助走を見る。
二段ではない。
さっき萌々香先輩へ伝えた形とは違う。
「クロス……!」
声が出た。
ブロックの横を抜ける。
美緒が飛び込んだ。
触る。
でも上がり切らない。
23対24。
玄海のセットポイント。
「1本!」
御子柴先輩の声が響く。
最後のラリーも、簡単には終わらなかった。
美緒がサーブを受ける。
怜奈先輩。
凜が走る。
沙耶先輩も走る。
トスは凜。
打つ。
玄海がワンタッチを取る。
拾う。
返ってくる。
萌々香先輩が触る。
美緒が上げる。
今度は中央。
皐月先輩が打つ。
また玄海の手に触れる。
落ちない。
玄海がもう一度組み立てる。
青嵐もブロックを揃える。
それでも、最後は玄海のレフトが指先を使った。
ボールがブロックに触れ、後ろへ大きく跳ねる。
美緒が走る。
腕を伸ばす。
指先に触れた。
けれど、コートへは戻らなかった。
笛が鳴る。
23対25。
第2セット、玄海女学院。
セットカウントは1対1になった。
玄海の選手たちが集まり、青嵐の選手たちもベンチへ戻ってくる。
真帆はすぐにタオルとボトルを持って動いた。
「真帆」
呼ばれて顔を上げる。
萌々香先輩だった。
「さっきの二段のレフト、助かった」
「あ……はい」
「外に手残せたから。次も何か見えたら言って」
「はい!」
横から皐月先輩も顔を出す。
「私にもね」
「はい」
「でも、『多分』でいいから」
真帆は少し笑った。
「多分で言います」
「それでいい」
2人が深見監督のところへ戻っていく。
真帆は空になったボトルを集めながら、玄海のコートを見た。
今日、いろいろなものが見えた。
玄海の助走。
ブロッカーの残り方。
美緒と千尋が互いの穴を埋める動き。
美緒がわざとネット際へ上げた1球。
それを一瞬で理解した千尋。
ブロックをした直後なのに、千尋なら上げてくれると信じて攻撃へ走った梓先輩。
そして、自分と同じものを見ながら、その先の勝ち方まで考えていた怜奈先輩。
見えている。
自分にも、全国のコートで役に立つものが見えている。
でも、まだ自分は外にいる。
玄海のエースの前へ立ったのは梓先輩だった。
自分にも打つ場所は見えた。
それでも今の自分では、あそこまで身体が追いつかない。
だから今は、見えたものを渡す。
先輩たちに使ってもらう。
それでいい。
でも、いつか。
見えた場所へ、自分の身体で行けたら。
「榊原」
深見監督に呼ばれ、真帆は顔を上げた。
「はい!」
「最終セット始まるよ。準備」
「はい!」
セットカウントは1対1。
あと一つ。
真帆は新しいボトルを並べながら、もう一度玄海のコートを見た。
今度は何が見えるだろう。
そして、それをどう使えば、勝てるだろう。




